メディアが作ったパニックとワクチンの是非
今回のテーマは、メディアが作ったパニックに左右されるワクチンの是非です。
日本でHPVワクチンが定期接種になった際、メディアが激しい身体症状の映像を連日報じました。その結果、接種率は70%から1%未満へと急減したと話されています。
めちゃくちゃ減りましたね。
社会全体が副反応の恐怖という感情論に流され、定期接種は中止となってしまいました。
とみーさんは、ワクチンの是非を語るとき、データや効果ではなく噂話に踊らされる場面が多いと感じているそうです。
なんか、データじゃなくて、効果でもなくて、噂話に踊らされるみたいなのがすごく多い。
コロナワクチンでも「人間をコントロールしようとしている」といった陰謀論と混ざったり、副反応が強いから打つべきではないという話になりがちだと指摘します。
ただし副反応の強さと、実際に病気にかかった時のより大きなリスクは別物です。とみーさんは、目先のリスクに天秤が傾きやすいと話します。
目先のリスクの方に、こう、天秤が重く傾きがちだなという気はすごくするので。それの日本の歴史の中の代表格がHPVっていうイメージ。
あきさん自身も、床でのたうち回り痙攣する少女の映像や、接種後に算数ができなくなったと訴える映像を何度も見て、HPVワクチンは怖いと思った記憶があると振り返ります。
その反省も込めて、今回この話を取り上げたそうです。
『十万個の子宮』が問い直したもの
日本では2010年度からHPVワクチンの公費助成が始まり、2013年に予防接種法に基づく定期接種へ位置づけられました。これで少女たちは無償で接種できるようになりました。
ところがほぼ同時期から、接種後の疼痛や運動障害、痙攣などを訴える少女たちの声がメディアで取り上げられます。車椅子や身体的な震えなど、情緒的なインパクトの強い映像が連日報道されました。
これらは症状とワクチンの因果関係が確定しない段階から、副反応による被害だという形で報道され続けたと話されています。
同じ映像なのに繰り返し流されてたら、打った人の八割九割がそうなっちゃうみたいなイメージになるよね。
あきさんは、そうした映像を見た結果、意識せずとも同じ反応を示してしまう子もいたのではないかと話します。
専門家の中には副反応ではないと考える人も多くいましたが、そう声を上げると良くない医者だとレッテルを貼られることを恐れ、口を閉ざしてしまったといいます。
これが悪だって一回なっちゃったら、反対意見を述べた人はなんか非国民だみたいな言い方されたり、家族とか家に嫌がらせされたりとかあるから、ドクターたちも言いたくても言えないみたいなことはあったかもね。
そんな中で立ち向かい続けたのが、医師でありジャーナリストでもある村中璃子さんです。記事は雑誌『ウェッジ』に取り上げられ、それをまとめたのが『十万個の子宮』です。
書名には重たい意味があります。接種が止まったことで定期接種に戻るまで10年かかると村中さんは考えていました。
年間およそ1万人がHPVから子宮頸がんになり子宮を摘出しており、それが続けば10年で10万個の子宮が失われる。ワクチンさえ守られていれば防げたはずの子宮の数を指しています。
村中さんは、苦しむ少女たちの苦痛そのものは本当であるとしたうえで、それが成分による神経性疾患なのか、痛みや不安、思春期のストレスが絡んだ機能性身体症状なのかを、国内外の膨大なデータから冷静に解き明かそうとしました。
この本は2017年にジョンマドックス賞を受賞しました。日本人として初めての受賞です。
時系列でたどる急落と名古屋スタディ
ここからは日本での経緯を時系列で見ていきます。
社会不安が高まる中、厚生労働省は定期接種のわずか2か月後、2013年6月に自治体による積極的勧奨を一時中止しました。
お宅のお子さん、何歳から何歳の間にこのワクチン打てますよみたいなハガキを送るとかをやめてねって、国が自治体に言ったって感じ。
勧奨中止の後、報道はさらにリスク強調へ傾きます。当事者団体の記者会見や集団訴訟の動きが報じられる一方、がん予防効果というベネフィットを解説する機会はほとんどありませんでした。
その結果、定期接種直前に70%を超えていた接種率は1%未満へ急減し、日本は実質的にワクチン接種が機能しない国として孤立してしまいます。
これに一石を投じたのが名古屋スタディです。もともとは2015年、名古屋市議会が支援団体の要望を受け、被害の実態を把握するために始めた調査でした。
市は1994年から2001年度生まれの女性7万1000人にアンケートを送り、痛みやしびれ、不随意運動など24種類の症状を尋ねました。最終的に約3万人から回答を得て疫学調査にかけます。
2016年、名古屋市立大学の研究グループの解析で、ほぼ全ての症状において接種者と非接種者の間に統計的な有意差がほとんどないという結果が出ました。被害検証という当初の目的とは真逆の結果です。
めちゃくちゃやばいワクチンだから実際どれぐらいの被害なんだろうって調査をしたら、打ってても打ってなくても調子が悪い人は悪いし、いい人はいいっていう結果が出ちゃったってことでしょ。
つまり、ワクチンの有無に関わらず、思春期の女性には一定の割合で自然にこうした症状が出る可能性が示されたのです。
棚上げされたデータと勧奨再開までの9年
名古屋市は中間報告でデータ上の事実を認めましたが、記者会見では「因果関係がないと断定されたわけではない」という分かりにくい表現を使いました。
被害がありましたって言おうと思ってやったのに、世論と真逆の答えが出ちゃったらね、今度は市が叩かれるって思っちゃうよね。
あきさんは、恣意的なアンケートだと批判されることを市が恐れたのではないかと話します。当時の河村市長も、この結果は非常に驚いたと会見で述べていたそうです。
結局、市は最終結果の大々的な公表や、勧奨再開の材料としての活用を事実上控えました。市民感情への配慮から、行政が安全性を全面的に発信することを避けたのです。データは一時的に棚上げされました。
これは解析チームにとっては由々しき事態です。自分たちのデータが活用も発表もされないためです。
そこで研究チームは、この大規模データを科学的ファクトとして確定させるため学術論文にしました。2018年2月に『サイエンティフィック・リポーツ』へ掲載され、学術的な決着を見ます。
この間、WHOなど国際機関も膨大な疫学データから安全性を支持する見解を日本に向けて重ねて発表していました。しかし日本国内のメディアはほとんど報じず、報道と科学的検証のギャップは残り続けました。
なんかHPVってずっと危険だみたいなことしか聞かない。
あきさんは、メディアが今までの報道姿勢を変えて手のひらを返せなかったのではないかと話します。海外や名古屋のデータがそろっても、危険だという認識のまま報道されなかったためです。
こうした状況で、堀江貴文さんの一般社団法人予防医療普及協会が多角的なアプローチを展開しました。要望書の提出や署名活動、クラウドファンディングによる新聞広告や啓蒙キャンペーンを行いました。
あきさんも、この頃にHPVワクチン報道の嘘に気づいた覚えがあると振り返ります。タブー視されがちだった議論を、客観的なデータで話そうという場へ引き戻す力になったといいます。
こうした民間の働きかけとデータの蓄積を受け、厚生労働省は2022年4月に9年ぶりに積極的勧奨を正式に再開しました。
九年かかったんだね。
報道姿勢も変わり、勧奨中止がもたらした公衆衛生上の損失や、将来の子宮頸がん罹患リスクの増大といった客観的な視点から報じられるようになりました。
接種機会を逃した世代への公費でのキャッチアップ接種の案内も出されました。ワクチンも当時主流の5価から、より高い9価へと切り替わっています。
なぜ症状は報道され、接種率は戻りきらないのか
とみーさんが番組中にネットで調べたところ、日本のHPVワクチンの接種率は今も70%には届いていない様子で、地域による差も大きいそうです。
二回前の回で紹介されたイギリスでは学校でまとめて接種するため、ほぼ100%に近い接種率で子宮頸がんの罹患率が大きく下がりました。一方、日本の初回接種率は30%ほどでまだ低いと話されています。
あきさんは、一度染みついた「危ないもの」という認識は、その後の報道が多少あっても抜けにくいと話します。親世代に危ないという認識が入ると、子には打たせないためです。
では、当時報道された痙攣や算数がわからなくなるといった症状は何だったのか。とみーさんが疑問を投げかけます。
あきさんは、名古屋スタディが示す通り、打った子も打たない子も同様にこうした症状を起こす子がいると説明します。
そのうえで、子どもが突然痙攣を起こすと、親は原因を探してしまい、ちょうど接種した時期と重なるとワクチンのせいではないかと考えやすいと話します。
あるわ。それはあるわ。確かに。
さらに、勉強のプレッシャーが背景にあると説明されても、教育熱心な親ほど「うちの子に限って」と受け入れにくく、より明確な原因を求めてワクチン被害へ結びつきやすいといいます。
ワクチン被害だと後押しする医師や、集団訴訟を後押しする医師もいて、自分の意見をくみ取ってくれる医師を求めて通う先を変える人もいると話されています。
そういう方ってお医者さんをどんどん変えるんですよね。自分の意見をくみ取ってくれるお医者さんのところに落ち着くみたいな。
とみーさんは、シリーズ全体を振り返り、報道が接種を早めたポリオと、報道が接種を遠ざけたHPVの両方があったと気づいたと話します。
あきさんは、ポリオの頃は身近で子どもが亡くなるほど流行が激しく、リスクが目に見えていたと説明します。一方、子宮頸がんは罹患の割合が当時のポリオより低く、口に出しにくい症状でもありました。
とみーさん自身も、周囲に婦人科でポリープや筋腫、子宮頸がんの前段階の処置を受けた人が意外といるものの、わざわざ言わない人が多いと感じているそうです。症状が表に強く出るかどうかも受け止め方に影響すると話します。
噂ではなく自分でファクトを調べて選ぶ
番組はここでワクチン回を締めくくります。ポリオ回から始まった長いシリーズの最終回です。
とみーさんは、自分は注射も痛いものも嫌いだと明かしたうえで、それでも解説を聞いてワクチンの必要性を感じたと話します。
病気を減らすために研究してきた人がいて、有効なものだから税金で助成され、安価に受けられるものが増えている。だからこそ、受けるかどうかを自分でファクトを調べて判断することが大事だと語ります。
あきさんも、受けるも受けないも個人の選択であり強制はできないと応じます。子どもの場合は親が選ぶことになります。
嫌だから受けない、副反応が怖いから受けない、逆にみんなが受けているから受ける、といった判断ではなく、正しい知識を持ったうえで選んでほしいと話します。
とみーさんは、妊婦のRSワクチンでも産科の先生によって勧める人と勧めない人がいると例を挙げ、誰かが言ったからではなく自分で基準を作ることが大切だと語ります。
正しい知識を持った上で受けないっていうのももちろんあると思うので。何も知らずに注射が怖いとか副反応やばいんでしょとかそんなレベルで受けないでもなく、逆に誰かに言われたから受けるんだでもなく、知識を持っていただきたいなと思っております。
とみーさんは、解説を聞きながらさらに自分でも本を読み、知識を深めていきたいと締めくくりました。
まとめ
日本のHPVワクチンは、因果関係が確定しない段階からの報道で接種率が70%から1%未満へ急落しました。名古屋スタディや村中璃子さんの検証で症状とワクチンの関連は否定されましたが、勧奨再開までに9年かかり、接種率はまだ回復途上です。噂ではなく自分でファクトを調べて選ぶ姿勢が、番組全体の結論として語られました。
- 接種後の症状は本当でも、名古屋スタディでは接種者と非接種者で発症率にほぼ有意差がなかった。
- 報道はリスクを強調し、がん予防のベネフィットや安全性のデータをほとんど伝えなかった。
- 行政も市民感情に配慮してデータの発表を控え、決着は研究チームの学術論文に委ねられた。
- 一度染みついた「危険」という認識は抜けにくく、勧奨再開後も接種率は回復途上にある。
- 受けるも受けないも個人の選択であり、正しい知識を持って自分で判断することが大切。
