なぜ普段しない「一人語り」を音声だけで録るのか
この回は、資金調達直後の起業家を招く通常のインタビューではなく、MCのおいなりによる一人語りとして届けられています。
せっかくスタジオにいて収録さながらの場所に座っているものの、あえて音声だけで録っていると話されています。
やっぱね、一人語りすごい難しいんですよ。映像がつくとなると、余計になんか緊張感というか、間違えられない感じというか
映像がつくと心の底から思っていることを話しづらくなる、という理由から、映像化したタイミングでもこの回は音声で届けることを選んだと説明されています。
普段は質問をする側なので、どんなことを考えて番組を運営しているのかを知ってほしい、という思いも語られました。
もう一つの理由が、クラファンの報告です。スタジオはクラウドファンディングを原資に作られましたが、立ち上げが忙しく、支援者へのしっかりした報告ができていなかったと振り返られています。
1年半をともにしたMC中山さんの卒業
番組が立ち上がったのは2023年9月末ごろ。初回こそ一人でしたが、その後1年以上はVCに勤める中山さんという女性MCとの二人体制で続けてきたと話されています。
ところが今年の3月から4月ごろ、中山さんが現職を離れるタイミングで、番組からも卒業する相談があったといいます。
結構寂しいですよね、まず。一年半ぐらい一緒にやってきたパートナーをそこで失うことが分かりまして
二人でやってきた一番の理由は、二人だからこそ続けられる感覚だったと振り返られています。
毎週別の起業家を招き、時期によっては前編・後編に分けて週2回配信するルーティンは、こなすだけでも大変で、支え合ってやってきたと語られました。
活動を辞める、あるいは緩める選択肢もあった中で、過去に出演した人のためにも番組が続いたほうがよいこと、そして自身の手応えもあったことから、続けることを決めたといいます。
一人体制で選んだ「1本長尺」というフォーマット
続けると決めた後の課題は、番組のフォーマットでした。以前は前編でおいなりが起業家の半生に迫り、後編でキャピタリストが事業を鋭く分解する形をとっていました。
選択肢は、中山さんの代わりを探すか、おいなりが後編も担当するか。しかしどちらも違うと感じたと話されています。
キャピタリスト出身でない自分が後編をやるより、強みを尖らせたほうがよいこと、さらに分析すると前編のほうが聞かれていたことが理由に挙げられました。
この前編の生い立ちだとか、その人の思いに迫れるっていうのが良くて聞いてるんだよね、って言ってくださる方が結構多くて
加えて、出演者が採用コンテンツとして採用サイトに載せたり、自己紹介代わりに使うケースがあることもわかってきたといいます。
そのため、前編・後編に分けるより1本の長尺のほうが使い勝手がよいと考え、フォーマットを変えたと説明されています。
配信者視点で週二の方がいいよねっていうよりかは、コンテンツとしてやっぱ一本の方が心地いいんじゃないか
海外のビジネス系ポッドキャストでは3時間、4時間の長尺やライブ配信が当たり前になってきており、その流れに先んじてチャレンジしたい、という狙いもあったといいます。
自分は元起業家でも有名投資家でもない、ただのスタートアップ好きが推し活で始めたメディアだからこそ、身軽に自由に一人でやりたいことをやってみるという決意を語りました。
対面収録の良さと、そこにある特有の課題
それまではZoomなどオンラインで収録していましたが、音質やマイク環境が整えづらく、初対面でいきなり深掘りする難しさもあったため、オフィス収録へ切り替えたといいます。
ただ、何者でもない自分にはオフィスがないため、出演者に場所を提供してもらい、機材をキャリーケースに詰めて訪問する形をとりました。真夏にゴロゴロと運ぶのはかなり大変だったと振り返られています。
一時期はVCも交えた三者対談にも挑戦し、VCのオフィスを借りて収録したこともあったといいます。
対面には編集の負担もありました。同じ空間にマイクが複数あると、指向性がよくても互いの音を拾い合ってしまうためです。
一方で、会うからこそ築ける信頼関係や、その場でしか聞けない温度感があり、対面はいいと痛感したとも語られています。
ただ、経営者は多忙で前後に大事な予定があり集中しづらいこと、収録場所によって反響やノイズが変わることなど、対面ならではの課題もあると話されました。
IVSで出会った「TOP GUN FUND」とクラファンの動機
そんな中、4月末から5月ごろ、毎年京都で開かれる1万人規模のスタートアップカンファレンスIVSに関わる企画に出会います。
クラウドファンディングの老舗CAMPFIREとIVSがコラボした「TOP GUN FUND」という取り組みで、IVS期間中にクラファンを始め、ステージ上でピッチし、その場で支援も受けられる企画でした。
純粋に「めちゃ面白そうじゃん」っていうのが最初の感情でして、ちょっと申し込んでみるかっていう、結構気軽な感じで
ただ、何を集めるかを考えたとき、番組はほぼボランティアで1年半続けてきており、事業化はほとんどできていなかったといいます。
継続のための運営資金集めが最も直接的に助かるものの、すでに1年半やってきた活動を「応援してほしい」と訴えるのは理由として弱いと感じたと話されています。
そこで運営資金は諦め、大きなチャレンジとしてスタジオ開設を掲げることにしました。スタジオは以前から作りたく、1年前には内見までしていたといいます。
当時は仲介会社ippoの担当・町田さんから「今じゃないんじゃないか」と率直に言われ、固定費の重さから断念していました。今年は初期費用をクラファンで集める形なら成り立つと考えたと説明されています。
集客プレッシャーで声が出なくなった夏
この時期は、スタートアップとポッドキャストを合わせた造語「スタートポッズ」というブランドの活動も並行していました。
5月にはSpotifyとスタートアップのポッドキャストをテーマにしたイベントを、IVS期間中には500人規模を目指す「スタートアップポッドキャストコネクト2025」というサイドカンファレンスを開催していたといいます。
最終的に登壇者13名の本格的なカンファレンスを作りながら、その傍らでピッチ練習とクラファンの仕込みをしていたため、非常に大変だったと振り返られています。
カンファレンス前日には、集客プレッシャーなどが重なって声が出なくなってしまったといいます。
最初は喉が枯れたと思っていましたが、たまたま会った詳しい人から、これは心因性だと教えられたそうです。
いや、これはもう心因性だと。気持ち的な問題で声が出ていないんだ、ということを教えてもらえまして
その場でパーソナルトレーニングのYABARAの市木さんが施術してくれたおかげで、なんとか乗り切れたと感謝を込めて語られています。
429万円を集めたクラファン成功の裏側
クラファンの目標は当初350万円でした。オフィスやスタジオの初期費用がおおよそこのくらいかかると、前年に動いた経験から知っていたためです。
ところがIVS最終日を終えて帰ってきても、まだ数十万円ほどで、目標の1割前後しかいっていなかったといいます。
勢いで乗り切る予定が未達だったため、締め切りを7月末から8月末へ延長する覚悟を決めたと話されています。
SNSで発信しサイトを作り込んでも勝手には流入しないため、お世話になっている人や番組を応援してくれる人へ、個別に相当な数の連絡をしたそうです。
掲げていっぱいSNSで発信したり、サイトを作り込んだりして、勝手に流入するかっていって、やっぱしないんですよね
当初はスタートアップやVCの界隈から集めきる見立てでしたが、なかなか届かなかったといいます。
これは自分の人生で一番のチャンスであり、手段を問わず成功させたい、大切な人にも応援してほしいという気持ちが湧いてきたと語られています。
結果、親や祖父、義理の父、学生時代の友人など、多くの人が支援してくれました。お盆の家族旅行中も、パソコンの前でひたすらメッセージを送り続けたといいます。
そして締め切りの1週間前に、目標の350万円を達成しました。ただ、親族の力をかなり借りての達成に、自分の中で謎のプライドが顔を出したと振り返られています。
その力がなくても達成できた状態にしたいと考え、目標を500万円に引き上げます。用途はビデオポッドキャスト化で、カメラ3台や本格的な照明など、大きな設備投資が必要でした。
最終的に500万円には届かず、集まったのは429万円でした。CAMPFIREの手数料を引いた着金は350〜360万円ほどだったといいます。
支援者は249名。この金額を自分で稼ぐのはかなり大変であり、感謝しかないと語られました。
ただ、この資金は初期費用でほぼすべて消えたといいます。中途半端なものは作れないという思いから、削らずにいいものを作り切ったためです。
鍵を受け取った「ただの箱」との格闘
8月31日にクラファンが終わり、翌9月1日にはもうスタジオ予定地の鍵の受け取りがありました。入ってみると、そこはただの箱だったといいます。
立地は渋谷駅から2〜3分と非常に良い一方、2〜3年後に取り壊しが決まっている古い物件で、内装も古めかしいものでした。
反響がすごく「ポッドキャストスタジオができるのか」と不安になったうえ、映像を撮ると画面がちらつくフリッカー現象にも直面します。
原因はAIで調べて判明し、LEDに替えれば収まるとわかったものの、すでにあらゆるところにお金を使っており、電球12本の交換さえ怖かったといいます。
施工会社に頼むと何十万円もかかるため、Amazonで安い電球を買い、見積もりサービスのミツモアで最安の職人に来てもらい、なんとかフリッカー対策を終えたそうです。
苦手なオペレーションで削れていく日々
クラファン後には、リターン対応の義務も残っていました。しかし、このオペレーションが苦手だったといいます。
二百四十九名っていうのが、一人一人の名前も顔も思い浮かべながらであっても、その数になっちゃうと結構数のインパクトがあって、結構重荷になっていた
Tシャツは普段着として着てもらい、番組に愛着を感じてほしいという思いから、デザイナーに発注したといいます。
内装の細やかな部分は妻の後輩に、映像機材の選定は映像の仕事をする小学校からの友人に、発送作業はアドバイザーのライナーさんに手伝ってもらったと語られています。
郵送は家族にも頼み、週末に5歳の長女が封を閉じるのを手伝ってくれたそうです。
初めて拠点を構えるため、小物から機材まですべて自分で購入する必要があり、買い物が明らかに苦手な自分には大変だったと話されています。
スポンサーパネルの木の一枚板へのロゴステッカー貼りはDIYで行い、ホームセンターで木材を選んで自分で取り付けたといいます。
古い物件で壁がコンクリートやモルタルのため釘が負けてしまい、いろいろな釘やドリルを試すことになりました。取り壊し物件のため原状回復は不要ですが、3年ほどはスタジオを維持しなければならない緊張もあると語られています。
燃え尽き、募る不安、溶けていくお金
スタジオは形になったものの、途中からお金を使うのがどんどん怖くなっていったといいます。カードの請求が月に何百万円というレベルになることもありました。
一人体制になってからイベントやカンファレンス、クラファンに時間をかけた分、他の仕事はかなり減らしており、ひたすらお金を溶かし続けていたと振り返られています。
クラファンで7月・8月を燃え尽きるほどやりきったこともあり、危機感と不安が押し寄せて、メンタルダウン寸前のタイミングもあったといいます。
それでも落ち込みきる前に軌道に乗り、11月配信ごろからの映像化はオンスケジュールで進められたと話されています。
音声の5倍大変だった映像編集
ただ、映像は当たり前に大変だったといいます。インタビューの理想として、全体画角と話者それぞれを映す3カメラの切り替えを目指したためです。
一眼レフで1時間尺を撮ると素材は1台あたり20〜30ギガにもなり、パソコンに移すだけでも大変でした。3カメの切り替えを手動でやると、最初は3〜4時間以上かかったといいます。
映像編集には多くの工程があると語られています。
- 音を揃え、別々の素材を同期させる下準備
- 映像の色合いを揃える
- カットとテロップ入れ
- BGMやCMの挿入
- 冒頭のダイジェスト版の作成
- サムネイル作成とYouTube用タイムコードの用意
舐めてましたね、完全に。めっちゃ大変で
もともと音声もしっかり編集する運用でしたが、それでも映像の方が音声より5倍以上大変だと話されています。それでもビデオポッドキャストだと信じてやりきろうとしていると語られました。
CMやタイアップへの葛藤と、家族からの指摘
事業化も進めるため、CMを増強したり、他のマネタイズ方法を考えたりしていたといいます。ただ正解がなく、一人で考えるのは大変だったと話されています。
自分の中に「こうあるべき」という理想が強く、CMはあまり入れないほうがいい、タイアップ企画も良くないのではと考える時期があったといいます。
しかし、それは気にしすぎだったのかもしれないと考えるようになりました。リスナーから「全然気にならない」と言ってもらえたことも大きかったようです。
身近な妻からも、大黒柱の事業化が至上命題だという危機感から、かなり率直な指摘をもらったといいます。
家族で旅行に行く時、車に乗ってて、運転しながら助手席でひたすら理詰めされるっていう感じだったんですけど
そうした指摘にハッとさせられ、サステナブルに続けられるようきちんと事業化し、お金もつけていこうという話になってきたと語られています。
一方で、ステルスマーケティングにならないよう配慮している点も強調されました。日本の基準は推奨レベルにとどまるものの、海外水準の最も厳しい形で対策しているといいます。
リスナーにも出演者にも違和感を感じてほしくないという筋を通したいためだと説明されています。事業化の兆しは出てきているものの、今はまだ渦中で、胃をキリキリさせながら過ごしていると率直に語られました。
事業や採用に直接貢献するメディアへ
今後の戦略として、ビデオポッドキャストを基軸に、コンテンツの原液となるものを作り、マルチメディアで展開したいと話されています。
映像付きはYouTubeとSpotifyへ、音声はApple PodcastやAmazon Musicへ配信し、長尺から切り出せるショート動画も作りやすくなるといいます。
テキスト化も本当はやり切りたいものの、リソースとの戦いで、今は外部メディアと提携している状態だと語られました。番組としてのSNSアカウントも最近立ち上げ直したといいます。
今後のポジショニングを一言で言うと「メディア×共創コンテンツ」だと捉えていると話されています。ただのPRメディアではなく、事業に貢献するメディアでありたいというのが軸です。
いい話が聞けた、エモい話が聞けた、で終わらせたくないなとは思っておりまして
コンテンツをフローではなくストックとして、会社の採用サイトに載せて使ってほしいと考えているといいます。
候補者として選考を受けるときも代表の人柄ややっている理由は気になるが、そうしたコンテンツは世の中に少ないと指摘されました。第三者メディアがフラットに深掘りする価値があると語られています。
資金調達や採用ブーストのタイミングで出るメディアとして並び、一社が総取りするのではなく、いろんなところと一緒にスタートアップの力になっていきたいという思いが述べられました。
お金と仲間。今抱えている率直な悩み
最後に、今悩んでいることが率直に語られます。大きく分けて3〜5個あるといいます。
一つは目先のお金です。とてもストレートに言っていいのか分からないと前置きしつつ、本当に困っていると打ち明けられました。
一個は目先、本当にお金がすごく困ってます
もう一つは仲間です。出演者探しから調整、収録準備、機材操作、編集、ショート動画作成、SNS発信、対外的な打ち合わせまで、すべて一人でやっているといいます。
映像を作るクリエイター的な筋肉と、お金を考える事業家的な筋肉はまったく違い、一人ではギリギリ回せても、グロースには足りないと語られています。
そこで、事業企画や事業推進を一緒に考えてくれる人、いわゆるCOO的な人や、コンテンツの企画を一緒に考えてくれる人の力を借りたいと話されました。
編集やショート動画の量産、SNSでの発信もやりきれていないのが現状で、力を添えてくれる人がいたら嬉しいと述べられています。
ただ、お金の危機があるため人を頼むのも難しく、鶏卵の状態だといいます。IPOを目指すモデルでもないため、エクイティマネーを引くのも違うと考えていると語られました。
事業化に向けては、共創コンテンツとしてのタイアップ回や、固定の企画を帯で作っていくことも考えたいと話されました。
音声だから言えたこと、そして応援のお願い
通常回では合いの手ほどしか話さないため、一人で50分近く話し続けると、こんなに喉が疲れるのかと実感したと語られています。
これをなんか音声だから言えてるなっていうのはすごくあるなと思っていて
この配信をした理由は、振り返りとご報告に加え、気にかけてくれる人がいるからだといいます。聞いた人からのリアクションが励みになると話されました。
慢性的な不安や恐怖があり、動けなくなるときもあるといいます。そんなとき支援者を思い出すだけでも力になり、この配信を自分で聞き直して弱気を戒める意味もあると語られました。
何を弱気になってんじゃい、と。こんな赤裸々に語って応援してくださいとか言ってんのに、堂々と生きろ、と
クラファン成功を「おめでとう」と言われることは多いものの、現実はこうだと伝えたかったといいます。同時に、誰かを勇気づける配信になっていたら嬉しいとも述べられました。
支援者249名、フォローや再生をしてくれる何千人規模の人のおかげで自分はたまたま表に立っているだけだとし、皆で育ててほしいと語られています。
心細さも正直に打ち明けつつ、この活動がスタートアップの起業家のためにも日本の社会の未来のためにもなると信じてチャレンジしていると締めくくられました。
まとめ
2025年は、MC卒業をきっかけに一人体制へ移行し、クラファンとスタジオ開設、ビデオポッドキャスト化に挑んだ激動の1年でした。成功の裏には、資金の恐怖や燃え尽き、慢性的な不安といった率直な葛藤があったことが赤裸々に語られています。
- MC中山さんの卒業を機に、一人体制で1本長尺のフォーマットへ移行した
- IVSでの出会いをきっかけにクラファンを実施し、249名から429万円を集めてスタジオを開設した
- 資金はほぼ初期費用で消え、映像編集は音声の5倍以上大変で、燃え尽きや不安と格闘した
- 今後は事業や採用に貢献する「メディア×共創コンテンツ」を目指している
- 目先のお金と、事業や制作を担う仲間を率直に募り、一緒に育てていくことを呼びかけた





