公開収録第二弾はClayの服部さんと「GTMエンジニア」を掘り下げる
本編に入る前に、番組の公開収録第二弾の告知がありました。ゲストは、セールステック企業Clayの日本担当である服部さんです。
浜田さんによると、前回の回で取り上げた「GTMエンジニア」という用語を作ったのが、まさにこのClayだといいます。
アメリカでは今、セールステックの中で一番伸びてきた会社だと思っていまして。もうユニコーンになってるので。
そのClayの日本担当は現在、服部さんただ1人だといいます。GTMエンジニアとは何なのか、日本ではどのあたりから始まるのかを掘り下げていく予定です。GTMエンジニア ── Go-To-Market Engineerの略。営業やマーケティングの仕組みをツールやデータ、自動化を使って設計・構築する新しい職能。アメリカのセールステック領域で注目されています
公開収録は7月14日19時から、渋谷のimmedioオフィスで開催されるとのことです。Clayはニューヨーク本社という点も珍しく、貴重な経験を積んだ登壇者だと紹介されました。
30年前の本が、いまのザモデル型組織の悩みを言い当てていた
本編のテーマは、清沢さんが社内でシェアしたというピーター・センゲの『学習する組織』です。原題は『The Fifth Discipline』にあたります。
清沢さんは、immedioの社員が40名を超えてきたことをきっかけに読み返したといいます。もともとはSansan在籍時に、社内でコーチングの制度を作った方から教わった本だと振り返ります。
結構ぶっとい本というか。骨太なんですけど、改めて読み返すとすごいいい手応えだなと思っていまして。
浜田さんは今回が初読でした。知り合いにセンゲさんの日本でのカウンターパートのような、システム思考を広める人がいたものの、本そのものは読んだことがなかったといいます。
この本の初版は1990年で、2006年に改訂されています。浜田さんは、組織の分断による情報や判断のミスという内容に驚いたと話します。
まさしく我々がザモデルとかやりながら日々ぶち当たってることじゃないですか。30年前に完全にこの人言ってると思って結構衝撃受けましたね。
清沢さんは、この理論の源流にも触れます。ハーバードのクリス・アージリスとMITのドナルド・ショーンが1970年代後半に提唱した学習組織の概念を、センゲが編纂したという歴史だといいます。
なぜ「今日の解決策が明日の問題を生む」のか。システム思考の入口
『学習する組織』には5つのディシプリンがあります。清沢さんが順に挙げたのは、システム思考、自己マスタリー、メンタルモデル、共有ビジョン、チーム学習です。
前編で扱うのは、システム思考と自己マスタリーの2つです。まずシステム思考について、清沢さんは目の前の出来事に反応するのではなく、全体の構造やシステムで物事を捉える考え方だと説明します。
今日の解決策が明日の問題を生む。短期的に解決することが結果的に問題になっていくっていう話ですよね。
浜田さんは、社員にも読んでほしいと思い『漫画でわかるシステム思考』のような本も買ったといいます。そこにあった西洋医学と東洋医学の例えがわかりやすかったと紹介します。
腕が痛いとき、炎症部分に注射するのが西洋医学。一方、筋肉のこりや関節が原因と考え、ストレッチを続けて治すのが東洋医学だといいます。東洋医学のアプローチがシステム思考に近いという説明です。
今、目の前で受注低いっていう時に、じゃあとりあえず営業雇えとか広告宣伝増やせみたいなのは短絡的で、
実はもしかしたら(プロダクトとマーケットの適合が)ずれてきてるのかもしれないし、お客様の大きい流れを見落としてるかもしれない。
浜田さんは、全体感を持って判断しないと大体失敗するという点が、この本の言いたいことだと理解していると話しました。
痛む腕の炎症部分に直接注射する。目の前の症状に反応して手を打つ発想。
痛みの原因を関節や筋肉のこりと捉え、ストレッチを続けて根本から治す。背後の構造を見る発想。
組織が大きくなるほど、本当の課題が見えなくなる
清沢さんは、この視点をimmedioの歩みに引きつけます。シード期は浜田さんが営業もCSも1人でこなしていたのが、組織が大きくなり、部門が機能分化してザモデル型になってきたといいます。
そのうえで、課題の特定の難易度がこの4年で上がってきていないかと問いかけます。
自分で商談して、これがないから売れないんだ、じゃあ作ろう、できました、売れましたみたいな感じで、すごくわかりやすかった。
浜田さんは、今は受注が伸びないとき、その原因がセールスエンゲージメントの問題なのか、顧客の顔ぶれが変わってPMFがずれてきたのかなど、切り分けが難しくなっていると語ります。PMF ── Product Market Fitの略。プロダクトが市場に受け入れられ、適切な顧客層にしっかり刺さっている状態を指します
(受注率や案件化率が落ちているという)数字だけ見ててもわからない。どこに一番大きな問題があるのか、ずっとぐるぐる考えてますよね。
清沢さんは、これは安宅さんの『イシューからはじめよ』にもつながる話だといいます。短期的なところだけ見ると「犬の道」に行ってしまい、本当に解決すべき問いは何かを見極めるのが難しいと指摘します。犬の道 ── 『イシューからはじめよ』で使われる言葉。本当に大事な問いを見極めないまま、手当たり次第に量をこなして解こうとする非効率な進め方を指します
浜田さんは、システム思考にはいくつかの型があると補足します。ネットワークエフェクトのように影響が拡張していくループと、どこかで頭打ちになって収縮していく流れなど、大きなパターンがあるといいます。
今、自分たちはどういうループの中にいるのかなみたいな、ループで捉えるところが書かれていたりして、一部ヒントはあるんですが、
全体としてこの本はひたすら問いを投げているっていうか、読めば読むほど、いろいろ考えさせられる本という感じですよね。
組織の成長は個人の成長からしか生まれない。自己マスタリーの核心
もう1つのテーマが自己マスタリーです。清沢さんは、自分が何を実現したいかを問い続けることであり、組織の成長は個人の成長からしか生まれないという点が核だと整理します。
浜田さんも、システム思考で組織をアップデートしようとしても、組織のアップデートを紐解けば結局は個々のアップデートでしかないと応じます。
昨日より良い自分であろう、成長しようっていうマインドがないとまず厳しいよね、というところで、
そのため、個々の成長欲求や成長意欲をいかに担保するかが大事だと語られました。ここに能力開発や、現実を直視するという論点もつながってくるといいます。
浜田さんは、本にある「2つのゴム」の例えを挙げます。成長目標と現状のギャップに向き合い、そこに届こうとする状態を、センゲは創造的緊張と呼んでいるといいます。
これに対立する概念として、感情的緊張という言葉も出てきます。こちらはどちらかというと負の方向のものだといいます。
創造的緊張は、ある意味不安というか、自分のできないことを認知してる状態だから結構つらいんだけど、でもそこは実は前進してる状態であると認識しよう、ということですね。
清沢さんは、これは以前コーチャビリティの回で取り上げたグロースマインドセットとフィックスマインドセットと同じような話だと重ねます。一歩でも前進できると自分を信じている状態だといいます。
起業家が向き合うのは、自分の成長ではなくメンバーとのギャップ
清沢さんは、浜田さん自身も経営者として自己マスタリーを意識しているのかと尋ねます。
浜田さんは、起業家はそもそも成長欲求から来ている人が多く、成長しない自分や組織に意味を感じにくいといいます。だからこそ、意識が向くのは自分の成長よりむしろ別の点だと語ります。
(自分の成長欲求が)メンバーと乖離していく恐怖とか、メンバーがどうやったらこういう成長欲求を持てるか、
ありたい自分とのギャップを認識することなので、それと向き合えるのかを、むしろ考えるという感じですよね。
清沢さんが、浜田さん自身が成長したと感じる瞬間を尋ねると、やりきった瞬間だという答えが返ってきました。
浜田さんは、ICCのカタパルトでピッチをすると死にそうになると例えます。優勝できることもできないこともあるが、真剣に向き合ってやり抜くと、その中で気づきがあるといいます。
(ICCは)ただのピッチコンテストですけど、その中で自分のプロダクトビジョンや企業のビジョンがアップデートされることもあるんですよね。
さらに、放っておけばやらなくてもいいくらいのことにあえてチャレンジしてやり抜いたとき、一つ先に行けたと感じるとも話されました。
失敗の総量が成功の総量に比例する。転び続けることを恐れない文化
清沢さんは、自分がimmedioで一番成長したと思うのは、失敗の数がめちゃくちゃ増えたことだといいます。
Sansanなど前職はPMF後だったため、自分がいなくても事業は伸びたと振り返ります。一方でスタートアップは基本的に失敗前提で、転び続けるものだと語ります。
今はあんまり怖くないですね。もう失敗するもんというか。自分への期待値も、いい意味で等身大になれたのは大きく変わりました。この3年で。
浜田さんは、その状態をどう組織として作るかが課題だといいます。ナレッジワークの浅野さんが、新入社員が「お手並み拝見」の姿勢になってはいけないと言っているのが近いと紹介します。
特に一定の経験を積んで入ってきた人ほど、その経験をもとにまず活躍しようと考えがちだといいます。そうではなく、失敗から成長する姿勢が必要だと語ります。
清沢さんは、失敗を恐れない中でも、事例100本といったマイルストーンを自分で噛みしめることが大事だといいます。他者評価ではなく、まず自分で認めるという点を強調します。
自分を褒めるのは意図的か。マインドセットを変えざるを得なかった経験
清沢さんは、自分を認める習慣を家庭でも実践していると打ち明けます。会社ではあまり言わないものの、家では妻に「結構やったわ」と自分を褒めているといいます。
浜田さんは、それが自己効力感や組織効力感という大きなテーマにつながると受け止めます。そのうえで、自分を褒めるのは意図的なのか自然なのかを尋ねます。
結構意図的にやってますね。つらいとか大変な問題がいっぱいあるんで、家にいる時ぐらいは俺やってんな、ちゃんとやってんなと言うようにしてるし。
浜田さんは、以前の回で取り上げたメルカリの小泉さんの日報の話を思い出します。日報の最後に、今日良かったことやサムシンググッドを書いて終えるという習慣です。
これも、やりたいことは同じだろうと浜田さんは言います。本来ありたい自分に対し、まだ99歩あっても、今日進んだ1歩を自分で認める習慣が大事だという解釈です。
本来こうありたいのに、と毎日思っているんだけども、一歩振り返ると本来ありたい自分に一歩だけ近づいてるんですよね。
清沢さんは、Sansan時代はこれが苦手だったと振り返ります。表彰をもらっても「しょぼすぎる」と感じ、周囲がすごすぎて自分の成果を認められなかったといいます。
自分に厳しすぎて自分の首絞めてるなって感覚もあったんで、マインドセット変えましたね。
浜田さんが、今はやりきっているから褒められるのか、マインドを変えたから褒められるのかを尋ねると、清沢さんは後者だと答えます。行き詰まってしんどくなった時期を経て、変えざるを得なかったといいます。
もうマジでどうやっても乗り越えられない課題にぶつかって、変えないと多分幸せに生きられないだろうな、という価値観を揺るがす経験があったから。
浜田さんは、逆に一度自分を認めきれずに苦しいと気づいたからこそ、マインドセットを変えられたのだろうと受け止めます。最初から褒めていては、ありがたみもないという見方も添えられました。
最後に浜田さんは、ここまでいったら自分を褒めていいという線をどこに引くかが大事だとまとめます。それは徐々にできるようになっていくものだといいます。
前編はここまでです。残るメンタルモデル、共有ビジョン、チーム学習は、後編で扱われる予定です。
まとめ
『学習する組織』は、システム思考で問題の背後にある構造を見ること、そして自己マスタリーで個人が成長と向き合い続けることを説く本です。前編では、この2つを起業や組織づくりの実感に引きつけて読み解きました。
- システム思考は、目の前の出来事に反応するのではなく、全体の構造で捉える視点。短期的な解決が次の問題を生むことを警戒する
- 組織が大きくなるほど本当の課題は見えにくくなる。数字の落ち込みだけでなく、どこに一番大きな問題があるかを問い続ける必要がある
- 自己マスタリーの核は、組織の成長は個人の成長からしか生まれないという考え方。ありたい姿と現実のギャップに向き合う創造的緊張が原動力になる
- 失敗の総量が成功の総量に比例するという文化づくりと、進んだ一歩を自分で認める習慣が、成長を続ける個人と組織を支える
- 後編ではメンタルモデル、共有ビジョン、チーム学習を扱う予定





