リアルを語る特集で選ばれた「組織崩壊」
この回は、経営で難しいシーンを扱う特集の続きとして収録されています。池原さんは前回を振り返り、うまくいった話だけでなく、失敗や壁を共有することにこそ意味があると感じたと話します。
宇尾野さんは、前回の収録後に「もっとリアルを話せるだろう」「遠慮するな」という声をもらったと明かします。すっきり答えが出る話ばかりではないと前置きしたうえで、今回のテーマを「組織崩壊」に定めました。
「もっとそんな簡単じゃねえだろ」っていう話もですね、この場で全部すっきりしたとか、答えが出たみたいなものばっかりじゃないと思います。
番組には、まさに組織崩壊の渦中にいるリスナーから相談が届いていました。池原さんが読み上げた内容は次のとおりです。
先月から活躍している中核メンバーが数人も立て続けに退職をしてしまいました。他の社員も抜けるのではないかと気が気ではありません。どうしてこのような状況になったのか、そしてどうすれば社員が安心して定着する組織を作ることができるのでしょうか。
相談者は「組織崩壊」を、中核メンバーが連続して辞めた状態として捉えています。宇尾野さんは、相談者は辞める前から、コミュニケーションのずれや業績の不調にドキドキしていたのではないかと想像します。
いや、もう多分(相談者は)辞める前からちょっとドキドキしてると思うんですよね。
池原さんによれば、「組織崩壊」は経営者の間で聞かない日がないほどよく出る言葉です。宇尾野さん自身も、前の会社では崩壊をどう乗り越えたかというストーリーで組織カルチャーを作っていた面があり、避けてはならないテーマだと位置づけます。
組織崩壊にはどんな型がある?
池原さんは、組織崩壊は中核メンバーの離職だけではないはずだと問いかけます。宇尾野さんが挙げた型の一つは、人は辞めないものの、社内に無気力な人が増えている状態です。
無気力な人たちが今この会社にたくさんいるっていう状態も、崩壊はしてないんですけど、完全に崩壊前兆だったり、内側は空洞化してるみたいな構図もあるかなと思っています。
宇尾野さんはもう一つの型として、幹部メンバーや経営陣同士が対立し、経営者に対する謀反のような動きが起きているケースも挙げました。
池原さんが聞いてきたパターンも重なります。大量離職、ナンバー2との泥沼の争い、派閥による分断で、お客さんではなくお互いを見て戦っている状況です。
池原さんがとくに挙げたのが、以前の回でも扱ったブリリアントジャーク ── 能力が高く成果も出すが、周囲への態度や振る舞いが有害で、チームの雰囲気や協力関係を壊してしまう人物を指す言葉ですの存在です。優秀だが危険な人物が中立のメンバーを巻き込み、離職はしないまま裏で悪口や愚痴が溜まる「負の悪口ループ」に組織を引きずり込んでいくといいます。
さらに深刻なケースとして、池原さんはお金の問題、不正、懲戒につながる事案が出ることも挙げています。
| 型 | 起きていること |
|---|---|
| 中核メンバーの大量離職 | 幹部や中核人材が立て続けに抜けていく |
| 内側の空洞化 | 辞めないが無気力な人が増え、崩壊の前兆になる |
| 幹部の対立・派閥 | 経営陣同士の争いや派閥で、組織が割れる |
| 悪口ループ | ブリリアントジャークが中立のメンバーを巻き込む |
| 不正・懲戒事案 | お金の問題や不正など、より深刻な事態が起きる |
崩壊は「気づいた後」の手で決まる
宇尾野さんは、組織開発の領域では、組織が衰退していく段階がモデル化されていると紹介します。そのモデルから出てくる示唆は、多くの崩壊が「気づかなかったから」ではなく、気づいた後に的外れな手を打ったことで起きるというものです。
衰退モデルの最初の段階は「盲目」で、現象は起きているのに誰も気づいていない状態です。宇尾野さんは兆候の例として、労働時間が長くなっていることや、交通費の経費のちょっとした水増しを挙げています。
衰退モデルでは、次に気づいても動かない「無為」、気づいて対応するが的外れな「誤った行動」へ進みます。この「誤った行動」のあたりから崩壊が現実化し、「危機」を経て最後は「解体」に至ると宇尾野さんは説明します。
盲目
兆候は起きているが、誰も気づいていない
無為
気づいても「まあまああるよね」と対応しない
誤った行動
対応はするが、打ち手が的外れになる
危機
崩壊が現実的な危機として表面化する
解体
組織がばらばらになる結末を迎える
池原さんは、対策を取らないのは良くないのに、取った対策が後から的外れだったとなると「じゃあどうすりゃいいんだ」と思ってしまうと率直に疑問をぶつけます。
宇尾野さんの答えは、普段からどんな組織を作るかを考え、手を打っているかに尽きるというものです。バリューや人事評価制度のように、組織づくりの方針が形になっていれば、新しい打ち手がその方針に合っているかを評価できると話します。
それのポリシーとか、こういう風にうちの会社を作っていこうっていうものがないと、新しい手が本当に合ってるのか合ってないのか、まさに評価できないんで。
ブリリアントジャークを外すだけでは足りない?
池原さんが具体的に的外れだった打ち手の例を尋ねると、宇尾野さんはまず、人が辞める最大の理由は「有害な文化」だと言われていると紹介します。
宇尾野さんの言う有害な文化とは、ブリリアントジャークのような人がいることに加え、その人が許容されている状態を指します。リスペクトがない、排他的なコメントが横行する、倫理的でない、足の引っ張り合いがある、威圧的である、といった状況です。
経営者がブリリアントジャークの存在に気づいたとき、「やめろ」と言ったり退職勧奨をしたりするのが適切とは限らない、と宇尾野さんは話します。組織の膿を出すことに意味がある場合もあれば、チームに残る人たちとの対話が必要な場合もあるからです。
このチームに対するエンゲージメントが高い人たちが、本当はどうしたかったかっていうことを対話する方が、手としては正しかったみたいなのもあると思うんです。
宇尾野さんが見てきた中には、恐怖のステージだけを見せてしまい、対話が成立しなかった例もあったといいます。そのため、ブリリアントジャークを外すか対話するかの二択ではなく、どちらもやることが大事だったと振り返ります。
池原さんが聞いてきた話では、ブリリアントジャークを仕事ができるからと切れずに許容し、メンバーが追い込まれて組織が疲弊しているパターンが多いといいます。別の会社では、反目し合うリーダー2人を別の部署のトップにして、物理的に近づけない手を取ったそうです。
宇尾野さんは、相性が明らかに悪い2人なら部署や事業部単位で離すのも打ち手だと応じます。一方で、背中を向けずに向き合って解消するほうがハマる場面もあり、何が組織に必要かを普段から考え込めているかが問われると話します。
退職勧奨や部署分けで、問題の人物や対立する2人を引き離す
残るメンバーと「本当はどうしたかったか」を話し合い、関係を立て直す
組織崩壊は悪いことばかりか
池原さんは、組織崩壊がすべて悪とは限らないのではないかと問いかけます。組織は生き物であり、会社のフェーズが変われば軋みが出るので、崩壊は生まれ変わるための痛みを出し切る過程とも考えられる、という見方です。
宇尾野さんはこれを「ナラティブの形成」と結びつけます。過去に危機を乗り越えて成功体験を作れたという歴史は、その後の組織に良い形で継承され、組織崩壊をうまく活かしている場面も多いと話します。
池原さんはさらに、組織崩壊を経営者にとって変わるべきシグナルと捉えつつも、すべてが経営者の責任なのかと疑問を投げかけます。
宇尾野さんも同意します。採用の意思決定などで経営者の影響は大きいものの、衰退の前兆に早めにシグナルを上げたり、打ち手にフィードバックしたりする機能は、組織全体で持つべきだという考えです。
経営者が矢面に立って自分から身を切るとか、先頭に立って謝罪をするとかっていう姿勢自体も大事ですが、それを支える、一緒に責任分解していく、働く皆さんとの役割分担っていうのは同じく重要かなと思ってますね。
渦中で立て直す第一歩はステイインタビュー
池原さんは、まさに今組織崩壊の真っ最中で苦しんでいる人が立て直すための第一歩を尋ねます。宇尾野さんの答えは、一度立ち止まり、全部を見直すことでした。
宇尾野さんは「売上はすべてを癒す」という言葉を引きつつ、同じように「売上はすべてを隠す」とも言えると指摘します。業績が良いと組織の見えない問題がカバーされ、業績が下がるとそこがめくれてくるからです。
見直しの具体的な方法として宇尾野さんが勧めるのが、辞める人への退職面談ではなく、残る人に理由を聞くステイインタビュー ── 在籍している社員に「なぜこの会社に残っているのか」「何があれば辞めたくなるか」を聞く面談手法。離職を防ぐための手がかりを得る目的で行われますです。
残る人のステイインタビューみたいなこともやってもらって、「なんで今この瞬間で残ってくれてんの?」とかみたいな話から。
ステイインタビューで残る理由を聞くと、答えはさまざまだと宇尾野さんはいいます。理由がわかれば打ち手も変わるため、自分たちが組織をちゃんと見られているかの検証になると話します。
| 理由 | 社員の声の例 |
|---|---|
| 人とのつながり | 人とのつながりがちゃんとあるので残る |
| 職務適性 | 自分は仕事と合っていると思うので残る |
| 辞めると失うもの | 転職したばかりなので辞められない |
池原さんは、出ていく人と残る人の両方に、さまざまな角度からヒアリングすることが大事だと受け止めます。宇尾野さんは、打ち手のレパートリーより先に「みんなが居続けたい組織を作れているか」という問いに向き合うことを勧め、苦しい瞬間ほどやりづらいが、やらないと前に進めないと話しました。
悪い結果が出る健康診断も一度は受ける
池原さんは、経営していれば組織は必ず立ち上がり、組織崩壊も定期的に起きると話します。そして、何度か経験すると気持ちが強くなり、立ち上がりが早くなるといいます。宇尾野さんはこれを「レジリエンス」と言い表しました。
宇尾野さんは組織の見直しを、結果が悪いとわかっている健康診断にたとえます。嫌でも一度ちゃんと受けて処方箋をもらい、手を打てば良くなるという手応えを積むことで、経営者やチームの学習が進むという考えです。
健康診断嫌だと思いますけど、一回ちゃんと受けましょうっていう。
逆に、崩壊が来ても眺めて止まってしまうと、「なんで動いてくれないんだろう」と不安に飲まれていくと宇尾野さんは指摘します。
池原さんは、プラスを作るのは楽しい一方、ネガティブへの対応は売上につながらず苦しいと認めます。そのうえで、乗り越えてこそ一人前という気持ちで、ブリリアントジャークへの対応、自分が変えるべき点、制度の整え方のどれが課題かを冷静に見極め、淡々と向き合うしかないと話しました。
平時に「崩壊が起きたら」を考えておく
宇尾野さんは有事の対処に加え、平時の備えとしてシナリオプランニング ── 将来起こりうる複数のシナリオを想定し、それぞれに対する対応を事前に検討しておく経営手法。不確実性への備えとして使われますを勧めます。成長を前提にした中期経営計画だけでなく、不測の事態や市場の急変など変数を置き、うまくいかなかったときの対処を考えておく方法です。
宇尾野さんによれば、組織崩壊が起きたという前提で役員やメンバーと一緒に考えてみると、答えを出すこと以上に、仲間がどう対処しようとしているかが見えてくるといいます。
崩壊が来てから慌てて手を打ち、的外れになりやすい
シナリオプランニングで崩壊を前提に、みんなで対処を考えておく
番組の最後、池原さんは初めて組織崩壊を経験したとき、歩きながら涙が出たと明かします。宇尾野さんは、その涙が向き合う腹をくくるきっかけにもなると応じました。
涙出ちゃいましたね、歩きながらポロポロってね。
はい、図太くなりました。
まとめ
中核メンバーの連続退職という相談から始まったこの回では、組織崩壊の多くは気づいた後の的外れな打ち手で起きると語られました。普段から組織の方針を持ち、残る人の声を聞き、平時に有事を想定しておくことが、崩壊を乗り越えるための土台になりそうです。
- 組織崩壊には、大量離職のほか、内側の空洞化、幹部の対立や派閥、ブリリアントジャークによる悪口ループなどの型がある
- 衰退は盲目・無為・誤った行動・危機・解体の5段階で進み、気づいた後の的外れな対応が崩壊を現実化させる
- 問題人物を外すことと、残るメンバーとの対話は、どちらかではなく両方が大事になる
- 「売上はすべてを隠す」ため、立ち止まって見直し、残る人に理由を聞くステイインタビューが有効
- シナリオプランニングで平時に「組織崩壊が起きたら」を考えておくと、有事の対処が変わる




