AIツール「ふむふむ」が便利すぎる、という近況から
本編に入る前に、二人は最近気になっているAIツールの話で盛り上がります。清沢さんが挙げたのは、Vicoolがリリースした「ふむふむ」というツールです。
最近でいうと、クビ、フレイドさんの出した「ふむふむ」っていうAIツールがめっちゃ便利で、これめっちゃすごいなと思って。
もう僕、毎日ブックマークの一番上のところに置いてて、お客さんのミーティングの前とかには入れてますね。
浜田さんによれば、このツールは誰かが一度調べた情報が蓄積されるため、企業情報が一瞬で出てくるのが強みだといいます。清沢さんはclayやqualifiedといった、immedioがベンチマークしている海外サービスを週末に調べたところ、競合が的確に出てきたと話します。
「ふむふむ」を提供するVicoolは、もともとアナリティクスツールを手がける会社です。清沢さんは、なぜ本業と異なるツールを出したのかを、公開されている記事から次のように読み解きます。
(Vicoolの本体は)プロダクトの価値を実感いただくまでの時間が長い。その手前に「ふむふむ」的なものがあると、アナリティクスに行くための導線として、体験の水を飲めるんじゃないか。
そもそもサム・アルトマンとは何者か——250人超が語る伝記
ここから本題の名著再読に入ります。取り上げるのは「The Optimist」、日本語で「楽観論者」を意味するサム・アルトマンの伝記です。清沢さんは、この本がアルトマン自身の著作ではない点を確認します。
著者はWall Street Journalでメディアとテックを担当してきた記者です。この本を書くにあたり、アルトマンの家族、友人、恩師、共同創業者、同僚など、あらゆるステークホルダーステークホルダー ── 事業や人物に利害関係を持つ関係者のこと。ここでは家族から共同創業者まで、アルトマンをめぐる幅広い関係者を指しています250人以上に取材し、本人とも長時間対話した内容が土台になっています。2025年に出版され、ベストセラーとして評価されているといいます。
人物像の確認に入ります。アルトマンは1985年生まれで、収録時点で41歳。シカゴに生まれ、ミズーリ州セントルイスで育ったユダヤ系の家庭の出身です。8歳でプログラミングを始め、マッキントッシュに没頭したといいます。
清沢さんは、アルバイトのようにテック企業にユダヤ系の創業者が多い点にも触れます。あわせて、彼自身がゲイであることを高校でカミングアウトしていた点を、人物理解の重要なポイントとして挙げます。
学歴と初期のキャリアも駆け足で確認されます。スタンフォードでコンピューターサイエンスを学ぶも2年で中退。19歳で位置情報SNS「Loopt」を共同創業し、Y Combinator ── アメリカのスタートアップ育成機関(アクセラレーター)。ポール・グレアムらが創業し、Airbnbやストライプなど多数の著名企業を輩出していますの第一期(2005年バッチ)に参加しました。
中部の真面目な家庭に育った天才、そして「交渉力の片鱗」
浜田さんが特に面白いと感じたのは、アルトマンの生い立ちです。父親はアメリカのアフォーダブルハウジング、つまり貧困層向けに広く住宅を供給する仕事に熱心だったといいます。
中部の、なんていうか、すごく真面目な家庭に出てきた天才みたいな感じですよね。
浜田さんは、ユダヤ系であることやLGBTへの気づきが高校生の頃にあったことも含め、マイノリティとして生きてきた背景がアルトマンを形づくっていると見ています。
浜田さんが強調するのは、最初に立ち上げたLooptにすでに現れていた交渉力です。当時の位置情報サービスはキャリアとの連携が不可欠で、情報を出してもらう必要がありました。日本の昔のガラケーでキャリアがアプリをプリインストールする構図に近いといいます。
本当に20歳になるかならないかなのに、キャリアの本社に出かけて行って1時間プレゼンしたら、やっぱサムすげえなって思われて、普通にディールが成立するみたいな。
Looptそのものは大成功とまではいかなかったものの、浜田さんはこの逸話に、後の圧倒的な交渉力の片鱗を見出します。清沢さんも、ここに「ビジョナリーなファウンダー」の萌芽があったと受け止めます。
28歳でYC代表、そしてOpenAI創業へ
キャリアの続きを時系列で追います。アルトマンは2011年にY Combinatorにパートタイムパートナーとして参加し、2014年、ポール・グレアムの後任として代表パートナーに就任します。当時28歳という若さでした。
YC在任中には、Airbnb、Stripe、Dropbox、Redditなど名だたる企業のスケールを支援しています。
そして2015年、イーロン・マスク、グレッグ・ブロックマン、イリヤ・サツキバーらとともに、OpenAIを非営利組織として共同創業します。清沢さんが二人の共同創業者について尋ねると、浜田さんはこう説明します。
グレッグ・ブロックマンは(ストライプなどで)事業をやってた経験のある人。イリヤ・サツキバーがもう普通に天才エンジニアですよね。
その後、2019年にアルトマンはOpenAIのCEOに就任し、Microsoftから10億ドルの投資を受けます。ここからの活躍は広く知られている通りだと二人は確認します。
リスクを愛するディールメーカー——「引きの良さ」の正体
ここから、本書が描くアルトマン像の核心に入ります。まず挙がるのは「リスクを愛するディールメーカー」という側面です。浜田さんは、本書には「そんなことある?」という逸話が数多く出てくるといいます。
リスクに愛し愛されみたいな感じで、「ともかくそんなことある?」みたいなのがめちゃくちゃたくさんあって。
たとえば、YCの初期にStripeを立ち上げたコリソン兄弟に投資したらそれが巨額になった話や、ポール・グレアムやピーター・ティールと話す中でFacebookに少額を投資したらそれが大きく育った話などです。浜田さんは、この「引きの良さ」を強調します。
浜田さんは、そもそも20歳前後で業界のトップたちと肩を並べ、リスクを取れる段階にたどり着けること自体が謎だと語ります。ポール・グレアムは、ビル・ゲイツの若い頃を引き合いに出してアルトマンを評したといいます。
ブログの思慮深さと、ぐちゃぐちゃな家庭——複雑な人物像
清沢さんは、アルトマンのブログには愛の大切さや友情、信頼といったテーマが繰り返し登場し、思慮深く哲学的な人物像がうかがえると話します。一方で浜田さんは、本書がその複雑さもリアルに描いている点に触れます。
すごい複雑ですよね。でもここの本にはすごくリアルなことが書かれてて。
浜田さんは、私生活や家族関係が決して整然としたものではなかったことが率直に書かれていると語ります。妹との訴訟なども含め、家庭は必ずしも安定していなかったといいます。
なんかいろんな、その分(アルトマンは)愛を求めているのかもしれないし。
Looptの売却、YC代表就任、OpenAIの営利化、Microsoftとの提携、そしてボードルームのクーデターからの復活。清沢さんは、こうした波乱の連続を「聖書みたいだ」と表現します。
浜田さんは2023年11月の解任騒動を振り返ります。一度解任され、Microsoftへ移ると宣言し、社員のほぼ全員がMicrosoftに移りかけたところで、逆にOpenAIから復帰を請われて戻ってきたという展開でした。
ドラマにしても、わざと臭いくらいの展開だなっていう感じですよね。
核融合に数百億円——技術進歩への「宗教的信念」
清沢さんは、アルトマンの激動の人生をイーロン・マスクと並ぶレベルだと評します。浜田さんは、二人に共通するのは技術進化に対する確信だと指摘します。
浜田さんによれば、本書で語られるアルトマンの投資ポートフォリオには核融合などが含まれ、「時間はかかっても世界は絶対にその方向に行くべきだ」という信念のもと、数百億円規模の投資をしているといいます。
時間はかかるかもしれないけど、絶対的に世界はその方向に行くべきであるみたいなのに対して、ドンと投資する、数百億円みたいな。
浜田さんは、スペースXが「人間はいつか火星に住むべきだ」という信念から生まれているように、アルトマンも同じ次元のことを本気で信じて実行していると語ります。
その象徴が、OpenAIを2015年に、しかも非営利団体として立ち上げた点です。浜田さんは当時の空気を、スマホとアプリが一巡し、クラウドやSaaSがようやく語られ始めた頃だったと振り返ります。その時点でOpenAIを作っていたことの早さに、二人は驚きを共有します。
浜田さんは、本書の大きなテーマである「なぜサムは追い出されたのか」も、この技術観の対立に根があると見ています。シリコンバレーには「AIは可能性があるが、その分めちゃくちゃ危険だ」と信じる人たちがいて、そのバランスを取るために最初は非営利で始めた、というのです。
ムーアの法則を「あらゆるもの」に——楽観論とハラリの慎重論
ここから、技術進歩への信念をより具体的に掘り下げます。清沢さんは、アルトマンが2021年に発表した「Moore's Law for Everything」に触れます。
この文章でアルトマンは、技術の進歩によって富が再分配され、豊かさが一律に達する時代が来ると論じています。清沢さんは、労働者が受け取る給与やお金も平準化されていくという主張だと整理します。
浜田さんは、こうした姿勢はアメリカ全般に見られると語ります。技術の進歩は良いことだと捉え、そこに潜むリスクをあえてあまり気にしない、極めて楽観的な態度だといいます。
対照的な立場として清沢さんが挙げるのが、ハラリです。「サピエンス全史」で知られるハラリは、著書「Nexus」でAIが権力装置として機能しうると警告する慎重派です。
一方のアルトマンは、そうしたリスクを認識しつつも、行動しない方がリスクは大きいと考え、前に進む進歩派だと清沢さんは整理します。浜田さんは、放っておけば中国が動くことも分かっている以上、早く動いた方が良いという判断が働いていると補足します。
ただし二人は、AIの急進化がアメリカでの失業につながりうる現実にも触れます。浜田さんは、スタンフォードでも仕事がないといった話が実際にあると語り、どこへ向かうのかという悩ましさを共有します。
周囲より早すぎる男——2023年の解任騒動の構造
もう一つのアルトマン像として、清沢さんは「周囲より早く動きすぎる男」という指摘を挙げます。本書は、彼が周囲の人よりも速く動く傾向を繰り返し指摘しているといいます。
清沢さんは、2023年の解任事件について、表向きの理由は「CEOであるサムがボードに対して率直でなかった」ことだったと整理します。ただし根本には、アルトマンのスピードに組織のマネジメント体制が追いついていないという構造的な問題があったのではないかと語ります。
浜田さんは、この「スピード」を擁護する視点を持ち込みます。爆走してきたOpenAIでさえ、今はGoogleのGeminiやAnthropicに追い上げられ、売上などでは負けている面もある、というのです。だからこそ「CEOの狂気」のようなものが重要だと考えます。
浜田さんは、あるポッドキャストで聞いたキース・ラボアの言葉を紹介します。キース・ラボアは、コースラ・ベンチャーズやセコイアといったアメリカの大手VCのトップに長くいる人物です。
CEOの役割って、常にそのスタンダードを上げ続けること。組織って現状維持のバイアスが絶対出てくるから、それが出た瞬間に「現状維持の組織なんて意味ないよね」って言い切って前に進む、それのみがCEOの役割だと。
浜田さんは、アルトマンこそこの姿勢を体現している人物だと語ります。清沢さんは、彼が誰も追いつけないレベルで組織を動かすのは、すでに見えている未来へ最速で行くためではないかと解釈します。
清沢さんが「恐れるものはあるのか」と問うと、浜田さんはマイノリティ的な背景や、父親も裕福ではなかったことに触れ、「基本的に失うものがないのだろう」と答えます。清沢さんはこれを「もう死以外はリスクじゃないみたいな感じ」と言い換えます。
非営利なのに巨額調達——冷徹な組織設計者としての顔
最後に、アルトマンを知るもう一つの要素として「冷徹な組織設計者」という側面が挙がります。ミッションとファイナンスの両立を可能にする独自の構造を2017年に設計した点です。
清沢さんは、この設計が常識と反していると指摘します。浜田さんも「非営利なのにMicrosoftから何十億も調達するのは意味が分からない」と応じ、その仕組みを解説します。
非営利団体が意思決定はするんだけども、収益事業はもともと別にあって、その収益事業を非営利がマネージする。で、収益事業側にMicrosoftが投資する。
浜田さんによれば、この構造だと非営利団体が完全にコントロールしているため上場できないという問題があり、上場できるように組織を変えていったといいます。これに対し、イーロン・マスクは「非営利と言っていたじゃないか」と反発しているとのことです。
浜田さんが注目するのは、ミッションに対する割り切りです。OpenAIには「安全なAI」というミッションを信じて入社した人が多くいる一方で、アルトマンはそのミッションを事実上無視してでも、その方が今の世界のためになると考えて動いている、というのです。
浜田さんは、アルトマンがスティーブ・ジョブズのような、常に周囲を威圧する狂気の人には見えない点も指摘します。普段はふわっとしているのに、いざという時の判断だけが「え?」と驚くほどドラスティックなのだといいます。
普段からそういうことやってる感じではないんだけども、いざっていう時の判断が「え?」みたいなことを(する)。
なお、この伝記自体もアルトマンは当初あまり書いてほしくなかったものの、対立の中で自身の像が歪んでいくのを見て、真実を知ってほしいという思いから書いてもらったようだ、と浜田さんは語ります。
OpenAI・Anthropic・スペースX——百兆円企業と「AIの外交問題」
話は、AI業界の最新の勢力図に及びます。浜田さんは、OpenAI、Anthropic、スペースXが今年から来年にかけて超大型上場を迎え、それぞれ1兆ドル、つまり100兆円規模の企業が3つ生まれるのではないかと言われていると紹介します。
浜田さんは、OpenAIとAnthropicの収益構造の違いにも触れます。OpenAIはChatGPTのBtoC収入が中心で、ユーザー数は週に10億人とも言われるものの、有償プランが月2000円ほどで無償でもかなり使えるため、売上が飛び抜けて大きいわけではないといいます。
一方でAnthropicは、Claude CodeのようなAPI課金が売上を牽引し、大きく伸びていると浜田さんは説明します。加えてAnthropicはもともと営利企業のため、いつでも上場できる立場にあります。上場準備が整っていないOpenAIは苦しいのではないか、という見方があるといいます。
浜田さんは、Anthropicを率いるダリオがもともとOpenAIの人物で、袂を分かった今は関係が非常に悪いと語ります。清沢さんが「バチバチ」と表現するほどの対立です。
インドの会議でみんなで手を挙げるはずが、サムとダリオが隣に並んじゃって、その二人だけ手が挙がってなかったみたいな。
浜田さんは、AIという最重要技術を任される二人がこの状態であることに、半ば本気で心配だと語ります。清沢さんは、この対立を「外交問題っぽい」と表現します。
一方で二人は、将来的な合従連衡の可能性も語り合います。清沢さんはBtoBに強いClaudeとBtoCに強いOpenAIの相性の良さに触れ、浜田さんは独禁法問題になるレベルだと応じます。ただし国策として中国のAIが伸びてきた局面では、Google、xAIなども含めた各社が競り合うより、合併もありうる世界だといいます。
さらに二人は、ピーター・ティールがGrokとOpenAIを取り持つといった展開すらありうると語り合います。清沢さんは、XドットコムとPayPalの合併のように、アメリカではライバル同士が一つになる例があると振り返ります。
後半はグロースへの示唆へ——次回予告
一冊のボリュームがあるため、今回は前半として区切ります。浜田さんは、本書にはシリコンバレーやアメリカそのものが濃縮されて見えると振り返ります。
次回以降について、二人は方針を相談します。この伝記自体は今回で大枠をカバーしたうえで、AIのグロースにおける活用は別の回でまとめてもよいのではないか、というのが浜田さんの考えです。
清沢さんは、ハラリの「Nexus」も読みたいと述べ、テック界隈の最新動向や人類がどうなっていくかというテーマにも触れていきたいと話し、この回を締めくくります。
まとめ
「The Optimist」が描くサム・アルトマンは、若くしてトップたちに愛される交渉力と引きの良さを持ち、技術進歩を「宗教的」とも言えるほど信じ、いざという時にはボードやミッションすら無視して動くディールメーカーです。楽観と冷徹な組織設計が同居するその姿は、AI時代のスピードと統治の難しさそのものを映し出しています。
- アルトマンは20歳前後からトップ経営者に愛される交渉力を持ち、「リスクを愛するディールメーカー」として描かれる
- 核融合などへの巨額投資に象徴されるように、彼は技術進歩を「絶対にその方向へ行く」と確信して行動している
- ハラリらの慎重論に対し、アルトマンは「行動しないリスクの方が大きい」とする楽観・進歩派の代表格である
- 2023年の解任騒動の根には、彼のスピードに組織のマネジメント体制が追いつかない構造的問題があったと語られる
- 非営利が収益事業をマネージする独自構造を設計する一方、上場に向けて組織を変え、ミッションすら割り切る冷徹さも併せ持つ





