AIでカスタマーサポートを丸ごと置き換えるSierraとは
今回のエピソードで取り上げるのは、最近Xでも話題になっているAIエージェント企業Sierraです。浜田さんは、日本で名前を聞くようになったきっかけを、日本のスタートアップOpera Techの買収だと説明します。
AIの中でも、比較的カスタマーサポートも置き換えて一番熱い領域で、そのリーディングプレーヤーっていうところでよく聞くようになりましたね、日本でも。
Sierraを一言で言うと、企業のカスタマーエクスペリエンスをAIエージェントで丸ごと置き換えるサービスです。清沢さんが、チャットボットとの違いを尋ねます。
マルチチャネルなので、音声もできるし、メールとかテキストとか含めてあらゆるチャネルとつなぎ込める。カスタマーサポートってやっぱり一チャネルじゃ成立しないじゃないですか。
チャットボットでダメなら電話、メールも一元化するといった具合に、カスタマーサポートは複数の接点で成り立っています。Sierraはそれらを全部受けきれる点が特徴だと、浜田さんは整理します。
7四半期でARR1億ドル、評価額1.5兆円という成長スピード
Sierraの成長スピードは際立っています。ローンチから7四半期でARR1億ドルに到達し、評価額はすでに100億ドル、日本円で約1.5兆円に達しているといいます。
売上に対して評価額が約100倍という水準で、AIエージェント領域の中でも特に注目を集めているプレーヤーです。
対応するチャネルはチャット、メール、電話、WhatsApp、テキストメッセージなど幅広く、その基盤はエージェントOS ── Sierraが提供するプラットフォームの名称。特定のシステムや言語モデルに依存せず、顧客に必要なデータベースや言語モデルをつなぎ込んで最適な構成を作れるとされますと呼ばれるプラットフォームです。清沢さんが、その具体的な中身を尋ねます。
いろんなシステムをまたげる。Salesforceにも依存しない、ERPとかとも連携できるので、中立的な存在であるっていうことですね。
さらに言語モデル側も特定のベンダーに縛られず、OpenAIでもAnthropicでも使えるといいます。顧客にとって必要なデータベースと言語モデルをつなぎ込み、最適なものを作るというニュートラルな設計です。
あくまでその顧客にとって必要なデータベースと必要な言語とつなぎ込んで最適なものを作りますみたいな。結構ニュートラルな印象を受けてますね。
トークン課金ではなく「成果」に課金するアウトカムベースの料金モデル
Sierraのプライシングも特徴的です。席数に応じたパーシート ── 利用ユーザー数(席数)に応じて課金する料金体系。従来のSaaSで一般的な課金方式ですではなく、成果に応じて課金するアウトカムベースを採用しています。
浜田さんは、トークンをどれだけ使ったかではなく、顧客の課題が解決されたかが重要だと指摘します。同じ業界のIntercomも、チャットボットで顧客の課題が解決したときだけ課金するモデルを持ち込んだといいます。
結局そのトークン使ってもお客さんの課題解決しないとしょうがないよねっていうのがあって。トークンいかに使ったかじゃなくて、成果ですっていうモデルにしてるので、企業からしたら受け入れやすいですよね。
Sierraの課金のベースは、月額固定ではなく解決した会話数や完了したタスク数です。実際にはエンタープライズ向けなので、会話数の上限に応じた予算はざっくり取っていると考えられます。
浜田さんは、既存のコールセンターでも月に何件問い合わせて何件解決したかは把握されているため、成果報酬でありながら予算が読みやすい点が受け入れられやすさにつながっていると説明します。
利用ユーザー数や消費トークン量に応じて課金する。トークンを使っても課題が解決するとは限らない
解決した会話数や完了タスク数など、成果に応じて課金する。既存のコールセンター実績があるため予算を読みやすい
GAFAの中心にいた「無敵の創業者」ブレット・テイラー
Sierraを率いるのは、元Salesforce CEOのブレット・テイラーです。浜田さんは、その経歴を順に振り返ります。
FriendFeedって会社がFacebookに買収されて、FacebookのCTO。Facebookのいいねボタンを作ったのはこの人。
テック業界の震源地とも言える場所を渡り歩いてきた人物で、清沢さんも浜田さんも無敵と評します。プロダクトも作れて大企業の経営もできる、稀有な人物だといいます。
共同創業者は、Googleで出会ったクレイ・ベイラーです。テイラーが2022年末にSalesforceを退任して起業家のルーツに戻ると宣言する中で、旧友のベイラーと再会し、構想を練っていったといいます。
2022年末に「AIの波」を仕込めた理由
清沢さんは、2022年末という市況でこの領域にベットしたことについて、浜田さんの受け止めを尋ねます。
浜田さんは、テイラーがOpenAIの取締役として、モデルがどれくらいの速度で進化するかを知っていたことが大きいと見ています。2022年はChatGPTのバージョン3.5が出る少し前で、その時点で方向性が見えていたからこそ、人より早く仕込めたのではないかと話します。
OpenAIが何やってて、どのくらいの速度でモデルが進化していくっていうのがわかってるから、やっぱり二千二十二年にこれを仕込めてるんじゃないか。
浜田さんは、この動きをサーフィンにたとえます。うねりが見えていて、あとはベストのポジションで待つだけという状態を、人より早く見えていたという見立てです。
サーフィンでいうとウネリが見えてるみたいな感じで、もうあとはこうベストのポジションで待つだけみたいな。でもそれがやっぱり他の人よりも早く見えてる。
加えて、テイラーはSalesforce時代にエンタープライズ向けの売り方も理解していました。テクノロジーと顧客の両方に解像度があったからこそ、ベットできたと考えられます。
GPT-4とコールセンターの課題が噛み合ったPMF
SierraのPMFは、AIモデルの進化と、成熟しきっていない顧客体験の課題がうまく噛み合ったことで生まれたといいます。清沢さんは、需要の爆発につながった要因を整理します。
浜田さんは、そのタイミングをGPT-4の登場と結びつけます。アメリカではコールセンターを南米などに外注しており、コストがかかっていたことも背景にあると指摘します。
GPT-4以降の推論能力が実用的なエージェントとして機能するようになり、慢性的な人材不足とコスト圧力を抱えるコールセンターの課題にフィットしたと考えられます。
ブランド・アウトカム課金・FDEが揃った勝ち筋
なぜこの速度で勝てているのか。浜田さんは、これまでの会話で触れた要素が重なっていると整理します。
ブレット・テイラーというブランド、アウトカムベース課金、モデル非依存で誰とでも組める点に加え、FDE ── Forward Deployed Engineerの略。顧客先に人を送り込み、業務フローを理解して実装まで行う技術者のこと。Palantirが得意とする手法として知られますを駆使したスーパーハイタッチな支援がフィットしたといいます。
スーパーハイタッチで、いわゆるFDEのモデルですね。パランティアみたいな感じで、人を送り込んでお客さんの業務フローを理解して実装までやってしまうっていうのがすごくフィットした。
現在の顧客はFortune 50のうち40%が導入し、SoFi、Brex、Ramp、Discordといったメガベンチャーを起点に、ADTやロケットモーゲージ、ノードストロムなどのエンタープライズへ広がっているといいます。
調達もベンチマーク、アイコニック、ソフトバンク・ビジョン・ファンドなどそうそうたる投資家が名を連ねています。ちなみにBrexは、日本でいうと法人カードのアップサイダーに近い企業だと清沢さんは補足します。
アウトカム課金は日本のスタートアップにも広がるのか
清沢さんは、A16Zの記事などでも前提となっているアウトカムベース課金が、日本のスタートアップにも広がっていくのか、どうキャッチアップすべきかを尋ねます。
浜田さんは、トークン課金の難しさから話を始めます。トレジャーデータの担当者のポッドキャストで、トークン原価の何倍を課金すればいいか難しく、5倍はつけられないという議論があったと紹介します。
トークン課金がやりづらい中で、課金ポイントを成果に寄せるのは自然な流れだと浜田さんは話します。成果に課金ポイントを寄せるかってのはすごい自然な流れだという見立てです。
ただし、成果課金に倒せるのは、やることがはっきりしていて丸かバツかも明確な領域だといいます。AIはエンジニアやカスタマーサポートのように答えがはっきりした業務に強い一方、そうでない業務も多く残っています。
成果報酬課金が望ましいんだけど、それにできるような業務がめちゃくちゃたくさんあるわけじゃないよねっていう感じ。
浜田さんは、日本でもすぐに広がるというより、一領域ずつ時間をかけて進むのではないかと見ています。その意味で、カスタマーサポートやCXの領域は成果課金と相性がいい分野だと言えます。
SalesforceのAgentForceと真正面から競合するポジショニング
Sierraの競合について、浜田さんはまずDecagonという若い会社を挙げます。もう一つ大きいのが、SalesforceのAgentForceとの競合だといいます。
セールスフォースのエージェントフォースもやっぱりカスタマーサポートが一番成果出しやすいっていう風に言われてて、多分そことはバキバキ競合してるんだろうな。
Salesforceを退任したテイラーが、古巣のAgentForceと真正面から競合する構図です。浜田さんは、マーク・ベニオフからすれば目の上のたんこぶで、もう一度買収したいと思っているはずだと話します。
清沢さんは、起業家対起業家の頂上決戦のような構図を、いかにもアメリカらしいと評します。日本では角が立ちやすい正面衝突を、そのまま立たせにいくスタイルだといいます。
勝ち筋について浜田さんは、AgentForceはSalesforceのサービスクラウド上のサービスであるため、情報がそこに溜まっている顧客には自然だと整理します。一方で情報は各所に散っており、在庫情報などになるとERPなど様々なシステムをつなぐ必要があります。
エージェントフォースはやっぱSalesforceロックインになっちゃう。そうではない、いろんなシステムと連携して使いたい時にはシエラがいい。
つまり、Salesforceにロックインされたくない顧客にとってSierraが選択肢になるということです。清沢さんは、CIOの4分の1が2025年にカスタマーサービス系ベンダーの入れ替えを検討しているというGartnerの調査を紹介し、その需要をSierraが捉えかけていると見ています。
System of Recordと接合しきる、SIerに近いポジション
清沢さんは、AI論で語られるSystem of RecordとSystem of Actionの対比に触れ、Sierraがどこに位置づけられるかを尋ねます。
浜田さんは、SierraはあらゆるSystem of Record ── 顧客データや取引記録など、事業の正となる情報を蓄積するシステムのこと。CRMやERPなどが代表例ですと紐付けられる存在で、どちらかというとSystem of ActionやSystem of Engagementに近いと整理します。
SystemofRecordとAIをうまく接合すること自体が難しいので、そこをやりきるみたいなポジショニングですよね。ちょっとだからSIRに近い感じはしますよね。
実際にFDEでエンジニアが顧客先に入り込み、システムをつなぎ合わせて作りきる点は、SIerに近い動き方です。エンタープライズに特化しているからこそ、そこをやりきれるのだと考えられます。
テキスト→音声→プラットフォーム化と進む手堅い展開
Sierraはこの2年でマルチプロダクトを高速に展開しています。パブリックローンチは2024年2月で、その後は数か月ごとに買収やボイス領域への参入を重ねてきました。清沢さんは、その順序を手堅いと評します。
浜田さんは、技術の進化に合わせた展開だと説明します。最初のパブリックローンチはテキストチャットが中心で、2025年に音声へ入り、その後ノーコードでプラットフォーム化したといいます。これはSalesforceのforce.comに近い発想だと指摘します。
自社プロダクトがアーリーでも、もう早めにそのプラットフォーム化しに行くみたいな感じで。
さらに直近では、エージェントを作るエージェントを出したといいます。Claude Codeのように、こう対応したいと伝えると、その動作をするエージェントを作れるところまで進み、プラットフォーム思想の強さがうかがえます。
なぜ日本のOpera Techを完全子会社化したのか
最後のトピックは、Opera Techの買収です。Sierraは東京拠点のエンタープライズAIスタートアップ、株式会社Opera Techを3月27日に完全子会社化しました。
浜田さんは、アメリカのユニコーンが日本の会社を買収する例はあまりなかったとして、ビッグニュースだと受け止めます。Opera Techは、マッキンゼー出身の優秀なエンジニアとマネージャーがコールセンターのアップデートという同じ領域で始めた会社だといいます。
買収に至る経緯は、トントン拍子だったようです。同じ領域を狙う中でSierraが良かったため、Opera Tech側が最初は話を聞きに来たといいます。
徐々にこれもう敵対しない方がいいよっていう感じで、なんならパートナーとしてシエラ一緒に売ってく?みたいな感じにしてたら、最後、じゃあもうグループインしちゃいなよって言われて、買収のオファーが来た。
浜田さんは、日本市場は大きく重要である一方で特殊性が高いと指摘します。テイラーはSalesforceの歴史やフィロソフィーの影響を受けており、Salesforceが日本展開を早く進めたのと同じく、重要な市場だからこそ早く行くべきだと理解していたのではないかと見ています。
Salesforceは創業2、3年目に日本オフィスを作り、商社やSIerからの声がある中で、Oracle出身者と組んだサンブリッジと組んで独立して展開し、成功しました。浜田さんは、Sierraにも日本のコールセンター企業やSIerから声がかかっていたはずだが、独立してやった方がいいと判断してOpera Techを買ったのではないかと推測します。
日本のスタートアップは「勝負するか、組むか」
清沢さんは、この事例から起業家や経営者が学べる教訓を尋ねます。浜田さんはまず、アウトカム課金を挙げ、課金体系にどんな形があるのかを見ていく必要があると話します。
もう一つが、海外ビッグテックとの組み方です。SaaS is dead論 ── 生成AIの台頭で従来型SaaSの価値が低下するという議論。SaaS企業のバリュエーションが厳しくなっているという文脈で使われますでバリュエーションが厳しくなる中、Sierraは売上の100倍がついています。
日本市場って十分に大きくて十分に難しくて、海外ビッグテックからしたらどうする?って思うマーケットだと思っていて、そこにおいて日本で同じことをやってる企業が、まあ勝負しに行くのか、組みに行くのか。
勝負しに行くのか、組みに行くのかという問いは、日本のスタートアップの生き残り戦略として示唆に富むと浜田さんは話します。海外スタートアップにグループインする道も、海外ユニコーンから出資を受ける道もあり得ます。
清沢さんは、日本はGDPでも依然として上位で、言語の障壁や特殊な商習慣があるため、海外勢が本気で参入するなら戦うより組む選択が現実的だと補足します。パートナーとして組みながら大きなホームランを狙う戦い方が、2026年以降メジャーになっていくのではないかと見ています。
中国でちょっと仕事がやりづらくなってる中、日本は特殊ではあるけど、まあ東京を抑えれば結構八割抑えられるみたいな感じとかもあったりの中で、実は魅力的なマーケットではあるんですよね。
まとめ
Sierraは、無敵とも言える創業者ブレット・テイラーのもと、アウトカム課金、モデル非依存、FDEによるハイタッチ支援を武器に、7四半期でARR1億ドルという速度で成長しました。Opera Techの買収は、海外ビッグテックが日本市場をどう攻めるか、そして日本のスタートアップが勝負するか組むかを考える上での示唆に富む事例です。
- Sierraは音声・メール・チャットなど全チャネルのカスタマーサポートをAIエージェントで置き換え、7四半期でARR1億ドル、評価額約1.5兆円に到達した
- トークン量ではなく解決した会話数など「成果」に課金するアウトカムベースを採用し、企業が受け入れやすい設計にしている
- OpenAIの取締役でもある創業者は、モデルの進化速度を見越して2022年末に領域を仕込み、GPT-4の登場でPMFを迎えた
- 古巣SalesforceのAgentForceと真正面から競合し、ロックインを避けたい顧客へ中立的なプラットフォームとして訴求している
- 日本のOpera Tech買収は、海外勢の日本参入と、日本スタートアップの「勝負するか組むか」という戦略を考える教訓になっている






