添付文書の記載だけで判断していいのか?
たいぞーさんは今回、「薬学で患者を語るというのは、薬のなぜを答えられること」というテーマを掲げます。薬剤師の仕事には、薬への問い合わせに答えたり、患者さんに適さない薬について処方変更を提案したりする場面があります。
薬が患者さんに適しているかを判断する材料の一つが、添付文書 ── 医薬品に添付される公的な説明文書。効能・効果、用法・用量、禁忌、慎重投与、相互作用、副作用などが記載され、医療者が薬を使う際の基本情報になりますです。添付文書には、腎機能や肝機能が落ちている人、特定の薬を飲んでいる人、特定の病気がある人には適さない、といった記載があります。
薬剤師は、その記載と患者さんの今の状態を照らし合わせます。該当する病気がないか、飲み合わせの悪い薬がないか、体の機能の低下がないかを確認して、薬が適しているかを判断していきます。
ただし、たいぞーさんは添付文書の記載をあくまで判断材料の一つと位置づけます。なぜその記載になっているのかを理解しているかどうかで、患者さんの見え方も関わり方も変わってくるのではないか、と話しています。
「使える・使えない」の二択では見誤るもの
たいぞーさんによると、明確にやめたほうがいいと判断される薬もいくつかはあります。けれど多くの薬は、リスクはあるかもしれないがメリットもあるため「使う際には注意しましょう」というカテゴリーに入るといいます。
(薬は)使えない、使えるという二択ではなくて、使えるかな、難しいかなっていうようなところで判断しないといけないものというのが非常にたくさんあるんですね。
こうしたグレーゾーンの薬を「いいのか悪いのか」だけで判断していると、薬の特性や使う際の注意点を見誤ってしまう、というのがたいぞーさんの問題意識です。
添付文書の記載に当てはまるかどうかで、使える・使えないを決める。薬の特性や注意点を見誤りやすい
記載の理由を理解したうえで、使えるかな・難しいかなを考え、リスクの程度と見守り方を判断する
医師が「使う」と決めたとき、薬剤師に何ができるのか
たいぞーさんが例に挙げるのは、腎機能や肝機能が悪い人に注意するよう添付文書に書かれた薬を、腎機能や肝機能が落ちている患者さんに使う場面です。医師が「効果も期待できるし、状態も良くなるはずだから使ってみよう」と判断することがあります。
そのとき、なぜその薬が腎機能や肝機能の低下した人に良くないのかを薬剤師が理解していると、悩んだうえでの決断がどの程度のリスクを含むのかを見積もれます。さらに、この先どの程度、どのタイミングで症状が起こる可能性が高いかを予測できるといいます。
その予測があるから、経過の確認をどの頻度・どのタイミングで行うのが適切かを判断できる、とたいぞーさんは話します。
一方で、「なぜ」がわかっていると、この患者さんのこの状態ならそれほどリスクは高くなく使えるのではないか、という判断もできるといいます。たいぞーさんはこれを、的確に上手に薬を使うことにつながる力だと捉えています。
理由を理解する
なぜ腎機能・肝機能の低下した人に良くないのかを把握する
リスクを見積もる
医師の決断がどの程度のリスクを含むかを評価する
未来を予測する
どの程度、どのタイミングで症状が起こりやすいかを考える
確認を設計する
経過確認の適切な頻度とタイミングを決める
心配だから頻回に確認する、は本当に正しい?
たいぞーさんは、経過の確認にも「なぜ」の理解が欠かせないと話します。リスクが1か月後の確認で評価できるのか、1週間後や2週間後の確認が必要なのかは、その薬が体にどう影響するかによって変わるからです。
「なぜ」がわかっていないと、確認は次の処方箋を持ってきたときだけにとどまるか、反対に心配だから頻回に確認しよう、となってしまいかねない、とたいぞーさんは指摘します。
頻回の確認には、薬剤師の労力がかかるだけでなく、電話などで確認される患者さんの負担もあります。患者さんにとってはありがたいかもしれませんが、必要のない頻度で関わることには別の問題があるといいます。
たいぞーさんによれば、薬剤師が患者さんに関われる時間は有限です。必要以上に1人に時間をかけると、別の患者さんにしっかり関わるべき時間が失われているかもしれません。
医療全体で見た時にですね、安心というのを手に入れるために、多くの患者さんの安全が損なわれているということになってしまうと、正直、医療を提供する側としては本末転倒だと思います。
「なぜ」がわからず、次の処方時だけ確認するか、心配で頻回に確認する
薬が体にどう影響するかを踏まえ、1週間後・2週間後・1か月後など適切なタイミングで確認する
安心と安全を両立させるリスク評価とは
たいぞーさんは、安心と安全の両方を適度なところで担保するために、薬剤師が患者さんのリスク評価を行うべきだと話します。その評価を支えるのが、薬がなぜそうなるのかという「なぜ」の部分、つまり「薬学で患者を語る」ことの実践です。
「薬学で患者を語る」ことは、目の前の患者さんの薬物治療を評価するだけではない、とたいぞーさんは言います。未来に向けて、安全に薬物治療を続けるためにどんな支援が必要か、何を確認してリスクを評価するかを考えることでもあります。
たいぞーさんはこれを、患者さんが薬と上手に付き合えるようにサポートするための、有用な介入の方法になるのではないかと考えています。現場で働きながら強く感じていることだといいます。
薬学の専門性は、どこで患者に生きるのか
たいぞーさんは、薬学の専門知識を「薬が患者の体でどう働くか」と「体に入った薬がどの程度の時間をかけて働き、働きを失っていくか」の2つに分けて語ります。
体の中での薬の働きと動きがわかることで、薬による体の変化を読み解ける、とたいぞーさんは話します。これこそが、「薬学で患者を語る」こと、つまり薬学の専門性を患者に生かすことではないか、というのです。
薬剤師は、そのための専門知識を大学で6年間学んで現場に出ています。たいぞーさんは、この専門知識を生かすことが、患者さんの薬物治療への貢献にとどまらないと語ります。
薬剤師としてこの患者さんに関われてよかった。そして患者さんからすると、薬剤師のその薬学の専門知識を持ったあなたが私に関わってくれてよかった、そんな仕事につながっていく
たいぞーさんは、そうした関わりが仕事のやりがいや面白さを見出すきっかけになると考えています。薬の「なぜ」を考える仕事のあり方について、リスナー自身にも考えてほしいと呼びかけています。
姫路の講演会で語られる実践とキャリアの課題
放送の終盤では、2月14日に兵庫県姫路市で開く講演会が告知されます。たいぞーさんが共同で主催する講演会で、場所や詳細はこれから詰めていく段階だと話されています。
講演会では、「薬学で患者を語る」ことを現場でどう実践しているか、患者さんにどんな価値を届けているか、どこにやりがいや面白さを見出しているかを具体的に伝える予定です。
さらにたいぞーさんは、薬剤師のキャリアも大きな課題だと感じているといいます。専門性を極めて患者さんに向き合う薬剤師が増えてほしい、自分もそうした働き方をしたい、という思いがあると語ります。
マネジメント職だけがキャリアアップなのか?
たいぞーさんによると、薬剤師のキャリアプランは、キャリアアップするほどマネジメント職に就く道筋が示されていることが多いといいます。ただし、たいぞーさんはそれを良い悪いの話としてではなく、一般企業でもごく一般的なことだと捉えています。
ビジネスではヒト・モノ・カネをどう動かすかが大きな要素を占めるため、賃金などの外的報酬 ── 金銭や昇進など、外から与えられる報酬のこと。やりがいや面白さなど、活動そのものから得られる内的な報酬と対比して使われますを増やすには、組織を動かす立場になっていく。たいぞーさんは、これをごく自然な流れだと話します。
その一方で、マネジメントの役割に就くと、プロフェッショナルとして1人の患者さんに向き合う時間は徐々に少なくなります。極めてきた能力を生かす機会が失われることを、たいぞーさんは「非常にもったいない」と表現します。
社会資源としての損失も大きいですし、何より一人の患者さんをきっちり向き合って救えたかもしれない患者さんが救えなくなってしまうというのは、非常に医療者としても(もったいない)。
組織を動かす立場で外的報酬が増える一方、患者さん一人ひとりに向き合う時間は減っていく
研鑽を積んで患者さんを救い、その働きが評価されて賃金も上がるキャリアプランを描きたい
専門性が報われる仕組みはどう作れるのか
たいぞーさんが目指すのは、薬剤師がプロフェッショナルとして研鑽を積み、患者さん一人ひとりを全力で救うことが評価され、やりがいや面白さだけでなく賃金としても報われるキャリアプランです。
ただし、たいぞーさんは、これを「会社にお金を出してほしい」という話ではないと強調します。経済の仕組みを捉えたうえで、そうした人を認め賃金が上がる会社の仕組みを考えないと、永続的には実践できないといいます。
ただの温情でそういった外的な報酬をつけるというのは、正直言うとその瞬間はできるかもしれないですけども、なかなか継続的にやっていて、他の会社が真似したりということが難しい
たいぞーさんは今も、その方法を考えながら現場で働いているといいます。専門性を極めるキャリアプランを作る一手になる視点や考え方を、講演会の場で議論しながら話したいとしています。
講演会について決まっているのは、2月14日に兵庫県姫路市で開くことだけで、詳細は今後音声配信で伝える予定です。関心のある人には、今のうちから予定の確保をしてほしいと呼びかけています。
まとめ
この回でたいぞーさんが語ったのは、添付文書の記載を判断材料にとどめず、その記載の「なぜ」を理解することが、薬剤師の実践を大きく変えるということでした。リスクの程度や起こるタイミングを予測できれば、適切な確認の頻度が決まり、安心と安全を両立させる関わりにつながります。その専門性を生かし続けられるキャリアの仕組みづくりも、たいぞーさんの今後の課題として示されました。
- 多くの薬は「使える・使えない」の二択ではなく、「使えるかな、難しいかな」と考える必要がある
- 記載の理由がわかると、リスクの程度や症状が起こるタイミングを予測し、経過確認を設計できる
- 不必要に頻回な確認は、他の患者さんの安全を損なう可能性もある
- 薬が体でどう働き、どう消えていくかを読み解くことが、薬学の専門性を患者に生かすことにつながる
- 専門性を極める薬剤師が賃金でも報われる仕組みを、温情ではなく持続可能な形で考える必要がある


