美容室で「いい人だけど、また違う人を」と感じた理由
番組「薬学で患者を語る10分講座」のこの回で、薬剤師のたいぞーさんは、散髪屋さんの話をしながら薬剤師の仕事を考えると切り出します。
たいぞーさん自身は散髪にあまりこだわりがありません。近所のおじいさんが営む理髪店で、定期的にバサッと切ってもらっているそうです。
僕はですね、正直あんまり散髪することにこだわりはなくてですね。
話のきっかけは、たいぞーさんの妻が先日美容室で髪を染めてもらったときの体験です。色味や染め方が、妻が思っていた感じにはならなかったといいます。
ただ、妻を担当したスタッフはとても人柄が良く、話しやすい人だったそうです。それでも妻は、できればまた違う人を探したいと話していました。
対応してくださったスタッフの方はめちゃくちゃ人柄も良くて、話しやすくて、めっちゃいい人やったんですけど。
人柄は大事、でもその前に必要なものとは?
妻との会話から出てきたのは、美容師の人柄と技術の順番についての考えです。散髪やカラーでは長い時間スタッフと接するので、人柄も担当を選ぶうえで大事な要素になります。
それでも、まずは髪をきちんと切り揃え、思った通りの色に染める技術が担保されていることが先にある、というのが妻とたいぞーさんの話の結論でした。人柄が大事になるのは、技術があってこその次の段階だという整理です。
たいぞーさんは、この美容師の話が薬剤師にも通じると感じます。そこで挙げるのが、患者が担当の薬剤師を選ぶかかりつけ薬剤師 ── 患者が特定の薬剤師を選び、服薬状況の把握や相談対応を継続的に担ってもらう制度。患者の同意を得て薬局が算定する仕組みになっていますの制度です。
たいぞーさんが問題にするのは、薬剤師から「かかりつけにしませんか」と勧められた人ではありません。自分から能動的に「この人をぜひかかりつけにしたい」と選んでいる人は、世の中にそれほど多くないのではないか、とたいぞーさんは考えています。
薬の品質が同じなら、薬剤師は人柄で選ばれる?
患者がこの薬剤師でなければと思って薬局を選ばない理由を、たいぞーさんは美容師の腕の話と照らし合わせて考えます。薬剤師が渡す薬は、製薬会社が厳重な試験のもとで作ったものです。
薬剤師のAさんが渡しても、Bさんが渡しても、薬というものの品質には大きく差はないわけなんです。
誰から薬をもらっても同じ品質なら、どうせなら人柄のいい人からもらうほうが気持ちいい。たいぞーさんは、薬剤師の選択基準が人柄になっているのは、薬剤師のサービスの質が均一に担保されているという前提があるからではないかと見ています。
ただ、薬の品質が安定しているから薬剤師のサービスの質も一定だと考えるのは、最低ラインを満たすという意味では正しくても、それで十分かは別だとたいぞーさんは言います。
薬学の専門性で患者を見られる薬剤師は、今の薬がよく効いているか、飲んでいる薬が体調の問題を起こしていないか、薬物治療が順調かを見極めながら伴走できます。その能力の有無で、長い目で見た健康状態は大きく変わってくるのではないか、というのがたいぞーさんの考えです。
専門的な能力が高い薬剤師と、能力はそれほどでもないが人柄がいい薬剤師の違いは、次のように整理できます。
薬が効いているか、体調の問題を薬が起こしていないかを見極めながら伴走する
気持ちよく薬を受け取れるが、長い目で見た健康維持には差が出る可能性がある
そのため、薬剤師を人柄だけで選ぶことは、健康上のリスクをはらんだ選択になりかねないとたいぞーさんは話しています。
薬剤師の腕前は、どうすれば外から見える?
腕のいい薬剤師を選べればいいものの、たいぞーさんは、薬剤師の人柄以外の専門的な能力を測る指標がないことが厄介だと指摘します。薬剤師が頭の中でいろいろ考えていても、サービスを受ける患者からはそれが見えません。
例えばドラゴンボールのスカウターみたいな感じで、数字として何か示されるようなものがあればですね、薬剤師を選んでいきやすいと思うんですけど、実質見た目ではわからない。
では専門資格の有無で見極められるかというと、たいぞーさんはそれも十分ではないと考えています。資格を持っていても、患者を見る臨床的な能力が高いとは限らず、知識が豊富なだけにとどまっている可能性もゼロではないからです。
たいぞーさんが目指すのは、専門的な能力を持った薬剤師が患者に健康という価値を届け、きちんと評価される世の中です。そのためには、優秀な専門家であることを何らかの形で示せるものが必要だと話しています。
人柄で選ばれ続けると、薬剤師は自分の首を絞める?
薬剤師の専門的な能力をどう測るかについて、たいぞーさんは「自分の中に明確な答えが残念ながらない」と率直に認め、それを大きな課題として挙げています。
一方で、能力が見える化できれば、次のような好循環が生まれるのではないかとたいぞーさんは考えています。
能力の見える化
薬剤師の専門的な能力が外から示せるようになる
専門性を極める
薬剤師が専門的な能力をどんどん磨いていく
患者から選ばれる
能力を極めた薬剤師が患者に選ばれ、健康を届ける
能力が評価される
薬剤師の専門的な能力がきちんと評価され、仕事が発展していく
たいぞーさんは、薬剤師が人柄で選ばれること自体は悪くないとしています。ただ、それは薬剤師の能力が一定のラインで打ち止めになっていることが前提になっているといいます。
その前提のまま能力を見極めたり、患者に選択肢を示したりするのは、自分で自分の首を絞める道に進むことにもなりかねない、とたいぞーさんは危惧しています。
何をもって患者さんに選んでもらいたいのか、そういったことについて、ぜひ皆さんの中でも考えてもらえたらなということを思います。
12月のWEBセミナーと2月の姫路での講演会
放送の最後には2つの告知があります。1つ目は、12月8日19時30分からのWEBセミナーで、たいぞーさんが講師として登壇します。
このWEBセミナーでは、患者の体で起こっている「なぜ」を薬学で読み解く薬学的アセスメント ── 患者の症状や検査値、服薬状況などを薬学の知識で分析し、薬物治療の効果や副作用の可能性を評価することの話を90分間行う予定です。臨床現場での実践、患者に届けている価値、実践に必要な視点や考え方を伝えるといいます。
2つ目は、翌年2月14日の日曜日に兵庫県姫路市でたいぞーさんが主催する講演会です。放送時点では会場の確保を進めているところで、会場が決まり次第、時間と募集の詳細を決めるとしています。
姫路の講演会では、薬剤師が専門家として能力を極め、やりがいという内的な報酬を得ながら、社会や会社で評価されて賃金にも結びつくキャリアの道筋を考えます。マネジメント職に就く一般的な道だけでなく、プロとして生きる道についても参加者と一緒に考えたいと話しています。
たいぞーさんは、専門的な力を持った薬剤師が働く薬局を作りたい経営者にも、何かヒントを届けられるのではないかと呼びかけています。
まとめ
美容室での妻の体験から、たいぞーさんは、人柄の前に専門的な技術やサービスの質が担保されている必要があると考え、薬剤師の専門性をどう示すかという課題を投げかけました。
- 美容師と同じく、薬剤師も人柄の前に専門的な能力が担保されていることが大切だと考えられます
- 薬の品質が同じだという前提が、薬剤師を人柄で選ぶ基準につながっているとたいぞーさんは見ています
- 専門性の高い薬剤師が伴走するかどうかで、長い目で見た健康状態は変わりうると話されています
- 薬剤師の能力を測る指標がなく、専門資格も十分な判断基準にはなっていないことが課題です
- 能力の見える化が進めば、薬剤師が専門性を磨き、評価される好循環が生まれるかもしれません


