薬剤師は人の体に触れてはいけない?
たいぞーさんは先週末、兵庫県姫路市で日本在宅薬学会のバイタルサイン ── 血圧、脈拍、体温、呼吸数など、生命の状態を示す基本的な指標。患者の体調変化を客観的に把握するために測定されます講習会を開催しました。
この講習会は5時間のセミナーで、血圧計や聴診器の扱い方といった手技だけでなく、薬剤師がそもそも何のためにバイタルサインをとるのか、とった情報を薬学的な視点でどう生かすのかまで扱う内容です。
講習会では、薬剤師がバイタルサインをとることに関わる法律の話をする場面もあります。たいぞーさんによると、薬剤師はかつて「人の体には触ったらいけない職種だ」と言われていた時期があり、このことは業界ではよく知られているそうです。
(今の学生には)人の体に薬剤師が触れたらあかんって何のことですかみたいなことにもなるような話にもだんだんなってきているのかなと思うのですが、僕がまだ学生の頃なんかは、まことしやかにそういったことが言われていたような時代でして。
薬学部の学生は今では授業でフィジカルアセスメント ── 問診や視診、触診、聴診などを通じて、患者の身体の状態を評価すること。薬剤師が薬の効果や副作用を判断する手がかりにもなりますを学ぶため、「触ってはいけない」という話自体がなじみのないものになりつつあります。
たいぞーさんの学生時代は、薬剤師は人の体に触ってはいけないとまことしやかに言われていた
今の薬学生はカリキュラムでバイタルサインやフィジカルアセスメントを学び、触れてはいけない理由がわからない
たいぞーさんは、いろいろな法令を見ても体に触ってはいけないということはなかったと話します。そのうえで、医療職として法令を理解し、自分たちにできること・できないことを把握しておくことは非常に大切だと、講習会で話しながら改めて感じたそうです。
看護師やリハビリ職を支える「医師の指示」という基軸
法律の話をするなかで、たいぞーさんの頭に浮かんだのは、薬剤師は他の医療職と少し違う立場で医療現場にいる職種だった、ということでした。
医療の現場では、病気の診断と薬物治療を行う医師が中心的な存在です。その医師の診療の補助をする立場として看護師がいて、医師の指示の下で医療行為をサポートすることが保健師助産師看護師法 ── 保健師・助産師・看護師の資格や業務を定めた法律。看護師の業務として「療養上の世話」と「診療の補助」が規定されていますに明記されています。
たいぞーさんの整理では、看護師は、医師の業務のうち専門的な学習をした人なら実施できる範囲の仕事を、医師の指示の下で担い、医療全体の質を上げる存在です。
理学療法士や作業療法士などの職種も、保健師助産師看護師法から派生した職種だと言われているそうです。これらの職種では、医師の指示があるかないかで、法律上の業務をやってよいか、勝手にやってはいけないかが分かれます。
(保健師助産師看護師法が)中心になって派生して広がっていっている職種は、すべてそこが基軸になってくるというふうなことを、僕も勉強会で聞いたことがあります。
薬剤師法が定める「独立した専門職」とは何か
では薬剤師はどうかというと、薬剤師の役割は薬剤師法 ── 薬剤師の資格や任務、調剤などの業務を定めた法律。保健師助産師看護師法とは別の独立した法律ですに規定されています。たいぞーさんによると、薬剤師は医師とは違う、独立した専門職として規定された職種です。
そのため、薬剤師の薬学的な介入は医師の仕事の補助という位置づけではありません。薬学という医師とは異なる専門知識を学んだ医療職として、自分の考えと判断の下で患者さんに介入していくことができます。
医師の指示がなければ動けないというような職種ではないというところは、一つ他の職種と違った専門職という立場にもなるのかなというふうに思います。
たいぞーさんは、医師と連携を取ることは患者さんにより良い医療を届けるうえでもちろん大事だと付け加えています。
一方で、薬剤師は診療の補助行為ができる職種ではありません。そのため、医師の指示があっても、看護師が行う注射などの行為は、現在は薬剤師には認められていません。
| 項目 | 看護師・リハビリ職など | 薬剤師 |
|---|---|---|
| 根拠となる法律 | 保健師助産師看護師法とその派生 | 薬剤師法 |
| 位置づけ | 医師の診療の補助 | 独立した専門職 |
| 医師の指示 | 業務を行えるかを分ける重要な要素 | 介入に必ずしも必要ではない |
| 注射などの診療補助行為 | 医師の指示の下で実施できる | 医師の指示があっても認められていない |
たいぞーさんは、どちらが良い悪いではなく、それぞれの役割分担だと話します。ただ、薬剤師の中には、医師の指示がなければ患者への介入が認められないと勘違いしている人も一部いると感じているそうです。
薬剤師は独立した職種だからこそ、自分たちで考え、患者さんを見立て、違う専門知識を持つ者として医師と共に薬物治療を最適にしていけます。そう捉えると、患者さんへの関わりを肩の力を抜いて自由度高く行えるようになるのではないか、というのがたいぞーさんの考えです。
患者さんが健康に過ごせるために、僕たちが薬学という専門知識を使って一体何ができるのかということを考えてみると、薬剤師としての関わり方っていうのが、そこから見えてくるものがあるんではないかな。
「医師の指示がいる」のは法律か、制度か
たいぞーさんは最後に補足として、介入に医師の指示がいらないのは法律上の役割分担の話であり、保険調剤 ── 公的医療保険の仕組みの中で行う調剤業務。行為ごとに報酬が定められ、算定には一定の要件があります業務における行為は別だと説明します。
保険調剤業務の中には、薬剤師が医師の指示に基づいて業務を行ったときに、患者さんから報酬をいただける立て付けになっているものがいくつもあります。こうした行為は、きちんと対価を得て行うために医師の指示が必要になります。
「実質、医師の指示はいるのでは」と思われるかもしれませんが、たいぞーさんはそれを法律上の話と制度上の話との違いだと整理しています。
薬剤師は独立した専門職で、患者さんへの介入に医師の指示は必ずしも必要ない
一部の保険調剤業務では、対価を得るために医師の指示が必要になる
制度の中で医師の指示が何のために規定されているのかを考えれば、「医師の指示がないからできない」と縮こまらずに患者さんに関わっていける、とたいぞーさんは話します。制度や仕組み、法律を踏まえて、薬剤師として患者さんにできることは何かを考えてほしいという呼びかけで本編を締めくくりました。
姫路での講演会と、薬学的アセスメントのWEBセミナー
放送の最後には告知が2つありました。1つ目は、たいぞーさんが2月14日に兵庫県姫路市で主催する講演会です。
この講演会では、薬剤師の専門性を生かして現場で働いてきた経験から、患者さんに関わる仕事の面白さややりがい、患者さんに届けた価値を話す予定です。
あわせて扱うのが、薬剤師のキャリアの課題です。たいぞーさんは、医療現場ではマネジメント職へ進むキャリアプランが設計されていることが多いと感じています。その一方で、薬学のプロとして一人一人の患者さんを救う能力を磨く働き方が、会社からも評価され、賃金や会社の利益にもつながる仕組みを作れないか模索しているそうです。
内的な報酬、やりがいや面白さだけではなくて、外的な報酬にもきちんとつながる薬剤師の働き方やキャリアプランというのを組み立てていくためにはどうしたらいいんだろうか。
姫路の講演会の場所や時間は調整中で、決まり次第この放送で案内するとのことです。
2つ目は、ファーマシストキャンパスという団体のWEB講演で、エピソード説明によると12月8日の開催です。テーマは「患者さんのなぜを薬学で読み解く」で、19時30分から90分間、実例を交えて話す予定です。
このWEBセミナーでは、患者さんの状態の聞き取り方や、聞き取った情報に検査値や生活背景の情報を加えて薬学的な視点で読み解く方法を扱います。放送を聞いていても臨床現場での実践方法がわからない人にとって、専門知識の活かし方のヒントになるのではないかと、たいぞーさんは話しています。
まとめ
バイタルサイン講習会で法律の話をしたことをきっかけに、たいぞーさんは薬剤師が医師の診療の補助ではなく独立した専門職であることを改めて整理しました。法律と保険制度の違いを理解すれば、医師の指示がないことを理由に縮こまらず、薬学の専門知識で患者さんに関われるというメッセージです。
- 看護師やリハビリ職は保健師助産師看護師法を基軸とし、医師の指示が業務の可否を分ける
- 薬剤師は薬剤師法に基づく独立した専門職で、患者さんへの介入に医師の指示は必ずしも必要ない
- 一方で薬剤師は診療の補助行為ができず、医師の指示があっても注射などは認められていない
- 保険調剤で医師の指示が必要な行為は「できない行為」ではなく「対価を得られない行為」
- 法律と制度を踏まえ、薬学で患者さんに何ができるかを考えることが関わり方を広げる


