資本性ローンを3つの言葉で言うと?
今回のテーマは資本性ローンです。若林さんは資本性ローンを
1️⃣ 期限一括償還
2️⃣ 利益変動型金利
3️⃣ みなし自己資本
の3つで説明できると切り出しました。
1つ目の期限一括償還について、若林さんはまず通常の融資と比べます。日本政策金融公庫の国民生活事業の創業融資は返済期間が決まっていて、その期間中は毎月返済していくのが一般的です。
資本性ローンの場合は、5年1ヶ月、7年1ヶ月、10年といった期限を決め、その期限に元金を一括で返します。それまでの間は月々の元金返済がなく、金利だけを支払う仕組みです。
その間は月々の返済はないんですよね。その間は金利だけを支払うということになってます。
2つ目の利益変動型金利は、支払う金利が会社の利益によって変わる仕組みです。経常利益と減価償却費の合計が目安になり、マイナスなら金利は0.5%と非常に低く、黒字なら年数などに応じて最大4%弱に設定されているといいます。
若林さんは、この金利水準は2026年3月時点のもので、4月以降は変わるかもしれないと補足しています。
3つ目のみなし自己資本は、資本性ローンの名前の由来にあたる特徴です。資本性ローンは借入なので、貸借対照表 ── 企業の資産・負債・純資産の状態を一覧にした財務諸表。BSとも呼ばれ、右側に負債と純資産、左側に資産が並びます上は長期借入金として負債に計上されます。
ところが金融機関が格付けや自己査定をする際には、資本性ローンを自己資本とみなすことができます。若林さんの例では、5,000万円の資本性ローンは本来5,000万円の借入ですが、エクイティファイナンスをしたのと同等に見てもいいということです。
ただし若林さんによれば、みなせる額は償却されて減っていくといいます。それでも基本的には自己資本として扱えるのが、資本性ローンの大きな特徴です。
| 特徴 | 中身 | 通常の融資との違い |
|---|---|---|
| 期限一括償還 | 5年1ヶ月・7年1ヶ月・10年などの期限に元金を一括返済 | 毎月の元金返済がない |
| 利益変動型金利 | 赤字なら0.5%、黒字なら最大4%弱(2026年3月時点) | 赤字のほうが金利が低い |
| みなし自己資本 | 金融機関の格付け・自己査定で資本とみなせる | 負債なのに資本として評価されうる |
なぜスタートアップに有利で、次の融資の呼び水になるのか
若林さんは、3つの特徴がそのままスタートアップにとってのメリットになると話します。期限一括償還なので期間中に元金が減らず、キャッシュアウトしないため、資本に近い感覚で資金を使えます。
利益変動型金利も、一般的な融資の考え方とは逆です。通常は金融機関が取るリスクに応じて金利が決まり、リスクが高いほど金利は上がります。資本性ローンでは、リスクが高い赤字の状態で金利が低くなり、黒字でリスクが下がると金利が上がります。
一般的な金融機関さんのリスク・リターンの考え方と全く逆。
黒字になった場合の最大4%弱という金利について、若林さんは金利が上がってきている局面でもあり、メリットと比べれば「そんなにバカ高いって感覚もないのかな」(むしろ低いかも)という見方を示しています。
さらに、みなし自己資本の効果で、後に続く金融機関が資本性ローンを自己資本として見ることができます。その分だけ財務状況が改善して見え、次の融資を受けやすくなるため、ファイナンスミックスしやすくなるといいます。
期限一括償還
期間中は元金が減らず、キャッシュアウトしない
みなし自己資本
後続の金融機関が自己資本として見ることができる
財務の見え方が改善
財務状況が改善したように評価されうる
次の融資を誘発
他のファイナンスの呼び水になり、ファイナンスミックスしやすくなる
ただし、どの銀行も必ず資本性ローンを自己資本とみなしてくれるわけではありません。遠藤さんが何で決まるのかを尋ねると、若林さんは各金融機関の「方針」だと答えています。
資本性ローンを出しているのはどこか?
遠藤さんが資本性ローンの供給元を尋ねると、若林さんはスタートアップにとってのメジャーどころとして日本政策金融公庫と答えました。国民生活事業の資本性ローンは7,200万円、中小企業事業の資本性ローンは1社あたり最大15億円となっています。
若林さんは、国民生活事業と中小企業事業を合わせた日本政策金融公庫が、資本性ローンの第一層級にあたると位置づけています。
公庫以外の民間金融機関にも、資本性ローンは一応あるといいます。国が定めた「資本性劣後ローン」と呼べる条件があり、それを満たせば自己資本とみなしてよいというルールがあります。
ただ、若林さんによれば、その条件は民間金融機関にとって厳しく、採算が合いにくい内容です。そのため、実際には政府系金融機関である公庫が政策的な意味で担っているのが現状だといいます。
裏を返せば、スタートアップにとっては非常にいい条件のものが、政府系金融機関たる公庫さんから受けれるっていうことでもあるので、チャンスとも言えます。
審査で歓迎されるのはどんな会社か
申し込み条件そのものは、公庫のページに掲載されていると若林さんは案内します。そのうえで、INQがスタートアップを支援する実務の中で見えてきた「歓迎条件」を挙げていきました。
若林さんは、資本性ローンは再生目的や中小企業でも使われる制度だと断ったうえで、今回はスタートアップに限った話だとしています。
スタートアップの資本性ローンの歓迎条件として、若林さんはまずVCからの調達を強い要素に挙げました。次に、民間金融機関やVCなど他のプレーヤーとの協調支援です。公庫が他の金融プレーヤーの呼び水となるポジションを取っているため、協調支援はプラス条件になるといいます。
さらに、革新性や社会貢献性、インパクトがある事業は応援したくなる傾向があり、大手企業との取引が始まっていることもポジティブな要因になると話しています。
財務面では、まとまった成長資金を供給するローンである以上、売上が成長中で、PMF ── プロダクト・マーケット・フィットの略。製品やサービスが市場のニーズにしっかり合致し、顧客に受け入れられている状態を指しますに近い「匂い」がするところまで来ているとよいといいます。規模感では、国民生活事業の資本性ローンなら月商500万円以上がおそらく目安で、ビジネスモデルによるとも付け加えています。
資本性ローンを受ける会社は先行投資フェーズで赤字のことがほとんどですが、売上が伸び、ブレイクイーブン ── 損益分岐点のこと。売上と費用が等しくなり、赤字から黒字へ切り替わる地点を指しますに向かっている蓋然性があることが共通点だといいます。
債務超過でも資本性ローンが出たケースはあるといいます。資本性ローンを資本とみなせば債務超過が解消できる場合や、売上が伸びて黒字が見え、利益の積み上げで遠くない将来に債務超過の解消が見込める場合です。
もう1つの条件はキャッシュ残高です。資本性ローンは通常の公庫の融資と違って審査に時間がかかるため、2ヶ月でキャッシュアウトするような状態には向かず、エクイティ調達の直後がやはり良いと若林さんは話しています。
赤字の期間をどう乗り切る前提で貸すのか?
遠藤さんは、資本性ローンは赤字のときに金利が低いので、赤字から黒字への切り替わりの時期に使うのが良さそうかと尋ねました。
若林さんの答えは、黒字化まで一定の期間がかかりそうな会社でも資本性ローンが通ったケースはある、というものです。その理由として、公庫側の「目線感」を説明しています。
赤字を掘っていく部分に関しては、そこはVCさんからの資金調達(や他の金融機関との協調支援)で乗り切ってくださいねと。
資本性ローンは、その後の運転資金的な部分をカバーするという考え方だと若林さんは見ています。先の一定期間の赤字は許容するものの、VCの資金や他の協調融資と一緒に乗り切っていこうという姿勢です。
遠藤さんはこの説明を受けて、VC調達済みや協調支援が歓迎条件に含まれる理由がここにつながっていると整理しました。
資本性ローンは「卒業コンサート」?
若林さんは、通常の融資なら黒字化している会社のほうが当然有利だが、資本性ローンは利益変動型金利だという点を思い出してほしいと話します。黒字化している会社では、資本性ローンの金利は高くなり、低金利の恩恵を受けられません。
そのため黒字の会社なら、公庫の通常の融資など金利の低いものを刻んで使い、返しては借りるを繰り返して、その時々の資金需要に応えたほうが、結果的に資本コストを低く抑えられるかもしれないといいます。
一方の資本性ローンは、期限まで元金の返済が進まないので借りっぱなしになります。遠藤さんが返済実績にならないということかと確認すると、若林さんは「なりにくい」と答え、公庫からの次の融資のハードルが上がってしまうと説明しました。
金利の低い融資を返しては借りるを繰り返し、資金需要に応えつつ返済実績も積む
元金返済が進まず借りっぱなしになり、公庫からの次の融資のハードルが上がる
そこで若林さんが勧めるのは、公庫から借りている既存の1,000万〜3,000万円などを、5,000万円の資本性ローンで全部借り換え、国民生活事業の枠を使い切って卒業する使い方です。その後は中小企業事業へステップアップしていくイメージです。
逆に、まだ国民生活事業の枠を残して黒字でコツコツ進めている会社や、エクイティ調達をするか決めていない会社、黒字でM&A路線を進む会社が資本性ローンを使うと、途中で返せないなどの不都合が出ます。その局面なら資本性ローンはやらないほうがいいと若林さんは話しています。
若林さんの結論は、国民生活事業を卒業するイメージがあるなら使うメリットがあるというものです。
審査にはどのくらい時間がかかるのか?
資本性ローンは通常の融資より審査が長いという話を受けて、遠藤さんが実際の期間を尋ねました。若林さんによれば、審査はおよそ3ヶ月、長い場合は5〜6ヶ月かかったケースも聞くといいます。
若林さんは、準備期間を含めて着金まで少なくとも4〜5ヶ月は見込んでおくと安心だとしています。
そのため、プレAやシリーズAのエクイティ調達のクローズや着金が見えたタイミングで資本性ローンの準備に動き出すのが、最適かもしれないといいます。エクイティが入っていれば、審査期間中の資金繰りの心配が少なくなるからです。
通常の融資と審査で見られるものはどう違うのか?
遠藤さんが通常の公庫の融資との審査の違いを尋ねると、若林さんは「結構明確に違う」と答えました。きちんと返してくれるかを見る点はローンである以上変わりませんが、スタートアップ向けの融資である点が審査に表れるといいます。
資本性ローンの審査では、革新性や社会貢献性、社会インパクトといった大義があると取り組みやすいといいます。また、VCが入っているかどうかも見られ、審査の中でVCへのリファレンスチェックとして実際にインタビューが行われるようです。
(VCへのインタビューの)中で、もらったフィードバックとかも審査の参考になるので、そういう意味でVC調達があるみたいなところっていうのが、通常のやはり融資の審査よりも、異なるポイントになってくるかなと思います。
赤字であっても、VCの資金を加味した期間で黒字化を達成できる蓋然性があるかを確認できればよい、という見方です。融資期間が10年なら、10年分の月次のPL ── 損益計算書のこと。一定期間の売上・費用・利益をまとめた財務諸表ですや資金繰りを事業計画として出すこともあるといいます。
きちんと返せるかを中心に、比較的短い時間軸で見る
返済能力に加えて、革新性・社会インパクト、VCのリファレンス、VC資金を加味した黒字化の蓋然性を長い時間軸で見る
資本性ローンの注意点は?
遠藤さんが資本性ローンのデメリットを尋ねると、若林さんは3つの注意点を挙げました。1つ目は取り扱いの窓口です。スタートアップは赤字や債務超過のこともあり、通常の視点では取り扱いにくい面があるため、専門部署が中心になっているといいます。
専門部署の例として、若林さんは以前この番組に出演した東京スタートアップサポートパートナーズの佐渡さんの名前を挙げています。支店での取り扱いは年間1〜2件程度と少なく、付き合いのある支店の担当者に相談しても着地まで進むのが難しい場合があるといいます。
2つ目は、先に触れた審査に時間がかかる点です。3つ目がモニタリングで、経常利益と減価償却費で金利が決まるため、融資後に業績を継続的に確認される仕組みになっています。
モニタリングの結果は、その後の格付けやコストに反映されます。計画に対して業績が大きく下振れると、ネガティブな評価が後の審査に影響する可能性があり、この点からも資本性ローンで卒業したほうがいいと若林さんは話しています。
遠藤さんが自社側のモニタリングの工数を気にすると、若林さんは面談はあるものの「激重」ではないと答えました。むしろ注意したいのは、計画の立て方だといいます。
すごくストレッチしたね、VC向けの計画そのままとかで、もし積極的に取ろうとして、本当にそれって達成できる目標でしたっけ?みたいなところっていうのは後々影響する。
若林さんは、創業融資にはこうしたモニタリングはないと対比しています。VC向けのストレッチした計画をそのまま出さないことが、資本性ローンを使ううえでの実務的なポイントといえそうです。
資本性ローンが向いているのはどんな会社か?
まとめとして、若林さんは資本性ローンはスタートアップ向けの制度だと捉えてよいと話しました。VC調達をしていなくても、ソリッドベンチャーのように一定の確度で急成長を志向する成長企業には合うといいます。
逆に、コツコツ成長していくスモールビジネスでは、資本性ローンを使うデメリットのほうが出てしまうかもしれないと若林さんは見ています。
今回は国民生活事業の資本性ローンを中心に話しましたが、スタートアップ向け・成長企業向けという読み方は中小企業事業でも同じだといいます。中小企業事業のほうは再生的な使い方が多いかもしれない、と若林さんは想像を交えて補足しています。
使うフェーズを挙げるなら、プレAからシリーズAで億単位のエクイティファイナンスをし、創業融資などの銀行融資も一通り使ったうえで、エクイティのタイミングに合わせてデットも活用したいスタートアップが向いている、というのが若林さんの見立てです。
まとめ
資本性ローンは、期限一括償還・利益変動型金利・みなし自己資本という特徴から、借入でありながら資本に近い役割を果たす制度です。一方で審査期間やモニタリングなどの注意点もあり、若林さんはプレA〜シリーズAで国民生活事業を「卒業」するタイミングでの活用を勧めています。
- 資本性ローンは期限一括償還・利益変動型金利・みなし自己資本の3つで説明でき、キャッシュを温存しながら次の融資の呼び水にもなる
- 主な供給元は日本政策金融公庫で、国民生活事業は7,200万円、中小企業事業は1社あたり最大15億円
- VC調達、協調支援、売上成長、黒字化の蓋然性、十分なキャッシュ残高が審査でプラスに働く
- 黒字でコツコツ進める会社には不向きで、国民生活事業の枠を使い切って卒業する「卒業コンサート」として使うのが向いている
- 審査は3ヶ月程度、着金まで4〜5ヶ月を見込み、融資後のモニタリングに備えて現実的な計画を出すことが大切




