ネット銀行が保証協会付融資を扱う意味とは?
この回のテーマは、PayPay銀行が信用保証協会の保証が付いた融資、いわゆる保証協会付融資の取り扱いを始めたというニュースです。若林さんはX(旧Twitter)でこのリリースを紹介し、推測を交えて「大丈夫か」というトーンで投稿したところ、多くの反応があったといいます。
その投稿をきっかけに、若林さんはPayPay銀行の中の方に取材する機会を得ました。今回は、取材で聞いた話も踏まえて解説する回になっています。
いろいろ考察を加えてというか、推測をね、加えて、大丈夫かっていうトーンでですね、ポストしたところですね、実際にPayPay銀行さんの中の方に取材させていただく機会に恵まれまして。
遠藤さんの「そもそも保証協会付融資とは何か」という問いに、若林さんはまず仕組みから説明します。信用保証協会 ── 中小企業や小規模事業者が金融機関から融資を受ける際に公的な保証を行う機関。信用保証協会法に基づき設立されていますは、全国の都道府県と一部の政令指定都市にある組織です。
金融機関がスタートアップに融資し、そのスタートアップが返せなくなった場合、本来は貸し倒れになります。保証協会付融資では、そのときに保証協会が代わりに返済を肩代わりしてくれます。
保証協会付融資の仕組みは、金融機関、借り手、そして産業全体へと次のように効果が連鎖していくと若林さんは説明します。
保証協会が保証
借り手が返せなくなった場合、保証協会が代わりに肩代わりする
貸し倒れリスクが下がる
金融機関にとって、融資の回収リスクが小さくなる
貸しやすく、借りやすくなる
創業間もないベンチャーやスタートアップでも融資を受けやすくなる
産業の新陳代謝
新しい事業が生まれやすくなる
保証協会の保証が付かない融資は、対比的にプロパー融資と呼ばれます。保証協会付融資はこれまで、店舗を持つリアルな銀行や信用金庫、信用組合が主に扱ってきました。今回のPayPay銀行の取り組みは、ネット銀行として初めてのものだといいます。
PayPay銀行の売りは「オンライン完結」
PayPay銀行の保証協会付融資が一般的なものとどう違うのかについて、若林さんは「オンラインで完結できること」が売りだと話します。PayPay銀行はネット銀行で、基本的に店舗を持たないからです。
ただし、オンライン完結とされているのは、あくまで保証協会への申し込みの部分です。全プロセスが必ずしもオンラインで終わるわけではない、と若林さんは前置きしています。
従来の保証協会付融資では、銀行の窓口の担当者に会いに行き、書面の申込書を書いたり、Excelで作った資料を提出したりしていました。少なくとも金融機関とのオフラインの面談は必ず発生していたといいます。
コロナ以降は、リアル銀行でもZoomなどの面談で、対面なしに申し込めるケースも出てきています。それでも今回が画期的なのは、申し込みのフォーマット自体がオンライン専用になっている点だと若林さんは見ています。
具体的には、フィンテック企業のクレジットエンジンが開発したレンディングプラットフォーム「Cローン保証協会」をPayPay銀行が活用し、デジタルで処理できる仕組みになっています。
申し込みのフォーマット自体がもうオンライン完結で、それ専用のものを(PayPay銀行が)活用してデジタル処理ができるというところが非常に画期的なところだということになりますね。
事業者が申し込む流れは、まずPayPay銀行に申し込み、そこで提出した情報がオンラインのまま保証協会へ伝わっていく形です。
PayPay銀行の保証協会付融資は、まず東京都のみでスタートしています。東京都をパイロットとして、ほかの地域での取り扱いも目指しているとのことです。遠藤さんの確認どおり、現時点では都内に登記を持つ事業者が対象になります。
ジャパンネット銀行から事業性融資へ、PayPay銀行の歩み
遠藤さんに「PayPay銀行とはどんな銀行か」と聞かれ、若林さんは前身の名前から紹介します。PayPay銀行はもともとジャパンネット銀行という名称で、PayPayが登場したあと、2021年ごろにPayPay銀行へ名称を変更したといいます。
弊社はもう2018年からジャパンネット銀行使ってたんで、いまだにジャパンネット銀行って書いてあるカード使ってるんですけど。
PayPay銀行は、Zホールディングス、LINEヤフーグループやヤフーが株主になっているインターネット専業銀行です。店舗がない分、手数料が安かったり、PayPayとの連携が強かったりする点が特徴だと若林さんは話します。
PayPay銀行の規模について、若林さんは数字を挙げています。
事業向けのサービスについても、PayPay銀行はもともとUI・UXが良く使いやすかったと若林さんは評価します。freeeやマネーフォワードといったクラウド会計ソフトとの相性も良く、INQ自身も使ってきたそうです。
さらにPayPay銀行には、VISAデビットの翌月払いの仕組みや、インターネットから簡単に申し込めるビジネスローンもありました。今回はそこから一歩進み、プロパー融資に加えて、その手前のビジネスローンや保証協会付融資にも対応していく、事業性融資 ── 企業の事業の将来性や収益力を評価して行う融資。担保や保証に頼りすぎず、事業そのものを見て貸すという考え方を指すことが多い言葉ですへの本格的な取り組みだと若林さんは位置づけています。
事業向けの取り組みの拡張性をとても感じますね。
リリース時点で想定した3つのデメリット
PayPay銀行の保証協会付融資のメリットとデメリットについて、若林さんはまず、リリースが出た段階で自分が考えていたことを話し、そのあとで取材結果を伝える順番をとります。
若林さんが考えたメリットは、やはりオンライン完結です。UI・UXが良いPayPay銀行なら、入力などもしやすいだろうと考えていました。
一方で、若林さんが想定したデメリットは3つありました。1つ目は、保証協会では面談があるケースも多く、完全オンラインにはならないのではないかという点です。
2つ目は、会社の状況や事情がきちんと保証協会に伝わるのかという点です。リアルな銀行では担当者が話を聞き、行内の審査を経て、保証協会へしっかりプッシュする形で申し込みが進みます。
まずそこ(銀行内)で一回フィルターが入るっていうところが、まだ創業間もないベンチャーとか中小企業ですと、そこが心強かったりするわけですけども、そこの機能ってどうなのかなみたいなところが一個ありました。
3つ目は、東京都内の区市町村による融資斡旋制度 ── 区市町村が事業者に金融機関を紹介し、利子や保証料の一部を負担するなどして融資を受けやすくする制度。自治体ごとに条件や内容が異なりますを使えるのかという点です。新宿区や渋谷区、立川市などの区市町村には、保証協会付融資の利子の一部を負担してくれる利子補給制度があり、事業者の利子負担を軽くできます。
取材でわかった、PayPay銀行の審査体制とは
PayPay銀行の中の人への取材で、若林さんの3つの懸念はどうだったのか。1つ目の「完全オンラインではないのでは」という懸念は、やはりその通りで、保証協会とはリアルな面談が発生しそうだといいます。
ただし、PayPay銀行内の手続きは、申し込み前の受付の段階も、保証協会の保証承諾が決まったあとの契約も、面談なくオンラインで完結できるそうです。保証協会付融資の申し込みと契約に関しては、オンライン完結は「偽りなし」というのが若林さんの結論です。
2つ目の「会社の事情が伝わるか」という懸念については、保証協会に送る前に、PayPay銀行内で事前審査や前さばきが行われていることがわかりました。
PayPay銀行の審査部門には、銀行や信用金庫といったリアル店舗のある金融機関出身で、保証協会付融資に慣れた人がいて、専任チームが置かれているといいます。スタートアップやエッセンシャル系の事業、国策関連の事業にも力を入れているようだと若林さんは話します。
場合によってはね、今まさに始まったばっかりっていうところで、精力的に取り扱ってらっしゃるぐらいなんではないかなという期待はありますね。
3つ目の区市町村の融資あっせん制度については、現時点では東京都の制度融資のみが対象で、区市町村の制度は未対応とのことです。若林さんは、これも時間の問題ではないかと見ています。
若林さんがリリース時点で抱いた懸念と、取材でわかった実態を並べると次のようになります。
| 論点 | リリース時点の懸念 | 取材でわかったこと |
|---|---|---|
| オンライン完結か | 保証協会との面談があり完全オンラインにはならないのでは | 保証協会との面談は発生しそう。銀行内の申し込みと契約はオンラインで完結 |
| 会社の事情は伝わるか | 銀行内のフィルターや後押しの機能が弱いのでは | 保証協会付融資に慣れた人がいる専任チームが事前審査・前さばきを行う |
| 区市町村の制度 | 利子補給のある融資斡旋制度は使えないのでは | 現時点では東京都の制度融資のみで、区市町村の制度は未対応 |
若林さんが最も大きいと考えていたデメリットは、2つ目の審査の前さばきの機能でした。経験豊富な人が実際にいてオンラインで事業を把握するのであれば、シンプルに効率化されただけで、心配はいらないのではないかというのが若林さんの見立てです。
若林さんは、東京都でうまくいけばPayPay銀行の保証協会付融資が全国に広がってほしいと期待を語っています。
創業期は公庫が先?変わらない事業計画の重要性
遠藤さんは、保証協会付融資を使いやすい創業間もない事業者は忙しいため、オンライン完結の効率性と専任の審査チームの両方を備えた体制は心強いと受け止めます。
ただし若林さんは、創業期の資金調達の基本は変わらないと付け加えます。まだ日本政策金融公庫 ── 政府が全額出資する金融機関。創業期の事業者や中小企業向けの融資を多く手がけ、実績の少ない創業者にとって最初の借入先になることが多い機関ですから融資を受けていない会社であれば、まず公庫からスタートしたほうがよいという考え方です。
やっぱり保証協会の審査ってどちらかというと公庫さんよりは厳しめになる傾向にあるかなというふうに肌感思うので、やっぱりまずは公庫さんからスタートした方がいいかな、みたいな、これは変わらないし。
さらに若林さんは、創業間もない会社は実績が浅く情報が足りない分を、事業計画でカバーしなければならないと強調します。事業計画をきちんと準備し、必要に応じて専門家に相談してから取り組むべきだという点も変わらないといいます。
PayPay銀行の保証協会付融資を使う場合は、PayPay銀行のオンライン申し込みのページから進みます。口座がなければ、まず口座開設から始めることになりそうだと若林さんは話しています。
遠藤さんは、まず東京都から始まった取り組みとして、今後の展開も含めて注目していきたいと締めくくりました。
まとめ
PayPay銀行の保証協会付融資は、保証協会との面談こそ残るものの、銀行内の申し込みと契約はオンラインで完結し、保証協会付融資に慣れた専任チームが事前審査を担う体制で始まっています。若林さんは、懸念していた前さばきの機能にも心配は少なく、利便性が際立つ取り組みだと評価しつつ、創業期の基本は変わらないと話しています。
- PayPay銀行はネット銀行として初めて保証協会付融資を扱い、まず東京都からスタートしている
- 保証協会との面談は発生しそうだが、PayPay銀行内の申し込みと契約はオンラインで完結する
- 保証協会付融資に慣れた専任チームが事前審査・前さばきを行い、会社の事情を把握したうえで申し込みを進める
- 区市町村の融資斡旋制度は現時点で未対応で、東京都の制度融資のみが対象
- 創業期はまず日本政策金融公庫から始め、事業計画をしっかり準備するという基本は変わらない




