信用保証協会のデータで何がわかる?
今回のテーマは「創業融資に積極的な金融機関を探せ」です。若林さんは、中小企業庁が公表している信用保証協会の保証実績データを使い、創業カテゴリーの件数や金額から、創業融資に強い金融機関を調べました。
信用保証協会は、各都道府県や政令指定都市に置かれている機関です。保証協会が保証を承諾し、そのうえで各金融機関が実行した融資の数字を見ることで、どの金融機関が創業期の企業に貸しているかがわかります。
遠藤さんの問いを受けて、若林さんは前提となる2つの融資の違いを説明しました。保証協会付き融資 ── 信用保証協会が公的な保証人となる融資。借り手が返済できなくなった場合に保証協会が金融機関へ代わりに返済するため、金融機関側のリスクが下がりますは、スタートアップが返せなくなった場合に保証協会が肩代わりしてくれる仕組みです。
金融機関としてはリスクが低くなる、貸しやすくなる、スタートアップとしては借りやすくなるという、そういうセーフティネット的なですね、仕組みになってますというものです。
一方のプロパー融資は、保証協会を通さずに、金融機関が直接リスクを取って貸し出す融資を指します。
信用保証協会が公的な保証人になる。返済できなくなった場合は保証協会が肩代わりするため、金融機関は貸しやすく、スタートアップは借りやすい
保証協会を通さず、金融機関が直接リスクを取って貸し出す
創業融資だけが伸び続けている理由
若林さんがまず確認したのは、創業融資全体が本当に出やすくなっているのかという点です。保証協会の保証承諾全体で見ると、件数はコロナ期をピークにその後あまり増えておらず、金額も上下しながら基本的には増えていないといいます。
ところが、保証承諾のうち創業だけに絞ると状況は変わります。創業の件数は年々増え、コロナ前の水準を明らかに上回り、2倍ぐらいになっているとのことです。金額もコロナ前を大きく超えて増え続けています。
保証承諾全体はコロナ期をピークに件数が伸びず、金額もほぼ横ばい
創業に限ると件数・金額とも年々増加し、件数はコロナ前の2倍ぐらいに。全体に占める構成比も上昇
若林さんは、令和4年度から6年度にかけてこの傾向が如実に表れていると指摘します。日本政策金融公庫のデータでも同じような推移になっているそうです。
遠藤さんも、データから見ても創業融資が出やすい環境だと捉えてよさそうだとまとめています。
3年連続トップ、多摩信用金庫の独走
具体的にどの金融機関が創業融資に積極的なのか。若林さんはランキングをスプレッドシートにまとめ、概要欄で公開しています。その中で突出しているのが、東京都立川市に本店を置く多摩信用金庫です。
多摩信用金庫は東京23区以外のエリアを主な営業エリアとする金融機関で、3年連続で創業融資件数トップです。しかも2位以下をほぼダブルスコアで引き離しているといいます。
大きく大きく引き離して首位を独走っていう感じでですね、まさに青山学院大学って感じですね。
ぶっちぎり。
直近の令和6年度の上位は次のとおりです。若林さんは、比較的都市部に軸足を持つ金融機関が上位に並んでいると読み解いています。
ランキングはその後も、千葉銀行、横浜信用金庫、西武信用金庫、西日本シティ銀行、さわやか信用金庫と続きます。
都市部が強い背景として、若林さんは信用金庫の制度を挙げます。信用金庫は法律上、貸せるエリアが決まっているため、そのエリア内の支店数や拠点数、事業者数が多いところほど当然強くなるという説明です。
埼玉県信用金庫はなぜ突然2位に現れたのか
遠藤さんが上位の顔ぶれは毎年同じなのかと尋ねると、若林さんは埼玉県信用金庫の例を挙げました。埼玉県信用金庫は過去2年度は上位30にも入っていなかったのに、令和6年度に突如2位に入ったといいます。
上位三十にも出てこなかったんですけど、突如として令和六年度にドンと出てきまして、二位。何があったんだろうと。
若林さんが調べたところ、埼玉県信用金庫は2018年ぐらいから独自に創業支援に力を入れていました。その1つが「チャレンジサポートローン」です。日本政策金融公庫が融資している場合に、公庫の金額を上限として埼玉県信用金庫がプロパーで融資する、協調融資 ── 複数の金融機関が同じ企業に対して足並みをそろえて融資すること。1つの機関が負うリスクを分散できます的な独自商品です。
さらに埼玉県信用金庫は、渋沢栄一 ── 明治から大正にかけて多数の企業設立に関わった実業家。埼玉県深谷市出身で、「日本資本主義の父」と呼ばれますの名を冠したスタートアップ支援施設「シブサワミックスシブサワ・ミックス」の関連ファンドへの出資やイベントにも関わってきました。若林さんは渋沢栄一を「日本のスタートアップの神、祖みたいな人」と表現しています。
2018年ごろ
独自に創業支援へ力を入れ始める
仕込み
チャレンジサポートローン、創業支援施設ネクトネクト、創業支援デスク、シブサワミックス関連ファンドへの出資やイベント
令和6年度
保証協会付き融資の創業件数で2位に
若林さんは、こうした打ち手を積み重ねた結果、保証協会付き融資の実績が一気に伸びたのではないかと見ています。シブサワミックスが本格稼働し始めたのは2025年度とのことで、今後は多摩信用金庫を追随する可能性もあるといい、埼玉県の起業家は要チェックだと話しています。
1件あたりの融資額で見えてくる別の顔ぶれ
遠藤さんは次に、件数や総額ではなく1件あたりの融資額という視点を尋ねました。若林さんによると、1件あたりの金額では多摩信用金庫は必ずしもトップではありません。
1件あたりの金額が大きいのは、城南信用金庫、横浜信用金庫、西武信用金庫、名古屋銀行などです。これらは件数も多いうえで、1件ごとにしっかり出す融資をしていると若林さんは評価します。
その分審査がしっかりされているっていうことも言えると思うので、いいところはしっかり借りれるかもしれないけど、ちょっとふわっとしてると難しいみたいな、そういう差にもなってるのかもしれないです。
令和4年度から6年度を通して見ると、埼玉県信用金庫を除けば上位はほぼ固定されています。若林さんは、それが各金融機関の特色になり、組織としての創業支援ノウハウも蓄積されているのだろうと推測しています。
多摩信用金庫、城南信用金庫、西武信用金庫、城北信用金庫といった都市部の信用金庫については、件数で起業の裾野を支えている印象が強いと話しています。
なぜ信金・地銀が強く、メガバンクは入らないのか
ランキング上位に信用金庫や地方銀行が並び、メガバンクが入っていない理由について、若林さんは信用保証協会の仕組みから説明します。保証協会は都道府県ごとに区切られ、東京では渋谷や品川のように支部エリアにも分かれています。
地域の信用金庫や地方銀行の支店は、エリアの保証協会支部と密接にやりとりしているといいます。若林さんが聞いたところでは、人材交流や飲み会、勉強会などもあり、コミュニケーションが取りやすい関係にあるそうです。
一方でメガバンクは全国に支店があり、異動もあります。プロパー融資で大きい金額から扱う支店も多く、一定以上の年商がないと取引しない法人営業部もあるため、保証協会付き融資をほとんど扱わないエリアもあるといいます。
エリアの保証協会支部と密接にやりとりし、保証協会付き融資の件数が多く慣れている
全国展開で異動もあり、大口のプロパー融資中心の支店も多く、保証協会付き融資を滅多に扱わないエリアもある
こうした違いから、若林さんは保証協会付き融資の件数では、地域に根差した信用金庫、信用組合、地方銀行が多くを担い、扱いにも慣れているのだろうと見ています。
最初の借入先はどう選ぶ?
ここまでを踏まえて、若林さんは創業融資での金融機関選びをまとめました。まず概要欄のスプレッドシートで、直近の年度で件数上位の金融機関を確認します。そのうえで、本店や登記地を管轄している上位の金融機関に最初にアプローチするのがよいといいます。
そこで少額からでも保証協会付き融資の実績を作れば、次の融資枠が広がる可能性があります。その後は事業拡大とともに、プロパー融資を見据えて移行していく流れです。
ただし、VCから出資を受けて短期間での急成長やEXITを目指すスタートアップは事情が異なります。信用金庫や信用組合は、プロパー融資で2桁億円規模や上場まで支え続けるとは限らないためです。
そうしたVCバックド ── ベンチャーキャピタル(VC)から出資を受けているスタートアップのこと。急成長と上場や売却などのEXITを前提に資金調達を進めるのが一般的ですのスタートアップについて、若林さんはVC・証券・信託などをグループに持つメガバンクに最初から行く選択肢を挙げます。メガバンクは総合採算でスタートアップを見ているため積極的になることがあり、上場後も付き合える相手になるからです。
VCバックドのスタートアップであれば、みずほ銀行さんはね、最近スタートアップすごい近づいてるんで、その辺を筆頭にですね、メガバンクでもいいかもしれないですと。
一方、VCから出資を受けるかまだわからない段階や、コツコツ売上を作っていく段階であれば、ランキング上位のうち自社の営業エリアをカバーする金融機関から始めるのがよいと若林さんは繰り返します。そうした金融機関は創業融資のノウハウを持ち、扱いにも慣れていることが件数から見えるためです。
初手は信金、メガは2回目以降でもいい
遠藤さんが、未来の選択肢を残す視点でランキングを使うことかと確かめると、若林さんは同意しました。ゆくゆくプロパー融資を目指すなら複数の金融機関と取引しているほうがよく、最初は信用金庫から入り、2回目、3回目で地方銀行やメガバンクが加わっても構わないといいます。
若林さんは、保証協会付き融資で創業期の資金調達を考えるなら、ランキング上位の金融機関を探すことがファーストアクションとしてよいと締めくくりました。
次回の後編では、創業という「初手の初手」の先に、プロパー融資も見据えて2の矢、3の矢となる金融機関をどう選ぶかを、同じくデータから見ていく予定です。
まとめ
信用保証協会の保証実績データからは、保証承諾全体が伸び悩む中で創業融資だけが伸び続けていることと、多摩信用金庫を筆頭に都市部の信用金庫が創業融資を支えていることが見えてきます。若林さんは、まず地元の上位金融機関で実績を作り、事業の性質に応じてメガバンクやプロパー融資へ広げていく順序を勧めています。
- 保証承諾全体は横ばいだが、創業の件数はコロナ前の2倍ぐらいに増え、国全体で創業を後押しする流れがある
- 多摩信用金庫は3年連続で創業融資件数トップ。埼玉県信用金庫は独自施策の積み重ねで令和6年度に2位へ急浮上した
- 信金・地銀は地域の保証協会と密接な関係にあり、保証協会付き融資に慣れている一方、メガバンクは上位に入っていない
- 創業期はランキング上位のうち本店・登記地を管轄する金融機関から始め、少額でも実績を作るのが初手になる
- VCバックドで急成長を目指すスタートアップは、最初からメガバンクを検討する選択肢もある




