帰国直前に訪ねたナイチンゲール博物館とケンブリッジ
レンさんとエマさんは、イギリスでの生活を終えて日本に帰国し、新しい家のセットアップをひとまず済ませたところです。最低限の準備は終わったものの、細かいところはまだ後回しになっているといいます。
レンさんはまず、ロンドンで体験したのにポッドキャストで話していなかった出来事を振り返ります。帰国直前、二人は王立研究所 ── ロンドンにある科学研究と科学普及のための機関。ファラデーらが研究を行い、一般向けの科学講演でも知られていますやナイチンゲール ── 19世紀イギリスの看護師。クリミア戦争での看護活動や、統計を使った衛生改革で近代看護の基礎を築いた人物ですの博物館を訪れました。
エマさんは、ナイチンゲール博物館ではナイチンゲールの一生がわかって面白かったと振り返ります。
さらにレンさんは一人でケンブリッジにも足を運んでいます。番組を聴いてくれていたケンブリッジ在住の人とのつながりがあり、街を案内してもらったそうです。
いや、いい街だったね、ケンブリッジはね。
一方でエマさんは、イギリスでの日々がだんだん「昔のこと」になってきたと話します。ヨーロッパの猛暑を伝えるニュースでロンドンの映像を見ても、「外国」ではなく「ロンドンね」と感じるような既視感があるといいます。
エマさんが面白がっていたのは、ロンドンの人たちが自分の街に向ける皮肉です。ヨーロッパ旅行からロンドンへ戻る飛行機では、パイロットが機内アナウンスでロンドンの天気を伝えたあと、こう言ったそうです。
あの「Welcome back to the reality」って言ってて。そういうなんかさ、皮肉みたいなのが、面白いなって思って。
日本に帰ってきて実感する「ありがたさ」
皮肉の話を受けて、レンさんは日本でも同じような言葉をかけられたと話します。研究の現場に戻ったとき、「現実にお帰り」と言われたそうです。
帰国してから1か月ちょっとが経ち、エマさんにとって日本での暮らしはもう日常になりました。それでも、日本のありがたさは今も感じ続けているといいます。
もう日常にはなったけど、でも今でも、あの、「日本ってありがたいな」って思いながら生きてる。
レンさんも同じ気持ちです。綺麗で、便利で、食べ物が美味しいという日本の良さを、これまで何度も口にしてきたうえで「本当にそうなんだよね」と噛みしめています。
新居でぶつかったハト問題とは?
二人の新居は、帰国後ではなくイギリスにいる間に決めたものです。レンさんによると、内見もそれほどちゃんとせず、場所を重視して選んだといいます。偶然いい物件が見つかり、今のところ満足しているそうです。
ただエマさんは、住んでみて初めてわかる不便さもあったと話します。そのひとつがハトです。朝にハトの鳴き声がうるさかったり、ベランダにフンを落とされたりしたといいます。
ハト対策として二人は鳩よけのトゲトゲを買いましたが、結局設置できていません。レンさんは、ベランダから絶対に落ちないように取り付ける方法が難しく、台風で風が強いときに落ちたら危ないと説明します。
っていうのでね、ちょっと(鳩よけを)使い切れずにいるっていう。
最近はなぜかハトがあまり来なくなったものの、エマさんはハトに驚かされた出来事も話します。雨の日に家を出て廊下を歩いていたら、隣の部屋の窓で雨宿りしていたハトが急に飛び立ち、思わず大声を上げてしまったそうです。
うん。聞こえたわ叫び声。うわー!うわー!みたいな。
マンションのエレベーターに根づく「さようなら」文化
レンさんが最近気になっているのは、今のマンションのエレベーターでの挨拶です。一緒に乗った住人が先に降りるとき、みんな必ず「さようなら」と言って降りていくといいます。
俺「さようなら」って聞いたのマジで中学校以来ぐらいの感じがなんかして。なんか「さようなら」ってあんま言わなくない?
エマさんも、日常で接する人に「さようなら」はあまり使わないと同意します。仕事なら「お疲れ様です」「お先失礼します」ですが、マンションの住人は同僚ではないので、それも少し違う。そう考えると「さようなら」になるのかもしれない、と整理します。
二人が思い出したのは、小学校の帰りのホームルームのあとにみんなで言う「さようなら」です。レンさんにとって、それ以来の響きだったといいます。
レンさんは、以前同じ地域で住んでいたエレベーターのある家では、「さようなら」と言われたことは一度もなかったと比べます。エマさんは、普通は会釈、本人いわく「ペコッ」で終わる気がすると話します。
同じ地域のエレベーター付きの家。「さようなら」と言われたことは一度もなく、会釈で終わるのが普通だった
一緒に乗った住人が先に降りるとき、割とみんな「さようなら」と言って降りていく
この違いについて、エマさんは「このマンション独自のカルチャーではないか」と推測します。誰かが言い始めると周りも言うようになり、広がっていくのかもしれないというわけです。
レンさんは、礼儀正しくて可愛い習慣だと感じていて、自分も「さようなら」ユーザーになろうかと考えています。隣のマンションでは「失礼します」かもしれない、と二人は想像をふくらませました。
研究現場で驚いた「体が覚えている」感覚
日常に戻ってきた実感について、レンさんは久しぶりに実験をするなかで驚いたことを話します。頭では覚えていないのに、体が覚えていることがたくさんあったそうです。
例えば、いや、ものの場所とか。あれ使いたいなあっていう時に、何にも考えないでその前行ってたりする。
パスワードも同じでした。レンさんは1年前に打っていたパスワードを指だけが覚えていて、目をつぶって打つと開いたといいます。
エマさんの仕事復帰は、久しぶりに会う人たちと話せてテンションが上がるところから始まりました。ただ、それもすぐに日常になり、今はあまり何も思わなくなったそうです。
エマさんは、イギリス生活に慣れるより日本の生活に慣れるほうが早かったと振り返ります。イギリスでは慣れるまでにかなりの時間がかかりましたが、日本では「あれよあれよという間に日常になった」といいます。レンさんは、それまでの蓄積があるからだと応じ、人間の「慣れ」の力に感心していました。
「洗練された」「背伸びた?」と言われた帰国後の変化
1〜2年ぶりに人と会うと、相手の変化に気づきやすくなります。レンさんは周囲から「変わってないね」と言われた一方で、エマさんは「めっちゃ変わったね」と言われたそうです。
なんか「ロンドンで洗練された」みたいな言われた。
エマさんは「そのファッションはロンドンっぽい」とも言われましたが、着ていたのは全部日本で買ったもので、お世辞かもしれないと笑います。
レンさんがよく言われたのは「背伸びた?」です。元々背が高い人は、久しぶりに会うと改めて大きく見えるのだろう、と二人は推測します。ところが実際の身体測定では、本当に伸びていたといいます。
今回の身体測定では約0.5cm伸びていて、その前の測定でも0.5cmほど伸びていたそうです。一方、エマさんは0.1cm縮んでいました。レンさんは0.5cmも誤差の範囲かもしれないとしつつ、「成長期が終わってないのかもしれない」と話し、視力も良くなっていたと付け加えます。
1年越しの約束で、初代マイクを手放す
レンさんが最近の出来事としてもう一つ挙げたのは、番組の初代マイクを手放した話です。1年前、ポッドキャストを配信しているリスナーから「使っていないマイクがあれば中古で買わせてほしい」と連絡がありました。
当時はちょうどロンドンに行った直後で、マイクは日本の倉庫に預けていました。そこでレンさんは「1年後なら渡せます」と返事をしていたそうです。
帰国後、その人から「マイク無事ですか?」と連絡が来ました。レンさんは倉庫からマイクを受け取って動作を確認し、譲ることにしました。
本当にね、これ『サイエントーク』の初めて買ったマイクっすよ。
エマさんによると、それ以前はパソコンの内蔵マイクで収録していました。初代マイクは番組開始から半年ほどで買い、2年目ぐらいまで番組を支えたものです。リスナーの希望で二人がマイクにサインをし、ステッカーも同封して送りました。
エマさんは「我が子を手放すみたい」と表現し、レンさんはトイ・ストーリー3 ── ピクサーのアニメ映画シリーズ第3作。成長した持ち主のアンディが、ウッディやバズたちおもちゃを次の世代の子どもに譲る結末が描かれますを思い出したといいます。使われずに眠っているより、誰かに使ってもらえるほうがマイクにとってもいいはずだ、という気持ちです。
さらに、エマさんが使っていたマイクもまだ1台残っています。レンさんは、Blue Yeti ── Blue社のUSB接続コンデンサーマイク。配信やポッドキャストの入門機として広く使われてきた定番モデルですというコンデンサーマイクで、定価は2万5000円ほどだと紹介しました。今回と同じく半額ほどで構わないという人がいれば、ぜひ連絡してほしいと呼びかけています。
初代マイクの思い出として、レンさんは初期に炭酸水の音を流すASMR ── 音による心地よい刺激を楽しむコンテンツの総称。咀嚼音やささやき声、物を開ける音などが代表例です回を配信していたことも明かします。32話は、マイクを開封し、グラノーラの音やウィルキンソンの炭酸水の「シュワー」という音を収録したものでした。
いや、今考えたら意味わかんないよね。何そのコンテンツって。
付き合って7年目の記念日に気づいた、物より体験の喜び
初代マイクを買ったのは5年前です。そこからレンさんは、最近二人で迎えた付き合った日の記念日の話に移ります。エマさんによると丸6年が経ち、今は7年目に入ったところです。
ポッドキャストを始めたのは付き合って1年後ぐらいでした。今では週末といえば収録ですが、それ以前は恵方巻きを作ったり、出かけたり、ユニバに行ったりしていたそうです。
今回の記念日には休みを取り、いいお食事屋さんで食事をしました。エマさんは、いい食事屋さんに行くことは結構重要だと感じたといいます。
いやそう、物買うよりそっちの方が俺嬉しいかもしれない。
レンさんは、自分の物欲が極端に減ったと話します。以前はゲームをすぐ買ったり、手帳や文房具、書類ケースなどの細々したものを買ったりしていましたが、そうした買い物が減ったそうです。
ゲームをすぐ買う。使わない手帳や文房具も「いいな」と思えば買い、ストックがたまっていた
衝動買いが減り、物を買うより、いい食事のような体験のほうが嬉しいと感じる
物欲が減った理由について、エマさんは「満たされたからでは」と考えます。子どもの頃は高くて買えないからこそゲームが欲しかったものの、今はワンクリックで何でも買えるし、食べたいものも自分で買って食べられるからです。
レンさんは、以前二人で話したことに触れ、食べたい時に食べたいものを食べられるのが一番幸福度が高いと話します。それができている今は「ハッピーな感じ」だといいます。
人生は壮大な時間つぶし?イギリスで変わった人生観
エマさんが今の暮らしを「恵まれつつ、淡々と日常を送っている」と表現したことから、話は人生観へと広がっていきます。レンさんは最近、人生をとてもメタな視点で捉えるようになったと話します。
レンさんは、必死に生きなければいけない場面もたくさんあると断りつつ、それまでは気づいていなかったこの感覚に最近たどり着いたといいます。以前は「赴くままに生きていた」そうです。
エマさんは、この変化にはイギリスでの経験があるのではと問いかけます。いろんな生き方の人に出会い、いろんな国を旅行したことで、生き方は1つではないと体感したからです。
なんか、昔は海外に住むって結構大変なことなんじゃないかって思ってたけど、大変な部分もあるけど、(実際に)したから、まあ、「しようと思えばできるな」っていう感覚も出てきたし。
一方でエマさんは、旅行に昔ほどときめかなくなったとも話します。ただ、ときめきは減っても、そのなかで地味にいろんなことを楽しんでいるといいます。エマさんは、仕事を始めてから昔からこうした境地だったそうですが、レンさんは今になって達したと話します。
レンさんは、自分が何をやりたくて何をやりたくないかに気づいていなかったと振り返ります。ポッドキャストも最初は「なんとなくに近かった」ものの、今は「しかるべくしてやっているかもしれない」と感じているそうです。
エマさんは、子どもができたらまたフレッシュな視点になるかもしれないと話します。二人は、結婚から3年ほど、昨年のイギリス行き、その前の結婚式やハネムーンと、人生の一大イベントが続いた密度の濃い数年だったと振り返りました。
後ろ向きではなく「できることベース」の目標を
これからの人生について、エマさんは「考えずに過ごしたら、気づいたら30年経ってました、になりそう」と話し、ある程度の目標を決めたほうがいいと考えます。レンさんも同意し、やりたいことは考えておいたほうがいいと話します。
レンさんがもう1つ大事にしたいのは、後ろ向きな理由で働かないことです。わかりやすい例として、家族がいて家のローンがあるから働かなければならない、というテンションで働くのは結構きつそうだと話します。そうした人たちは偉いし、ハッピーだとも思うと断ったうえでの考えです。
家族やローンがあるから「働かなきゃいけない」というテンションで働く
自分にできることを軸に、目標を立てる方向で進む
エマさんは、自分にはそうした目標があまりないため、レンさんの目標をサポートするスタンスだと話します。レンさんが目標を叶えていく姿を見るのは楽しく、特にポッドキャストでは少しずつ成長しているように見えるといいます。
エマさん自身の願望は、自由な場所で自由に過ごすことです。会社に依存して稼いでいる自分に代わって、レンさんがポッドキャストなどで会社に頼らず生きられるようになったら、二人で好きな場所に住み、自分はそこで新しい仕事を探したいと語ります。
(住むなら)涼しいところがいい。でも寒すぎるのはやだ。
科学館イベントから「おしゃべり日本一周」まで、これからの目標
具体的な目標として、レンさんはポッドキャストのアワードについて言い続けているものの、それだけでは物足りないと話します。やりたいことの1つは、リアルな場所で何かをすることです。
例えば、科学館で何かを伝えたい人の話を二人が聞き、そのあと集まった人と科学館を回るといったイベントです。ほかにも、ポッドキャストで何かを伝えたいのに辞めてしまう人を手助けしたいという思いもあります。ただ、そればかりだと「おもろくないビジネス」になってしまうとも感じています。
エマさんから「人生に迷い中?」と聞かれ、レンさんは迷ってはいないと答えます。最終的に目指しているのは、喋っていて面白いことです。そのためにいい研究をしなければならない、といった形で中身がついてくるのが大事だといいます。
レンさんが描くのは、喋りながら日本を一周することです。各地を回る実験教室のおしゃべり版のようなイメージで、リスナーとの交流や、ご当地で活動している人、近くの大学の人との対話をしたいと話します。
レンさんは、日本ではサイエンス系のポッドキャストの価値を信じてくれる人がまだ少ないと話します。エマさんは、人文系にはそうした動きがあるかもしれないが、科学系ではあまりないのかもしれないと応じます。レンさんは、ビジネスメディアのように科学メディアもあっていいはずで、あれば作りたいと口にしました。
具体的なことは言えていないと笑うレンさんに、エマさんは「それもそれで記録だから」と返します。数年後に具体化して進んでいたら、この時の感じを振り返れるからです。
いや、私も。え、君が(番組を)続ける限り私もなんか引っ張られるからね、多分。
今年は折り返しぐらいの時期で、考える機会になったというレンさん。あとは動くだけだとして、ポッドキャストもいろいろなことも頑張ろう、とリスナーに呼びかけて回を締めくくりました。
まとめ
イギリスから帰国したレンさんとエマさんは、ハトやエレベーターの挨拶といった日常の発見を楽しみながら、海外生活を経て変わった人生観と、ポッドキャストを軸にしたこれからの目標を語りました。
- 帰国後1か月ちょっとで日本の暮らしは日常に戻ったものの、日本のありがたさは今も実感している
- 初代マイクは1年越しの約束どおりリスナーに譲られ、もう1台のBlue Yetiも譲り先を募集している
- 物欲が減り、物を買うより、いい食事のような体験に喜びを感じるようになった
- イギリスでの経験を通じて、人生は何で時間を潰すかであり、生き方は自由だと感じるようになった
- レンさんの目標は「おしゃべりして暮らす」ことで、科学館イベントやおしゃべり日本一周などのアイデアを挙げた


