電車の子どもとタブレット、『トイ・ストーリー5』が投げかけた問い
レンさんは最近、電車でベビーカーに乗るくらいの子どもがスマホやタブレットを夢中で見ている姿をよく目にするといいます。エマさんは「赤ちゃん」という言い方に引っかかりつつ、幼稚園児くらいならたしかに見ていると応じます。
そのうえでレンさんが持ち出したのが、公開されたばかりの『トイ・ストーリー5』です。2人は収録の前日に観に行っており、宣伝でも出ている範囲として、作中にタブレットが登場し「タブレットで遊ぶか、おもちゃで遊ぶか」がテーマになっていると紹介します。
まあおもちゃ側の視点だからね。なんかおもちゃからしたらタブレットとかが、なんかデジタルがめっちゃ進出してきて、子供たちの興味をなんか奪っちゃってるみたいな感じで描かれてたね。
レンさんは、この「タブレットが悪者」という構図は映画に限らず普遍的だと考えます。レンさん自身も子どものころ「ゲームは頭に悪い」「やりすぎるな」と言われながら遊んでいたそうで、エマさんも小学生ぐらいまではゲームをしていたと明かします。
何かを学習するっていう時に、やっぱりアナログのやつの方がいいよねっていうことなのか、デジタルの方がいいのか、これどっちなんだろうっていうのはずっと疑問に思ってて。
エマさんは、ゲームが一般的になった今だからこそデータが集まり、昔の「盲目的に絶対ダメ」という見方より、ちゃんとした答えがありそうだと期待します。レンさんは、すべてを良い・悪いでスパッと切れるわけではないと前置きしたうえで、いくつかの研究例を紹介していきます。
ちなみにサイエントークで『トイ・ストーリー』を扱うのは2回目です。前回の「科学者倫理はトイストーリーで学べる」回はエマさんいわく「意味わかんなかった」そうですが、レンさんは個人的に気に入っているといい、今回は「まだわかりやすいと思う」と予告します。
電子おもちゃで遊ぶと、親子の会話は減る?
最初の研究は、電子おもちゃと昔ながらのおもちゃを直接比べたアメリカの2016年の研究です。生後10〜16ヶ月の赤ちゃんと親のペア26組に、3種類のおもちゃで遊んでもらいました。
3種類とは、光ったり喋ったり歌ったりする電子おもちゃ、積み木やブロックのような昔ながらのおもちゃ、そして絵本です。赤ちゃんにはマイク入りの専用の服を着せ、家庭での会話を丸ごと記録したといいます。
結果を聞かれたエマさんは、積み木は親とのやりとりが生まれ、絵本もコミュニケーションが取れそうだが、デジタル系は集中して無言になりそうだと予想します。レンさんによれば、結果はほぼ予想通りでした。
まあ結論、電子おもちゃで遊んだ時が子供の発話が少なかった。要はそのおもちゃ側が喋るわけじゃん。
電子おもちゃではおもちゃ側が喋るため、子どもが受け身になり、子ども自身の発話も親の言葉数も減ります。一方、昔ながらのおもちゃと絵本は同じくらい良い結果で、昔ながらのおもちゃでは色や形といった具体的な言葉が出やすかったそうです。
| おもちゃ | 会話の傾向 |
|---|---|
| 電子おもちゃ | おもちゃが喋るため受け身になり、子どもの発話も親の言葉数も減る |
| 昔ながらのおもちゃ | 絵本と同じくらい良好。色や形など具体的な言葉が出やすい |
| 絵本 | 昔ながらのおもちゃと同じくらい良好 |
エマさんは、子どもが大きくなればゲームやソーシャル系の遊びのほうが語彙がつく可能性もあり、成長具合によるのではと指摘します。レンさんはそれを認めつつ、2〜5歳を対象にした研究でも、電子おもちゃのほうが子どもの発話量や語彙の多様性が減るという結果がいくつかあると補足します。
会話の量だけでなく質の面でも違いがあります。積み木で遊んでいた子どもは、のちに算数や空間認知能力のスコアが高いという研究があるそうです。
タブレット上のパズルでも空間認識能力はある程度伸びますが、物理的なパズルには及ばないといいます。レンさんは、アプリが全く無意味なわけではないものの、自分で手を動かすほうが認知力は伸びると研究ではいわれている、とまとめます。
画面より人から学ぶ「ビデオ・デフィシット効果」
レンさんはここから、赤ちゃんは画面よりもリアルな世界から学ぶという傾向を紹介します。これにはビデオ・デフィシット効果 ── Video Deficit Effect。乳幼児が同じ内容でも、映像からは対面よりも学びにくいという現象を指す発達心理学の用語ですという名前がついていて、ビデオだと学びが欠落するという意味だそうです。
語学の例として、英語圏の生後9ヶ月の赤ちゃんに中国語を聞かせる研究があります。中国語を話す人と対面で学ぶ場合と、全く同じ内容を画面だけで学ぶ場合を比べると、画面の子は覚えがとても悪かったといいます。
なんか大人でもそうじゃない?なんか目の前に人がいて教えてくれるのと、同じ内容をタブレットが読み上げてるのあったら、なんか全然頭に入ってくるのは人な気がする。
レンさんも、講習などはリアルで受けたほうが頭に残ると同意します。エマさんは、ビデオ教材でも読み上げだけより、読み上げている人の動画が横にあるほうが集中するらしいと話し、人間が社会的な生き物だからではないかと考えます。
ただし画面が全部ダメというわけではありません。ビデオ通話で赤ちゃんが反応し、やりとりができる形なら、普通の動画教材を見るよりは学習効果があるといいます。
同じ内容でも覚えが悪い(ビデオ・デフィシット効果)
対面が最も学びやすく、ビデオ通話でもやりとりがあれば動画教材より学べる
結局ね、赤ちゃんってね、その反応してくれる相手がいるかどうかっていうのがやっぱ大事。
話は犬にも及びます。レンさんの実家の犬は画面に全く反応しなかったそうで、レンさんは推測と断ったうえで、赤ちゃんにも画面への反応しやすさに個人差があるのではと話します。そのうえで、リアルな世界でしか学べないことがあり、親など教えてくれる人との双方向のやりとりが最も学習効果が高い、という整理で区切ります。
「頭が悪くなる」とはどういうこと?1万人規模の脳の追跡調査
続いてレンさんは、「タブレットやゲームで頭が悪くなる」というイメージは分解して考えるべきだと話します。脳の構造自体が変わるのか、記憶などの認知のパフォーマンスが落ちるのかで、意味が大きく違うからです。
わかりやすいのは、脳にも筋肉のように使うところが育つ性質があるという考え方です。レンさんは有名な例として、ロンドンのタクシー運転手は道を覚える脳の領域が大きくなっているという研究を挙げ、大人でも使うとそこが育つと説明します。
では、デジタルデバイスは脳をどう変えているのか。それを大規模に調べているのが、2015年から続くアメリカ最大・最長の子どもの脳の発達研究です。9〜10歳の子ども11,880人を集め、成人まで追跡し、2年ごとにMRIで脳を撮影しているといいます。
この研究では、まず「子どもが1日どれくらいスクリーンを見ているか」について、親の回答と子どもの回答がずれていることがわかりました。長い短いではなく相関しないという意味で、親は子どものスクリーン時間を把握できていないそうです。
デジタルメディアの利用が多い子どもでは、記憶や注意力に関わる脳の皮質 ── 脳の表面を覆う神経細胞の層。思考や記憶、注意などの高次の機能を担い、その厚みは脳の発達の指標としてよく調べられますの厚みや、しわの深さのスコアが少し小さいという結果が出ています。ただしレンさんは、これは相関であって因果関係ではないと強調します。
エマさんは、ショート動画ばかり見るのかマリオカートのようなゲームをするのかで違いそうだと指摘しますが、この研究にそこまでの粒度はありません。デジタルの利用で勉強時間が減った結果かもしれず、何が起きているかはわからないと2人は確認します。
参加者の一部を詳しく調べた研究では、SNSの利用が多いと小脳の体積がわずかに減り、ゲームはむしろわずかに増える方向でしたが、どちらも有意差はありませんでした。テレビや動画なども細かく調べた結論は、どのメディアも影響を与えていないというものでした。
イメージはあるんだけど、有意な差って出てないっていう結論なんですね、今んとこ。あの、悪いとは言えないみたいな。
エマさんは、ソーシャルゲームをする子ほどソーシャル能力が高い傾向や、シューティングゲームで目と手の連携が良くなるという話を聞いたことがあると話します。レンさんは、ゲームの種類によってはありうるとし、デジタルのゲームを治療に活用しようという動きも今後出てくるだろうと述べます。
紙の本と電子書籍、理解度に差が出るのはどんなとき?
レンさんによれば、紙の本と電子書籍のどちらがよいかという問題も、電子おもちゃとアナログおもちゃの比較とほぼ同じ構図です。本は情報を処理できたかを測りやすく、研究も多く行われています。
レンさん自身は紙のほうが印象に残る気がするといいます。エマさんは個人的にはあまり変わらないとしつつ、物語ならともかく、書き込みが有効な参考書なら紙のほうがよさそうだと話します。
研究では、説明文や小説など同じ内容の文章を紙と画面で読ませ、理解度テストで点数を比べます。こうした研究を取りまとめた分析には、約17万人分のデータが集まっているそうです。
点数に影響する条件の1つ目は時間制限です。時間制限がなければ差はほぼありませんが、制限があると紙のほうが理解度が高くなります。エマさんは、紙では「このあたりに書いてあった」という感覚を使って読解するため、それがデジタルでは抜けそうだと話します。
2つ目は画面での表示形式です。スクロール型はページめくり型より点数が低く、レンさんは、スクロールではどこに何が書いてあったかという位置の記憶がしにくいためだと説明します。エマさんは、TOEFLを時間制限ありのスクロール型で受けたことがあると思い出します。
3つ目は文章の種類です。説明文のような情報の多い文章では画面のほうがスコアが下がりやすい一方、小説のような物語ではほぼ差が出ないといいます。
| 条件 | 差が出やすい | 差が出にくい |
|---|---|---|
| 時間制限 | 制限あり(紙が有利) | 制限なし |
| 画面の形式 | スクロール型 | ページめくり型 |
| 文章の種類 | 説明文など情報量が多い文章 | 小説などの物語 |
レンさんは、時間がない、情報量が多いといった紙が有利になる条件は、どれも脳に負荷がかかる状況だとまとめます。逆に負荷が少ないときは、画面でも紙でもあまり変わらないことが示唆されています。
あわせて紹介されたのがシャローイング仮説 ── デジタル画面での素早い流し読みに慣れることで、深く考える読み方が浅くなるという考え方です。レンさんは「浅せ化仮説」と無理やり訳していますです。難しい本を読むときは脳を深く使い、SNSをスクロールするときは浅く使っていて、浅く使うほど理解力は落ちるという考え方です。
デジタルネイティブなら画面に慣れていて差が縮みそうですが、そうではないそうです。画面に慣れた人でも紙のほうが理解度が高いことがあり、これはおそらくメディアそのものの性質だろうといわれています。
予定を書くなら紙の手帳、タブレット、スマホのどれ?
次は、予定を記入するのは紙の手帳、タブレット、スマホのどれがよいかという研究です。18〜29歳の若者を3チームに分け、LINEのような会話文から予定を拾い出してカレンダーに記入するタスクを行いました。
エマさんは、色分けや修正のしやすさからデジタルが勝ちそうだと予想し、画面の広いタブレットが一番正確で、次にスマホ、最後に手帳と順位をつけます。しかしレンさんの答えは「全然違う」でした。
条件として、タブレットはタッチペンで書き、スマホはキーボード入力です。そのうえで、記入の速さも予定の正答率も紙が最も高く、さらに1時間別の作業をした後の記憶テストでも紙が最も高いスコアでした。
一番早く書けるし、一番記憶残るの紙なんだっていう。
エマさんはパソコンなら速いのではと考え、ぜひ比較に入れてほしいと話します。ただ、ドラッグで時間を合わせてずれたら直すといった手間を思い浮かべ、手書きのほうが速い可能性もあると考え直します。レンさんは、デジタルは画面遷移に時間がかかる一方、紙は開いてすぐ書き進められると推測します。
記憶については、本のページめくりと同じく場所で覚えられることに加え、エマさんは書く行為自体が定着によいと話します。レンさんも、手書きとタイピングの比較では手書きのほうが記憶しやすく、脳波の研究で脳の広い範囲が活性化することがわかっていて、大人でも子どもでも同じ傾向だと補足します。
一方でエマさんは、AIが入ってくれば話は変わりそうだと指摘します。喋るだけでAIが予定を入れてくれるなら効率は大きく変わるため、2人は今後、音声入力との比較研究も出てくるだろうと話します。タブレットに手書きするデジタルノートについても、書いているぶん良さそうだと評価します。
反復学習ならデジタルも十分?重いカバンと赤本の記憶
ここでレンさんは、デジタル側の擁護もしておきたいと切り出します。教育アプリの研究では、文章を読み取って答えるような複雑なタスクではデジタルのスコアが下がりがちですが、文字を書いて覚える、算数の基礎計算をするといった単純な反復学習では、デジタルでも十分伸びるそうです。
エマさんは、筆算が必要な計算なら書ける紙のほうがよいのではと疑問を投げかけます。レンさんは、iPadのように書けるタブレットなら同じかもしれないとしたうえで、言いたいのは「何でもかんでもデジタルがダメではない」ということだと話します。ゲームで注意力が鍛えられるという面もあるといいます。
そうだね。てかデジタルを完全に排除するなんて今の時代無理だからね。
エマさんは、中学・高校時代に重い参考書やノートを毎日持ち歩いて体が傾いたと振り返り、少しでもタブレットがあればよかったと話します。レンさんも、ランドセルが重すぎるのでキャリーケースのようなカバンにしたほうが体の負担が少ないというニュースを見たことがあり、教科書のデジタル化も一案だと考えます。
それでもレンさんは、受験で使った赤本は紙であることに意味があったと感じています。分厚い赤本をめくりながら「どの辺に書いてあったか」を覚えていたといい、エマさんも付箋や目次をつけ、ノートのページと位置に記憶を紐づけていたと共感します。
まあ割とね、僕はね、デジタル化したらいいんじゃね?と思ってたんだけど。なんかいろいろ調べると、なんか試験の大事なやつとか、意外と紙で勉強した方がいいのかなっていう気もしてくるんよね。
エマさんも、勉強系はデジタル教材でもあえて印刷して書き込むことがあるといいます。2人は、紙とデジタルの使い分けは利便性との兼ね合いで難しいと確認し合います。
AIに質問しながら学ぶ時代、学び方はどう変わる?
レンさんは一方で、能動的に学ぶ場面ではデジタルの良さがあると話します。これまでは同じ教材を紙で読むかデジタルで読むかの比較でしたが、これからはデジタルの中で「能動的か受動的か」という違いが問われるだろうという見立てです。
レンさんの言う能動的な学習とは、オンライン会議のような双方向のやりとりのことです。これまでのデジタル学習は与えられた動画や文字を見るだけでしたが、AIなら動画の「ここがわからない」を質問すれば答えが返ってきます。
エマさんも、昔はわからないところを先生に聞きに行くか、自分で調べて理解するしかなかったが、AIでそれができれば勉強の仕方はだいぶ変わると話します。レンさん自身、論文を全部読むよりAIに読ませて質問したほうが効率がよく、理解できる感じがするといいます。
エマさんは、紙、従来のデジタル、AIの使いどころを最適化した学習方法が確立され、体の負担や利便性も改善されることに期待します。
デジタルでさっと見ればよい
紙で取り組む
レンさんは、こうした使い分けを設計する方法が問われる時代になると考えており、これは完全に自分の考えだと断っています。使い分けをどう設計するかは自分にとっても、子どもに何を与えるかを考える子育て中の人にとっても大事だと話し、エマさんも同意します。
デジタルは毒ではなく食事。フィジカルAI時代の『トイ・ストーリー』
レンさんは、アナログとデジタルはどちらかに決める「versus構造」ではなく、ハイブリッドにすべきだと話します。ただ世の中では、いまだに両者が争っているように見えるといいます。
エマさんが「『トイ・ストーリー』でも争ってたしな」と返すと、レンさんは「タブレットかおもちゃか」という構図はまさに時代に即していると感じたと話します。直接言っているわけではなくても、多くの人が今考えている普遍的な課題を扱っている、という受け止めです。
エマさんは『トイ・ストーリー4』より5のほうが絶対良かったと評価し、時代のアップデートを反映した5が出たことを喜びます。レンさんは、3で終わっていてもよかったと思いつつ、5は綺麗に終わったと話します。
話は『トイ・ストーリー6』の想像へ広がります。エマさんは、投資対象として注目されているというフィジカルAIを挙げ、自分で考えるぬいぐるみやおもちゃが出てくるのではと話します。
人間からしてもさ、今おもちゃって多分対話してもさ、自然みたいな世界観になってくるわけじゃん、フィジカルAIがいると。
そうなると、人間の前で堂々と喋れる新しいおもちゃが現れ、ウッディのような古いおもちゃは裏でしか動けない、という物語がありそうだと2人は盛り上がります。レンさんは脚本を書くと名乗り出ますが、エマさんに「君が書けるか?」と返され、「書けない」と認めます。
最後にレンさんは、デジタルだから絶対悪いというデータが明確に出ているわけではないとまとめ、デジタルの位置づけを食事にたとえます。
少しでも摂取したら危ないもの
取りすぎるとバランスが悪くなるもの。デジタルはこちらに近い
レンさん自身は紙を使う割合が減り、タイピングにも頼っていますが、大事な論文や学会の資料をチェックするときは印刷して書き込むといいます。デジタルは取りすぎに気をつける食事のようなものという見方のもと、2人は「使い分けていきましょう」と締めくくります。
まとめ
『トイ・ストーリー5』の「おもちゃかタブレットか」という問いを研究で確かめると、デジタルが一律に脳に悪いとはいえない一方、負荷の高い学びや記憶では紙や対面に分があることが見えてきます。レンさんとエマさんは、どちらかを選ぶのではなく、目的に応じて使い分けを設計することが大切だと結論づけています。
- 電子おもちゃは子どもも親も会話が減りがちで、積み木や絵本では会話や具体的な言葉が生まれやすい
- 赤ちゃんは画面より反応してくれる相手から学びやすく、やりとりのあるビデオ通話なら一定の効果がある
- 大規模調査では、デジタルメディアが脳に影響しているという有意な差は今のところ出ていない
- 時間制限がある、情報量が多いなど負荷の高い読解や、予定の記入と記憶では紙が有利になりやすい
- 反復学習やAIへの質問による能動的な学びはデジタルの強みで、紙との使い分けの設計が問われる




