隣の客より自分の牛乳だけ高い?
この回のきっかけは、米国のウォルマートとマクドナルドに向けられた「個人のデータで値段を変えているのではないか」という懸念です。CEOセオさんによると、人によって値段が違う「監視型価格設定」をめぐる論争が激化しています。
海外では、電子で価格を表示する電子棚札 ── 紙の値札の代わりに小型ディスプレイで価格を表示する仕組み。本部のシステムから価格を一括で、即座に書き換えられるのが特徴ですによって、バナナの値段が今日と明日で違うといったことがすでに起きています。需要やニーズに応じて値段を変えるダイナミックプライシング ── 需要や在庫、時期などに応じて価格を変動させる手法。航空券やスポーツ観戦チケットなどで広く使われていますです。
CEOセオさんが投げかけるのは、その値段が「人ベース」で変わったらどう思うか、という問いです。たとえば小さい子どもがいる家庭の牛乳は高く、一人暮らしの人の牛乳は安くなる、という形です。
同じ瞬間、同じお店で、同じ牛乳を買うのに、隣の人より自分の方が高いということを許せるかということですね。
ポイントカードやアプリのクーポンで値段が安くなることは以前からあります。ただ、AIを使って個人を特定し、「昨日この人は買っている」といった情報まで価格に反映できるようになった点が、論争の焦点になっています。
ウォルマートが「値段を決めるのは人ではない」と答えた理由
ウォルマートのCEOは、収入や顧客履歴、今すぐ欲しいという切迫度、支払い能力によって価格が変わることはないと明言しています。暑い午後でも急ぎでも、それを理由に高くすることはないという説明です。
値段を決めるのは商品であって人ではないよというふうに、わざわざ答えております。
それでもウォルマートが疑われるのは、電子棚札で実際に値段を変えられるからです。CEOセオさんは、技術的にはできるが、やっていないと言っている状態だと整理します。
ウォルマートは、この電子棚札にはカメラもマイクも顔認識もなく、顧客データも収集しないと説明しています。同じ店舗なら誰でも同じ価格だという立場です。
マクドナルドの「価格はフランチャイジーが決める」は何を意味するのか
マクドナルドについては、米国の約1万4000店舗の取引データを分析し、店舗ごとに最適価格を算出していると報道されました。マクドナルドはこれに対し、報道は憶測に基づくもので、ダイナミックプライシングは使っておらず、価格は各フランチャイジー ── 本部と契約して看板やノウハウを使い、店舗を運営する加盟店側の事業者のことですが独自に決めていると表明しています。
実際、ニューヨークとロサンゼルスでは同じビッグマックでも値段が違うなど、エリアによる価格差は起きています。CEOセオさんは、人単位ではやっていないがエリア単位ではやっている、という構図だと見ています。
フランチャイジーが価格を決めてるって言ってますから、フランチャイジーがもしその機能を使ってたらやってることになりますよね、個人もね。
ニューヨーク州の表示義務と「禁止せよ」の声
こうした懸念を受けて、規制当局や消費者団体が動いています。ニューヨーク州では、個人データを使ったアルゴリズム価格について表示を義務化しており、違反1件あたり約1000ドル、日本円で16万円ぐらいの民事罰が科されるといいます。
さらに米国の消費者団体からは、開示ではなく禁止すべきだという書簡も提出されています。AIによってより精度の高いパーソナライズドプライシングが可能になったことが、議論を一層デリケートにしています。
一方で企業側は「できるけどやっていない」と言い続けており、CEOセオさんはこの平行線が続いている状況だと話しています。
「会話を聞かれた広告」と同じ構図?
CEOセオさんは、この構図がSNSやデジタル広告をめぐる疑念と似ていると指摘します。友人と話した直後に、その商品の広告が突然表示されるという経験です。
「これ絶対さっき俺らの会話聞いてたんじゃないか」みたいな。これ、こういうことってよくありませんか?
CEOセオさんによると、スマートフォンのアプリ通知をオンにしている限り、通知に必要なデータの収集を認めたことになります。とはいえ通知をすべてオフにすると不便なので、多くの人はオンのまま使っています。
プラットフォーム側も、個人データに基づく広告は出せるがやってはいない、と説明しています。やっている証拠より、やれる能力に対して物議が醸されている点が、価格の問題と共通しているといいます。
薄利多売のウォルマートほど誘惑は大きい?
ウォルマートはEDLP ── Everyday Low Priceの略。特売に頼らず、毎日安い価格で売るという小売の価格戦略ですを掲げています。収入や個人に合わせて値段を変えれば、このEDLPの約束を破ることになるとして、やっていないと説明しています。
ウォルマートの営業利益率は5%で、薄利多売のモデルです。CEOセオさんは、だからこそ人によって1%でも値段を上げられれば大きな利益になると指摘します。
しかも値段ってわかんないですよね。誰がいくらなんかね、そんなの。
CEOセオさんは、実際にやっているかどうかを見極めるには、内部告発のような手段しかないのかもしれないとも話しています。
マクドナルドの場合は、本部がフランチャイズの売上の歩合で稼ぎ、値段はフランチャイズが決める仕組みです。フランチャイズ側にはAIで少しでも値段を上げたい動機があり、本部は「推奨していない」と言えるため、責任の所在が曖昧になりやすいと見ています。
本部
売上の歩合で稼ぐ
フランチャイズ
価格を独自に決める
AI活用の動機
少しでも値段を上げれば利益になる
責任の切り離し
本部は「推奨していない」と言える
値上げはダメで値下げならOK?
紙の値札なら、全員が同じ固定価格になります。一方、野球などのエンターテインメントや飛行機ではダイナミックプライシングがすでに当然になっており、次に物議を醸しているのが人ごとに値段を変えるパーソナライズドプライシングです。
CEOセオさんによると、ニューヨーク州の法律でも、ダイナミックプライシングとパーソナライズドプライシングは区別して定義されています。
需要やニーズで値段が変わる。野球や飛行機で定着し、おおむね許容されている
人ごとに値段が変わる。価格差別とされ、物議を醸している
CEOセオさんが面白いと感じたのは、パーソナライズドプライシングでも値下げは割と許容されている点です。サブスクリプション登録者を安くするといった扱いは歓迎されており、ロイヤルカスタマーへのボリュームディスカウントと考えれば合理性もあります。
下げて割引する分に個人情報を使うのはいいんだけど、上げるのは勘弁しろということですね。
通販で毎日見に行くと値段が動く?
CEOセオさんは、リアル店舗なら値札を見比べて確認できるかもしれないが、ECでは比較できるのか、と疑問を投げかけます。ファッション好きのCEOセオさんは、海外のセレクトショップの通販をよく利用しています。
有名なカナダのセレクトショップのサイトでは、毎日のように値段が変わるといいます。在庫が減って値段が上がるダイナミックプライシングとも考えられますが、CEOセオさんは個人的にパーソナライズされている気がしているそうです。
この商品欲しいなと、アイテム欲しいなと思ったら毎日見に行っちゃうんですよ。値段変わってないかなみたいな。
(AIから見れば)この人は今3回来ましたと。この値段で動かなかったから、4回目はこの値段だと動くんじゃないかみたいなことをなんかやってそうな気がしちゃって。
うわぁやられたみたいな感じだったりして。
CEOセオさんは、パーソナライズドプライシングなのかダイナミックプライシングなのかはわからないとしつつ、デジタルでも何かされているのではないかという感覚を語っています。
外国人と日本人で値段が違う飲食店
CEOセオさんは最近、ある飲食店で外国人客と隣り合わせになり、会計時に外国人と日本人の値段が違うという議論になっていたといいます。外国人向けは高く、日本人向けは安く設計されていたそうです。
CEOセオさんは、これもパーソナライズドプライシングだと指摘します。日本人にはありがたい仕組みでも、外国人からすると嫌なもので、海外ではパーソナライズドプライシングは価格差別として非常にデリケートに受け止められているといいます。
最近はその飲食店側も、外国人客の会計を済ませて帰ってから日本人客に伝票を出すなど、見えないようにする対策を取っているようです。
日本でもイオンの7割に電子棚札
パーソナライズドプライシングは、人間の手でやる店もあれば、デジタルでやる店もあります。CEOセオさんは、ECサイトでは訪問頻度やクリック履歴、購入金額がログインによってすべて残るため、より巧みにパーソナライズしやすいと見ています。
日本の数字としては、イオンリテールが395店舗中288店舗、単純計算で約7割に電子棚札を導入しています。技術的には同じことができますが、どうなっているかはわからないとCEOセオさんは話しています。
技術上はいつでもできる状態で、それを止めるのは企業の倫理やビジョン、あるいは信頼だといいます。信頼を落とすと大変なことになるため、「やらない」と言い続けている、とCEOセオさんは捉えています。
高所得者の牛乳は500円になる時代が来る?
CEOセオさんは、営業利益率が低いウォルマートのようなディスカウントストアほどパーソナライズドプライシングのメリットが生きるとし、遅かれ早かれ導入されていくのではないかと見ています。
逆に高所得者の人は牛乳が1本500円でもいいじゃないかと。ただ、逆に低所得者の人には1本100円、80円にしたら?
一方で、税金なら高所得者が多く払った分は分配されますが、企業の利益のために富裕層が多く払わされるのは何なのか、という議論もあるとCEOセオさんは話します。
ただし、同じシャンパンがバーなら5000円、キャバクラなら5万円や10万円するように、払える人に高い値段を設定する仕組みは以前からあるとも指摘しています。
「値段は一律ではない」と思っておくべき理由
値段を変えることには利点もあります。映画館の学割があるおかげで普段は埋まらない席が埋まり、レンタルオフィスでは「明日契約するなら10%オフ」といった提案もあるとCEOセオさんは話します。
デジタルがここまで普及すると、同じものでも値段が変わる時代になっていくとCEOセオさんは見ています。そのうえで、値段は一律ではないと思っておいたほうがいいと締めくくっています。
まとめ
ウォルマートやマクドナルドをめぐる論争の核心は、実際にやっている証拠よりも、AIと電子棚札で人ごとに値段を変えられる能力そのものにあります。CEOセオさんは、技術的にはいつでもできる中で、企業の歯止めになるのは倫理と信頼だと語りました。
- ダイナミックプライシングは定着しつつあるが、人ごとに変えるパーソナライズドプライシングは価格差別として物議を醸している
- ウォルマートもマクドナルドも個人単位での価格変更を否定しているが、「できるけどやっていない」状態が疑念を生んでいる
- ニューヨーク州では表示が義務化され、消費者団体からは禁止を求める声も出ている
- 個人情報を使った値下げは歓迎されやすく、値上げは強く反発される
- ECや薄利多売の業態ほど導入の誘惑は大きく、値段は一律ではないと考えておくべきだとCEOセオさんは話す


