ヒューマノイドの価格の半分は「中の部品」?
この回のテーマは、ヒューマノイドの中身を支えるサプライチェーン ── 製品の部品調達から製造、販売までのつながり全体。ここではロボットに部品を供給する企業群を指しています企業です。佐野さんは、ロボットの中にあるモーターなどの部品を扱う企業のことで、「ロボットの中身」と考えればよいと説明します。
佐野さんがこのテーマを選んだ理由は価格にあります。ヒューマノイドの本体価格は500万円、600万円ほどになることがありますが、その半分ほどが中の部品代だといいます。
(ヒューマノイドの本体価格の)うちの半分ぐらいが中の部品なんですよ。
樋口さんが、外側のボディも「中の部品」に入るのかと尋ねると、佐野さんは全部入ると答えます。目で見る、頭脳で考える、手で掴む、皮膚で感じる、筋肉で動くといった人間の体の部位になぞらえ、ハードウェアを一つずつ分解して見ていく回になりました。
コストの4〜5割を占めるモーターと減速機
佐野さんが最も注目する部品はモーターです。関節を動かすモーターと歯車のセットはアクチュエーター ── 電気などのエネルギーを機械的な動きに変える装置。ロボットでは関節を動かす駆動ユニットを指しますと呼ばれ、人間でいえば筋肉にあたります。
テスラのオプティマスなら、アクチュエーターを28個ほど積んでいて、全身の関節に小さなモーターのユニットが入っているそうです。しかもアクチュエーターの製造コストは、ヒューマノイド全体の40〜50%を占めるといいます。
アクチュエーターの中でも重要なのが減速機です。モーターは高速で回転しますが、そのままではガタガタしてしまうため、ゆっくり強い力の動きに変える歯車が要ります。佐野さんは、自転車のギアを重くすると回転数は下がるが力が出る、という例えで説明しました。
モーター
高速で回転するが、そのままではガタつき、力も弱い
減速機
歯車で回転を落とし、ゆっくり強い力に変える
関節
全身の関節が、筋肉のように滑らかに動く
ガタつかず、小さく、軽く、強い減速機を作るのはハードルが高く、参入できる会社は限られています。中国が強い分野ですが、日本では東証スタンダード上場のHarmonic Drive Systemsが、波動歯車と呼ばれる精密減速機を作っています。同社はヒト型向けだけで200億円ほどの売上を目標にしているそうです。
Harmonic Drive Systemsの強みについては、学生時代から同社の製品を使ってきたという出演者が説明します。一般的なギアには、逆方向に動かしたときにわずかに戻る「遊び」があり、バックラッシュ ── 歯車同士のかみ合わせに生じるすき間。これがあると逆回転時に位置がずれ、精密な位置決めが難しくなりますと呼ばれます。同社は、この遊びを非常に小さくする技術を持っているといいます。
産業用途では、2023年まで世界シェアの85%がHarmonic Drive Systemsの減速機だったそうです。最近は中国の安価な製品に置き換えられつつあるものの、精密性では日本も負けていないと話されています。
中国製なしでは3倍の価格になる現実
減速機の分野でも、中国では価格破壊が起きています。番組では、Harmonic Drive Systemsの製品よりさらに50%ほど安いモデルが出始めていると紹介されました。
中国製部品の影響の大きさを示す例として、テスラのオプティマスを中国の部品を使わずに作ると、半分どころか3倍ほどの価格になるといわれていることも挙がります。販売価格も3倍になれば、手に入りにくくなります。
遊びが極めて小さく精密。産業用途で長く高いシェアを持つ
Harmonic Drive Systemsより50%ほど安く、シェアを伸ばしている
樋口さんは、3倍という差のインパクトに注目します。特に個人向けの販売では、ちょっとした値段の差で買うかどうかが決まるからです。安さを取るか精密さを取るか、どの部品が選ばれていくかが、ここからの勝負になりそうです。
ヒューマノイドの「目」を握るIntelのRealSense
横山さんが挙げたのは、ヒューマノイドの目にあたるビジョンのメーカーです。目には複数の種類のセンサーが組み合わされています。
1つは、自動運転でも使われるLiDARです。赤外線を出し、返ってくるまでの速さで物との距離を測り、点群データとして周囲を把握します。もう1つが、カメラのような仕組みで物の奥行きを把握する深度センサーです。
横山さんによると、周囲のおおまかな位置はLiDARで、手元で扱う物の位置は深度センサーや通常のフルカラーカメラでとらえるのが一般的です。深度センサーで強いのがIntelのRealSenseで、ほぼデファクトスタンダード ── 公的な規格ではないものの、市場で広く使われた結果、事実上の標準になっているものになっているといいます。
RealSenseは色と深さを判別できるセンサーをセットにしたキットを販売していて、Unitree社のG1も採用しています。樋口さんがテレビの上に置くだけで深度が取れたXboxのKinectを思い出すと、横山さんもそのあたりの機器で学生時代に研究していたと応じました。
センサー側で考える「エッジAI」は虫に近い?
横山さんが面白いと感じたのは、RealSenseが6月に出した新しい深度カメラです。より近い距離まで測れるという性能向上に加え、カメラ自体に推論機能、いわゆるエッジAI ── クラウドや中央の計算機ではなく、センサーや端末側でAIの処理を行う仕組み。通信の遅延を減らせる利点がありますを載せ始めました。
センサーは計測だけを担い、データの処理はすべて本体の脳にあたるCPUが行う
センサー側である程度推論し、整えたデータを本体の脳に送る
横山さんは、この変化が重要な理由を説明します。ヒューマノイドは立っているだけでも大量の計算が必要で、処理をクラウドに任せて遅延が起きると、転倒や制御不能につながりかねません。かといって指先の皮膚感覚まで本体の脳で処理すると、脳の部分がかなり高価になってしまいます。
樋口さんは、プログラミングでいうオブジェクト指向に近いと受け止めました。
人間でいうと脊髄反射により近くなってきたみたいなことかなと思ったですね。
一方の横山さんが連想したのはゴキブリでした。体が真っ二つになってもしばらく生きているのは、各神経に小さな脳のようなものがあるからだといいます。
RealSenseがこの方向に動いたことで、他の部位でも処理を分散させ、脳の負荷とコストを下げる流れが来るのではないかと注目されています。
頭脳はNVIDIA、五感は自動運転上がりの中国勢
ロボットを見極める軸として、番組では「頭脳」と「五感」の2つが示されます。頭脳については、NVIDIAを採用しているかどうかが1つの観点です。NVIDIAのAIチップは業界標準になりつつあり、Agility、Amazon、Boston Dynamics、Figureなど主要プレイヤーの多くが使っているといいます。
五感にあたるセンサーでは、LiDARは中国の華裁や速透視の2社が、自動運転で量産した実績をロボットに生かしているそうです。触覚センサーでもE-SKINやBASiNIといった会社がシェアを伸ばしています。
共通しているのは、自動運転で量産した中国勢が、そのままロボット業界に流れ込んでいることです。車で蓄積したノウハウと生産ラインを活用しているため、こうした別業界からの急な参入によって日本が危うくなっていると話されています。
| 観点 | 見るポイント | 背景 |
|---|---|---|
| 頭脳 | NVIDIAを採用しているか | 主要プレイヤーの多くが使う業界標準 |
| 部品の価格 | 安い部品を選べるか | サプライチェーンの価格は下がっていく |
| 調達の安定 | 中国製だけに頼っていないか | 国同士の関係で調達できなくなるおそれ |
注意点は、すべてを中国製に頼った場合の地政学リスク ── 国家間の対立や政治情勢の変化によって、取引や調達が止まるなどの影響を受ける危険です。全部中国製にするのか、日本製も取り入れておくのかが、これからの日本企業の戦い方になるという見方が示されました。
SONYとMinebeaMitsumiが握る小さな部品
完成したパーツでは弱い日本勢も、極小の部品単位では負けていないといいます。RealSenseのようなセンサーの中で網膜にあたるCMOSセンサー ── 光を電気信号に変える半導体の撮像素子。スマートフォンやデジタルカメラにも広く使われていますは、SONYの製品が世界シェアNo.1です。
アクチュエーター周りを滑らかに動かすボールベアリングでは、MinebeaMitsumiが世界シェアを取っています。ヒューマノイドが売れれば、中に入る日本の小さな部品も売れることになります。
ただし、海外では自社ですべてを手がける垂直統合 ── 部品の開発から製造、販売までを1社で一貫して手がける経営の形の流れがあります。最初はサードパーティー製で開発コストを抑え、のちに自社開発に置き換えるのは常套手段で、超高精度が必要な部分だけに日本の部品が残る可能性も話題になりました。
一方で、現時点ではさまざまな国が協力してロボットを作っている状態でもあります。どの国が勝つかを争っているとも、各国で協力して良いロボットを作ろうとしているとも見られる、という捉え方が示されました。
ヒューマノイドの手だけで300万円?
横山さんは、ヒューマノイドの手では中国のInspireが強いと説明します。手は実現が特に難しい部位です。
人間の手って20個以上の自由度が、自由度と動くパーツがあって構成されていて
人間は卵を割らないように持つ、硬いものには力を入れるといった判断を、触覚をもとに無意識に行っています。これを再現するのは難しく、安いメーカーでもハンドだけで300万円ほどするそうです。
ハンドはオプションパーツとして本体に後付けで買うのが一般的です。InspireはUnitree社のG1と公式に互換性があり、Unitree社の見積もりにもInspire製の5本指ハンドを組み合わせた構成が出ているといいます。
Unitree社自身は3本指の手を開発していますが、5本指は技術的なハードルが高く、新興企業が次々と出ています。触覚センサー付きか、なしで安くするかなど、用途に合わせて見積もる世界になっています。
もうだから自作PCみたいな感じになってる。
横山さんは、パーツが多すぎてヒューマノイドに詳しくない企業には最適な組み合わせがわからないと話し、詳しい人のアドバイスが必要だと指摘します。日本勢では、MinebeaMitsumiとHarmonic Drive Systemsが共同開発した5本指ハンドが2026年に試作公開されています。
横山さんによると、ハンドは今いちばん注目されている領域の1つで、関連する論文も多く、まだデファクトスタンダードが決まっていない段階だそうです。
モジュール化しやすい部位、しにくい部位
樋口さんは、手や目は境目がわかりやすくモジュール化しやすい一方、モーターやバッテリーを替えるのは複雑そうだと問いかけます。
目のセンシング、指先のハンドなど、サードパーティー製を付けやすい
肘関節や足など、体の内部に組み込まれ最初の設計で決まる
横山さんは、将来USB Type-Cのような共通規格ができれば、作業に合わせて右手だけショベルカーのようにするカスタムロボットも可能になるかもしれないと話します。ただ現状は、各社が自社に合った形で作っています。
USBなんかType-CとなんかミニBと何たらが出てきてみたいな感じで、規格によって接続できるかどうかが決まって
多分同じ歴史をたどりますよね。
樋口さんは締めくくりに、完成形として見ているヒューマノイドの中では、部品単位で経済戦争が行われていると振り返りました。
まとめ
ヒューマノイドの価格と性能は、モーター、減速機、センサー、ハンドといった部品で大きく左右されます。中国勢の価格破壊と参入が進む一方で、日本企業も精密部品で存在感を保っていて、どの部品を選ぶかがこれからの勝負になりそうです。
- ヒューマノイド本体価格の半分ほどが部品代で、アクチュエーターだけで40〜50%を占める
- Harmonic Drive Systemsの精密減速機に対し、中国では50%ほど安いモデルが登場している
- RealSenseはセンサー側で推論するエッジAIを取り入れ、本体の脳の負荷を減らす方向に進んでいる
- 自動運転で量産した中国勢がロボットの部品に流入し、調達先の地政学リスクも課題になる
- 手はハンドだけで300万円ほどする激戦領域で、部位の規格化が今後の焦点になりうる






