過去最高の売上の翌年に破産?
アメリカの写真大手ゲッティイメージズが破産手続きに入り、非上場化して再建を目指すというニュースが話題になっています。世間では「AIに負けたのではないか」という論争も起きています。
CEOセオさんは、このニュースを深掘りすると、ゲッティイメージズの問題はAIよりも株主や資本、負債の問題が大きいと見ています。
その根拠として挙げるのが業績です。ゲッティイメージズの2025年の売上は創業30年で過去最高の1550億円で、利益率も30%ありました。決して悪い会社ではないのに、最高を叩いた翌年に破産するという構図です。
(倒産手続きに入るのは)実際にAIの影響、もちろんゼロではないんですけど、創業家とか株主とか資本ですね、あとは訴訟とか、こういったもので非常に負債をたくさん抱えていて。
この整理が非常に必要であったというのが本当にシンプルな解なのかなというふうに思います。
ニュースの要旨としては、ゲッティイメージズは2026年10月12日に主要債権者と債権支援契約で合意し、今後数週間で連邦破産法第11条 ── いわゆるチャプター11。会社を清算せず、事業を続けながら裁判所の監督下で債務を整理する米国の再建型手続きですの適用を申請します。日本の民事再生のような形で、年内の再建を目指すとされています。
ゲッティイメージズは、写真家や取引先、顧客、従業員には影響がないと説明しています。一方で一般株主の株式は消去され、受け取りはゼロになります。サービスは止まらず、営業を続けながら借金を整理していく形です。
ゲッティイメージズは何を売っている会社か
ゲッティイメージズは、写真家がオリンピックやスポーツ、報道などの現場で撮った写真を、権利を保護したうえで使えるように公開しているサービスです。著作権や肖像権、商標を確認済みの状態で貸し出すため、CEOセオさんは「写真のレンタル屋と言っても過言じゃない」と表現します。
企業やメディアが写真を購入し、その対価が写真家に戻る仕組みです。さらに、借りた写真を使って企業が訴えられた場合にはゲッティイメージズが守るという、保険的な保証も付いています。
ゲッティイメージズの事業は大きく2つに分かれます。広告やウェブ広告に使われる汎用写真と、報道・スポーツ・エンタメ素材として「この人を使いたい」というときに使われるエディトリアル写真です。
売上200億円、前年比−2.6%
売上152億円、前年比+9.2%
芸能人やスポーツ選手など肖像権のある写真は、メディアがデリケートに扱う必要があるため、ゲッティイメージズが使われ続けています。大企業やメディア向けの高価格帯サービスは好調だといいます。
ゲッティイメージズは、中小企業向けのネット販売を担うiStock ── ゲッティイメージズ傘下のストックフォトサービス。比較的低価格で、個人や中小企業向けに画像素材を提供していますなど別ブランドも持ち、無料サービスを含めてさまざまな客層に売っています。写真家にとっては自分の写真を販売できる、仲介手数料型のプラットフォームです。加えて自社所有のアーカイブは仕入れが不要なため、利益率が高いとされています。
このサービスが必要とされる理由として、CEOセオさんはスピードと現場性を挙げます。オリンピックやWBCの試合直後に、世界中のメディアが選手の写真をすぐ選んで使えるのは大きな価値です。レッドカーペットのように、認められた写真家しか入れない現場の写真を有料で借りられることもメリットになっています。
さらに、ゲッティイメージズは100年以上前の歴史的な写真も使える状態で保存しています。AIで昔風の写真を作れるとしても、ハルシネーションのように事実でない可能性があるため、本物の昔の写真には価値があるとCEOセオさんは話します。
AI時代にむしろ有益な会社では?
CEOセオさんは、ゲッティイメージズを「本物であるという証明」と「使ってもいいという許諾」の2つの保証を売っている会社だと整理します。
今のAI時代で見ると、(ゲッティは)実は非常に有益な会社だと思いませんか、むしろ。
AIが生成した画像では、権利処理がどうなっているのか、使っていいのか、本物なのかがわからない状態です。それを明確に示しているのがゲッティイメージズだ、というのがCEOセオさんの見方です。
ゲッティイメージズ自身もAIに力を入れてきました。2023年には画像生成でNVIDIAと組み、自社の許諾済み写真だけを学習させたうえで、生成画像を商用利用した場合には上限なしで保証するとしています。学習に使われた素材については、元の写真家にも分配する仕組みです。
CEOセオさんは、この動きを音楽業界になぞらえます。Suno ── 文章の指示から楽曲を生成するAIサービス。Udioと並んで代表的な音楽生成AIとして知られていますやUdioといった音楽生成AIに対し、ユニバーサル、ソニー、ワーナーといった大手が「自分たちの曲を使っているなら分配しろ」と求め、それを作家やアーティストに戻す流れと同じ構造だといいます。
ゲッティイメージズは2025年にはPerplexity ── AIを使った回答型の検索サービスを提供する米国企業とも画像表示の複数年ライセンスを契約しています。基盤モデルを作る側から見れば、権利処理済みの素材から学習すれば基本的に問題がないため、ゲッティイメージズは「買いたい場所」でもあります。
原盤を持ち、その使用料で稼ぎ、原盤を作ったアーティストに印税を分配する。ゲッティイメージズの構造は音楽レーベルとよく似ている、とCEOセオさんは指摘します。それなのに、なぜ破産に至ったのかが次の論点になります。
創業から30年、オーナーが替わり続けた歴史
ゲッティイメージズは1995年、マーク・ゲッティとジョナサン・クラインの2人がロンドンで創業しました。マーク・ゲッティは石油王J・ポール・ゲッティの孫です。
簡単に言ったらボンボンなわけですね、めちゃくちゃね。ボンボンじゃないと、でもね、こういう権利をやるってなかなか難しかったんじゃないかなと思うんですよね。
ゲッティイメージズはその後、トニー・ストーン・イメージズのような歴史写真のアーカイブを持つ会社を買収し、散らばった写真の権利を買い集めて巨大化していきました。一方で、資本の面では苦労が続いてきた会社でもあります。
再上場の際に使ったSPAC ── 特別買収目的会社。先に上場した「箱」の会社が非上場企業と合併することで、通常の審査より早く上場する仕組みですで発行したワラントが、現在の問題につながっています。30年間のうちに、借金を背景にオーナーが何度も替わってきたのがゲッティイメージズの実情です。
事業規模としては、60万人を超える写真家・映像作家と組み、360を超えるコンテンツ提携先を持ちます。年間16万件を超えるニュースやスポーツ、エンタメの現場を撮影し、写真は6億点超、映像は3900万点超を抱えていると公開資料からわかります。
稼いでいるのに現金が足りない理由
ゲッティイメージズの本業は好調で、2025年の売上は過去最高の1550億円、EBITDA ── 利払い前・税引き前・減価償却前利益。本業がどれだけ現金を生む力があるかを見る指標として使われますも507億円で32%に達します。それでも現金が足りない、というのが問題の核心です。
CEOセオさんによれば、過去の純損失やフリーキャッシュフローの少なさに加え、現金を最も吸い取っている要因がSPAC上場時のワラントをめぐる訴訟です。
ワラント ── あらかじめ決めた価格で株を買える権利。新株予約権とも呼ばれますを投資家と結んで上場したにもかかわらず、ゲッティイメージズはその権利行使を拒否しました。結果として契約違反で訴えられて敗訴し、初回の訴訟だけで175億円を支払っています。ワラント関係の訴訟引当金は、2026年3月末時点で329億円に積み上がっています。
もう1つの負担が、画像プラットフォームのシャッターストックとの合併計画です。ゲッティイメージズは合併に向けて社債で993億円を調達しましたが、金利は一部で14%とも言われる高い条件でした。
結局この(シャッターストックとの)合併がなされなかったということで、結局お金だけが、利息だけが払い続けることになり。
ワラント訴訟
権利行使を拒否して敗訴。支払いと引当金で現金が流出
高金利の社債
合併資金として993億円を高い金利で調達
合併の不成立
利息だけを払い続け、総借入は6月末で3200億円超に
上場廃止へ
株価が低迷し、2026年9月29日に売買停止
チャプター11
債権者と合意し、借金を整理して再建へ
こうした結果、ゲッティイメージズは2026年9月29日に売買を停止して上場廃止手続きを始め、チャプター11へと進みました。年間契約者数は24万で前年比25%減、購入顧客数も63万人で10%減と、顧客面でも陰りが出ています。粗利率は高くても、借金を抱えているため全体の収益性は低いという状況です。
AIが駆逐するのはハイエンドではなく「中間」
一方でCEOセオさんは、ゲッティイメージズの苦境にAIの影響もあると認めます。人間が撮ったスポーツ写真のような上層の事業はむしろ伸びており、やられているのは中間層の汎用写真だという見方です。
AIが駆逐してるのはどこかというと、実はハイエンドのところではないと言いますよね。
では上層の事業だけに絞ればいいかというと、それでゲッティイメージズの損益が成り立つのかは疑問視されており、苦しい立場にあります。汎用写真が中心のシャッターストックは、合併中止後の四半期に売上が17%減っており、汎用モデルの会社のほうがAIのダメージを受けているといえます。
CEOセオさんは、中間があるからこそ文化が生まれ、人間が存在する価値もあると話します。例として挙げるのがシンガポールで、高級なハイブランドかファストファッションしかなく、真ん中がないといいます。
対して日本は、裏原宿やBEAMS、SHIPSといったセレクトショップのように、真ん中で伸びてきた国だとCEOセオさんは見ています。その真ん中がデジタルサービスではAIに駆逐され始めており、フィジカルやリアルの世界がこの先どうなるかが注目点だと締めくくります。
ゲッティイメージズに関してはちょっと借金が膨れ上がりすぎているということなのかなというふうに思いますので、やっぱり経営だなということかなと思います。
まとめ
ゲッティイメージズの破産は、過去最高の売上と高い利益率を持ちながら、ワラント訴訟や高金利の社債による負債で現金が尽きたことが主因だとCEOセオさんは読み解いています。そのうえで、AIが汎用写真のような中間層を削っている構造変化も重なっており、どこで戦うかが問われています。
- ゲッティイメージズは2025年に過去最高の売上1550億円を出しながら、翌年チャプター11へ進んだ
- 主因はワラント訴訟の支払いや、不成立に終わったシャッターストック合併のための高金利社債など、負債と資本の問題
- 権利処理と真正性を保証するゲッティイメージズの事業は、AI時代にはむしろ価値が高いとも考えられる
- AIが打撃を与えているのはハイエンドではなく汎用写真のような中間層で、シャッターストックの売上減にも表れている
- 中間が文化を支えてきた日本で、リアルの領域がどうなるかが今後の注目点とされている




