毎朝のジム通いはリーダーシップに効く?
本題の前に、大谷さんは黒川さんのジム通いについて尋ねます。黒川さんのジム通いは1年以上続いていて、筋肉がついてきた実感はあるといいます。
ただし黒川さんは、負荷を上げて体を大きくしたいわけではありません。重りの重さは変えず、同じ運動ルーティンを繰り返しているそうです。
でももう(ジムを)やらないと気持ち悪くなってきてるから。
忙しくても続く理由を聞かれた黒川さんは、日中の体調が大きく変わるからだと説明し、それはリーダーシップにも関わると話します。大谷さんは「物は言いようですよ」と返し、軽い掛け合いで本題に移ります。
「手持ちのカードが出揃ってしまった状態」とは?
この回のテーマは「ミドルエイジ・クライシス」です。大谷さんが、番組ディレクターから届いた問いかけを読み上げます。
ミドルエイジクライシス、中年の危機とは、30代後半から50代にかけて、これまでの生き方やアイデンティティを問い直し、将来への不安や焦り、虚無感に陥る心理的危機のことで、近年注目が集まり、関連書籍も多く出版されています。臨床心理学者の藤畑海人さんの書籍『ミドルエイジビギンズ』では、ミュージシャンの尾崎世界観さんが自身のミドルエイジクライシスを振り返って、「手持ちのカードが出揃ってしまった状態」と表現していますが、40代の入り口にいるお二人は、そのようなミドルエイジクライシスを感じることはありますか?
黒川さんは、自分の両親が大谷さんの写真を見るたびに「可愛い顔のままやな」と言う話を持ち出し、大谷さんは中年と認識されていないのではと茶化します。
大谷さんは、老けたという感覚と中年の危機は少し違うのではないかと問い返します。黒川さんは正確な定義はわからないとしたうえで、身体的な衰えと、成長や自己実現という軸の両方がありそうだと答えます。
楽しそうに生きる人に届かなかった後輩の相談
大谷さんは、前職の後輩から相談を受けた体験を語ります。後輩は40代が近づき、金銭的にはある程度満たされている一方で、AIの勃興もあり、このままいた場合のキャリアパスが見えてしまったと感じていました。
後輩は、出世もここまでだろうという感覚の中で、これからの人生をどう生きるか悩んでいたといいます。そして「直樹さんはすごく楽しそうに生きているので話を聞かせてほしい」と頼んできました。
(45分間)肩回しで頑張って喋んねんけど、すっごい届いてない感じで。
大谷さんはそのとき、自分が間抜けな中年のおじさんを演じてしまったような気がしたと振り返ります。テーマを読みながら、改めて難しいテーマだと感じたそうです。
それでも大谷さんが後輩に伝えたかったのは、仕事を選べることは自分の時間をどこにかけるかを決められることだ、という考えです。行き先が見えた出世ゲームに時間を使うことが無意味に感じられるなら、一度そのゲームのルールから離れたり降りたりしてみるしかないのでは、と話します。
先が見えると、なぜ苦しいのか?
黒川さんは、先が見えることはビジネスの文脈では予見可能性としてむしろ良いことのはずだと疑問を投げかけます。後輩には何が足りていないのか、刺激なのか、と問います。
大谷さんが受け取ったのは、「このままでいいのか」という明確ではないモヤモヤでした。仕事は続き、給料もあり、家族も大事にしていて、他人から見ればこのままで十分な状態だといいます。
でも本人はなんかこのままでいいのかっていうところにいるっていうのは、手持ちのカードが出揃ってしまった状態っていうのと結構似てるなと思って。
黒川さんは、人は蓄えの量ではなく「成長率」に快を感じるのかもしれないと話します。知り合いの起業家から、会社が成長しているスピード感があるときに従業員が最も生き生きしていると聞いたことがあるそうです。
今どれだけ蓄えや成果を持っているか
どれだけの速さで伸び続けているか
ただし黒川さんは、高い成長率を維持し続けることは、会社にも肉体を持つ人間にも物理的に不可能だと指摘します。大谷さんも、成長を常に求められる社会や会社では、本来ポジティブなはずの「成長」が本人のモヤモヤを増幅させている面があるかもしれないと応じます。
(成長し続ける)このパラダイムでいる以上は、物理法則とどっかでぶつかっちゃって、死ぬからさ、どうせ衰えて死んでいくから。
成果は自分の実力だけで生まれるのか?
黒川さんは、自分の成長や成功、世界に何を残すかは、自分の実力だけで叶うものでは決してないと話します。すべては関係性と偶発性のもとで成り立っている、という立場です。
関係性とか偶発のもとで成り立ってるっていう、すべてが。そこに立てると割と手放せる感じはあるよね。
そう考えると、成し遂げたことの規模や広さを直線的に測ろうとしなくなるといいます。大谷さんから中年の危機に入っているかと聞かれた黒川さんは、入っている感覚はないと答えます。
ただし黒川さんは、外交官時代の世界観で働き続けていたら、どこかで危機を迎えていたかもしれないと振り返ります。努力した分が成果になり、成果が昇任やさらなる結果につながるという世界観では、いずれスローダウンし、限界が見えてくるからです。
人生の残り時間はなぜ「狭いウィンドウ」なのか?
大谷さんは「ちょっと真面目な話でいい?」と切り出し、黒川さんがここ2、3年、「残りの時間で何を残せるか」と言い始めたことについて尋ねます。大谷さんの目には、黒川さんが40代を危機ではなく、前向きにセットし直した節目として映っていました。
黒川さんによれば、特別なきっかけはないものの、根拠なく「自分はそんなに長生きできない」という予感をずっと持っているといいます。死ぬまでに何ができるかという感覚は、30代後半ごろから持つようになったそうです。
さらに黒川さんは、努力して結果を得て、また努力するというモデルではなく、恵まれた環境や能力とのフィットが重なった創発的な現象として成果をとらえるようになりました。そう思うと、ありがたさが増していくと話します。
そのいろんなものをもらってるっていう状態(を)、いかにこう誰か違う人にギブして去っていくかみたいな感覚もあるし。
黒川さんが最近強く感じているのは、人が世界にギブできる期間の短さです。
お世話になる時期
精神的に成熟するまでは、世界のお世話になる
ギブできる時期
20年か30年ほど元気に働き、世界に何かを残せる
再びお世話になる時期
その後はまた誰かのお世話になって死んでいく
この窓がとても狭いと気づいたことで、黒川さんは時間の貴重さを強く感じるようになったといいます。
不安や焦りが湧くのは正常な反応?
大谷さんは、黒川さんの「残りの時間」という言葉は、聞き手に向けながら自分自身に言い聞かせているように見えると話します。黒川さんもそれはあるかもしれないと認めます。
お前のせいで俺の生き方とか残りの時間って何なんやろうって考えるようになってしも。
黒川さんの言葉を近くで聞く大谷さんたちには、「言われてみればそうだな」「大丈夫かな、このまま」という感覚が湧いてきたといいます。ただし大谷さんは、不安や焦りから行動しても意図した結果は生まれないと考えています。
そのため大谷さんは、不安や焦りが湧く自分をある種正常な状態だと受け止め、そこから自分はどう生きるのかを考えるようになったと話します。
だってまだ何が起こるかわからないっていうところがあるからさ。
大谷さんは、自分の今の状態を「カードが出揃った状態」とは言えないといいます。大事にしているものにつながって行動していけば、偶然に何かを引き寄せるかもしれないからです。
テイクよりギブ、それでも影響力は必要?
黒川さんは、自分の人生にどんな楽しいことが起きるか、あと何を得られるかという感覚だけでは消耗していくと話します。「何を残せるか」という問いは、頑張るための言い訳であり、安心材料でもあるといいます。
大谷さんは話しながら、どれだけテイクするかよりどれだけギブしたかで人生を捉えることが大事だと気づいたと語ります。
大谷さんは、この感覚を常に持てと言いたいわけではありません。迷ったときに戻ってくる言葉として、ギブの総量を大事にしていると話します。
一方で黒川さんは、多くギブしようとすると、影響力という基盤が役立つと指摘します。影響力を得る過程では、懸命に発信し味方を作るため、一般的には成功を狙ってテイクしている人のようにも見えるといいます。
大谷さんは、黒川さんがそう思われるリスクをわかったうえで、大事なものを届けるためにその役割に立ち切っているのだと見ています。
「ミドルエイジ・クライシス」という言葉に乗っ取られないために
黒川さんは「知らんけどね」と笑いつつ、ある立場だけに立ち切ることは怖いとも話します。大谷さんは、人間には二面だけでなく何面もあり、弱さも含めて揺らいでいくものだと応じます。
大谷さんはさらに、年齢の意味も社会によって変わると指摘します。1980年代ごろまでは定年退職が55歳とされていて、その基準なら二人の残りは12、3年になるといいます。
やっぱこの幻想的な老いとかミドルエイジクライシスっていう言葉にあんまり思いっきり乗っ取られないように。
黒川さんは、そもそもなぜこの現象に名前を付けて語りたがるのか、それで何を満たそうとしているのか、という問いが湧いてきたと話します。
大谷さんは、名前があることで予防できたり安心できたりして救われる人もいると認めます。そのうえで、言葉が生まれることで別の現象が起き、克服しても次の「別名クライシス」が出てくるかもしれないと、二人は語り合います。
こういう言葉が出てきた時に、それによって自分を当てはめに行っちゃうと結構しんどくなるなと思いつつ。
大谷さんは、こうした話をいろんな人と穏やかに交わしていくことが、自分を保つために大事だと締めくくります。
まとめ
40代の入り口に立つ黒川さんと大谷さんは、中年の危機を成長へのとらわれや人生の残り時間と結びつけながら、ギブという軸と、言葉に自分を当てはめすぎない姿勢へとたどり着きました。
- 先が見えたことによるモヤモヤは、成長率に快を感じる「成長し続けるパラダイム」と関係しているかもしれない
- 成果を関係性と偶発性の産物ととらえると、直線的な成功の尺度を手放しやすくなる
- 世界にギブできる期間は狭いウィンドウであり、その自覚が時間の貴重さにつながる
- 不安や焦りは正常な反応と受け止め、迷ったときは「どれだけギブしたか」に立ち返る
- 「ミドルエイジ・クライシス」という言葉に自分を当てはめすぎないことも大切






