毎年恒例、中学生の職場体験がやってきた
この回は、川上牧場で毎年恒例になっている地元中学生の職場体験の様子です。今年は4つの中学校から受け入れがあり、この日は川上さんにとって2回目の受け入れになるそうです。
来てくれたのは男の子2人、中学生Aさんと中学生Bさん。学校から「こういうことを職場に聞いてください」と渡された質問に、川上さんが1つずつ答えていく形で進みます。
今日から水木金でね、職場体験に来てくださっております。毎年恒例、学校からこういうことを職場に聞いてくださいという質問を答えていこうと思います。
最初の質問は「なぜこの仕事を選んだの?」
Aさんからの最初の質問は「この仕事を選んだ理由」でした。川上さんは、毎回必ず聞かれる定番の質問だと笑いつつ、子どもの頃から動物が好きだったところから話し始めます。
そこで川上さんは、Aさんが最初に買ったゲームソフトを尋ねます。Aさんの答えは「スーパーマリオオデッセイ」。川上さん自身が一番最初に買ったゲームは、ゲームボーイの「牧場物語」だったそうです。
その牧場物語ってゲームを一番初めに買って、お小遣いとお年玉一生懸命貯めて、そのゲームボーイと牧場物語買って。そればっかりずっとやってて、酪農に興味を持って。
進路を考える中学生ぐらいの時期に「酪農面白そうだな」と思い、そのまま酪農家を目指して今に至る、というのが川上さんの答えでした。好きなゲームで芽生えた興味が、そのまま仕事につながったという流れですね。
酪農家が持っている資格の数がすごい
次の質問は「必要な資格や免許、その取り方」について。川上さんは自分の免許証を見せながら、持っている資格を次々に挙げていきます。
まず紹介したのが、家畜人工授精師免許という国家資格です。これは牛に種付け(交配)をするために必要な免許だと説明されます。
さらに、黒毛和牛の母牛から受精卵を取り、ホルスタインの母牛に移植することで、ホルスタインから黒毛和牛を産ませる受精卵移植の免許も持っているそうです。
資格の話は牛だけにとどまりません。クレーンで物を吊り上げるための玉掛け、小型クレーン、フォークリフト、ガス溶接、アーク溶接、小型車両系建設機械の免許なども挙がりました。
農業機械では、トラクターを動かすための大型特殊免許や、トラクターの後ろに作業機をつけて走る牽引免許も持っているとのこと。20歳の頃に農業大学校で取れる資格をほぼすべて取ったそうで、免許証の写真は旧姓のままだと笑っていました。
資格がなくてもできる仕事に、なぜ資格を取るのか
ここで川上さんは、大事なことを付け加えます。実は農家は、保育士や税理士のように「この資格がないとできない」というものではなく、家庭菜園を始めればそれも農家、というくらい資格がなくてもできる仕事なのだそうです。
では、なぜたくさん資格を取るのか。川上さんは、資格があったほうが作業がしやすく、作業の幅が広がるからだと説明します。
作業の幅を広げるためにいろんな資格がいるみたいな。
さらに川上さんは、餌やりを例に出します。同じ作業でも、資格を持っている人と持っていない人では、かかる時間がまったく違うのだと言います。
そのうえで、もし自分が社長として人を雇うなら、短時間で作業を終えられる資格を持った人を選ぶ、という具体的な話につなげます。資格を持っていると効率よく働けるから、給料も高くなりやすいというのが、大人が「資格を取りなさい」と言う理由だと語りました。
資格はどこで取る?大学と専門学校の違い
Aさんは「その資格を取るまで何年ぐらい勉強したのか」と質問します。川上さんは、地元の鳥取県で農業関係の高校に進み、そのあと農業大学校に進学したと答えます。
紹介された資格は、この農業大学校の在学中に取れるものを全部取った、というのが川上さんの答えでした。
話は大学と専門学校の違いにも広がります。川上さんは、農業に特化して学ぶなら専門学校、種から苗、芽が出るまでを含めて全般的に学ぶなら大学、というイメージで説明します。
将来やりたいことが決まっているなら、資格が取りやすくカリキュラムのしっかりした専門学校を選ぶのがいいのでは、というアドバイスでした。
子牛が生まれる瞬間がいちばん楽しい
続いての質問は「仕事が楽しいと感じるのはどんな時か」。川上さんの答えは、子牛が生まれた時だそうです。
仕事が楽しいと感じるのは、子牛が生まれた時が一番楽しいですね。やっぱテンション上がるよね。
川上牧場は、母牛に種付けして赤ちゃんを産ませ、その子がまた大きくなって種付けする、というやり方を続けている牧場です。北海道から大人の牛を買ってくる牧場もある中で、川上牧場はおじいさんの世代から同じように牛をつないできたと言います。
だからこそ、牧場に合った牛が脈々と受け継がれていて、優秀な牛どうしをかけ合わせると、もっと優秀な子牛が生まれる。その積み重ねが楽しいというのが、川上さんの語る仕事のやりがいでした。
牛乳が余っている——大変さの裏にある現実
Bさんからの質問は「仕事が大変だと感じるのはどんな時か」。ここで川上さんは、まず2人に「今日牛乳飲んだ?」と尋ねます。
話は、いま牛乳を飲む人が減り、牛乳が余っているという現実に移ります。一生懸命乳搾りをしても、その牛乳が飲まれないとなったらどんな気持ちか、という問いかけです。
今現状そういうことになってるのがちょっと悲しいとかつらいですよね。
Bさんも、給食で牛乳がクラスで何個か余っている、と実感を語ります。川上さんは、牛乳アレルギーや乳糖不耐症で飲めない子がいることにも触れます。
一方で川上さんは、牛乳のよさも力説します。飲むだけでカルシウム、タンパク質、脂質、ビタミンB2が取れて、調理もいらない。牛乳はめちゃめちゃコスパがいいという点を、聞いているお父さんお母さんに伝えたいと話しました。
給食に牛乳がある理由は、法律とつながっている
Bさんが「保護者は子どもの安全が第一だし、飲みたい子からしたら飲まれないのは悲しい」と、両方の気持ちを言葉にします。それを受けて川上さんは、少し難しい話として学校給食法の話を始めます。
いまは食べ物が豊富にある一方で、家でなかなかご飯が食べられない家庭もある。そうした子もちゃんと元気に過ごせるよう、給食で1日のエネルギーの3分の1から半分ぐらいを取れるようにしている、と川上さんは説明します。
そして、そのエネルギーを満たすには牛乳がないと難しい、という話につながりました。牛乳が余っている問題と、給食に牛乳がある理由が、法律の背景でつながっている点が語られます。
この仕事、どんな人に向いてる?
Bさんの質問は「この職業はどんな人に向いているか」。川上さんの答えは、動物好きな人、そして体を動かすのが好きな人でした。
ただ、酪農にはいろいろな仕事があるとも川上さんは言います。餌やり、掃除、餌づくり、畑に種をまいて牧草を植えること、そして自分が好きだと話した牛の交配やかけ合わせ。
いっぱいあるんで、どれかは向いてんじゃないかなと思ってるんで、みんなが向いてるよって伝えといて。
「牛のお尻の中は宇宙」交配の話で盛り上がる
質問が一区切りついたところで、Aさんが交配について気になっていたことを尋ねます。牛の体に手を突っ込む作業について「怖くないですか」と聞くAさんに、川上さんは「やってみればわかるよ」と返します。
Bさんは、YouTubeで手を入れて直接受精卵を入れる映像を見たことがあると話します。川上さんは、その作業を職場体験中に一度やってみないかと提案します。
僕は牛のお腹の中、その直腸に手を入れるんだけど、お尻の中が宇宙ですから。
川上さんは、人生で一度あるかないかの経験だと言います。進学や就職でつらいことがあっても「牛のお尻の中に手を入れたことがある」という自信の一つになる、と少しユニークな理由を添えて、無理強いはしないと笑っていました。
好きな仕事か、儲かる仕事か
ここから話は、質問する側とされる側が入れ替わっていきます。川上さんが2人に「好きな仕事とお金が儲かる仕事、どっちがいい?」と尋ねると、2人とも迷わず「好きな仕事」と答えました。
川上さんは、一世代前はお金を稼げるほうを選ぶ子が多かったと振り返り、今の子は好きなことがやりたいんだ、と感想を口にします。
それよりはやっぱ好きなことして、多少は貧乏でもこうやって生きていきたいなっていうのは。
Aさんは、親世代がお金を優先してやりたいことをやらなかった「悪いところ」を見ているから、そうはなりたくない、と自分たちの感覚を説明します。Bさんも、親から「やりたいことやらずに儲かるだけで続けても続かないから、やりたいことを見つけて進んだほうがいい」と言われたと話しました。
これに対して川上さんは、儲かる仕事でお金があればやりたいこともできる、と別の見方も示します。ただ、自分は掃除や整理整頓は苦手でも、牛のお尻に手を突っ込むことはずっとやっていたいから酪農を選んでいる、と自分の例を挙げました。
多少貧乏でもモチベーションが続く。今の中学生2人はこちらを選んだ
お金があればやりたいこともできる。ただモチベーションが上がらない作業もある
AIが出ても仕事は楽にならない?高速道路のたとえ
話はAIの時代の働き方にも広がります。Aさんは、IT系で働く親から「俺の業界お先真っ暗だよ」とよく言われる、と打ち明けます。川上さん自身も、AIがあればサイトもアプリも作れると話します。
Aさんが「楽になってくる」と言うと、川上さんは「楽になる感覚」だと言い直します。そして、車や飛行機、スマホやパソコンなど便利なものが増えても人間は楽になっていない、と指摘します。
ここで川上さんが持ち出したのが、高速道路のたとえです。みんなが60kmで走っているところに80km出せる車が登場し、全員が80kmになったら、自分だけ60kmで走るか、という話です。
つまり、便利になっても周りも速くなるから、楽にはならず、むしろ厳しくなるかもしれない、というのが川上さんの見立てでした。ただし、2人の子や孫の世代はもう少し変わっているかもしれない、とも付け加えます。
仕事はしたい?したくない?変わってきた中学生の感覚
川上さんは「仕事はしたい、したくない、どっちがいい?」とも尋ねます。AIやロボットが出てきたとき、仕事をやらない方向を取るのか、AIを活用してもっと仕事をやってやろうとなるのか、という問いです。
2人の答えは、どちらも「やってやろう」でした。川上さんは、少し前まで「働きたくない」「1日中ゲームしていたい」という子が多かったのに、感覚が一周してきたようだと驚きます。
人と真正面で関わりたいっていうか。
さらにAさんは、一人で同じゲームをずっとしていると寂しくなる、と話します。友達と通話しながらゲームをしたり、家族や兄弟と会話がないと耐えられなかったりする、という今の感覚を率直に語ります。
これを聞いた川上さんは、分業で自分のノルマをこなすより、チームで一緒にやるほうがいいのかもしれない、と受け止めます。酪農は一人の時間が多い仕事でもあり、そこは自分に合うか考えるポイントになりそうだと話しました。
生の声聞くことないからね。自分の子供も同じぐらいの年齢だけどね。それとはまたちょっと違うからね。面白いです。
受験の心構えと、川上さんなりの進路論
最後にAさんが、川上さんに「受験の時の心構え」を質問します。初めての受験でとても緊張するので、落ち着くための方法や心構えを知りたい、という相談です。
川上さんは、自分は自己推薦で進んだので受験の苦しさは知らない、と前置きしつつ、いまの現状を伝えます。大学も高校も定員が余っていて、島根の高校では倍率が0.8や0.7という学校もあるのだそうです。
だからこそ、川上さんは「ここに落ちたら他のところに行けばいい」と思えば緊張しない、と語ります。プレッシャーをかけてくる人には「何を昔話の話をしてるんだよ」と思うと楽になる、という現状認識に基づいたアドバイスでした。
さらに川上さんは、あくまで個人的な意見と断りつつ、大学に行くより中卒で好きなことをすぐ始めたほうが、この先楽なのではないかとも話します。中学生や高校生で起業する人もざらにいる時代だ、というのが理由です。
Bさんも、原神などのゲームを録画して音声をつけてあげていた経験を話します。川上さんは、興味があることがすでにあるなら、それをやってしまったほうがいい、とすすめつつ「多数決で曲げるから、あんまり参考にしないで」と付け加えていました。
明日はライフプランシミュレーション
配信の最後に、川上さんは翌日の研修の予告をします。川上牧場の中学生研修では、体を動かす作業と座学が半分ずつ組み込まれているそうです。
翌日に予定されているのは、ライフプランシミュレーション。何歳で仕事を始めて、結婚は何歳で、子どもは何人欲しくて、仕事は何年まで続けて、何歳で亡くなるか、といったことをシミュレーションしてみる時間だと説明されます。
そうするとその不安みたいなのもちょっと可視化できるようになるので、その方法をちょっと勉強しようかなと思います。
将来への漠然とした不安を可視化する、という狙いです。こうして1日目の職場体験の配信は締めくくられました。
まとめ
中学生の職場体験の質問から始まったこの回は、酪農の資格や牛乳の現実だけでなく、「好きな仕事か儲かる仕事か」「AIの時代の働き方」「受験や進路」まで、世代を超えた会話へと広がりました。川上さんが感じた「今の中学生の感覚の変化」も印象的な回です。
- 川上さんが酪農を志したきっかけは、子どもの頃に夢中になったゲーム「牧場物語」だった
- 農家は資格がなくてもできる仕事だが、資格があると作業が早く、給料も高くなりやすい
- 牛乳を飲む人が減って余っている一方、牛乳は栄養面でコスパがよく、給食にある理由は学校給食法とつながっている
- 今の中学生2人は「好きな仕事」を選び、「人と関わりたい」「仕事をやってやろう」という感覚を持っていた
- AIが普及しても全員が速くなるだけで楽にはならず、大学は定員が余っているので受験は過度に不安がらなくていい、と川上さんは語った


