リスナーから届いた「リンの枯渇」という重たい質問
この日の配信は、リスナーから寄せられた質問に答える回です。テーマは、農業に欠かせない「リン」という資源のこれからでした。
川上さんはまず、リン鉱石が世界的に枯渇しつつあり、あと20年ほどでなくなってしまうかもしれないと言われていること、そして価格が高騰していることを紹介します。
リン鉱石ってわかりますかね。窒素、リン酸、カリっていう、農業の三大要素みたいなのがあるんですけど、これが世界的に資源がなくなってしまって、すごい高騰してるんですよね。
質問はYouTubeコミュニティに届いたもので、YouTubeネームのレイニーさんからでした。
世界のリンの枯渇による土壌問題について、酪農家目線でどう思いますか?日本は他国の輸出規制が来たらどういう対策が取れるのか、酪農家目線で教えてほしいです。
なぜリンは「国防」にもつながる問題なのか
川上さんは、消費者にとってリンの枯渇はまだピンとこない話かもしれないと前置きします。でもこれは、農業だけでなく国の食料問題にもつながる話なんだと語ります。
というのも、日本国内にはリンの資源がなく、輸入にすべて頼っているからです。原油やガソリンと同じで、船が止まれば肥料が入ってこなくなります。
肥料が入らなければ、農作物を作ることができなくなる。だからリンは、食の安全保障に直結する問題なんですね。
酪農家にとって「リン」はどこで効いてくる?
では、リンは酪農の現場でどう関わってくるのでしょうか。川上さんは大きく2つの場面を挙げます。
一つは、畑で育てる牧草やトウモロコシの肥料として使う場面。もう一つは、糞尿を堆肥として畑に戻す循環の中でも、リンは重要な要素になっています。
ところが近年はリンの価格高騰や入手困難が続いていて、買ってまくことだけに頼ると、コスト増で経営を圧迫してしまいます。
さらに川上さんは、牛の餌そのものにも影響が出ると補足します。飼料として与える有機リンや無機リンもあるため、餌のコストにも跳ね返ってくるんですね。
作物の肥料
牧草やトウモロコシを育てるためにリンをまく
糞尿の循環
糞を堆肥にして畑に戻す中でリンが循環する
牛の餌
飼料に含まれる有機リン・無機リンとして与える
輸入が止まったら?日本が取れる対策
もし輸出規制が強まって、輸入のリンが入らなくなったら、日本はどうすればいいのでしょうか。川上さんはAIがまとめた内容をもとに、具体的な選択肢を紹介します。
一つ目は、家畜の糞尿の有効利用です。牛の糞には窒素もリンも豊富に含まれていて、うまく堆肥化すれば、土壌改良と肥料代の削減が同時にできます。
ただし、輸送コストや臭い、保管といった課題もあります。だからこそ、地域ぐるみで有機物を循環させるネットワークづくりが鍵になると話します。
二つ目は、下水処理水からのリン回収です。人の排泄物にもリンは含まれていて、下水処理場の汚泥からリンを取り出す技術が進んでいるんですね。
日本にはマグネシウム添加法やストルバイト法といった技術があり、都市部で回収したリンを農業地帯に供給するルートが期待されています。
牛の糞を堆肥化し、土壌改良と肥料代削減を同時に。輸送・臭い・保管が課題
汚泥からリンを取り出す技術。都市で回収し農業地帯へ供給するルートが期待される
「多すぎ」も問題?必要な量を必要な場所に
ここで川上さんは、話を少し反転させます。リンは足りないことだけが問題ではないんです。
過剰にたまったリンは、河川や湖の富栄養化を招き、赤潮や藻の大量発生につながることもあります。
だからこそ、必要な時に必要な場所に必要な量だけ供給する技術と仕組みが、これから重要になると話します。
すでに畑作や露地栽培では、人工衛星から土壌の栄養量を観察して、足りない畑と撒かなくてよい畑を見分けるシステムも出てきているそうです。こうした技術を使えば、適切な量を届けられるかもしれません。
糞は資源、酪農は「食を支える循環」だった
川上さんは、昔の日本では人の糞尿を畑に戻して農業を維持していた歴史に触れます。今のリン回収の話は、その仕組みが新しくアップデートされて戻ってきているようだと語ります。
温故知新でもないですけど、昔ながらのやつがまた戻ってきてるのかな、新しくアップデートして戻ってきてるのかなというところですね。
そして川上さんは、酪農の見方を少し変えてほしいと呼びかけます。酪農は牛乳やお肉を作るだけではないんです。
海外から輸入した牧草やトウモロコシを牛に食べさせ、それを国内のリン資源として使うという側面もあります。リンをそのまま輸入すると高いけれど、牛を一度挟むことで、リンも回収し、牛乳も肉も得られるというわけです。
1リットル250円ほどの牛乳が高いと思われがちだけれど、こうした背景を知ると「なんてお安い飲み物なんでしょう」と感じてもらえるはず、と川上さんは締めくくります。
他の農作物を作るためにリンが必要で、そのリンを回すために牛が必要。酪農は、私たちの食を静かに支えているんですね。
まとめ
リンの枯渇という一見遠い話が、牛乳の価格や日本の食料事情にまでつながっていることが見えてくる回でした。糞尿を「捨てるもの」から「資源」へと捉え直す視点が印象的です。
- リンは肥料の三大要素の一つで、日本はほぼ全量を輸入に頼っている
- 輸入が止まれば農作物が作れなくなる、食料安全保障の問題でもある
- 対策として、家畜糞尿の有効利用や下水処理水からのリン回収が期待されている
- リンは足りなくても多すぎても問題で、必要な量を必要な場所に届ける技術が重要
- 酪農は牛乳や肉だけでなく、輸入牧草を通じてリンを国内資源に変える循環も担っている





