リスナーから届いた「酪農応援プロテイン」への疑問
今回の配信は、リスナーから届いた1つの質問がきっかけです。Xネームよりこさんが、Amazonで「日本の酪農応援シリーズ」と書かれた商品を見つけたそうです。
本当に応援できるものなら購入してみようと思っています。どういった仕組みなのかも気になります。
川上さんもこの商品が気になって、企業の情報や仕組みを調べたうえで紹介していきます。毎日飲むには少しお高い商品ではあるものの、酪農家を応援する新しいタイプの商品として登場したものです。
今回取り上げるのは、ビーレジェンドというブランドを展開する会社の「ノンファットミルクプロテイン」という商品です。川上さんはまず結論から切り出します。
ただし、よくある「1袋買ったら○○円を酪農家へ寄付します」というタイプではない、と川上さんは付け加えます。この商品がやっているのは、今日本で余っている国産脱脂粉乳に新しい売り先を作ることなんですね。
プロテイン会社と酪農、それぞれが抱えていた事情
まず、この商品を作っている会社の話です。販売しているのは、プロテインブランド「ビーレジェンド」を展開する株式会社リアルスタイル。奈良県の会社で、2011年からプロテインを販売しています。
つまり、乳業メーカーが「脱脂粉乳が余ったからプロテインにして売ろう」と始めたものではありません。もともとプロテイン市場にいる会社が作った商品だ、という点がポイントです。
開発の背景には、会社側の事情もありました。世界的なホエイ需要の増加、輸入原料価格の上昇、為替の影響などで、海外から輸入するホエイ原料だけに頼るリスクが大きくなってきたそうです。
そこで会社側は「別のタンパク源はないか」と探していました。一方で日本の酪農側には「脱脂粉乳の需要が足りない」という問題があった。この2つがつながって商品ができた、という流れです。
プロテイン会社
輸入ホエイが高く、国産の別の原料が欲しかった
酪農・乳業側
国産脱脂粉乳の新しい需要が欲しかった
消費者
タンパク質を取れる商品が欲しかった
それぞれ別の問題を抱えていた3者を、国産脱脂粉乳を使ったプロテインという商品でつないでいます。なので単純な応援商品というより、新しい市場を作る商品として見るとわかりやすいですね。
大山乳業との共同開発から続く関係
この会社は、酪農応援を突然言い始めたわけでもありません。リアルスタイルは2025年に、川上さんの出身地でもある鳥取県の大山乳業協同組合と、ビーレジェンドのWPCプロテイン「白バラコーヒー風味」を共同開発しています。
その時、大山乳業側から「牛乳の消費拡大にもつながるものにしたい」という提案があり、牛乳で割って飲むプロテインというコンセプトへ変えたそうです。約1年間で350回近く試飲して商品開発したとされています。
その過程でリアルスタイル側が用途別の乳価や酪農家の経営状況などを知り、牛乳でスマイルプロジェクトへの参加や、酪農現場を伝える取り組みにもつながっていったといいます。その延長線上で開発されたのが、今回のノンファットミルクプロテインです。
つまり、2026年になって突然パッケージに「酪農応援」と書いただけではない、ということですね。ずっと酪農を応援してくれている企業だという点を、川上さんは知ってほしいと話します。
JA全農も関わる商品と、パッケージ表示の注意点
この商品には、JA全農も正式に関わっています。全農の「ニッポンエール 酪農応援プロジェクト」との共同商品で、メーカーだけが「酪農応援商品です」と言っているわけではありません。全農側からも、国産脱脂粉乳の消費拡大を後押しする取り組みとして発表されています。
商品には、国産脱脂粉乳が主原料として使われています。カフェオレ風味の原材料を見ると、最初に「脱脂粉乳(国内製造)」と書いてあります。原材料表示は基本的に使用重量の多い順に並ぶので、主原料であることも確認できます。
ただし、「国産脱脂粉乳100%使用」という表示には少し注意が必要です。これだけ見ると袋の中身が全部脱脂粉乳なのかなと思うかもしれませんが、そうではありません。実際にはマルトデキストリンやインスタントコーヒー、甘味料なども入っています。
(この表示の)意味としては、使用している脱脂粉乳については国産を100%使っています、ということです。
つまり「脱脂粉乳を100%国産にしている」という意味であって、「中身が全部脱脂粉乳」という意味ではありません。ここは誤解しないようにしたいポイントですね。
なぜ脱脂粉乳が売れると酪農家が助かるのか
ここからが一番重要なところです。「脱脂粉乳が売れるだけで、なんで酪農家が助かるの?」という疑問に、川上さんが答えていきます。
仕組みはこうです。牛乳から乳脂肪を取り出してバターや生クリームを作ると、反対側に脱脂粉乳が残ります。それを乾燥させて保存しやすくしたものが脱脂粉乳です。つまり、バターと脱脂粉乳は同じ牛乳から分かれてできているものなんですね。
ところが、バターや生クリームは需要があるので売れますが、脱脂粉乳の需要はそれほど伸びていません。そうすると、片方だけの在庫が積み上がっていきます。これが今、日本の酪農・乳業業界で起きている問題です。
この在庫は、削減対策を織り込んだ上での数字だといいます。かなり大きな増え方ですよね。そして、この問題は乳業メーカーだけが困っているわけではありません。
脱脂粉乳の需要が崩れると、生乳全体の需給や価格にも影響していきます。農林水産省も、脱脂粉乳の需給安定による効果が、牛乳やその他の乳製品の需給・価格の安定を通じて、乳価の維持や引き上げにも酪農家側へ波及すると説明しています。
脱脂粉乳が積み上がると、酪農家さんの手取りがどんどん減って、酪農家さんが苦しくなるという構図になっているんですね。
寄付ではなく「需要を作る」支援という考え方
ここで川上さんが強調するのが、この商品は「寄付」ではないという点です。「1袋買ったら○○円を酪農家へ寄付します」「売り上げの何%を還元します」という仕組みは、この商品には確認できませんでした。
つまり2480円払っても、そのうち何百円かが酪農家の口座に直接入る、という商品ではありません。では、どうやって支援につながるのか。川上さんは支援の流れを整理します。
消費者が買う
リアルスタイルが国産脱脂粉乳を原料として調達する
新しい販売先ができる
脱脂粉乳の在庫負担・需給調整の負担が軽くなる
需給が安定する
生乳全体の需給・価格の安定につながる
酪農経営へ波及
結果として酪農経営の安定につながる
つまり、お金を渡す支援ではなく、商品を買うことで需要を作る支援になっている、という商品なんですね。
誰も我慢しない「三方よし」の仕組み
ここからは川上さんの個人的な評価が入ります。まず前提として、寄付そのものは素晴らしい行為だと断ったうえで、こう続けます。
寄付に頼ってしまうと、寄付が止まったら支援が止まってしまう。なるべくなら、寄付がなくても回る循環ができるのが健全かなと思います。
その点でこの商品は、会社・酪農家・消費者の三者すべてにメリットがある、と川上さんは見ています。会社は輸入原料への依存を少し減らせ、酪農家側は脱脂粉乳の市場が増え、消費者は欲しいプロテインが買える。
つまり、誰かが我慢して支援する構造になっていない、というわけです。企業の利益と酪農家の利益と消費者の利益が同じ方向を向いている。こういう社会課題の解決の仕方はいいんじゃないか、と評価しています。
1袋でどれくらいの脱脂粉乳を使っているのか
では、1袋で実際どれくらいの脱脂粉乳を使っているのか。ここからは公式の配合量ではなく、栄養成分からの参考試算です。イメージをつかむための数字として聞いてほしい、と川上さんは前置きします。
カフェオレ風味は1食あたりタンパク質が10.4グラム。一般的な脱脂粉乳は100グラム中およそ34グラムがタンパク質です。他の原材料由来のタンパク質を無視して単純計算すると、1食あたり約30.6グラムの脱脂粉乳に相当します。
1袋は560グラムで14食分なので、30.6グラム×14で約428グラム。つまり1袋で、およそ0.4キログラムの国産脱脂粉乳の需要を作っている可能性があります。ただし配合比率は非公開なので、あくまで栄養成分からの逆算の目安です。
この仮説で単純計算すると、10万袋で約43トン、100万袋なら約428トンです。一方、2026年度末の在庫予測は8万5600トン。つまり100万袋売れても、在庫の約0.5%程度にしかなりません。
この商品1つで日本の脱脂粉乳問題を解決できます、とはとても言えない規模です。それでも川上さんは、ここで評価を下げません。数字の大小より大きな価値がある、と話します。
「余り物の処理」から「新しい産業の原料」へ
川上さんが一番の価値だと考えているのは、脱脂粉乳を何百トン消化するかではありません。発想そのものの転換です。
これまで「余っている脱脂粉乳をどう処理しよう」という発想だったものを、「脱脂粉乳をプロテイン市場で売れる商品にしよう」と変えた。余り物の処理から、新しい産業の原料へ変えたところに価値がある、というわけです。
さらに、酪農家として一番期待しているのが「追加性」だといいます。普段牛乳を買っている人が、その代わりにこのプロテインを買っただけでは、酪農全体の需要はそれほど増えない可能性があります。
一方で、普段は海外原料のホエイプロテインを買っていた人が、国産脱脂粉乳のプロテインを選んだらどうでしょうか。海外に向かっていたタンパク質需要の一部が、日本の牛乳由来の原料へ移る。これは酪農にとって新しい需要になります。
だからこそ川上さんは、会社に公表してほしい数字を挙げます。売上金額より、国産脱脂粉乳を年間何トン使ったか。さらに、輸入タンパク原料を何トン国産乳原料へ置き換えられたか。この数字が出れば、もっと面白くなると期待しています。
例えば、このシリーズによって今年は国産脱脂粉乳500トンの新規需要を作りました、と言われれば、酪農家としてもこれは本当に市場を作っているなと判断できると思います。
質問への答えと、これからの酪農応援の形
現時点では、累計販売量や実際の脱脂粉乳の使用量までは公開情報で確認できていません。どこの地域の、どの乳業メーカーの脱脂粉乳を使っているのかも、今回の公開情報ではわかりませんでした。
「誰を応援している商品なのか」まで見えるようになれば、さらに価値が上がる、と川上さんは言います。これは商品を否定する話ではなく、酪農応援を名乗るからこそ、もう一段の透明性があるといいな、という期待です。
そのうえで、質問者のよりこさんへの答えです。「酪農を応援したいから選ぶ」という理由で買うのは十分あり、というのが川上さんの結論です。
大切なのは「酪農家への寄付の商品」と思って買うのではなく、「日本の脱脂粉乳をちゃんと売れる商品として使ってくれる市場を応援する」という感覚だといいます。この考えの違いこそ重要で、こういう企業が増えれば脱脂粉乳対策はもっと進む、というわけです。
最後に川上さんは、酪農応援そのものの発想を広げます。酪農家はどうしても「もっと牛乳を飲んでください」「チーズを食べてください」と考えがちですが、今回の商品は別の可能性を示しています。
牛乳を牛乳として売るだけが、酪農の応援ではないということですね。
日本で余っている乳成分を、スポーツや健康食品、介護食、海外市場など、今まで使われていなかった市場へ持っていく。余った牛乳をどう処理するかではなく、日本の牛乳から生まれる成分をどんな新しい産業へ持っていけるかが大切なのかもしれない、と締めくくります。
まとめ
今回の配信は、リスナーからの「酪農応援プロテインは本当に酪農家の応援になるのか」という質問に、酪農家の川上さんが仕組みを調べて答える回でした。寄付とは違う「需要を作る」という支援の形が見えてきます。
- この商品は「1袋買ったら○○円寄付」ではなく、国産脱脂粉乳に新しい売り先を作るタイプの酪農応援商品
- バターと脱脂粉乳は同じ牛乳から分かれてでき、脱脂粉乳が余ると生乳全体の価格を通じて酪農家の手取りに影響する
- 2026年度末の脱脂粉乳在庫は8万5600トンの見通しで、前年比約23.2%の増加とされる
- 会社・酪農家・消費者の三者すべてにメリットがあり、誰も我慢しない循環になっている点を川上さんは評価している
- 今後、国産脱脂粉乳を年間何トン使ったかなどの数字が公開されれば、応援したい気持ちはさらに高まる


