英語コンプレックスはどうすれば手放せるのか?
このエピソードは、50歳手前でCAになった河谷若江さん(わかちゃん)へのインタビューを振り返る「まとめ回」の後半です。Emikoさんが最初に挙げたトピックは、若江さんの話から思い出した自分自身の英語の話でした。
Emikoさんはシンガポール、アメリカと英語圏で暮らしてきました。帰国子女でも英語ネイティブでもない一方、留学経験から「英語ができるキャラ」と見られることもあり、本人も喋れなくはないと思いつつ、英語コンプレックスをしぶとく抱えていたといいます。
(英語は)喋れなくはないみたいな。自分でも多分思ってたと思うよ。だけど英語コンプレックスはずっと持ってたの。しぶとく。根深く。
変化のきっかけは、Emikoさんが「どうやら自分の英語は通じているらしい」と感じる経験を重ねたことでした。完璧に喋れていない自分を許せなかったEmikoさんに対し、Mikaさんは完璧を求める気持ちそのものを指摘します。
その完璧とかさ、100パーわかんないとダメとか、100パー言いたいこと伝えれないとダメとか、完璧手放すとすっごい楽になるよね。
Emikoさんは「ネイティブなんてほとんどいないのにみんな堂々と喋っている」という定番の励ましには、まったく救われなかったと振り返ります。綺麗で完璧な英語を喋りたいという思いが強く、気休めにもならなかったそうです。
転機は数年前に通った英語で学ぶ社会人大学院でした。Emikoさんは学位取得と並ぶ裏テーマとして「英語コンプレックス解消」を掲げ、普段なら手を挙げない場面でも発言を続けたといいます。Mikaさんは、そうしたチャレンジがなければその境地にはなれないと応じました。
完璧な英語を喋れない自分を許せず、「みんな堂々と喋っている」という励ましにも救われなかった
大学院で発言を重ね、「どうやら通じている」経験が積み重なって楽になった
「エミー」と名乗った高校時代から見えた、人としての価値
Emikoさんは英語コンプレックス解消のプロジェクトの中で、高校時代の交換留学を思い出しました。英語が喋れないまま渡航し、名前を呼んでほしい一心で「エミーって呼んでね」とイングリッシュネームを名乗っていたそうです。
私っていう話し相手に価値があれば、みんなちゃんとエミコって呼んでくれんのよね。
Emikoさんは、名前の問題でも英語力の問題でもなく、最低限伝わる英語は必要だとしたうえで、結局は人なんだと気づいたといいます。若江さんも英語だけで評価されているわけではなく、人として魅力があるから周りに認められていると話しました。
Mikaさんは、海外、特にアメリカではキャラが立っていることが日本以上に大事だと続けます。例に挙げたのは、英語が得意でないと言いながらアメリカで笑いを取り、人気を得ている渡辺直美さんでした。
ちゃんとここで人気をさ、得てさ、言葉超えてる何かでさ、人を引きつけてるわけじゃない。
Emikoさんは「言葉じゃない」という言葉に斜に構えていた時期もありましたが、渡辺直美さんの例も踏まえ、行き着くところは言葉ではないという境地に至れたと語ります。自分の経験やストーリーが価値を生むという実感が、コンプレックス解消に大事だったそうです。
言葉の壁を越える「ウィット」は知性だった
Mikaさんは若江さんの話から、言葉を越えるキーワードとして「笑い」を挙げます。単なるユーモアではなく、クレームや機嫌の悪いお客さんにもウィット ── 英語のwitで、その場に応じて機転の利いた言葉や振る舞いをする才知のこと。日本語では「機知」と訳されますで返せる力だといいます。
MikaさんがAIのGeminiに改めて尋ねたところ、ウィットは日本語で「機知」と呼ばれ、その場で機転を利かせて周囲を和ませたり感心させたりする「知性」だという答えだったそうです。Mikaさんは、これこそ若江さんがカスタマーサービスでやっていることだと感じました。
(面接に)受かった理由も自分じゃよくわかんないとか言ってたけど、あの底抜けの明るさと、昔から変わらないこのガハハ笑いと、あとこのウィットっていうとこできっと面接官の心を射貫いたんじゃないかな
Mikaさんはシンガポール時代、隣の席に来た若江さんの笑い声の大きさに驚いた思い出も語ります。二人で上司をいじったり冗談を言い合ったりしていた頃から、笑いは若江さんの大事な一部で、今はそこに大人の魅力が加わり、ウィットに富んだコミュ力が武器になっていると見ています。
さらにMikaさんは、アメリカが多民族国家で、言わなければ通じないローコンテクスト ── 言葉で明示的に伝えることを重視するコミュニケーション文化。共有された前提や空気に頼るハイコンテクストと対比されますの社会である点に触れます。共通認識が違う前提で人と関わる場面で、空気を緩める笑いを添えられることには大きな力があると話しました。
阿吽の呼吸や言わずもがなで通じるハイコンテクストの社会
多民族国家で、言わなければ通じないローコンテクストの社会。空気を緩める笑いが力になる
年を取ると、なぜ楽になるのか?
次のテーマは、インタビュー企画を始めた当初からMikaさんが考えていた「年齢」の話です。Emikoさんは、50歳手前でCAになった若江さんが楽しそうでエネルギーに溢れていて、その存在だけで勇気をもらったと話します。Mikaさんも、そういう人がいると知るだけで勇気が出るからインタビューを依頼したといいます。
40代になったEmikoさんは、10代から30代まで「自分は何者なのか」と自分探しに苦しみ、正直あまり夢もなかったと振り返ります。今は、どんな時に喜びを感じ、どんな時に嫌だと思うのかが少しずつわかってきたそうです。
こういう時に喜びを感じて、こういう時には嫌だなって思ってみたいな。だからすごいね、年取るってね、楽だし楽しいなってちょっと思ったりしてるの。
Emikoさんは娘から「ママは楽しそうだね」と言われるほどで、年を取るのは悪いことではないと最近強く感じているそうです。Mikaさんも、若江さんが自分をよくわかっているから取捨選択ができ、それは年齢を重ねてきたからこそだと応じました。
Mikaさんは、自分探しは若い時にやるものと思っていたものの、実はずっと続くのかもしれないと言います。Emikoさんは、進路選択や職業選択など、若い頃のほうが自分探しのプレッシャーが強いと付け加えました。
「もう50歳だから」に縛られないアメリカの空気
Mikaさんは本編での「ファビュラス・フィフティー」の話を思い出します。年齢の数字とキャリアは同じように語られがちで、「40だから」「50だから」という言い方をされやすいという指摘です。
50ってえ?なんか気づいたらもう50じゃんみたいな、なんかそんな感じの数字なんだよね。
40代で出産を経験したMikaさんたちにとって、50歳は気づけば目の前に来ている数字だといいます。Mikaさんは、アメリカにも年齢相応を求める価値観はあるとしつつ、年相応でないことを恥じるより、好きな服やライフスタイルで生きることに価値を置く人が多いと感じています。
例として、ニューヨークでミニスカートにポニーテール、革ジャン、ピンクのネイルと口紅で歩く70歳くらいの女性を見かけた話が挙がりました。誰も気にせず、街に違和感なく溶け込んでいたそうです。
Mikaさんは今回の話から、50歳からの伸びしろもあると改めて力をもらったと話します。大それたことでなくても、ちょっとやってみようと思うことがあれば、体もまだ元気なうちにやったほうがいいと感じたそうです。
「君が彼らのアセットになる」夫の言葉と年齢の価値
若江さんの夫がかけた「You don't need them, they need you.」「You be the asset.」という言葉も、Mikaさんは年齢の話に帰結すると考えます。40代、50代には若い人とは違う知識や経験が接客に生きるという話を、若江さんもしていたからです。
君が彼らを必要としてるかどうかは問題じゃないんだよみたいな。彼らが君を必要としてくれてるかどうかだから。
最初は「もうこんな年だし」と言っていた若江さんも、夫のアメリカ人らしい後押しに背中を押されました。Mikaさんは、アセット ── 本来は資産を指す言葉。人材について使うと、組織にとって価値のある優秀な人や貴重な戦力という意味になりますという言葉が好きだと言い、主婦として家にこもっていた若江さんが大手航空会社のアセットになったと語ります。
Emikoさんは、この言葉が出てくる夫も素敵だと話し、二人で「言われてみたい」と笑い合いました。Mikaさんはさらに、自分の力を社会に提供する場は大きな組織やビジネスのど真ん中でなくてもよく、自分が生きる世界とどう関わりたいかを考えてみたくなったと述べています。
日本で身につけたビジネスOSは海外で武器になる
Emikoさんはボランティアで高校生や大学生のキャリア教育に携わっています。学生からよく受けるのは「海外で働くには何が必要か」「日本で働くのと何が違うか」という質問だそうです。
解雇のしやすさのような制度の違いもあるものの、Emikoさんが伝えたいのは別の点です。日本で身につけた「基本動作」が海外でも普通に通じる、ということでした。
Emikoさんの言う基本動作とは、報連相 ── 報告・連絡・相談の略。日本のビジネスで基本とされる、上司や同僚との情報共有の習慣を指します、何かしてもらったらすぐお礼に行く、失敗したらすぐ詫びる、気持ちのよい挨拶、上司とのコミュニケーション、自分を売り込む政治力などです。
私、シンガポールで現地の企業で働いてたんだけど、なんかその時にさ、なんか「あ、私今までの自分で通用する」って思えたんだよね。
Emikoさんはかつて、日本でしか働いたことのない自分は海外では通用しないと思い込んでいました。それは「日本人は英語ができない」というメディアのメッセージなどによって思わされていた面もあると考えています。
英語がなくても暮らせる国で育ってんだからさ、英語話せないのなんて当たり前じゃん。
だからこそEmikoさんは、日本人であることにもっと自信を持っていいと語ります。日本のビジネス環境で育った報連相などの土台に、英語や専門知識が乗ってくるという考え方です。
Mikaさんも、英語が苦手でもAppleで成果を出している友人や、日本で教育を受け10年以上働いた経験が今アメリカで通用していると話す夫の例を挙げます。時間や規則を守る、言われたことをこなすといった人としてのOSが信頼につながり、若江さんが制服をきちんと着ているだけで褒められた話にも通じるといいます。
一方でMikaさんは、これは良し悪しではなく違いの話だと強調します。日本は外の文化を取り込むことに躊躇が少なく、ファミレスでニョッキを見たことがある人も多いけれど、アメリカの保守的な地域ではニョッキと聞いても分からない人がたくさんいるだろうと話しました。
想定外をネタに変える力と、アメリカ人の寛容さ
Mikaさんが次に挙げたのは、海外暮らしは予定調和では進まないという話です。想定外にめっぽう強い若江さんは、思い通りにいかないこともネタにしてしまう素質を持っていたといいます。
Mikaさん自身は予定調和が好きで、日本では電車が時間通りに来るのが当たり前でした。アメリカでは業者が約束の時間に来ない、工事が進まないといったことが続き、イライラしていては身が持たないため、気持ちを切り替えて解決策に頭を使うようになったそうです。
(若江さんの)その能力、私めちゃくちゃ鍛えられた。このイライラを笑いに変換する力。
Emikoさんは、自分なら笑いに変えるまではいかず「しょうがない」で終わるかもしれないと話します。Mikaさんは、諦めることも一つの能力だとしたうえで、後で誰かに話して笑いにしようとまで思えるのは強さだと述べました。
想定外が起きる
業者が時間通りに来ない、工事が進まない
切り替える
怒っているだけでは何も進まないと気づく
解決策を探す
交渉や解決に頭を使う
ネタにする
後で人に話して笑いに変える
Mikaさんは、その背景にある「寛容さ」も日本にいた頃の自分にはなかったものだと言います。夏休みのテーマパークで、子どもたちが炎天下で3時間ほど並んだ末に機械の故障で乗れなくなっても、騒ぎ立てる人はおらず、みんな「しょうがない」と受け入れていたそうです。
Mikaさんは、日本ならありえない光景で、お互いの期待値がそこまで高くないのだろうと見ています。日本は期待値が高いからこそスムーズな社会になっているとしつつ、対立が起きるのは寛容性が足りなくなっている時だと振り返りました。
期待値の違いは、若江さんのカスタマーサービスにも通じます。あまり期待されていないところで大きなサービスをすると驚かれ喜ばれる、そのサプライズが楽しいと若江さんは話していたそうです。
自分らしくいられる環境はどこにあるのか?
Emikoさんは、若江さんの活躍を「環境がフィットした」と捉えることもできると話します。イライラを笑いに転換する力やキャラが、そのままパフォーマンスとして発揮できる場があるからです。
なんか環境が合うことってバカにしちゃいけなくてさ。
Emikoさんは、自分らしくいることと社会に求められることが重なるのが天職であり、環境が合うということだと気づいたといいます。Mikaさんは、そういう場所を探しに行くという話だと応じ、Emikoさんは自分を変えずにいられる場所は日本だけではないかもしれないと語りました。
50歳を過ぎても夢を語っていい
Emikoさんが最後に取り上げたのは、若江さんが夢を語る姿でした。プライベートジェットやチャーター機の客室乗務員として搭乗する話を、楽しそうにいきいきと語っていたことが印象に残ったそうです。
夢が叶ったかどうかとか、叶うかどうかの話自体じゃなくてさ、もう楽しそうに(夢を語る)こと自体でさ、すごい人をいい気持ちにさせるなってすごく思ったの。
Mikaさんは、20代ならともかく同世代でそれをしてくれる人がいるのがとてもいいと話します。Emikoさんは、最近はやらなければならないToDoの話ばかりで、自分の夢を語る場面がなかったと気づいたそうです。
Mikaさんは、若江さんが友人に「CAいけるんじゃない?」と背中を押され、「もう年だし」と答えた時の返事を振り返ります。年齢制限なんてないのだから受けてみればいい、という一押しでした。
見切り発車でいい。アメリカ流の「まずやってみる」
若江さん自身は「実は何も考えていない」と言っていましたが、Mikaさんは、やる前に考えすぎること自体が無駄で、まず機会を作りに行くことが大事なのだと受け止めています。若江さんの夫の「10回声をかけて2回当たれば儲けもの」というナンパ術も、同じマインドセットだといいます。
Mikaさんによれば、日本人は準備が整ってから動こうとしがちですが、アメリカはプロダクトでもサービスでも、やりながら考え、修正していく姿勢があるそうです。研修は数十時間ほどで、あとは現場で覚えるという放り出され方にも、その軽さが表れているといいます。
Emikoさんは、日本では軽いことが悪いことのように思われている節があると指摘します。Mikaさんは、思慮深さが良しとされる文化で育ってきたとしつつ、思慮深さと見切り発車の両輪が必要かもしれないと語りました。
全部整理できたら、心の準備ができたら、資格を取ったら動く。機会を逃すこともある
とりあえずやってみて、やりながら修正・改善する。入ってから資格を取ればいい仕事もある
何言ってんの?ここアメリカよっていう言葉を通してさ、なんかこの見切り発車上等みたいなのにみんな思ってくれたらいいよね。
二人は、このポッドキャスト自体も第1回で「見切り発車」と言って始めたことを思い出し、いい意味で影響されてきているのかもしれないと笑い合いました。
CAへの憧れが再燃。ワンチャンありかも?
余談として、Emikoさんは中学生の頃に月刊誌『月刊スチュワーデス』を買うほどCAに憧れていたことを思い出します。シンガポール航空の制服もかっこよく見えていたそうです。
Mikaさんは実際にCAになろうと大学に進みましたが、9.11の影響でその年の採用が凍結されました。就職浪人はせず海外就職へ路線を変え、その後コーチングに出会ったといいます。
(CAに)50手前でなった人がいるかと思ってさ。え、私もしかしてワンチャンいける?と思って。
Mikaさんは「いける」と即答し、家事育児を引き受けてくれる夫付きならと冗談を交えます。若江さんの話のあと、アメリカ在住の日本人のSNSでも、アーリーリタイア後に国家資格を取って新しい仕事を始めようとする50〜60代と思われる女性を見かけたそうです。
Emikoさんは、日本のドラマ『時すでにおスシ!?』も、子育てを終えた女性が寿司アカデミーで寿司職人を目指す同じような話だと挙げました。やりたいことを見つけてキラキラし出す人に出会うと、素敵だと感じて刺激を受けるといいます。
わかちゃんのこの回はすごくそういう素敵な刺激をもらった回だったなって思ってる。
Mikaさんは、若江さんが「刺激を与える刺激ックスになりたい」と言っていたので大成功だと笑います。二人はこういう人がもっと増え、このポッドキャストで紹介していけたらと話し、次回は還暦を迎えてアメリカで生きるゲストが登場することを予告しました。
まとめ
河谷若江さんの回を振り返ったこのまとめ後半では、英語や年齢といった壁よりも、人としての魅力やウィット、日本で培った基本動作、寛容さ、見切り発車の姿勢が海外暮らしを支えるという気づきが語られました。50歳を過ぎても夢を語る若江さんの姿は、二人にとって大きな刺激になっています。
- 英語コンプレックスは、完璧を手放し「どうやら通じている」経験を積むことで和らぐ
- 言葉の壁を越えるのは人としての価値であり、ウィットに富んだ笑いはその知性の表れ
- 報連相や時間・規則を守るといった日本のビジネスOSは、海外でも信頼を勝ち取る武器になる
- 想定外をネタに変える力と寛容さは、海外生活に欠かせないスキル
- 年齢を理由に諦めず、思慮深さと見切り発車を両輪に夢を語っていい


