阿座上さんと小平さんはどこで出会ったのか
この回は、ゼブラ企業をテーマにした3本連続のゲスト回の初回です。ゲストはZebras and Companyの共同創業者で代表取締役の阿座上陽平さんで、初回は自己紹介と経歴、ゼブラ企業の基本的な考え方が中心になります。
パーソナリティの2人は、創業135年の株式会社アナテック・ヤナコ7代目の桺本頌大さんと、創業115年目の小平株式会社の小平勘太さんです。桺本さんはまず、阿座上さんと小平さんがいつ知り合ったのかを尋ねます。
小平さんによると、もともとは薩摩会議 ── 鹿児島で開かれている、地域や経営をテーマにしたカンファレンス。この回の収録時点では、再来週に開催予定と話されていますなどを通じたつながりでした。距離が縮まったのは、Zebras and Companyが京都で開いた学会のような場で、小平さんの会社が調査対象企業に選ばれたことがきっかけだったといいます。
さらに小平さんの会社は、日建設計が運営する共創プログラムとZebras and Companyが共同で運営するソーシャルアクション支援のプログラムに採用されました。そこから1年半ほど、阿座上さんに伴走してもらっていると話しています。
(初めて会ったのは)2024年の夏とかに、ローカルスタートアップ協会が京都でやったイベントで。
阿座上さんは、小平さんの話は以前から聞いていて名前は知っていたものの、直接会ったのはそのイベントが最初だったと振り返ります。現在は小平さんの秘書とポッドキャストも続けていて、この日はその収録に続いて2本目のポッドキャストだったそうです。
マーケティングとカルチャーを掛け合わせたキャリアの原点
阿座上さんは43歳で、Zebras and Companyを2021年に創業し、現在5年目です。パーソナリティ2人の135年、115年という社歴を聞いて、「その歴史は僕は人生の中で作れない」と圧倒されたと語ります。
阿座上さんはもう1社、北海道でお菓子を作り東京でも販売する北海道コンフィットグループにも関わっています。グループには創業45年ほどの洋菓子店のほか、最近は100年ほど続く札幌のお菓子屋さんも加わったといいます。
お菓子との関わりについて桺本さんが尋ねると、阿座上さんは大学時代にさかのぼって説明します。東京で育ち、原宿や渋谷で遊ぶなかで洋服などのカルチャーが好きになり、それを仕事にできたらと考えていたそうです。
学問でも学ぶ(マーケティング)のって、世の中で必要とされてるものをプロダクトにして、ちゃんと利益が出る構造を作って、届けるまでの仕組みを作って、知ってもらうっていう、この4つのポイントをマネージするのがマーケティングなんですけど。
阿座上さんは、このマーケティングにカルチャーを加える事業をやりたいと考えました。ただ、自分は勇気を持ってチャレンジするタイプではないとして、当時は起業せず、商品開発の会社や広告代理店など専門の会社を1社ずつ経験したといいます。
その結果、2014年から2018年までお菓子のスタートアップである株式会社BAKEに在籍しました。焼きたてチーズタルトやアップルパイ、プレスバターサンドで知られる会社で、創業者と一緒に事業を作ってきた4年間だったそうです。
阿座上さんによると、BAKEはゼロから始まり、離れる頃には売上が数億円後半まで伸び、国内外で100店舗ほどになっていました。創業者は2018年に事業をファンドに売却し、数年の研究や視察を経て、2021年から北海道でお菓子の事業を始めています。
桺本さんが「そこからゼブラにつながるのか」と聞くと、阿座上さんは、北海道のお菓子事業とZebras and Companyは2021年に同時に立ち上げたものだと答えています。
お菓子屋が牧場をやるなら、温室効果ガスはどうするのか
阿座上さんの肩書きには、ユートピアアグリカルチャーのプロデューサーという役割もあります。これは北海道のお菓子グループの中にある会社で、出発点は気候変動の問題でした。
気候変動の中で温室効果ガスの20〜30パーセントの要因が酪農畜産だと言われてるんですね。
桺本さんが「牛のゲップのような話か」と返すと、阿座上さんはゲップやおならだと応じます。お菓子屋として原材料にこだわるため牧場をやりたかったものの、今の時代に牧場をやれば温暖化の原因になってしまうと悩んだそうです。
そこで阿座上さんが見つけたのが、リジェネラティブアグリカルチャー ── 土壌の健康や生態系を回復させながら行う農業の考え方。日本語では環境再生型農業や循環再生型農業と呼ばれますという手法でした。
牛を育てると温室効果ガスが出て、温暖化の原因になってしまう
牧草地や森林と一緒に牛を育て、植物や大地に吸収してもらうモデルを目指す
阿座上さんによると、ユートピアアグリカルチャーはこうして育てた牛の牛乳でお菓子作りをする会社です。その事業のプロデュースを担っているのが、肩書きのつながりだと説明しています。
話は阿座上さんの生い立ちにも及びます。生まれは福岡県直方市の炭鉱町で、物心ついた頃には関東にいて、実際に育ったのは千葉だったそうです。親も福岡出身のため、東京にいると自分は田舎者だと感じると話しています。
ゼブラ企業は4人の女性起業家のブログから生まれた
ここから小平さんが質問に加わります。小平さんは年上ながら阿座上さんを「あざ兄」と呼んでいて、阿座上さんはもともと事業の人であり、大きな売上やローカルからグローバルへの展開を何度も経験してきた人だと紹介します。
そのうえで小平さんは、そうした経験を経た阿座上さんがゼブラという考え方の何に衝撃を受け、日本に持ってこようと思ったのかを尋ねました。
阿座上さんはまず言葉の由来から説明します。「ゼブラ企業」は日本に持ち込む際に付けた名前で、もとは「Zebras」という言葉でした。提唱したのは、アメリカ西海岸で起業した4人の女性起業家です。
阿座上さんによると、彼女たちは資金調達や事業提携の場で、女性だから、有色人種だからといった事業と関係のない理由で断られることがありました。コミュニティ型のビジネスで急成長するモデルではないから出資できない、とも言われたそうです。
「それっていいんだっけ?」とブログに書いたところ、大きな共感が集まり、3万人規模ともいわれるコミュニティができたといいます。共感した人たちの事業を抽象化すると、社会性と経済性を両立し、仲間と一緒に何かをしようとしているのに、既存の仕組みには合わず成長の力を集めきれていない、という共通点が見えてきました。
急成長をする会社ってディスラプティブって言われるように、既存の産業を壊して新しいものを作る時に、それはそれで人類の発展だからいいんですけど、やっぱり負が出てきてしまう。
そこで、負を直しながら、ゆっくりでも成長するモデルがあってもいいのではないかという考えが生まれました。比喩として選ばれたのが、いるかいないかわからない幻の動物であるユニコーンに対する、実在するシマウマです。
いるかいないかわからない幻の動物。既存の産業を壊しながら急成長するモデル
白と黒、つまり社会性と経済性がはっきりした実在の動物。負を直しながら、ゆっくりでも成長するモデル
阿座上さんによると、ゼブラという言葉が生まれたのは2016年から2017年ごろです。桺本さんは、アカデミックな場から生まれた言葉だと思っていたので、資金調達で苦労した女性たちの声から生まれたのは意外だったと感想を述べています。
アメリカでゼブラはどこまで広がっているのか
桺本さんは、提唱者のいるアメリカでゼブラのムーブメントが広がっているのかを尋ねます。阿座上さんの答えは、いまはまさに頑張って広げているタイミングだというものでした。
トランプ政権になってESGとか社会的なことが結構言いづらい状況もあったりするので、なかなかタイミング的に浸透しきれてないってことが正直なんですけど。
阿座上さんは、アメリカではアメリカンドリームのように成長を求める考え方が根強いとも説明します。一方で、日本を含む他の国ではゼブラが広がってきていて、アメリカにこだわらず各国で学びをシェアしていくのが今のフェーズだと話しています。
ここで桺本さんは、自身が働いていたオーストラリアのCanva ── オーストラリア発のオンラインデザインツールを提供する企業。テンプレートを使って誰でも手軽にデザインを作れるサービスで知られていますを例に挙げます。売上の一部を植林に充てるなどしていて、CEOのメラニー・パーキンスさんは自身の財団を持ち、給料をほとんど取らずに環境問題などへお金を出していると紹介しました。
桺本さんは、Canvaはユニコーンとゼブラの両方をやろうとしているように見えると問いかけます。阿座上さんは、Canvaを詳しく知らないので分類はわからないとしたうえで、理想的なゼブラ像を語りました。
その事業自体が回れば回るほど何かが良くなる構造を持っていて、かつそのミッションを成し遂げられるガバナンスの構造を持ってると、理想的なゼブラだなと思ってはいるんですけど。
阿座上さんは、ゼブラには特に定義を付けていないとも付け加えます。そのうえで、桺本さんが紹介したような活動をしているなら、Canvaはゼブラ的だと思うと答えています。
ゼブラ企業の4つの特徴とは
次に桺本さんが尋ねたのは、京都の老舗などが大切にしてきた三方よし ── 「売り手よし、買い手よし、世間よし」を表す、近江商人の商いの心得に由来する言葉。商売を通じて社会にも貢献すべきだという考え方ですとゼブラの違いです。地域の雇用を守ることやお祭りにお金を出すことと、ゼブラは少し違うのではないかという問いでした。
阿座上さんはまず、Zebras and Companyがゼブラ的な経営として掲げる4つの特徴を説明します。
| 特徴 | 阿座上さんの説明 |
|---|---|
| 事業成長を通じてより良い社会を作ることが目的 | 余剰利益でCSRをするのではなく、事業が回るほど何かが良くなり、それが結果ではなく目的になっている |
| 多様な力を組み合わせる | お金のレバレッジだけに頼らず、時間をかけた信頼、クリエイティブによる期待、コミュニティでの合意形成を組み合わせる |
| 長期的でインクルーシブな経営姿勢 | 株主やオーナーのためだけでなく、次の世代や自然、原材料の先の働き手まで含めて意思決定する |
| ビジョンが共有され、行動と一貫している | 経営者が社会や会社への思いを言語化し、行動と一貫させている |
阿座上さんは、ゼブラと三方よしの会社は基本的にかなり近いと考えています。そのうえで、具体的なやり方に違いがあると話します。
違いの1つ目は、地域や自然に何をもたらすかという社会的インパクトを、事業戦略とともに意図的に設計していることです。阿座上さんは、理念だけでなく経営の戦略になっている点を挙げ、実行し、測定して改善を回していることも違いだとしています。
もう1つは、実行に必要な資金や仲間の集め方です。阿座上さんは、資金調達や株主構成を未来に向けて組み立てるなど、経営の仕方にスタートアップに近い部分があると説明しています。
売上以上の野心を持つ経営者とは
阿座上さんは最近の会話で気づいたこととして、素敵なゼブラ企業経営者には売上以上の野心があると話します。
自社の売上を上げるとかっていうこと以上に、この自分たちを育ててくれた産業が衰退するならもっと大きくしたいとか。
育ててもらった街から人がいなくなってしまうなら、みんなが素敵だと思えるような街を新しく作りたいとか。
阿座上さんは、この野心性がいわゆる三方よしとは少し違うところかもしれないとしています。続く会話では、日本の老舗は環境に合わせて動く適応型が多いのに対し、ゼブラはあるべき姿を設定してそこから逆算する、スタートアップ的な姿勢を持つという整理も出ました。
社会性を大切にする点はゼブラに近い。環境に対して適応的に動く姿勢が多い
社会的インパクトを戦略として設計し、測定する。あるべき姿から逆算し、売上以上の野心を持つ
その一方で、ゼブラは全部に当てはまったら認定されるものではないと説明されます。ゼブラ的かどうかにはグラデーションがあるという考え方です。
剣道とか華道みたいに、道みたいなものだと思ってて。
ゼブラ的な経営をしたいと思った時点で1級のようなもので、そこから黒帯やその先へ進んでいく世界だと説明されています。ただし、社会に根付いて経済も動かすには、それぞれの会社の実行力が問われる部分も出てくるとしています。
会話の中では、ゼブラはユニコーンとの対比として生まれた言葉であり、ゼブラ的なことをしてきた会社は日本には昔からあるので、すべてをゼブラに当てはめる必要はないという見方も示されています。
なぜ日本では老舗企業がゼブラに共感したのか
阿座上さんは、日本のゼブラは独自に進化していると話します。2019年ごろにユニコーンとの対比としてゼブラを紹介すると、すぐに日経新聞やテレビ東京のニュース番組、Forbesに取り上げられ、概念で終わらせず実装しようと投資も行う会社を作ったといいます。
アメリカではコミュニティ型の事業の人たちが共感したのに対し、日本ではスタートアップに加えて、老舗企業からの反応が強かったのが特徴だそうです。
阿座上さんの見立てでは、上場企業やスタートアップが注目され、数字で評価されることに、もどかしさを感じていた経営者が多くいました。長い時間をかけて築いたサプライチェーンや雇用、地域は、売上や利益だけでは測りきれないものだからです。
もどかしさ
上場企業やスタートアップが注目され、数字で評価されることに違和感があった
言葉がない
売上や利益で測れない価値を、長い説明でしか伝えられなかった
ゼブラの登場
「最近ゼブラってあるんですよ」と一言で言えるようになった
(ゼブラという言葉で)一言で言えるようになったってことがすごく嬉しいという風に、皆さんにいただいて。
桺本さんも、これまでは「環境的なことも考えていますよ」くらいしか言えなかったとして、ゼブラという言葉が生まれたこと自体が1つの発明だと受け止めています。
小平さんは、ゼブラという言葉がグローバルな文脈とつながっている点を評価します。海外の人に説明するのが楽になり、海外のカンファレンスで小平株式会社の事例を紹介できる機会もあるといいます。
小平さんは、ローカルから海外のネットワークに直接つながれることは有効だとして、言葉を日本に持ち込んだことがそのつながりを生むと話しています。次回はZebras and Companyが何をしようとしているか、その次は後継ぎとゼブラがテーマになると予告されました。
まとめ
ゼブラ企業は、資金調達で不当に断られてきた4人の女性起業家のブログから生まれた、ユニコーンと対になる考え方です。日本では、数字だけでは測れない価値を説明する言葉を求めていた老舗企業が強く共感し、三方よしに近い精神を戦略や野心として実装する道として広がりつつあります。
- ゼブラは、社会性と経済性を両立し、負を直しながら成長するモデルとして2016〜2017年ごろに生まれた
- 特徴は、事業成長を通じた社会づくりを目的とすること、多様な力の組み合わせ、長期的でインクルーシブな経営、ビジョンと行動の一貫性の4つ
- 三方よしとは近いが、社会的インパクトを戦略として設計・測定する点と、売上以上の野心を持つ点が違いとして挙げられた
- ゼブラは定義に当てはめるものではなく、目指した時点から始まる「道」のようなものだと阿座上さんは話す
- 日本では老舗企業の共感が強く、海外のネットワークとつながる共通言語にもなっている





