うまくいかない組織の話を、なぜ取り上げるのか
「おいしい組織」は、組織づくりを料理になぞらえて経営や事業の考え方を語る番組です。最近はリスナーから直接感想が届くようになり、チームビルディングや経営顧問の回が好評だったという声も聞こえてきたそうです。
そこで宇尾野さんと池原さんは、リスナーのお便りをもとに、組織がうまくいかないときにどうするかを深掘りするシリーズを始めることにしました。普段はオープンにしづらい場面やテーマを扱う企画です。
うまくいかないシリーズ第一回目というところですね。明るくいきたいです。
明るく、基本的に全部明るく着地しますんで、ご安心ください。
初回に池原さんが読み上げたのは、次のようなお便りです。
3ヶ月連続で売上目標を割ってしまいました。社員には「ちょっと厳しいけど頑張ろう」としか言えていません。資金繰りを含めて全部話をしたいのですが、話した瞬間に優秀な人から辞めてしまいそうでとても怖いです。どこまで正直に何を伝えるのが正解なのでしょうか?
宇尾野さんは、世の中には好景気の会社も多い一方で、表に出ないところで業績が作れていない会社や事業が縮小している会社もあり、こうした場面は意外に多いと見ています。すべての処方箋ではなく、ヒントを一緒に考える回だと位置づけました。
池原さんも、組織と人の話は「こうあるべき」を語りがちだと指摘します。このシリーズでは、実際に起きてしまったこと、起こりうることを、いろいろな角度から考えたいと話しています。
業績の停滞は、どの経営者にも訪れる?
宇尾野さんが周囲での売上目標未達の多さを尋ねると、池原さんは、多いか少ないかの肌感覚はわからないとしつつ、会社を長くやっていれば停滞や業績悪化は普通にあるものだと答えました。
その状態を底としてどう上に行くかっていうところのこの狭間は、皆さん必ず一度は何か経験してるんじゃないかな。
宇尾野さん自身も、事業会社にいた頃にも、自分で会社を経営する今も、思った通りにいかない状態を経験してきたといいます。目論見が崩れたときに、そのまま伝えれば社員にとって不安でしかないと悩んだ場面もあったそうです。
そのうえで宇尾野さんは、この相談の出発点を整理します。伝えた結果どうなるかを想像して議論できていないこと、そしてそもそも普段から社員に情報を伝えていないことが、根っこにあるのではないかという見立てです。
会社が船なら、沈みかけたとき乗組員に何を伝える?
池原さんは、お便りを受け取ってから考えたことが2つあったと話します。1つ目は映画のタイタニックでした。
会社って船だとすると、従業員は船の乗組員なわけですよね。船長が社長であると。
池原さんは、船が沈みそうなとき、どういう判断をすれば助かるかを考えれば、何をどう伝えるべきかが見えてくるのではないかと語ります。
2つ目は、業績悪化が創業者にとって「恥」になりやすいという点です。資金繰りを含めて最終的な責任は経営者にかかるため、業績の悪さが自分の人格を否定されているように感じられ、自分と会社を切り離せなくなるのではないか、と池原さんは考えました。
宇尾野さんは「全く同じ想像をした」と応じ、船の例えを広げます。何かにぶつかる場面だけでなく、気づかないうちに欠陥から少しずつ沈んでいく場面もあり、別の役割を担っている乗組員はそれに気づきにくいといいます。
早めに言っておけばいいものをちょっと溜めちゃってとか、なかなかその情報伝達がうまくできなくて、結局本来伝わるべき方々に良きタイミングで伝わってない。
事実・解釈・対処に加えたい「あなたへの影響」とは
宇尾野さんは、業績悪化を伝えるときの中身として、よく話される3つの要素を挙げます。何が起きているかという事実、経営チームや数字を見る人がそれをどう解釈したか、そしてどう対処するかという打ち手です。
宇尾野さんがここに加えてほしいと話すのが、聞いている社員一人ひとりへの影響です。会社全体の戦略や施策を説明して終わるケースが多く、この部分は意外に抜けがちだといいます。
事実
今、会社で何が起きているか
解釈
経営チームや数字を見る人がどう捉えたか
対処
どういう打ち手で対応しようとしているか
あなたへの影響
部署の動きや給与など、聞き手に何が起こりうるか
宇尾野さんが例に挙げるのは、数字が立ち上がらなければ部署の動きを止めざるを得ない、場合によっては給与の調整が入るかもしれない、といった話です。こうした内容がギリギリになって伝わると、不満の温床になるといいます。
当然それ(影響)は約束ではないので、こんなことも起こるかもっていうのはお伝えいただくと、変な煽りにならない。
池原さんは、人は曖昧で漠然とした状態ほど不安が膨らむと受け止めます。客数が落ちているのか、新規と既存のどちらが落ちているのか、単価が下がっているのかといった要因を伝え、それが続くと仕事がどうなるかまで話すことが誠実さであり、打ち手にもつながると整理しました。
「不安」と「危機感」はどう違うのか
宇尾野さんは、希望理論 ── 目標とそこへ至る道筋、それを進む意志がそろうと人は希望を持てるとする心理学の考え方。米国の心理学者C・R・スナイダーらが提唱しましたという考え方を引きながら、「不安」と「危機感」を分けて説明します。
何が起こるかわからない、曖昧な状態
何をすべきかはわかっていて、やるかやらないかの筋道が見えている状態
宇尾野さんによれば、経営チームや会社全体が「何が起きているかはわかっていて、これからこうしようと思っている」と見えるだけで、社員の不安や曖昧さは減っていきます。それをなるべく早い段階で伝えられるかがポイントだといいます。
池原さんは、お便りにあった「ちょっと厳しいけど頑張ろう」という言葉に注目します。「ちょっと厳しい」は、人によってはひどく不安を感じる表現です。
これ(ちょっと厳しい)をより定量的に、誰でも認識のずれがないように伝えることが、もしかしたらすごく大きなポイントかもしれないですね。
数字の読み方を平時から教える「オープンブックマネジメント」
宇尾野さんは、経営者と近い場面に関わった経験を話します。どこまで開示するかを話し合う中で、経営者から「でもメンバーがこの数字を見てもわからない」という声が出たそうです。普段は売上と利益の話くらいしかしていないため、数字の悪化が何を意味するのかが、該当部署以外には伝わらないという状況でした。
そこで宇尾野さんが伝えたのが、リクルート時代に教わったオープンブックマネジメント ── 財務情報を社員に公開し、その読み方を教えることで、社員が経営の当事者として考え行動できるようにする経営手法。米国で広まりましたという考え方です。
宇尾野さんの説明では、オープンブックマネジメントでは、普段から研修などで数字の読み方を教育します。財務諸表をどう読み解くと自社にとって良いのか悪いのか、この事業ではどの数字がどう変われば良く、どこまで行くと危ないのかを、あらかじめ共有しておくのです。
変に経営陣が補足しなくても普段から情報も触れられますし、触れた情報に対しての感度が高くなる。
宇尾野さんは、有事が起きてから対応するのではなく、平時のうちに準備しておくことが大事だと強調します。
池原さんは、会社員だった頃は給料の出どころを考えず、ボーナスの額や評価の高低ばかり気にしていたと振り返ります。経営側になって初めて、数字とボーナスや業績の関係が見えたといい、「本当に反省」だと話しました。数字のリテラシーは、日々の計数管理や、何の数字がどう上がればインセンティブにどう結びつくかの理解に直結すると考えています。
優秀な人には、同志として情報を渡す
宇尾野さんは、お便りのもう1つの論点である「話した瞬間に優秀な人から辞めそう」という不安に話を移します。池原さんは、苦しい時期に優秀な人が抜けることは、経営者にとって「もっと沈むのでは」という恐怖になると共感しました。
宇尾野さんの経験では、優秀な人に情報を初めて渡すときは、一緒に問題を解消していく同志として協力関係をつくれるかが大事だといいます。
単純に対岸の火事じゃないですけども、別のものとして捉えちゃうと、優秀な方々(と書かれている人たち)は、当然別のもっといい環境に行こうみたいな話になる。
そのため宇尾野さんは、いかに自分事になってもらうかが鍵だと見ています。相手が今どんな役割を担い、どんなコンディションにあるかによって打ち手は変わるものの、当事者として一緒により良くしていくチームになれるかがポイントだといいます。
苦しいときに「立て直そうぜ」と言える人が優秀?
池原さんは、そもそも「優秀」とは何かを考えたといいます。業務をさばける、仕事ができるというだけの意味なら、業績が悪く給料も下がるとなれば、すぐ辞めていくかもしれません。
(ウノさんが言ったように)「気持ちに火をつけて立て直そうぜ」って言える人が優秀だと私は思いたいなって感じましたね。
宇尾野さんも、難局を共に乗り越えられる仲間であり、周りとの関係ができていて、他の人も巻き込める人かどうかだと言葉を重ねました。
池原さんは、隠すことのリスクにも触れます。優秀な人がそうした気持ちを持っていたとしても、「もっと早く言ってよ」「なんでそれを隠してたの?」と感じて離れてしまう可能性があるからです。
そのため池原さんは、今が危機であること、どんな状態か、そして「あなたの力が必要だ」ということを、とにかく早めに伝えるしかないと考えています。
宇尾野さんは、危機的状況では経営者自身も不安で、心が安定していないことが多いと話します。そのうえで、相談できる人はまだよく、自己開示やヘルプシーキング ── 困ったときに周囲へ助けを求める行動や力のこと。心理学や組織論で、個人の回復力やチームの機能に関わる要素として注目されていますができていると評価しました。逆に正直に話すことを恐れると、仲間が離れたり、本来乗り越えられた状況で手が遅れたりするといいます。
うまくいかない話ができる経営者仲間はいるか
池原さんは、経営者の仕事は数字を作ることであり、それがうまくいかない状況は想像以上に苦しいと話します。だからこそ、心をメンテナンスして冷静になり、経営者仲間に相談したり、番組にお便りを出したりして振り返るワンステップが大事だといいます。
宇尾野さんは、こうしたうまくいかない話自体が、世の中にあまり出てこないと指摘します。
うまくいってることばっかり。
そうですよね。なんかSNS開けばみんななんかね。
キラキラしてますもんね。
宇尾野さんは、仲間が全員同時にうまくいっていないことは少ないと話します。うまくいっている人もいない人もいる中で「こういう時どう乗り越えるんだろうね」と話せるコミュニティがあれば、難局を重く捉えすぎず、乗り越え方に向き合えるのではないかと考えています。
キャッシュが尽きかけた池原さんが語る、自分を信じること
池原さん自身も、売上が右肩上がりの時期もあれば、初期にキャッシュが尽きかけた時期もあったと明かします。
本当に銀行口座見て泣きたくなる時もありましたし、右肩上がりのものがガクンと下がってしまって、ほんとピンチだったとか、いろんな経験があります。
そうした経験を経た池原さんがたどり着いたのは、自分を信じるところからしか人は信じられないという考えです。
池原さんは、苦しくても「なんとかできるんじゃないか」という自分への希望があれば、他者とつながりながら乗り越える希望を広げていけると話しました。
平時の信頼が、有事の痛みを吸収する
宇尾野さんは、危機を乗り越えるためには情報開示と普段からの信頼関係づくりが欠かせないと改めてまとめます。
宇尾野さんによると、相談や対策はたいてい有事になってから動き出します。だからこそ、平時のうちにどれだけ準備できるかを、どのリーダーにも意識してほしいと話しました。
池原さんも、有事には「右向け右」と強いリーダーシップを発揮しなければならない場面があるとして、普段から透明性を持って信頼関係を築くことを勧めます。特にリーダー間や役員会では、数字について隠し事をしない姿勢を徹底したほうがいいといいます。
一方で池原さんは、ピンチの時に離れていく人がいても、それはそういうものだと受け止め、次の立て直しのフェーズで新しい出会いがあると考える気持ちも大事だと話しました。
宇尾野さんは、この回を「難しい場面に陥ったリーダーの勇気を出す会」と表現し、聞いた人が「今のうちにこんな準備をしておこうか」と考える余白にしてほしいと語ります。池原さんも、悪い時のことを言語化して語り合い、それを届けることで勇気づけられる人がいると信じていると締めくくりました。
まとめ
業績悪化を社員にどう伝えるかという相談に対し、2人は、事実・解釈・対処に加えて「あなたへの影響」まで早めに伝えること、優秀な人を同志として巻き込むこと、そして何より平時から数字の読み方と信頼関係を育てておくことの大切さを語りました。
- 伝える中身は「事実・解釈・対処」に「あなたへの影響」を加えると、最悪の想像が膨らみにくい
- 「不安」は何が起こるかわからない状態、「危機感」はすべきことが見えている状態であり、筋道を早く示すことが鍵
- オープンブックマネジメントのように、平時から数字の読み方を教えておくと、有事の情報も正しく受け止めてもらえる
- 優秀な人には同志として早めに情報を渡し、「もっと早く言ってよ」と離れられる事態を防ぐ
- 経営陣への信頼の厚さが有事の痛みの吸収を左右し、経営者自身も相談できる仲間を持つことが助けになる







