なぜセイタロウデザインは「ほぼフル出社」なのか
収録の合間、山崎さんのオフィスが賑やかだったことが話題になります。クリエイター組織というと、おしゃれだけれど人が少なく静かなイメージを持たれがちですが、セイタロウデザインはその印象とは違うようです。
クリエイター皆さんの組織に、私も何回かいろんな会社出向いた時に、結構静かで、場合によってはかなり立派でおしゃれなんですけど、人がいないみたいな感じなんですけど。
うちリモートが週1してもいいよぐらいの感じで、基本的には出社ルールなんで。
山崎さんは、収録中も一度立ち歩き、メンバーに声をかけて戻ってきたといいます。そのやりとり自体が、このチームらしさを表しているようでした。
うるさいから静かにしろっつって。集中しといてつって。
フル出社を大事にしているのには、明確な理由があります。山崎さんは、クリエイティブをチームでやる意味は非言語の世界にしかないと考えています。
言葉になることをつなぎ合わせても、クリエイティブのジャンプってなかなか起きないんですよ。
同じ空間にいて、同じ課題や同じプランを作っていく中で生まれる空気感まで含めて、掛け算になる。山崎さんはそう話します。
本当にフルリモートで全員やる、そういうのが下から上がってきたこともあるんですけど、それはもう全部拒否して、スタイルなんで。
フルリモートを望む声がメンバーから上がってきても、山崎さんはそこを譲りません。それが嫌ならフリーランスやギルド型の組織に行けばいい、とまで言い切ります。
料理と組織、そして「クリエイター組織のらしさ」
この回のテーマは、デザイン視点で考える「おいしい組織」の作り方です。宇尾野さんは、料理を作ることと組織を作ることが近しいと捉えています。
同じ鶏肉料理でも、煮るか焼くか揚げるか、どの調味料を使うかで味が変わる。宇尾野さんは、料理をクリエイティブ性の高いものだと語ります。
それも誰と食べるか。3人で囲むのか一人で食べてるのか、仲間を呼んできたのかでも全然同じ味にならない。
組織も同じで、同じテーマを何人かでやるのか、オンラインでやるのか、一人でやるのかでアウトプットが変わってきます。宇尾野さんは、教科書的になりがちな組織論に揺らぎを作りたいという思いから、この番組を始めたと話します。
憧れたクリエイティブチーム「トマト」から学んだこと
クリエイター組織のあり方を語る中で、山崎さんは独立前から「どういう組織を作るんだろう」と考えていたことを思い出します。
当時僕がデザインを志した頃って、クリエイティブチームとかクリエイティブユニットみたいなのがめちゃくちゃ多かったんですよ。
山崎さんがベストだと思っていたのが、イギリスのクリエイティブチーム「トマト」でした。
山崎さんが当時聞いていた話では、トマトは世界中に拠点があり、各メンバーが独立した仕事をしながら、毎月一定のフィーを組織に入れ、固定費やインフラを担保していたといいます。
これめちゃくちゃかっこいいなと思って。世界中に行けるし、自由だし、働き方も。やっぱ力がないとできないじゃないですか。
しかし、その形は完全には閉じきらなかったと山崎さんは振り返ります。時代の中で活躍できる人とできない人が出てきて、辞めていく人もいたためです。
個人で社会と戦いに行ける自由度はありながら、いい時も悪い時も組織で支え合う。山崎さんは、トマトを見てその両立の必要性を感じたと話します。
各メンバーが独立して社会と戦いに行ける状態を保つ
いい時も悪い時もあるから、個人を組織で支える仕組みを持つ
独立時に社長へ言った「力が欲しいです」
宇尾野さんは、前回から続く山崎さんの話に「戦う」「刀」といったアナロジーが多いことに気づきます。柔らかい語り口の中に、パワフルな言葉が混ざるのが印象的だと話します。
その象徴が、独立時のエピソードです。山崎さんは最初の2年半だけ代理店に勤め、辞める時に当時の社長へ「力が欲しいです」と伝えたといいます。
辞める時に当時の社長に言ったのは力が欲しいですって言われました。
この言葉には元ネタがありました。当時好きだった漫画『ARMS』の、力に飲み込まれそうになるシーンをモチーフにしていたそうです。
言い方は結構マイルドですよ。引用がそういうあれだけど。やっぱ力って大事なんだなって思いました。
リーダーにできるのは「体現し続けること」
好きなことをやれる、余白を生かせる組織を維持し続けるために、リーダーとして意識していることを問われ、山崎さんは「一番は体現し続けること」だと答えます。
その原点には、学生時代のサッカー経験があります。一個上の先輩が「神」のように振る舞うのに、明らかに自分の方が上手いと感じる場面が好きではなかったといいます。
言うならそりゃ蹴れないととかって思っちゃってたんで。
だからこそ山崎さんは、自分ができることを高め続け、やりたい組織のスタンスを一番体現し続けることを意識しています。
トップランナーであり続けるのは苦しくないのか、と宇尾野さんは尋ねます。しかし山崎さんは、そんなことはないと即答します。
僕がこれをやめたらうちにいる意味ないからって言ってるんで。
山崎さんにとっては、やりたいことをやるためにやっている感覚だといいます。眠くても新しいゲームソフトをギリギリまで遊ぶ、あの子どもの頃の感覚に近いそうです。
やりたいことが湧き続ける理由と「やらないことを決める」
情報があふれ、小さなやりたいことならいくらでもある世の中で、リーダーとしてやりたいことが思いつき続ける理由を宇尾野さんは尋ねます。
山崎さんは、お客さんが変わると考えることが変わる仕事だからこそ幸せだと語ります。新しいクライアントとの出会いは、新しいおもちゃが出てくる感覚だといいます。
今まで全然接点がなかった、おもちゃが出てくるみたいな感覚なんですよ。また新しい遊び方が出てきたとか、遊んだことないおもちゃがいっぱいあんだみたいな感じ。
一方で山崎さんは、前回話した「運用はやらない」という姿勢と同じく、やらないことを決めるっていう方が正しいと考えています。
絶対に楽しいことに変わらないものってやっぱり一定数あって、それは拾わないというか、それは切っていく。
運用はパターン化され、流れが出来上がっていくもの。成果を出すには必要でも、デザイナーとして作る楽しさの積み上げの先にある形ではなかった、と山崎さんは説明します。
クライアントの事例は、登山でいえば「山小屋」でしかない
クリエイティブの仕事では、他社の事例を挙げて「あの会社みたいにやりたい」と近いことを言われる場面があります。宇尾野さんは、そうした要望とどう向き合っているのかを尋ねます。
山崎さんは、それを登山に例えます。クライアントが挙げる事例は、山を登る途中に置かれた山小屋のようなものだといいます。
一緒に並走して登っていって、本当にそれが山の頂点になることってのはほぼないです。今現時点で思われてることですよねってだけなので、全然気にしてないです。
見えやすいマイルストーンとして一度置くことはあっても、途中からは誰も気にしなくなっている、と山崎さんは話します。
やりたいことがあって、そのために組織が拡張していく
組織が大きくなったり、新しいチャレンジをする時、何が変化の起点になるのかを宇尾野さんは尋ねます。
山崎さんの答えは明快で、やりたいことがあって、そのために組織が拡張していくという順番です。組織のために何かを取りに行くことは基本的にないといいます。
やりたいことがあります。で、やるために組織が必要になりましたよね。じゃあ作ろうみたいな順番ですかね。
山崎さんは、世の中にあるものは建築でも洋服でも全部作りたいと語ります。映像事業をやろうとなればプロダクションを作り、建築を始めた時には建築部門ができ、先月には大阪支社も作ったそうです。
やりたいことがある
建築、映像、ゲームなど、作りたいものが出てくる
組織が必要になる
それを実現するために部門や拠点が必要になる
組織を作る
プロダクション、建築部門、大阪支社などを作る
次にやりたいこととして、山崎さんはゲーム作りを挙げます。瞬発的にユーザーに何かを考えさせ反射させる表現は、今知っている中ではゲームが頂点だといいます。
壮大なメッセージも伝えられるし、それを身体性を伴って相手に届けられるっていう意味でいうと、ゲームはなんか本気で作れたら嬉しいなって思いますね。
美の本質を突き詰めると、すべての表現は繋がる
グラフィックと建築は遠いものに思えますが、山崎さんの中では繋がっています。美の本質を突き詰めると、すべての表現、すべての文化芸術が繋がってくるといいます。
具体例として、山崎さんはスイスのタイポグラフィのグリッドシステムと、日本の木造建築の軸組工法が繋がる美学だと語ります。
山崎さんは勉強が好きだと話します。人間にとって時を超える美しいものにたどり着くために、先人が残したものをまず吸収する、と考えています。
先人たちがやってくれてるものは吸収してからじゃないと、新しいものに近づく時間が圧倒的に早いんで。
ブランドは人事まで接続しないと組織に落ちない
話題は、クライアントのブランド作りと組織作りの関係に移ります。ブランドの表現の仕方と、それを体現する組織づくりは、クライアント側では繋がっている話だと宇尾野さんは指摘します。
山崎さんは、その繋がりは大いにあると答えます。理念を作りビジュアルで伝える話と、価値観を行動に落としていく話を、両軸で設計していくといいます。
そのために、制服をデザインし直したり、従業員がどうブランドを体現していくか、そのレポートの仕組みを作るところまで手がけることも多いそうです。
デザイナーは「人間の心を動かすプロ」
クライアント特有の業界背景は、その会社の人事部が持っている。山崎さんは、自分たちの役割をそことは別のところに置いています。
人間の心を動かすプロであるっていう感じの感覚なんですよね。そこにデザインとか言葉の力を使って並走する。
例えば製造業のリブランディングで「女子高生が働きたいと思うようにします」と掲げ、工場の中に隠れミッキーのようなものを作る案が出てくる。山崎さんは、人の心をどう作るかがデザインの得意分野だと語ります。
宇尾野さんは、この番組が目指す「おいしい組織」も、まさに人の心を動かすことだと応じます。管理や労務のサポートに偏りがちだった日本の人事のあり方を、楽しさやクリエイティビティの高い方向へ持っていくチャレンジを、小さなところから始めていると話します。
まとめ
山崎晴太郎さんが語ったのは、身体性を起点にしたクリエイティブ組織の作り方でした。フル出社にこだわる理由から、力への渇望、やらないことを決める姿勢、そしてブランドを人事まで接続する視点まで、一貫して「人の心を動かす」という軸が通っていました。
- クリエイティブのジャンプは非言語の世界にしか起きないため、身体性を大事に、ほぼフル出社を選ぶ
- 人はいい時も悪い時もあるから、個人の自由度と組織での担保の両立を目指す
- リーダーにできるのは体現し続けること。組織のトップランナーでい続ける
- 何でもやるより「やらないことを決める」ほうが大事で、楽しくならないものは切る
- やりたいことがあって、そのために組織が拡張していく。ブランドは人事まで接続して初めて組織に落ちる



