リスナーからの相談「Whyの深さはどう見分ける?」
今回の本題は、扇谷さんからのお便りが起点になっています。以前の回で「Why・Whatが決まっているなら半分以上クリアしている」と回答したことへの、掘り下げの質問です。
相談の中心はこうです。たくさんの起業家を見てきた高宮さんは、Why・Whatの深さや強さをどう見分けているのか。
同じ言葉で語られていても、腹落ちしている人とそうでない人の差は必ず出ると思うのですが、その差はどこから現れるのか、何を聞けば見えてくるのかを知りたいです
さらに「こういうWhy・Whatはかなり要注意」というパターンがあれば知りたい、という質問も添えられていました。自分では熱く語れているつもりで、実は危険信号だったら怖い、という不安からです。
シード期に見るのは「なぜその人がやるのか」
高宮さんはまず、ベンチャーキャピタリストの視点を説明します。事業がまだ構想段階のシード期に何を見るかと聞かれると、答えは「人」だと言います。
その人がなぜこの事業をやるのか。理由がその人自身に強く根付いているかが大事だと話されています。
なんでこの事業をやるのか。その理由がやっぱりその人自身にすごく根付いていること。例えば幼少期の原体験とか、もうカルマ的に背負っている生い立ちみたいなところに根差しているか
例として挙げられたのが、代々続く町工場で職人の高齢化とともに匠の技が失われるのを見て、AIで技をスケールさせる製造業を作りたいと考える起業家です。自分に根差した本気度が高いと感じられる、というわけです。
要注意なのは「他人軸」に乗っかったWhy
一方で高宮さんが要注意とするのは、他人軸や世の中一般軸に乗っかってしまうパターンです。
たとえば「スタートアップがクールだと言われているから、スタートアップをやりたかった」というような、手段が目的化してしまうケースです。
起業家になりたかった、社長になりたかった、お金持ちになりたかった、世の中から評価されたいからこうやります、みたいなのは結構危ないなと思っていて
なぜ自分軸が重要なのか。それは起業後に必ず訪れるハードシングス起業後に直面する困難な局面や苦しい状況を指す言葉。資金繰り、採用、事業の停滞などが代表例とされるを乗り越える力になるからだと説明されます。
そこを踏ん張らせるモチベーションの強さこそがすごく大事だと思ってるんで
原体験やカルマ的に背負ったものに根差し、自分がこうありたいという絶対軸から課題を解決したいと語れる
他人軸や世の中一般軸に乗っかり、起業家になりたい・評価されたいなど手段が目的化している
原体験と後付けの「ハイブリッド」という現実
ここで長谷川さんが、自身のキャリアを例に語ります。ライティングから福祉への転身は突拍子なく見えるものの、原体験と後付けのハイブリッドだと言います。
原体験としては、自身が数年間うつで苦しんだ当事者性や、家族に知的障害のおじがいたこと。一方で、AIでライターが食われていく中、福祉は相対的に人が必要で将来性がある、という後付けの整理もあると話します。
割となんか原体験とその市場の魅力のハイブリッドで、今自分の中で整理がついてるんで、やりがいを持ってやれてるんですけど
これに対し高宮さんは、後付けの部分は「なぜ今なのか」を問うWhy nowなぜ「今」その事業をやるのか、という問い。市場のタイミングや、自分の中での確信の高まりを説明する要素とされるに重なるのではないか、と整理します。
端から見ると、ライティング、ポーカー、福祉ってめっちゃ飛び石やん、ピボットじゃないって見えるんだけど
ただ、その飛び石の裏には、長谷川さん自身の中で「絶対これや」という確信が高まっているのだろう、と読み解いていきます。
「コンヴィクション」という確信めいたもの
話の中で高宮さんが持ち出したのが「コンヴィクション」という言葉です。原体験に根差すことと同じくらい、それを信じ込む力が大事だと言います。
原体験に根差しているっていうのも大事なんだけど、それに対する自分自身の思い込み力みたいな、コンビクションっていうのもすごい大事だなと思ってて
長谷川さんが直訳は信念かと問うと、高宮さんは確信度に近いニュアンスだと答えます。ただ、単なるファクトの積み重ねとは違うとも言います。
ファクトの積み重ねで自分を自分で左脳で説得するんじゃなくて、もう肌感覚で絶対これやって思えるか
willも込めた、自己催眠に近いニュアンス。根拠なく信じ込めるかどうか、という感覚だと説明されます。
信念に近いが、確信度というニュアンスが強い
ファクトで左脳を説得するのではなく、肌感覚で「絶対これや」と思えるか
willを込めた、根拠なく信じ込む自己催眠に近いもの
やりきる力からモートへ、そして仕組み化
話は長谷川さんの事業構造へと広がります。長谷川さんは自身の勝ちパターンを、やりきる人が少ない市場で自分だけがやりきることだと分析します。
ただ高宮さんは、その勝ちパターンには弱点があると指摘します。市場がおいしくなった瞬間、やりきる人が殺到してしまうからです。
後から入ってくる人に対する競争優位性によるバリアをどう築くかっていう
そこで問われるのがモート事業の競争優位性を守る「堀」のこと。後発の参入者が真似しにくい仕組みや強みを指すの築き方です。長谷川さんは、福祉を常に別事業と掛け合わせる二毛作モデルを説明します。
ポーカー店、ペットサロン、餃子屋などと福祉を掛け算し、就労支援の作業そのものを自分たちで作り出すのが肝だと言います。多くの事業所が外部から内職を買うのに対し、垂直統合している点が真似されにくさにつながります。
多くの人たちはシンプルな就労支援事業所で外部から内職を買ったりしてるんですけど、そこを自分たちで作り出すみたいな感じですね
高宮さんは、この構造がリクルートに似ていると指摘します。人のwillを源泉に事業を作り、それを仕組み化してスケールさせる次のフェーズがあるのではないか、というわけです。
最初はその人の属人性で立ち上げたものを徹底的な仕組み化してスケールさせていく
途中、高宮さんが趣味のジェラート作りに脱線しつつ、話は福祉事業の強みへ戻ります。福祉は作業が発生するため、出口となる掛け合わせ先を無限に用意できるのが強みだと整理されました。
人のwill
スタッフのやりたいことを聞き出し、事業の源泉にする
掛け算の事業
ポーカー・ペットサロン・餃子などと福祉を二毛作で組み合わせる
作業の内製
就労支援の作業を外注せず自分たちで作り出し垂直統合する
仕組み化
属人性で立ち上げた事業を仕組み化しスケールさせる
まとめ
Why・Whatの深さを見分ける鍵は、それが自分軸に根差しているかと、その軸を信じ込むコンヴィクションがあるかにあると話されました。長谷川さんの事業を題材に、原体験と後付けのハイブリッド、そして真似されにくいモートの築き方まで話が広がりました。
- シード期に見るのは「なぜその人がやるのか」という自分軸への根差し
- 他人軸や手段の目的化に乗っかったWhyは要注意とされる
- 原体験と「なぜ今か」という後付けはハイブリッドで整理されうる
- 原体験に加え、根拠なく信じ込むコンヴィクションが起業家を支える
- やりきる力だけに頼らず、真似されにくいモートと仕組み化が次の課題になる
