話題のクマ報道は奥多摩に何をもたらしたか
冒頭でひとしさんは、この番組で赤裸々に現状を発信することへの迷いに触れます。それでも前向きに捉え、発信することを選んでいると話しました。
最初のトピックは、最近全国的に話題になっているクマのニュースです。奥多摩でも町からクマの情報が出され、町長の緊急メッセージも公開されていました。
ももさんは、日曜日に起きた事故の内容を説明します。単独で登山していたロシア人男性が、出会い頭にクマに襲われて重傷を負ったといいます。
これはクマがびっくりしてたと思うよ。おそらくね。
さらにその2日後には、下半身だけの遺体が見つかったという報道もありました。この一連のニュースは大きな反響を呼びます。
いろんな人から、普段来ないような人から「奥多摩クマ大丈夫?」っていうのはね。何人かから来たから。
クマと共に暮らす奥多摩、山に入る側の意識
ひとしさんは、自分たちも普段からクマを意識していると話します。今年は子グマを一度見た程度だといいますが、この地域には昔からクマがいるといいます。
ももさんは、山を歩けばクマが居そうな場所や爪痕もわかると言い、山に入る人ならクマに会っていること自体は珍しくないと話しました。
たっちゃんは、クマ報道の増加には環境の変化だけでなく人間側の変化もありそうだと指摘します。SNSに敏感で、すぐアップする時代になったという見方です。
ももさんは、地元で育った人の意見を紹介します。クマは山にいるもので、山に入る側がお邪魔しているという意識を忘れてはいけない、という内容だったといいます。
僕らも畑行く時、(クマが)いる前提でわさび田行きますもんね。
一方で、慣れによる油断も出てくると3人は認めます。それでも、クマがいると思って山に入っているという姿勢は共通していました。
クマ報道と観光への影響
たっちゃんは、クマを意識しすぎるとかえって引き寄せてしまうのではないか、と冗談まじりに話します。それよりも観光客に来てほしいという思いがにじみました。
クマ報道は観光に直接影響します。企業ツアーでは、危ないからと山を避ける判断が実際に出ているといいます。
(影響は)全部だよね、多分。企業だけじゃなくて、一般の観光客も登山客も、やっぱこういうニュースが出ちゃうと危ないからやめとこうってなっちゃうかもしれないね。
ひとしさんとももさんは、報道が「断定されていないのに前提化してしまう」点を問題視します。連絡をくれた友人は「クマに食べられた」という認識だったといいます。
ももさんは、英語のニュースでも「クマに食べられた」という書き方がされていたと話し、イメージが先行することへの懸念を口にしました。
実際に3人のツアーでも、クマ報道を受けたキャンセルが出ています。街全体で見れば影響はかなり大きそうだと話しました。
ニュースにならない自然の脅威
たっちゃんは、クマは人と関わるからニュースになるが、山ではニュースにならない出来事のほうが被害は大きいのではないかと指摘します。
実際僕ら行ってる山ってニュースにならないことがすごい起こってて。落石、倒木、土砂崩れ、本当はそっちの方が被害大きいんじゃないのかなとか。
たっちゃんは、海苔の養殖で海に行った時のことも例に挙げます。満ち引きの力で30ミリのロープがちぎれてしまうほど、自然のパワーは大きいといいます。
ひとしさんは、こうした出来事は取り上げてもらわないと表に出ないと話します。ただ今は一人ひとりがニュースにできる時代だと言い、自分たちのメディアを持てる意義を語りました。
今の時代本当に。おそらく何にも発信できないから、みんな本当に泣き寝入りしてた人たちがずっといるよね。
話は情報発信のあり方へと広がります。ひとしさんは、報道は見せ方次第で良くも悪くも大きな力を持つとして、このラジオも責任を持って発信したいと述べました。
今年のゴールデンウィークと観光の実感
観光の話題に戻り、ひとしさんは今年のゴールデンウィークについて「思ったより来ていない」と実感を語ります。平日よりは人が来るものの、以前ほどではないといいます。
たっちゃんは、去年や一昨年と比べて人が減ったと感じています。コロナ後の年はもっと多くの人が訪れ、渋滞も起きていたといいます。
(以前と比べると)「あれ?」って言ってね。渋滞もね、あれしてねえな。
人出が減っている実感から、話は南岸道路の計画や庁舎の話題にも広がりました。ここで本題である水の話へと切り替わります。
今日のテーマは「奥多摩の奇跡の水とわさび田の水管理」
ひとしさんが今回のテーマを発表します。奥多摩の水は観光にとっても大事な資源であり、わさび自体も水がとても大事だと切り出しました。
わさびで一番大事な要素は何かと問われたたっちゃんは、まず「地球があってくれて素敵」と壮大に答え、場を和ませます。そのうえで生育条件を挙げました。
あとはまあ生育条件だと。お水と光と。まあこの山の恵みの土。
ひとしさんは、事務所のある氷川での暮らしを紹介します。3人はシェアハウスのような共同生活をしており、蛇口をひねれば奥多摩の山から運ばれた水が飲めるといいます。
わさびを弱らせる「自家中毒」と水の役割
ひとしさんは、わさび栽培における水の役割をたっちゃんに尋ねます。たっちゃんは、水が辛み成分を流し、わさびを「清めてくれている」と表現しました。
この「清める」の中身が、わさび特有の現象につながります。わさびは辛み成分を出し続けており、それが自分自身を弱らせてしまうのです。
この現象を自家中毒 ── わさびが自ら出した辛み成分などが周囲に溜まり、自分の根の細胞まで傷つけて成長を妨げてしまう現象。水で流すことで防げますと呼びます。水がこの成分を流すことで、わさびは順調に育つことができます。
ももさんは、その仕組みをAIで調べて整理します。わさびの細胞には辛み成分のもとになるグルコシノレートと、酵素のミロシナーゼが含まれているといいます。
成長や根の傷、古い根の分解によってこれらの成分が水や土壌に放出され、反応すると強い辛味成分のアリルイソチオシアネート ── わさびのツーンとした辛味の主成分。強い抗菌・殺菌作用を持つ一方、濃度が高まるとわさび自身の根の細胞も傷つけてしまいますに変化します。
このアリルイソチオシアネートは、濃度が高くなるとわさび自身の根の細胞を傷つけ、成長を止めてしまいます。周囲に滞留すると根腐れや生育不良を起こす可能性もあるといいます。
成分の放出
成長や根の傷などで、辛み成分のもとと酵素が水や土壌に放出される
辛み成分への変化
放出された成分が反応し、辛味の主成分アリルイソチオシアネートに変化する
生育阻害
高濃度になるとわさび自身の根の細胞を傷つけ、成長を止めてしまう
つまり、辛味成分をつくる反応と自家中毒を起こす反応は同じものです。だからこそ、水がこの成分を流してくれることが、わさびが順調に育つ条件になります。
水があると、これ(辛み成分)を流してくれるので。自家中毒を起こさずに、根茎が順調に成長してくれるのであーる。
わさびに合う水と、水が生む風や食文化
ひとしさんは、水の条件についてもたっちゃんに尋ねます。わさび田によって成分は異なり、鉄分が入って石が赤くなっている畑もあるといいます。
さらに、川から引く「かけ水」と「湧水」でも条件は変わります。かけ水は夏に外気に晒されて20度近くになることもあり、水温が一定になりにくいといいます。
3人は、わさびには冷たくて綺麗な水がよく、水温も安定していたほうがよいと確認します。ひとしさんは、育ちやすさは人間と同じだと重ねました。
成長するにはやっぱりこう、(気温の)波が激しいよりね。暑い寒いより、なんかこう、ちょうど(安定していたほうがいい)。
たっちゃんは、水の流れが風の流れをつくることにも触れます。風ができると気温が下がり、虫も減る気がするといいます。
水は食文化ともつながります。奥多摩の水を使った醸造や、コーヒー、蕎麦、ヤマメなど、地元の美味しいものは水に支えられていると3人は語ります。
土、風、空気、それが作ってくれるのがお水っていうか。そのお水がそこらしさを作っていくっていうか。
わさび田を脅かす30トンの落石と水管理
話は水管理の大変さに移ります。ひとしさんは、湧き水のわさび田は管理が比較的楽だが、川から直接引く「かけ水」の畑はこれから心配が増えると話します。
たっちゃんの畑では、大きな落石が沢を塞いでいるといいます。このままだと水の逃げ道がなくなり、わさび田が壊れるか山が崩れるおそれがあります。
今、川に大きい30トンの落石が沢を全部塞いでるので、この後じゃあ何が起こるのかっていうと、逃げ道がなくなって、わさび田が壊されるか、山が崩されるか。
たっちゃんは、この石の大きさを「ウルトラマンぐらい」と表現します。専門家が見るとさらに重そうだと言われたほど、巨大な脅威が実際に山では起きています。
ひとしさんは、こうした被害はニュースになりにくいと重ねます。車の事故や病気のほうが多くの人が亡くなっているのに、報道は見られやすいものに偏りがちだといいます。
雨が降ればわさび田を見に行く必要もあります。泥が入ると密度が高く、わさびが呼吸できずに腐ってしまうため、水で流してあげる必要があるといいます。
川から直接水を引く方式。落石や泥の流入、夏場の水温上昇などのリスクがあり、雨のたびに見回りが必要
山から湧く水を使う方式。水温が安定し、管理は比較的楽だとされる
水を大事にする暮らしと、これからの活動
水好きのひとしさんは、モモさんから「河童みたい」と言われたエピソードで盛り上がります。平泳ぎが得意なことから、前世は河童かもしれないと冗談を交わしました。
話は年齢や健康の話題にも及びます。ひとしさんは今年44歳になるといい、水管理と同じように、お肌や健康の管理も大事にしたいと笑いを交えて語りました。
最後にひとしさんは、奥多摩の水の良さを改めて実感していると話します。近所からもらう野菜まで美味しいのは水のおかげだと考えており、水と管理を大事にしたいと締めくくりました。
今後の活動についても言及がありました。番組冒頭の音は自分たちのわさび田の川の音であること、わさびの歌や、わさび谷を案内する動画などをYouTubeで少しずつ形にしていきたいと語ります。
少しずつだけど、ちょっと欲張らずに、やっていけたらと思います。
次回は「わさび農家のリアルすぎる日常」がテーマです。番組への感想やメッセージはメールで受け付けていると案内し、この回を終えました。
まとめ
この回は、話題のクマ報道が奥多摩の観光に与えた影響から始まり、わさびの命ともいえる「水」の役割へと話が広がりました。報道の見せ方、ニュースにならない自然の脅威、そしてわさびを育てる水の仕組みが、農家の視点で語られています。
- クマ報道は断定されていないのに前提化されやすく、観光にも実際にキャンセルという影響が出ている
- 落石や土砂崩れなど、ニュースにならない自然の脅威のほうが被害は大きい場合もある
- わさびは辛み成分を出し続け、それが溜まると自家中毒で成長を妨げるため、水で流すことが欠かせない
- わさびには冷たく綺麗で、水温が安定した水がよく、かけ水と湧水では管理の手間やリスクが異なる
- 奥多摩の水は醸造やコーヒー、蕎麦、ヤマメなど地元の食文化も支えている




