マーベルとスーパー戦隊をつなぐ「もしもの未来」
今年はスパイダーマンとアベンジャーズの新作映画が控えていて、マーベルが盛り上がっていると津田さんは話します。
そんな中で今回選ばれたテーマは、意外にもスーパー戦隊でした。
津田さんが提示したのは、「もしかしたらMCUにスーパー戦隊が出ていた未来もあったかもしれない」という視点です。
もしかしたらMCU、マーベルシネマティックユニバースにスーパー戦隊が出てた未来もあったかもしれないよっていう話をしたいと思っていまして。
マーベルやスパイダーマンがなければ日本のスーパー戦隊は生まれず、その戦隊がなければ北米版のパワーレンジャーも生まれなかった。日米のヒーローが互いに影響し合ってきた関係を追う回です。
マーベルの権利の持ち方と、経営難が生んだ提携
そもそもマーベルとは、スパイダーマンやアイアンマンなどを抱えるアメコミの出版社です。
日本との大きな違いは、作品の権利を作者ではなく会社が持っている点だと津田さんは説明します。
向こうだと会社が作品の権利を持ってる。だから同じスパイダーマンでも原作者のスタン・リーじゃない人が書いてたりとか、いろんなスパイダーマンがいたりとか。
この仕組みのおかげで、別作品にキャラクターを登場させたり、他社に貸し出したりしやすいと佐々木さんも理解します。
1970年代後半のマーベルは、今のイメージと違い経営が苦しい時期でした。看板作家が離れ、コミックの売上が下がっていたと言います。
そこでマーベルがよくやっていたのが、自社キャラクターのライセンスを他社に貸し出す戦略です。この会社が権利を持つ仕組みだからこそできる動きでした。
その流れで日本がターゲットになり、東映とマーベルの間で3年間、お互いのキャラクターを自由に使ってよいという契約が結ばれます。
日本版スパイダーマンと巨大ロボ「レオパルドン」
こうして1978年に生まれたのが、一部で有名な東映版スパイダーマンです。
あの犬吠にむせび泣く男、スパイダーマンでしょ。
主人公はピーター・パーカーではなく、山城拓也という日本人のオートレーサーでした。蜘蛛ではなく、スパイダー星人からスパイダーエキスを注入されて力を得るという設定です。
日本で売るにあたり設定が大きく変えられた背景には、特撮番組ならではの事情がありました。おもちゃが売れるかどうかが重要なのです。
ところがスパイダーマンは基本的に一人で戦うキャラで、正体を隠して孤独に戦う点が魅力でもあります。それゆえ、スパイダーマン以外のフィギュアは売りにくいという問題がありました。
そこで登場したのが、巨大ロボット「レオパルドン」です。飛行機のような「マーベラー」が変形するロボで、佐々木さんも画像を見て強そうだと感想を述べます。
当時の東映版スパイダーマンは、今の目線でチープに見えても、実は非常に出来が良かったと津田さんは補足します。
当時あのスパイダーマンってめっちゃ出来が良かったの。だってCG使わずに壁這ってたりするんだよ。しかも七十年代ですよ。
結果としてレオパルドンのおもちゃは売れ、これが後の展開につながっていきます。
戦隊に巨大ロボが載った日、そして日米の権利ドラマ
翌年に放送されたスーパー戦隊「バトルフィーバーJ」から、戦隊にも巨大ロボットが搭載されます。
つまり、戦隊ものの象徴である巨大ロボは、スパイダーマンのレオパルドンが起源だったのです。佐々木さんはこの事実に大きく驚きます。
もう完全に異端だと思ってた、レオパルドン。その特撮業界でも。まさかのオリジナリ、オリジナリだった。
さらにバトルフィーバーJは、当初マーベルのキャプテンアメリカを日本向けにした企画で、仮タイトルは「キャプテンジャパン」だったといいます。結局それは使えなくなり、各国をモチーフにしたヒーローが集まる形になりました。
こうしてカラフルな5人組が等身大で戦い、最後に巨大ロボで決着する戦隊の土台が生まれます。その源流がマーベルとの提携にあったわけです。
権利の話は東映版だけではありません。2002年公開のトビー・マグワイア主演の実写スパイダーマンも、経営破綻したマーベルが映画化権をソニーに売ったことで生まれた作品でした。
このサム・ライミ版は、大人も楽しめる形でアメコミを実写化した最初の作品だと津田さんは評価します。もともとホラー映画を撮っていた監督ならではの演出も入っていました。
その成功を見たマーベルは「これを自分たちがやればよかった」と気づき、アイアンマンなどの映画化を経て今のMCUへつながっていきます。
一方でスパイダーマンの映画化権はソニーが持ち続けたため、MCUに合流できないと言われていました。しかし2016年の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でついに登場し、長年の悲願が叶います。
なお現在、マーベル自体はディズニーが買収して権利を持っています。津田さんは「買収に次ぐ買収」とアメリカらしさを語ります。
パワーレンジャー誕生と、サバンの執念
ここからは逆に、スーパー戦隊をアメリカで展開しようとした動きの話になります。
最初に動いたのは、マーベルのスタン・リーとその部下マーガレットさんでした。戦隊の英語吹き替え版を作りましたが、不評で一度断念されます。
時代が進んだ1984年、アニメの作曲家だったハイム・サバンが来日し、テレビで見たスーパー戦隊にどハマりします。
そしてサバンはある合理的なアイデアに気づきました。
このスーパー戦隊、変身後はマスクで顔隠れてるから、マスクをしてない変身前のドラマパートだけアメリカで作って、マスクしてからの部分は使い回せば安く作れるんじゃないかっていう。
サバンは作曲家からプロデューサーに転身し、東映に直接交渉してOKをもらい、テスト版を作ります。その行動力に佐々木さんも驚きます。
しかし評判は良くなく、本業に戻れと言われながらも、サバンは8年間この企画を持ち歩き続けました。
そして1992年、諦めなかったサバンが出会ったのが、かつてスタン・リーの部下だったマーガレットさんでした。彼女はその場で契約を結び、クビ覚悟でアメリカ版戦隊の制作に踏み切ります。
ここで佐々木さんは、原作スタン・リーの漫画『からくりサーカス』ならぬ『ウルティモ』を思い出します。シャーマンキングの作者との共作で、スタン・リーが古くから日本カルチャーに関わっていた文脈と重なると話します。
こうして恐竜戦隊ジュウレンジャーをベースに、北米版パワーレンジャー「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」が1993年に誕生します。
フロンティアスピリットえぐ。
90年代の日本カルチャー熱と、繰り返される買収
パワーレンジャーはテスト版が子供たちに大好評で、おもちゃも爆売れ。入荷したおもちゃ屋の前で渋滞が起きるほどの社会現象になりました。
その品切れ騒動は、シュワルツェネッガー主演の映画『ジングル・オール・ザ・ウェイ』のモデルにもなったと津田さんは紹介します。
この成功の背景には、90年代にポケモンやセーラームーン、ドラゴンボールなど日本のポップカルチャーがアメリカへ次々流れ込んだ時代の空気があったと考えられます。
ちょうどアメリカが日本のコンテンツを受け入れられる空気になってたっていう。
佐々木さんは、8年かかったサバンの苦労を「継続の大切さ」と受け止め、時代が後から追いつく例だと共感します。
その後パワーレンジャーはディズニーに買収され、ディズニーのテーマパークではミッキーと一緒にパレードに出るという光景も生まれました。
しかし撮影の低コスト化やおもちゃのクオリティ低下で売上が伸び悩み、ディズニーは権利を競売にかけます。
誰も買い手がつかなかったその権利を、なんとサバンが自ら買い戻しました。佐々木さんはそのフロンティアスピリットに感嘆します。
復帰後は過去の戦隊も登場する「スーパーメガフォース」などで、当時子供だった世代が親になったタイミングを狙い、大人向けの高価格帯おもちゃも展開して売上を復活させます。
しかし2018年、おもちゃの製造がバンダイアメリカからハズブロへ移り、日本のスーパー戦隊とパワーレンジャーの関係はほぼ断たれた状態になっています。
現実のマルチバースと、続く相互影響
最近もマーベル側で新しい動きがあります。ディズニープラス配信のアニメ『ホワット・イフ』のシーズン3では、アベンジャーズのヒーローたちが巨大ロボに乗り、最後に合体して一体になる、まさにスーパー戦隊のような描写が登場しました。
最初に種をまいたマーベル自身が、巡り巡って自分の子や孫のような存在から影響を受け直しているのです。
さらにコミック版の『スパイダーバース』には、東映版スパイダーマンとレオパルドンが登場し、「地獄からの使者」と名乗って強敵と戦う場面もあると言います。
マーベルと東映だけでなく、スター・ウォーズと子連れ狼、宇宙刑事ギャバンとロボコップなど、日米のヒーローはずっと相互に影響し合ってきたと津田さんはまとめます。
最後に二人は、掘れば掘るほど広がる文化の面白さと、時間の足りなさを語り合います。
ちょっとなんか寿命五百年ぐらい欲しいな。やっぱ、こう、なんか足りなくない?百年じゃ。
そして冒頭の問い、MCUにスーパー戦隊が出ていた未来はあり得たのか、という話に戻ります。
その時ディズニーがパワーレンジャーの権利売ってなかった、もし今ずっと持ってたら全然あり得る、MCUに。
まとめ
スーパー戦隊の巨大ロボは、東映版スパイダーマンのレオパルドンが起源でした。日米のヒーローは、権利の売買や買収、時代の空気を巻き込みながら、互いに影響を与え合ってきたのです。現実の中に、もう一つのあり得た歴史が透けて見える回でした。
- 戦隊の巨大ロボは、東映とマーベルの提携から生まれた東映版スパイダーマンが起源。
- マーベルの権利は会社が持つため、貸し出しや他作品への登場がしやすい。
- パワーレンジャーは、ハイム・サバンの8年越しの執念と90年代の日本カルチャー熱で花開いた。
- 権利はディズニーやサバン自身の買い戻しを経て動き続け、2018年に日米の関係はほぼ断たれた。
- 近年はマーベル側が戦隊的な合体ロボを描くなど、影響が逆輸入され続けている。
