赤髪の美容師はどう生まれたのか
高木琢也さんは、OCEAN TOKYOという美容室を経営する美容師です。全国に12店舗、スタッフは約200人。商品開発やヘアメイクなど、美容師の枠を超えた仕事を手がけています。
今の赤髪も、もとからの好みではありませんでした。きっかけを作ったのは、MCの高木新平さん自身です。
この赤髪になった原因を作ったのは(高木)新平。これ新平に言われたのが13年前だから。
高木琢也さんはもともと黒髪の美容師でした。テレビ出演の前日に、新平さんがブリーチをしに来たと振り返ります。
お前みたいな奴は一生テレビに出れる可能性ないから。インパクト残した方がいいよ。
その提案で赤髪にして山里さんの番組に出たところ、バズったといいます。以来、赤くしたいというファンが増え、途中で黒髪に戻すとファンを裏切ることになると考え、赤髪を続けてきました。
僕は別に赤が好きなわけでもなく、こういう派手なファッションが好きなわけでもなく、普通に美容師でランキング1位を取り続けただけだよ。
なぜ高木琢也は「外さない」のか
OCEAN TOKYOはコンビニやドラッグストアで売られるワックスも開発しています。嵐の東京ドーム公演では松本潤さんのヘアを担当するなど、美容室の外での仕事も増えていると高木琢也さんは話します。
新平さんが最近の調子を尋ねると、業績は好調で、どの仕事でも外さなくなったと高木琢也さんは答えます。そこには方程式があるといいます。
外さなくなったかも、もう。どの仕事においても。方程式あるかも。
その方程式の核心は準備です。ヘアメイクに1時間取っていても、役者から「10分でなんとかして」と言われる現場があります。それでも同じクオリティを出すために、時間がある場合とない場合を想定しておくといいます。
時間がある設定のヘアスタイルと、時間なかった時にこうしようとか、10通りぐらい自分の中でイメージトレーニングしてから現場入るって感じ。
この準備の徹底が、コンテストで一位を逃さない結果につながっていると高木琢也さんは説明します。
さらに新平さんが「外せ」と言ってくるように、あえて定石を外したほうがいい瞬間もあると高木琢也さんは言います。その場合に備えて、外したバージョンも事前に考えているそうです。
日本一という肩書きが押し上げた実力
新平さんは、自身もビジョニングの仕事で数をこなすうちに外さなくなった実感を語り、その差がどこにあるのかを高木琢也さんに問いかけます。
高木琢也さんは、日本一を取って話題になってからだと答えます。日本一なら魔法をかけられるという期待で、毎月何百人もの客が訪れるようになったといいます。
日本一なんだから高木って魔法かけれるよねみたいなテンションで来るわけ。毎月何百人と、お客さんが。
しかし髪は長さを短くしてデザインする仕事で、余白がなければ大きくは変えられません。それでも無理なオーダーに応え、期待を裏切らないために、相当な準備が必要になったと語ります。
新平さんはこれを、肩書きと期待値が先に上がり、応えるためにパフォーマンスを上げざるを得ない環境が作られたと整理します。高木琢也さんは、恥ずかしくないように生きなければという意識も強いと話します。
一流たちに囲まれて磨かれたプロ意識
高木琢也さんは、外さない力の背景に、周囲にいる一流の人たちの存在を挙げます。石川遼さん、小栗旬さん、松本潤さんなど、枠を超えた人が多いといいます。
その枠を超えてるという一流の人たちが俺の周り結構多いから、負けられねえみたいな。
高木琢也さんは、本を読むのも苦手で、SNSもあまり見ないと言います。その代わり、時間を使って学ぶ姿勢を大事にしています。
夜中1時だろうが2時だろうが呼ばれたらすぐ行くし、みんなのプロフェッショナルとしてのワードがあるんだったらもらいに行こうみたいな。
NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』への出演も、プロフェッショナルとは何かという意識を強めるきっかけになったと高木琢也さんは振り返ります。当時、その答えにひどく悩んだといいます。
新平さんが「お前だったらどうすんの」と問い、自分が「ほら吹くこと」と答えたことを覚えているか尋ねます。高木琢也さんはそうしたトリッキーな答えに憧れつつ、自分は真面目な言葉しか出ないと語ります。
俺の人生じゃないよね。美容師のオーシャン東京の高木琢也の人生を作ってる感じ。社長じゃなかったら、もうこうはなってないな。
AIと人材難、美容業界が抱える課題
新平さんが美容師業界の課題を尋ねると、高木琢也さんはまずAIの影響を挙げます。SNSに出す作品がAIで補正され、実際の店では作れない髪型が流通してしまうといいます。
髪型はSNS上に出す作品ですっていうのは素晴らしい髪型になってる。けど、お店に行ったら作れない。
その結果、本当に技術のある美容室しか生き残らなくなると高木琢也さんは見ています。
もう一つの課題が人材難です。以前はメンズが多かった美容専門学校が、今は半分以上が女子だといいます。男子の多くが大学へ進むようになったためです。
メンズがなんで減ったかっていうと、みんな大学に行くんですと。
さらに、美容師は稼げないというイメージも残っていると高木琢也さんは指摘します。OCEAN TOKYOのスタイリストは年収1500万円以上を超えているといいます。
一方で、目先のお金に飛びついて独立し、5年持たずに終わる美容室が多いことも問題だと語ります。全国に美容室は26万から27万軒あるといいます。
髪型は人生を変える提案業
高木琢也さんは、美容師を髪を切る仕事だけでは捉えていません。商品開発、ヘアメイク、育成、学校づくりなど、ハサミを置いても生活できる形を先に見せていきたいと語ります。
新平さんは、自身が黄緑の髪になった体験を例に挙げます。人生が停滞していると感じた時に、高木琢也さんの提案で髪を変えたといいます。
結局本当の自分を変えるような提案ってちょっと斜め上だったりとか、自分で予想してないもんだから、想像外だから提案なわけで。
新平さんは、AIは自分が気持ちいいものしか出せないため、斜め上の提案はできないと語ります。髪を変えることで服装や生き方まで変わっていく、その提案業に価値があるという見方です。
高木琢也さんは、この視点は自分の技術への自信のなさから来ていると明かします。カットに自信がないぶん、目の前の客の一番の味方でいようと考えてカットしてきたといいます。
人生を変えようというよりは、そいつの一番味方でありますようにって思いながらカットしてたら、お客さんをこぼさなくなったわけよ。
その結果、紹介で客が増えていったと高木琢也さんは話します。SNSよりも、よそで喋りたくなる美容師像をつくることを重視しているといいます。
日本一の次はどこへ向かうのか
新平さんは、当初描いていた目標はすでに達成したと指摘し、これからの目標を高木琢也さんに問いかけます。高木琢也さんは即座に「海外」と答えます。
高木琢也さんは、10パターンの準備ができるようになった今、ヘアメイクや商品開発だけでなく、ゴルフウェアのモデルなども手がけていると語ります。美容師という仕事の可能性を広げ、スタッフの進む道の足跡を先に作りたいといいます。
美容師っていい仕事やなっていう風にしたいわけ。うちのスタッフたちが行く道を先に足跡を作って。
新平さんは、日本一の次は世界一だと提案します。サッカー日本代表が世界の舞台で活躍するように、世界一をどう取るかを考えたほうがいいという発想です。
ただ、世界一の美容師や世界一のサロンという明確な存在は今はいないと二人は確認します。分かりやすい例として、ヴィダル・サスーンの名前が挙がります。
ヘアに特化するプロジェクト構想
高木琢也さんは、次の一手としてヘアセットに特化したプロジェクトを語ります。日本では役者にヘアメイクが一人でつくことが多いですが、海外のように分業したいという考えです。
俺らは髪の毛にとっては髪の毛屋さんだから、もう髪の毛だけで呼ばれる仕事にしようよって感じなの。
高木琢也さんは、メイクはメイクの専門家に任せ、ヘアはヘアの専門家が呼ばれる形にしたいと説明します。パリコレのヨウジヤマモトでの担当も、そうした分業の形だったといいます。
このプロジェクトでは、社員のトップ10のスタイリストを選び、時間単位で依頼できる仕組みを構想しています。結婚式の前撮りやアーティスト写真など、通年で使える一枚をいい状態で残す用途を想定しています。
年に一回、いい髪型でいい状態で写真撮った方がいいでしょ。通年使えるんだから。
高木琢也さんは、美容クリニックの医師からも、きれいな写真を撮りたいという依頼が来ていると明かします。髪を切らなくても、セットだけで見え方は変わるという考えです。
経営者の美意識をどう上げるか
高木琢也さんは、経営者やスポーツ選手の写真がダサいと感じると率直に語ります。サッカーの試合前に映るスターティングメンバーの髪型を例に挙げます。
クリスティアーノ・ロナウドにしてもメッシにしてもネイマールにしても、絶対完璧な状態で試合に臨む。日本人はいないのよ。
高木琢也さんは、かっこいい姿が憧れをつくると考えています。自分がサッカー選手のかっこいい姿に憧れたように、20代から40代まではかっこつけていこうという発想です。
新平さんは、世の中に足りないのは欲の部分ではないかと指摘します。髪が薄くなるようなマイナスは避けたがるのに、もっとよくなろうという意識は薄いという見立てです。
よりかっこよくなるかもしれない、もっとかっこよく俺は映れるはずだっていう意識って多分経営者とか薄いと思うのよ。
高木琢也さんは、成功している経営者や上場企業の人ほど、月に一回は必ず髪を切りに来ると語ります。いつ人前に立ってもいい状態を保っているといいます。
2ヶ月に一回切ってる人で成功してる人はほぼいない。
高木琢也さんは、来店頻度が下がると調子が悪いのではと感じることもあると明かします。こうした美意識を上げることが、今の自分の課題だと語ります。
アニメのキャラクターヘアという世界戦略
新平さんは、世界で影響力を持つ日本のアニメに着目します。自分の髪色が当たり前になったのも、アニメの影響が大きいと語ります。
そこから、高木琢也さんの次の一手として、アニメキャラクターのヘアスタイリングを提案します。実在のタレントよりもグローバルに広がる可能性があるという見立てです。
日本人のどのタレントをやってるかよりも、正直ナルトやってますとか、鬼滅やってます、呪術廻戦やってますのが多分グローバルいけると思うの。
高木琢也さんは、すでにある映画でキャラクターの髪型監修に入っていると明かします。主演ではないキャラの髪型を、OCEAN TOKYOのスタッフが漫画の通りに再現するといいます。
最終的にはジャンプの人たちにそういうのをやりたい。
新平さんは、漫画のキャラクターは半分ぐらい髪型で作られていると語ります。髪型はその人のキャラクター性を拡張して表現するもので、究極のキャラデザインになりうるという考えです。
日本語で押し切る、世界の呼び込み方
高木琢也さんは、髪型を見る視点が自分に染みついていると語ります。サッカーの試合も、髪型の目線で観察しているといいます。
新平さんは、伊東純也の金髪を例に、その視点は普通の人にはないと指摘します。経営者のビジョンばかり見ている自分と同じで、高木琢也さんは髪の毛だけを捉える力があるという見立てです。
髪の毛をもっとこうしたらいいのにってずっと見てるから、だから俺それができると思うんだよね。
海外進出について、高木琢也さんは英語の壁を挙げます。しかし言葉が通じなくても指名されてきた経験を語ります。
リンキンパークのマイク・シノダとか、高木で髪切りたいみたいな。なんで?みたいな。言葉も通じないし。
新平さんは、こちらから海外へ行くのではなく、呼ぶのだと発想を逆転させます。日本語で喋り、相手に同時翻訳させればいいという提案です。
だってそれこっちのルールやん。ここの部屋なんてこっちのルールやん。
高木琢也さんは、この発想に凝り固まっていた自分に気づいたと反応します。スタイリングはサービスとして提供し、フルにプロデュースしてほしいなら来てもらう仕組みにするという方向性で二人は一致します。
世界一の定義と、美容師の再発明
新平さんは、韓国が美容の分野で強いことを踏まえ、OCEAN TOKYOは美容ではなくカルチャーの文脈で勝負すべきだと語ります。渋谷という立地を生かせるという考えです。
もっとカルチャーというか、せっかく渋谷にあるし、そっちだったら韓国に勝てるやん。
新平さんは、世界一の定義を考えたと語ります。何かのジャンルの世界一の人が、わざわざOCEAN TOKYOに来る状態こそが世界一だという整理です。
高木琢也さんは、この対話ですっきりしたと語ります。次にどこを目指すのかという問いに、これまでは明確に答えられなかったといいます。
今日なんとなく見えた。別に悩んでたわけじゃない。
高木琢也さんは、松本潤さんや赤西仁さんら日本を席巻する俳優から声がかかるのも、赤髪のおかげだと振り返ります。髪でここまでインパクトを残せるという、最も分かりやすい自己証明になっているといいます。
だからこそ、漫画やゲームなど高木琢也さんにしかできないことまでやってほしいと新平さんは語ります。日本一という称号にとどまらず、世界一の人がわざわざ渋谷に来る状態をつくることが、次の目標として二人の間で共有されました。
まとめ
日本一と呼ばれる美容師・高木琢也さんが、外さないための準備術から、日本の美容業界の課題、そして世界一への次の一手までを語った回です。髪型を人生とキャラクターを変える提案業と捉える視点が、対話を通じて次の目標へと結ばれていきました。
- 高木琢也さんは、時間がある場合とない場合を含め約10通りを想定する準備で「外さない」仕事を実現している
- 日本一という肩書きと期待値が先に上がり、応えるために実力を押し上げる環境が作られた
- AIによる作品の補正、大学進学による人材難、稼げないイメージが美容業界の課題として挙げられた
- 髪型は本人のキャラクター性を拡張する提案業であり、AIには斜め上の提案ができないという見方が示された
- 次の目標は、世界一の人がわざわざ渋谷のOCEAN TOKYOに来る状態をつくること。アニメキャラのヘア監修などが構想として語られた



