体験版を閉じた『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』
インディーゲーム『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』が、19日に予定していた体験版の一般公開を中止しました。動画の投稿や配信のルールを管理しきれないことと、AIによる模倣品が製品版より先に出回る懸念があることが理由で、代わりに公式が抽選制の体験会をやる、という発表です。
この作品、YouTubeのMVは公開2日で200万再生、17日で1000万再生までいきました。ウィッシュリストも50万件を超えています。期待値がこれだけ上がっている中での中止なんですよね。
最近は、模倣品の出力先としてRobloxが選ばれることが多いと言われています。PVを見たり体験版が出たりすると、その日のうちに4つ5つと、模倣されたものがRobloxに並ぶこともあるそうです。
『めっちゃカメレオン』ライクのゲームがRobloxにたくさんあるのを見て、気づいている人も多いと思います。体験版をダウンロードしてAIでハックしながら作ったり、ティザームービーだけでそれっぽいものができてしまったりする状況です。
AIによる模倣作が先に出てしまうことについては、バッドな事例も、これで大丈夫だった事例も、まだ出てきていません。出す側が慎重にならざるを得ないのは、気にする理由がわかるなと感じています。
AI模倣への怖さと、それでも選ぶのは人間
同じ週には、日本のインディーゲーム『ドラゴンズクロニクル』の製作者に、24時間以内に200ドル相当を払わなければAIで作ったクローンを先に公開する、という脅迫メールが届いたそうです。別のレストラン経営シミュレーションも、模倣の疑いでデモをやめてDiscordでのテストに切り替えたと聞いています。
SteamNextFestの参加は前回の1.7倍に増えていて、そのうち約3分の1が生成AIの使用を開示しているそうです。アニメ業界でも、中国の生成AIの映像制作ツールが優秀になったせいで、『リゼロ』の5期が映像として上がってしまっているようなことが起きています。しばらくは簡単に模倣される世界が続きそうな気がします。
ただ、脅迫を受けた日本の製作者のウィッシュリストは、前日比で3万8400%になったそうです。選ぶのは人間なので、嫌だなと思えばオリジナルを応援する流れが生まれます。
とはいえ、この先もずっと続く流れになるだろう、とは思っています。
そもそも『GODDESS SHOT TRICK』は、先に音楽があって、いい曲だとバズり、ファンアートが生まれまくって、50万件のウィッシュリストにつながりました。これはなかなかないことです。ティザーや体験版、トレーラーだけじゃなく、好きな理由や買う理由を作れているのは、インディーの中でも素晴らしいなと思いました。
初動ヒットの43%を占めるインディー
Sensor Towerが、去年9月から今年8月までのSteam、PS、Xboxを集計していました。『オートマトン』に載っていたニュースです。
発売初月に50万本を超えたゲームは約76本で、昨年の55本から増えています。内訳はトリプルAが28本、ダブルAが15本、インディーが33本。新規IPの35本のうち27本がインディー発でした。
今年はどう考えてもインディーのヒットが主役の年でした。ただ、影もあります。
『Among Us』の共同創業者の方が、開発者が稼ぐ力を損なうひどい契約が出回っていると警告していました。広告に頼りすぎて広告費を最初に使い切り、それを回収できてから収益分配、という形だと、開発側に売上が入ってこないケースもあるそうです。
ゲームに命をかけて作っている人の中には、契約書をちゃんと見る時間やスキルがない方もいると思います。契約のサポートだけでもできたらいいな、と思っています。
パブリッシャーとデベロッパーは、作家と編集者のような関係でもあります。いい編集者がついてヒット作がよくなる場合もあれば、作りたいものを作りきってバーンと売れる場合もあって、どちらがいいとは言えません。ただ今は、手に取ってもらう理由を作ってくれるパートナーが増えるといいなと思っています。
EAのBioWare閉鎖と、会社の守り方
10月21日、EAが全社の3%にあたる400人を削減し、カナダのスタジオ『BioWare』が閉鎖されました。次期『Mass Effect』の初期開発も終了し、シム系の『Project Lotus』も中止だそうです。EAは今後、スポーツとアクションアドベンチャーの『Apex』に集中するとのことでした。
EA自体、先日550億ドルでサウジのPIFなどに買収されたばかりです。簡単にゲームが作れない時代が続く中で、急なコスト削減でスタジオがなくなる例は、Netflixのゲームスタジオでも続いています。
ヒットを作り続けるまで我慢してくれる、コストを持てる親会社がどうなっていくか。そこはシビアになっているなと感じます。
一方で、『コーエーテクモ』の9月中間決算は経常益255億円で過去最高でした。営業益より経常益が多いのは有価証券の売却益が大きいからですが、経営を担保しながら作りたいものを作らせて会社を守るスタンスは、簡単には真似できなくても素晴らしい選択肢だと思います。
手元の資金で運用するのがいいのか、ハリウッドの資本やオイルマネーがゲームを買う時代の中での成功事例がもっと出てくるのか。後者の事例がもっと出てくるといいなと思っています。
AI時代のデータの持ち方と、インディーが売れる理由
体験版を閉じた話は、AIが怖いという話でした。いま日本でも、ウェブサービスを提供する会社が軒並みやられています。佐川が5000万件ぐらい、カプコンが1000万件ぐらいと言われていて、フェルミ推定をすると、メアドと名前が流出していない人を探す方が難しいんじゃないかと思うほどです。
自分の会社だけは大丈夫、と交通事故に遭わないと思っている人のようにはなれません。Appleのように、なるべくデータを持たないと表明する企業も増えています。この先1年ぐらいで、各社のスタンスがはっきりしてくるのかなと思います。
最後に、1年を振り返ります。初動ヒットの4割以上がインディーだったという数字は、「インディーってなんとなく人気だよね」とふわっと思っていた人にとって、データで示された形です。全部がフルプライスだったら同じ結果になるかはわからないので、本数だけが正義ではありません。それでも790円とか800円ぐらいで3000万本売れた『めっちゃカメレオン』はすごいと思いますし、安いから売れるわけではありません。
素晴らしいゲームデザインなら、友達に共有したくなったり、狂気を感じて誰かを誘いたくなったりします。僕が最近よく読み解いているのは、本物に触れられる時間が長いほど、人は可処分時間や可処分所得を使うことに納得する、ということです。
もちろんメジャーのゲームが本物じゃないわけではなくて、メジャーにはメジャーの戦い方があります。大きいタイトルほど、使う時間が多くなりそうだという無意識のプレッシャーがかかる時代になっている気がします。
僕もストリートファイター4から5になったとき、500時間、1000時間と遊んだゲームから簡単に移動できない感覚を持ちました。でも6が出たときは、新しく始める理由にもなっていました。
次が面白いかわからないけれど、いまのゲームをやめて行く難易度は、年々上がっているなと思います。
ちなみに、先週は「YouTube見てます」という人生で初めての体験もしました。チャンネル登録や、友達へのおすすめをしてもらえたらうれしいです。YouTubeだけでなくSpotifyでもポッドキャストをやっていますし、『Pody』では僕のポッドキャストがテキスト記事になって公開されているので、そちらも見てもらえたらと思います。
それでは、今週も読んでくれてありがとうございました。
まとめ
AIによる模倣への怖さから体験版を閉じる動きが出ている一方で、初動ヒットの4割以上はインディーでした。僕は、人は本物に触れた時間に納得してお金と時間を使う、と読み解いています。
- 『PUKEY GODDESS SHOT TRICK』はAI模倣を恐れて体験版を一般公開せず、抽選制の体験会にした
- 発売初月に50万本を超えた76本のうち33本がインディーで、新規IP35本のうち27本もインディー発
- EAはBioWareを閉鎖し、コストを持てる親会社の存在がますます問われている






