「武器化しない」と宣言した4年後に何が起きたのか?
今回のテーマは「ヒューマノイド開発の裏で進む軍事利用」です。樋口さんは、2026年5月時点ではホットな話題だと前置きし、横山さんはデリケートな問題だと受け止めます。
佐野さんがこのテーマを選んだのは、ヒューマノイドの見方が変わる情報だと考えたからです。番組ではこれまでヒューマノイドの魅力を語ってきましたが、企業で導入を考える人には、軍事利用の現状も踏まえて経営判断してほしいと話します。
(軍事利用の話を)聞いて怖いなって思う人もいれば、「あ、そうか、世界はそう進んでるんだ」っていう見方もあると思うんですよ。
佐野さんが最初に挙げたのは、2022年10月の出来事です。ボストン・ダイナミクス ── アメリカのロボット企業。犬型の四足歩行ロボット「Spot」や二足歩行ロボット「Atlas」で知られ、押されても倒れない動画で広く注目されましたを中心とするロボットメーカー6社が、「汎用ロボットを武器化しない」と宣言しました。
署名にはアジリティーロボティクスやレニボティクス、そして中国のユニツリーも加わっていたといいます。ところが約4年後、状況は大きく変わったと佐野さんは指摘します。
ユニツリーの四足歩行ロボット「B1」が、中国軍とカンボジア軍の合同軍事演習に投入された映像が中国の国営放送で流れました。アメリカではFoundation Future Industriesというスタートアップが防衛特化のヒューマノイドを作り、36億円の契約を取ってウクライナ前線に派遣されている事例もあるそうです。
さらに米国防総省は2026年2月、ユニツリー社を中国軍関連企業リストに追加しました。宣言から軍事利用の具体例が出てくるまでの流れは、次のように整理できます。
「怖いと思っちゃった」という樋口さんに対し、佐野さんは裏側には冷静な判断もあると補います。攻撃のためというより、守るためにロボットを控えさせている面が大きいという見方です。
別にその攻撃を与えるために持ってるっていうよりかは、守るためにロボットを活用してるっていう概念の方が多いので。
樋口さんが「ロボットが戦地に行けば人間が死なないことにもなるのか」と問うと、横山さんは「相手側にもよります」と答えます。Foundation Future Industriesのヒューマノイド「Phantom MK1」は、「最初に突入する体」というコンセプトで作られているそうです。
味方側は守れますけど、敵側が人間だったらやっぱり結局死傷者が出てしまうってところはあったりしますよね。
家庭用ロボットと軍用ロボットは同じ幹から生まれた
佐野さんは、軍事利用の背景としてDARPA ── 米国防高等研究計画局。米国防総省に属する研究機関で、インターネットやGPSの原型など、軍事応用を見込んだ先端技術に資金を出してきたことで知られますを挙げます。軍事に応用できそうな先端技術に予算を出して育てる組織で、ヒューマノイドの技術のほとんどはこの予算で研究開発されてきたといいます。
佐野さんによれば、軍事応用がヒューマノイド開発の出口になっているのが現状です。上場しているヒューマノイド企業で研究教育系の売り上げが70%を占める例もあり、軍事利用をゴールに企業価値が上がる設計になっているのではという説もあるそうです。
樋口さんが「じゃあ(武器化しないという)協定は何だったのか」と問うと、佐野さんも「言うこと変わってて面白いですよね」と応じます。
佐野さんが「ヒューマノイドの大きなパターン」と呼ぶのは、軍事予算で生まれた技術が後から民間へ降りてくる流れです。ボストン・ダイナミクスの二足歩行ロボット「アトラス」も、もともと米軍のための技術開発で、2005年ごろからDARPAの予算で開発が続いてきたといいます。
軍事予算
DARPAが軍事応用を見込んだ先端技術に予算を出す
研究開発
アトラスなどのヒューマノイド技術がその予算で育つ
民間へ
軍事向けに生まれた技術が、後から民間・家庭向けに降りてくる
なんか実はそのみんながこれから期待してる家庭的なロボット、家で使える家庭用ロボットも軍事ロボットも、まあ幹は一緒なんですよね。
樋口さんは、この話を「戦争とエロで人間は科学技術を進化させた」というよく聞く言葉に重ね、「まさにそれやな」と受け止めます。
ターミネーターの世界は本当に来るのか?
樋口さんが「軍事目的のロボットはどんな形をしているのか」と尋ねると、佐野さんはヒューマノイドの例としてPhantom MK1を紹介します。真っ黒なボディで、銃などを持てる形になっているそうです。
ただしPhantom MK1は導入計画が明らかになった段階で、ヒューマノイド自体が戦地に入っているわけではないといいます。現在軍事利用が進んでいるのは四足歩行ロボットで、ヒューマノイドの実戦投入はこれからだという整理です。
でも全然これはもう時間の問題ですよね。
で、本当のターミネーターですよ、ターミネーター。
佐野さんはさらに、中国が2017年に打ち出した、民間企業の先端技術と軍の研究開発を一体化させる国家戦略「MCF」に触れます。民間と軍事の合わせ技で研究が進むため、「めちゃくちゃ強くなると思います」と見ています。
これを受けて樋口さんは、そうした一体化をやりやすい国とそうでない国があり、国の仕組みによっても違うのではないかと話します。
佐野さんは「事実ベースなので怖がらないでほしい」と断ったうえで、ユニツリーの数字も紹介します。2025年の最初の9か月で研究教育系の売り上げが約70%に達し、約5年間で30の中国の大学がユニツリーを購入、そのうち1校は購入目的を「兵器科学技術」と明記していたそうです。
技術そのものではなく「使い方」が問われる
出演者からは、技術は一長一短だという指摘が出ます。工場でロボットを0.01ミリの精度で動かして組み立てる技術も、ひとひねりすれば人を正確に狙う技術に転用できるという例です。
ハサミや包丁と同じで、技術自体が悪いのではなく、何に使うか、どう運用するか次第だという考え方です。樋口さんも「人間がどう使うかがより問われている」と応じます。
軍事用のAIやロボットを倫理的にどう扱うかも議論されています。自動的に殺戮する方向は倫理的に良くないとされ、ヒューマン・イン・ザ・ループ ── AIなどの自動システムの判断の流れに、人間の確認や決定を組み込む考え方。特に兵器の分野では、攻撃の最終判断を人間に残す原則として議論されていますという考え方が原則として議論されているそうです。
攻撃の判断を自動で行ってもよい
最終的に実行するかどうかに責任を持つ
樋口さんがこれをロボット三原則 ── SF作家アイザック・アシモフが作品中で示した、ロボットが守るべき3つの原則。第一条は「人間に危害を加えてはならない」で、ロボット倫理の議論でもよく引き合いに出されますに重ねると、佐野さんは同意しつつも、議論されているだけで守らない国も出てくるような気がすると付け加えます。
樋口さんは、ロボットが人間を傷つけうる未来がSFの中の話ではなく、もうリアルにここまで来ているという感覚を語ります。
起業家が向かう防衛市場、時価総額9兆円の会社とは
佐野さんは起業家の目線にも触れます。起業家は市場がいちばん大きいところに行きがちで、有名な起業家の一人が防衛系スタートアップで存在感を増しているといいます。
その人物が、VRヘッドセットのオキュラス ── VRヘッドセットのブランド。2014年にFacebook(現Meta)に買収され、家庭用VRを広める役割を果たしましたを約3000億円でFacebookに売ったパーマー・ラッキー氏です。2017年にアンドレル・インダストリーズを創業し、自律型の潜水艦や防衛用ドローン、パイロット不要の無人戦闘機などを開発しているそうです。
佐野さんによると、この会社の時価総額は9兆円といわれています。ヒューマノイドを作っているわけではありませんが、AIによる完全自律型の兵器がどんどん完成してきているという見立てです。
優秀な企業家たちがそこに攻めてくると、その市場が伸びるじゃないですか。
樋口さんは、資本主義の市場原理が働けば、何もしなければ人類はそちらへ向かうだろうと受け止めます。
日本はヒューマノイドの軍事転用をどう捉えているのか?
日本の立場について佐野さんは、ヒューマノイドの軍事転用にはあまり積極的でないようだと話します。中国からヒューマノイドを導入する際も保守的に捉えられ、入れづらい状況が起きているそうです。
上場企業などの大きい会社では、軍事関連リストに載っている時点で導入が難しくなるといいます。一方で、そうでない会社なら導入しやすいとも佐野さんは見ています。
自衛隊では、四足歩行ロボットを自然災害の被災地や、戦争後の復興における災害救助に使う、平和的な軍事利用の面で導入が進んでいると紹介されます。
地雷除去の用途もあります。戦争が起きてしまった後の被害を減らすため、犬型ロボットがさまざまな場所を歩いて地雷を見つける使い方です。
一言で軍事利用イコールダメとか怖いとか悪とかではなくて、もうちょっとやっぱ解像度高く見ていかないといけない感じがしますね。
止められない開発競争と、戦争の傷を癒す未来
佐野さんは、軍事利用が構造的に止められない面もあると指摘します。アメリカがやめれば中国だけが強くなるように、一国だけが手を引くのは難しく、他国がやっている以上避けて通れないという見方です。
戦争がなくなってくれればね、本当に平和ですけど、なくなんないじゃないですか、全然。
樋口さんが核保有と比べると考える軸が増えるかもしれないと話すと、佐野さんは「核保有以上に怖い」と返します。以前の回で話した蚊やゴキブリ型のロボットが感染源を運ぶような事態を想像すると、超怖いという感覚です。
話の終盤では、メンタルケアへの応用という希望が語られます。現状でも、PTSDを抱えた元兵士などにVR映像で戦争の状況を少しずつ見せ、認知を書き換えてトラウマを克服していく手法が確立されつつあるそうです。
ヒューマノイドが加われば、人相手には話せない内側のことも、ロボット相手なら話せるかもしれません。ペッパーくんなどで培われた感情のセンシング技術を応用し、心のケアに使えるのではないかという個人的な思いも語られました。
樋口さんは、軍事利用には敵を倒すことだけでなく、守ること、救うこと、心の傷のケアまで含まれると整理します。そして、「戦争怖い」で終わると、いろんなまずいことが起きると改めて実感したと締めくくりました。
まとめ
ヒューマノイドの軍事利用は、「武器化しない」という宣言から数年で現実のものになりつつあります。ただし開発資金の出どころや使い道を細かく見ると、攻撃だけでなく防衛、災害救助、地雷除去、メンタルケアまで幅があり、解像度を上げて見ることが求められます。
- ユニツリーのB1が中国・カンボジア合同軍事演習に登場し、米国防総省はユニツリーを中国軍関連企業リストに追加した
- ヒューマノイド技術の多くはDARPAなどの軍事予算で育ち、家庭用も軍用も「幹は一緒」だと語られた
- 技術の良し悪しは使い方次第で、攻撃の最終判断を人間が担う「ヒューマン・イン・ザ・ループ」が原則として議論されている
- 日本は軍事転用に慎重で、自衛隊では災害救助など平和的な用途での導入が進んでいる
- 一国だけでは止められない開発競争の一方で、戦争のトラウマを癒す応用にも期待が寄せられた





