ヒューマノイドとフィジカルAIはどう違う?
番組『ヒューマノイド最前線』は、人間型のAIロボット「ヒューマノイド」の最新動向を追う番組です。第1回は、パーソナリティ3人の自己紹介と、番組を始めた理由から話が始まります。
佐野さんはネット上で「たかちん」と名乗っています。本名では覚えてもらいにくかったため、数年前からこの呼び名を使い始め、今ではたかちんで覚えている人が多いそうです。
佐野さんによれば、ヒューマノイドは「ヒューマン」と「のような」を意味する「ノイド」を合わせた造語です。人間のような存在として、AIロボットが社会に登場してくる流れを追うのが番組のテーマだと説明しています。
佐野さんは、SF映画のターミネーターを例に挙げます。樋口さんが液体金属に変化するイメージを語ると、佐野さんはそれはターミネーター2だと応じ、まずは「ターミネーター1がもう来た」という段階の話をしたいと続けました。
ロボットには四足歩行型などもあり、最近は身体を持ちAIの能力を備えたロボットをフィジカルAI ── AIがデータ処理だけでなく、ロボットなどの身体を通じて現実世界で動作する技術や製品の総称。自動運転車や工場ロボットなども含めて語られることがありますと呼びます。ヒューマノイドは、そのフィジカルAIの中で人間型のものを指す、という構図です。
才能研究の会社が、なぜロボットへ向かったのか
佐野さんは、人の才能やポテンシャルを研究する株式会社TALENTを横山さんと経営してきました。そのため樋口さんは、佐野さんを知る人の多くが「才能研究の人がなぜヒューマノイドを?」と感じているはずだと指摘します。
佐野さんがヒューマノイドに関心を持ったきっかけは、AIの登場で人間の働き方や才能の輝き方が変わったことでした。佐野さんは、ヒューマノイドが同僚として隣で働く未来が、来年や再来年には一般化すると見ています。
ヒューマノイドが普通に同僚で、隣で普通にカチャカチャ働いてる未来って、ちょっとどこまで想像してるかわかんないんですけど。
これ(ヒューマノイドとの協働)がもう来年とか再来年には一般化してきてる状態が来ると僕らは思っていて。
佐野さんは、その未来を想像したときに人のポテンシャルとは何かが強く気になったと話します。待っているのがもどかしくなり、自分からロボットの世界に入ることにしたそうです。関心の対象はロボットの才能だけでなく、ロボットと関わる人間の才能がどう変わるかにもあるといいます。
怠惰なエンジニアが自動化に執着する理由
横山さんは、両親がプログラマーで、小さい頃からプログラミングに親しみ、15歳でエンジニアの学校に進み、大学院ではロボットを研究していた生粋のエンジニアです。横山さんの原動力は、本人いわく怠惰さにあります。
すべてのことサボりたいんですよ、僕。怠惰すぎて。
なんかベッドに寝てるだけで一日すべての仕事を完結してくれないかなとか。
横山さんは繰り返しの単純作業が大の苦手で、そこから自動化への強い執着が生まれたといいます。ソフトウェア上の作業はAIでほぼ自動化できる時代になったため、横山さんは次の領域を埋めるピースがAIに身体を持たせるヒューマノイドだと考えています。
横山さんとTALENTの縁は、TALENTが開いた副業・起業スクールに1期生として参加したことでした。佐野さんにディレクションやPMの才能を見いだされ、本職のエンジニアとは別の立場で関わり始めたそうです。
横山さんは、AIエージェントが能動的に動けるようになったことで、自分のディレクション力が加速したと感じています。デザイン、見た目、裏側のロジックを担う複数のAIチームが進捗を共有し合う仕組みを組んだところ、自分がコードを書くことで止まっていた作業が一気に動き出したといいます。
驚くべきことに、佐野さんは横山さんのロボット経歴を数か月前まで知りませんでした。佐野さんが「ヒューマノイドをやりたい」と話したとき、横山さんが初めて「ロボットやってたよ」と打ち明けたそうです。
横山さんは大学院で、高齢者が自力でトイレや風呂に移動するのを支援するロボットを研究していました。前職のオムロン ── 京都に本社を置く日本の電機メーカー。制御機器やファクトリーオートメーション、ヘルスケア機器などを手がけていますでは、工場ロボットの制御やコントローラー、ロボットの作業環境に入った人の命を守る安全センサーの開発に携わっています。
巡り巡って、やっぱなんか点と点って繋がるんだなっていう感じですよね。
創業3年で評価額5.8兆円、ヒューマノイド最前線の数字
樋口さんは、AIの進歩はある程度追えていても、フィジカル分野の現状は肌感覚がないと打ち明けます。そこでPlay Roboticsの二人は、代表的な企業と数字でヒューマノイドの現在地を紹介しました。
1社目は米国のFigure AI ── 人型ロボットを開発するアメリカのスタートアップ。汎用ヒューマノイドの実用化を目指し、大型の資金調達で注目を集めていますです。番組では創業3年で評価額5.8兆円と言われる企業として紹介され、NVIDIAやMicrosoft、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが出資していると語られました。
2社目はイーロン・マスク率いるTeslaで、自社工場に1000台以上のロボットを投入し、生産ラインを任せ始めていると紹介されています。3社目は中国のUnitreeで、犬型から始まり、今では100万円前後で買えるヒューマノイドを次々に出しているそうです。
このほか、サブスクリプションで月7万円ほどで家庭内ロボットを使えるサービスもあると語られました。さらに、2050年には市場規模が750兆円に達し、人間1人にロボット1台の時代が来るという予測も紹介されています。
樋口さんは「人間1人にロボット1台」を、弟子やカバン持ちを1人つける感覚にたとえました。番組では、ロボットがロボットを作る段階もすでに始まっており、AIと同じく指数関数的に伸びるという見方が示されています。
ペッパー君で止まった夢は、なぜ今動き出したのか
樋口さんのロボット像は、ソフトバンクのペッパー君で止まっていたといいます。当時はドラえもんができると夢を見たものの、人型であることや人工知能の限界があり、時代が早すぎたのではないかと振り返ります。
佐野さんは、LLMを含むAIの進化が決定的だと答えます。ヒューマノイドの研究は1970年代から続いてきましたが、かつてはあらかじめ決められたプログラム通りにしか動けず、そもそも二足歩行が非常に難しかったと説明しています。
番組では、二足歩行技術の変遷が段階的に語られました。逆さにした振り子のように転び続けて進む方式から、ASIMOのように重心を計算し続ける方式へ進んだものの、膨大な計算が必要で、平らでない地面では転倒や停止が起きていたといいます。
転機は強化学習 ── AIが試行錯誤を繰り返し、うまくいった行動に報酬を与えることで、より良いやり方を自ら学んでいく機械学習の手法でした。AIがパソコンの中でシミュレーションを何度も繰り返し、最もよい歩き方を学ぶことで、かかとから着地してつま先で踏み出す歩行が、ここ1〜2年でできるようになったと語られています。
車輪やアームではなく、なぜ「人間型」なのか
樋口さんは、歩くだけでこれほど大変なら、車輪型や工場のアーム型のように用途に特化したロボットのほうが適材適所ではないか、と素朴な疑問を投げかけます。
答えの1つ目は、人間のために作られたインフラをそのまま使えることです。何十年、何百年もかけて社会は人間の体に合わせて整えられてきたため、専用ロボットを入れると専用の道具や設備が必要になり、人間との切り替えもしにくくなると語られました。
ヒューマノイドなら、合わなければ人に任せ直すといった柔軟な切り替えができます。介護や品出しの現場でも、車輪型なら梯子の代わりの設備が必要ですが、ヒューマノイドなら人間と同じ梯子を使えると説明されています。
専用ロボットに合わせて、専用レーンや設備など環境側にコストをかける必要がある
ヒューマノイドなら人間用の道具や梯子、家の構造をそのまま使える
樋口さんはこれを、山奥のおじいちゃんの介護にたとえました。従来型のロボットでは家の工事が必要ですが、ヒューマノイドなら人間のヘルパーと同じように車で到着し、ドアを開け、車椅子を広げる動作ができるという整理です。
2つ目の理由として佐野さんが挙げたのは、人間の心の問題です。人は自分に近いものほど受け入れやすく、遠いものには怖さを感じます。まばたきや視線の動き、握手の感触まで人間に近づいた中国のロボットを例に、ロボットに「やっといて」と頼むだけでAIエージェントの仕組みを知らなくても使える、と佐野さんは話します。
佐野さんはさらに、体重35キロほどのロボットが1.4トンの車を引いたという例を紹介しました。佐野さんは、24時間働き、頭がよく、力も強い「人間のパワーアップ版」が、しかも受け入れやすい形で現れることにヒューマノイドの可能性があると見ています。
ロボットは仕事を奪うのか、人を遊ばせるのか
樋口さんが「だんだん人間いらなくなってくる」と漏らすと、佐野さんは意外にも、現時点では未来を希望より絶望に近く感じていると明かします。
なんか僕は結構仕事好きだから、仕事奪われちゃってるなとか思ってて。
佐野さんには実体験があります。才能に関する自分の知見をAI化して広めたところ、佐野さん本人へのキャリア相談や人生相談が来なくなり、仕事が減ったといいます。それでも佐野さんは、どうせ進化するなら抗うより進めたほうがいいと考えています。
うーん、まあでも抗ってる方がもったいないと思います。
テクノロジーは進むもんじゃないですか。
社名の「Play」には、この考えが込められています。佐野さんは、ロボットが代わりに働きお金を稼いでくれたり、お金という概念自体がなくなったりして、人間が生きることをもっと楽しめる社会になるかもしれないと語ります。樋口さんは、歴史に詳しい人らしい発言だと受け止め、佐野さんがかつて株式会社COTENにいたことにも触れました。
ロボットを作らず、導入の溝を埋めるという選択
Play Roboticsは、ロボットを積極的に作るつもりはないといいます。佐野さんは、中国や米国のロボットが強く、日本の大企業も参入している中で、スタートアップがロボットを作っても発展は小さいと考えています。改造はするそうです。
その代わりに取り組むのが、組織や家庭へのロボット導入支援です。うまく機能しない、怖い、ちゃんと働けていないといったハードルに対し、チューニングや業務の切り分けを行います。もう1つの柱は、ロボットを受け入れる人間の心の変容をデータとして取ることです。
佐野さんによれば、横山さんはAIソフトウェアとロボットのハード両方を扱え、佐野さん自身は組織開発や人材育成に長けています。この2人の組み合わせなら、さまざまな組織の業務をロボットに移す活動を速く進められると考えたそうです。
結局なんかテクノロジーってもうカンストするような気がしていて、すぐに。
人が違ったら心地いい実装のされ方違うしみたいなところで、超ローカライズ、パーソナライズされる、なんか需要があるような気がしてるんですよね。
番組では、メーカーは歩行や物体認識といった基本機能は提供するものの、小売店やオフィスなど個別の現場に合わせた実装までは手が回らないと語られました。その溝を埋めるのがPlay Roboticsの立ち位置です。
樋口さんは、SalesforceやSlackを導入しても社員全員が使いこなせるわけではなく、詳しい人が1人必要になる経験にたとえ、同じことがロボットの世界でも起きると整理しました。
日本人はドラえもんに育てられた?ロボットを受け入れる心のOS
樋口さんは、人間の目を描いたポスターを貼るとゴミがゴミ箱に入るようになった、という事例を思い出します。人間らしさは、人が意識しない深層心理で大きく影響しているのではないか、という問いかけです。
佐野さんは、人間にはスキーマ ── 物事を理解するときに使う、経験から作られた思考の枠組みのこと。心理学の用語で、新しい情報の受け止め方を左右しますという思考の枠組みがあり、「心のOS」とも呼ばれると説明します。OSができあがっている以上、異物を避けたくなるのは本能的な反応だといいます。
佐野さんは自身の未来予測として、ロボットへの慣れは段階的に進むと語りました。まずヒューマノイドに慣れ、次にロボット全般を受け入れ、変わった形のロボットや、最近流行している昆虫型ロボットも一般化していくという順番です。
ヒューマノイド
人間に近い形なので最初に受け入れられる
ロボット全般
ヒューマノイドに慣れたことで抵抗が薄れる
昆虫型など
変わった形のロボットも一般化していく
樋口さんは、スタッフとして関わるポッドキャスト『僕らの戦略論』でタカミヤさんタカミヤが語った話を紹介します。AIが技術的に行き着くところまで行くのは確定しており、どの国でどの順に実装されるかは、法律や国民性、責任の取り方といった社会の受け入れ方で決まる、という見方です。
佐野さんはこの見方に強く同意し、浸透の速さはほぼ人間側の理由で決まると話します。そのうえで、日本人は浸透の可能性が高いと考えています。
佐野さんは、ドラえもんや鉄腕アトムなどのロボットアニメによって、日本人はロボットと暮らす未来を想像し、人間のように接する心を子どもの頃から育てられてきたと見ています。NVIDIAがディズニー映画『アナと雪の女王』のオラフを再現したロボットを発表し、かわいいと話題になったことにも触れました。
一方で、米国に住むメンバーによれば、米国の人はロボットをロボットとして受け止めがちだそうです。樋口さんは、何十年も前のエンタメが種を植えていたことに「エモい」と反応しました。
さっきの心のOSは実は育てられてるんですよね。
台本なしで語り、実機に触れる番組へ
第1回を終えて、横山さんは、ロボットへのとっつきにくさを少し外せる話ができたのではないかと振り返ります。今後は、今回の歩行に続いて、吸盤でつかむか挟むだけだったロボットの腕や関節がどう進化してきたかといった技術の話も、噛み砕いて伝えたいと話しています。
佐野さんは、このメンバーでやってよかったと率直に語りました。樋口さんを誘ったのは、知らないことを知りたいという好奇心があり、AIで遊び、未来にワクワクする人だと感じたからだそうです。
番組では、佐野さんと横山さんが互いに台本を見せずにテーマを調べ、ぶつけ合う形をとると決めています。ビデオポッドキャストとしてYouTubeやSpotifyで映像も見られるため、実機を買って触ってみる企画も予定されています。
樋口さんは、ドラえもんで育った世代として胸が高鳴っていると話します。2年ほど前に3Dプリンターをもらい、最近は子どもとマイコンのArduinoで遊んでいた時期にこの話が来たため、「才能を見つけていただいて」と佐野さんに感謝を伝えました。番組は毎週水曜朝6時に配信予定です。
まとめ
第1回では、ヒューマノイドがフィジカルAIの中の人間型ロボットであることを確認したうえで、強化学習による歩行の進化、人間のインフラを使える利点、そして社会実装の鍵が人間の心にあるという視点が語られました。Play Roboticsは、ロボットを作るよりも、導入の溝を埋めることに挑もうとしています。
- ヒューマノイドは、身体とAIを持つフィジカルAIのうち人間型のものを指す
- 強化学習によって、かかとから着地する自然な二足歩行がここ1〜2年で可能になった
- 人間型の強みは、人間用のインフラを使えることと、心理的に受け入れられやすいこと
- Play Roboticsはロボット開発ではなく、現場への導入支援と人の心の変容の研究に取り組む
- 佐野さんは、ドラえもんなどのアニメで育った日本人はロボットを受け入れやすいと見ている





