テーマ優先とシステム優先、何が分かれ目なのか
ボードゲームの作り方には様々なやり方があります。その中でよく話題になるのが、テーマを先に思いつくのか、ゲームシステムを先に思いつくのか、という点です。
こういうゲームを作りたいというテーマを優先するのか、それともエリアマジョリティ ── 盤面の陣取りで多数派を取ったプレイヤーが得点を得るゲームシステムの総称。やトリックテイキング ── 各プレイヤーが1枚ずつカードを出し合い、その勝敗で得点を争うカードゲームのジャンル。といったゲームシステムから先に作り、そこにテーマやアートワークを当てはめていくのか。やり方は人によって様々だとManaさんは話します。
どちらが良いか、どちらが作りやすいかは、完全に人によって違うと考えられます。ただ、商業ゲーム作家かインディーズゲーム作家かといった立場の違いも関係してくるようです。
依頼を受けて作る人に求められるスキルとは
依頼やオーダーを受けてゲーム化していく商業的なゲーム作家であれば、間違いなく求められる進め方はテーマを先にするパターンだとManaさんは指摘します。
例として、フリーレンの人狼や呪術廻戦をテーマにしたゲーム、教育関係のものなどが挙げられます。何かしらのIPや目的といったベースのテーマ・世界観が決まっていて、それをどれだけ楽しめるかが問われます。
世界観から逸脱しないようにゲームを組み上げていくスキルは、面白いゲームをどれだけ作れるかというゲームルール優先のスキルとは少し違うものだとManaさんは考えます。
色々とつじつまを合わせていける人は、商業ボードゲームデザイナーに向いているのかもしれません。そういう人は外部からオーダーを受けて作ることもできるだろうとも話しています。
理想はテーマ先。でも実際に手が止まる場所
Manaさん自身も、一番初めはテーマを考えてからゲーム作りを始めるパターンが多かったといいます。
テレビアニメや音楽のプロモーションビデオを見ているときに、こういうテーマがいいなとパッと思いつくのだそうです。そこからベースのゲームジャンルや方向性を決めます。
ただ、そこで終わっちゃうんですよ。私の場合、なかなかテーマ、世界観、フレーバーが先にきっかけにはなるんですけれども、そこからゲームに落とし込んでいくというのはなかなか難しいです。
では自分は何が多いのか。やはりシステムから先に組み上げて、そこにデザインや世界観を乗せるパターンが実際には多いとManaさんは振り返ります。
ゲームシステムの案を粒としてたくさん溜めていき、それが「作りたい世界観」と合致すれば一気に話が進みます。ただ、それもなかなか合わないのが難しいところだといいます。
香水がテーマの新作、実は前は「宝探し」だった
先日のゲームマーケットで新作として出した、トリックテイキング作品「THE SCENT OF JEALOUSY」を例に、Manaさんは制作の裏側を語ります。香水をテーマにした作品です。
嫉妬の香りという世界観で、調香師たちの仲間内の醜い争いを描いています。良い香水を作ろうとする人を、周りが足を引っ張ろうとする。変な材料ばかり渡して臭い匂いを作らせ、引退に追い込むといった内容です。
アートワークも香水そのものがテーマです。香りの濃さでコロンなどに分かれるジャンルを、数と色で段階分けしています。カードの名前も実在する有名な調香師から取っているそうです。
ところが、このゲームはテストプレイの時はまったく違う世界観でやっていました。前のバージョンでは「危険地帯に潜入して宝物をゲットしよう」というテーマだったのです。
このゲームは獲得しすぎるとバーストして逆にマイナスになる仕組みです。砂漠や汚染地域で宝物を集めるものの、やり過ぎると具合が悪くなる、という最初のテーマにちょうど合っていました。
そのためアートワークも、電化製品のマニュアルにあるような、世界共通で使われる注意アイコンを使っていました。バイオハザードのような汚染マークやびっくりマーク、感電のおそれを示すマークなどを、スートのマークに当てていたそうです。
その後、雰囲気が微妙かなと思う時期があり、次はインディージョーンズのような古代遺跡を発掘し、集めすぎると呪われる世界観でしばらくテストプレイをしていました。そして最終的に香水に落ち着いたのです。
スートの数や、何の世界観が溜まっていくのかといったものを、ゲームルールを作った後に当てはめてみて、一番フィットしたのが香水だったといいます。
本当に香水をテーマにゲームシステムを作ろうと考えていると失敗してたと思います。トリックテイキングでこういう体験を与えたいな、バースト要素があったらいいな、そしてセットコレクションになったらいいなというところから考え始めました。
Manaさんは、気持ち的にはテーマ優先で作りたいと常々思っているものの、過去作を振り返ると一番初めのテーマとは全然違ってしまうと認めます。だからシステムからのほうが自分に合っているのだろうと話しています。
四神の世界観はどう決まったか
一つ前の「キリン」というトリックテイキングも、システムからの発想でした。何が得点になるかをバレないように隠す正体隠匿の要素と、強弱をどんどん入れ替えられる面白さから考えたといいます。
さらに「レンジフォローシステム」として、色の強さと数字の強さがダブルでヒットしていると出さなければならない、という幅広のフォローを試したいと考えました。しかも色の強さ自体もどんどん入れ替わる仕組みです。
そのゲームシステムをどう表現するか考えていて、4スートなので世の中に4つあるものは何かと探しました。順序を変える中立のものとあわせて考えたとき、ちょうど当てはまったのが四神と麒麟でした。
4スートなので世の中に4つあるものって何なんだろうと。そして順序を変えるような中立のものって何なんだろうって考えたら、四神五獣ですね。白虎、玄武、朱雀、青龍。そして中立の麒麟がちょうどありましたので、じゃあこれで良さそうだなと。
一方で、その一つ前の「パロパロ」という蝶々をベースにした作品は、比較的ゲームシステムと同時にテーマが出来上がった珍しい例だそうです。
両面を使う神経衰弱を作りたいと思ったのが出発点でした。ただ両面が別々なだけでは工夫がないので、左右の概念も足したいと考えました。左右があるなら蝶々かな、胴体に羽をセットするのがいいかな、とすぐテーマが決まったといいます。
ただ、これも改めて振り返ると、両面で違う神経衰弱を作りたいという点がスタートだったため、やはりゲームシステムが先だったとManaさんは結論づけます。
ハードボイルドから女の子の抗争へ。「LOOSE」の変化
「LOOSE」はNoCopyrightガールさんの絵柄を借りて作った作品ですが、これも最初はまったく違う世界観でした。麻薬取引の組織間という、ハードボイルドな設定で考えていたそうです。
これも世界観より先に、ポーカーのテキサスホールデムをもっと簡略化して短くサクッとできたら、という発想がスタートでした。カードの出し方などはテキサスホールデムを参考にしています。
そこにセットコレクションではなく、じゃんけんの要領で相手の手札を読む仕組みを加えました。ただのじゃんけんでは終わってしまうので、二重の三すくみにしたらどうかと考えます。
二重にするならグルーピングが必要になり、それなら組織的なギャングがいいと考えました。1枚を初めに抜いておいて正体がわからない仕組みは、均衡が取れた組織間で誰かが失踪した、というフレーバーに一番フィットしたといいます。
NoCopyrightガールさんのイラストには刀を持った悪そうな絵柄が多く、それを女の子たちの組織間の戦争にしたら面白いと考えました。使用許可を得て絵を借り、ゲームになるデザインを追加して仕上げたそうです。
RPGから鬼へ。ダイスをカードに変えたら世界観も変わった
「鬼遊灯」は2人対戦で、攻守を交代しながら攻撃に防御を当てる、必殺にカウンターを当てるといった読み合いの心理戦ゲームです。これも最初はRPGの世界観でした。
最初はダイスロールでダメージ計算をする形でしたが、ダイスをやめてカードをドローし、書かれた数字で処理する形に変えました。攻撃を貯めておけるチャージも、当初はダイスを溜める形だったといいます。
もうカードにしたらドローもできて、数字のランダム性もあって取っておけるし、さらにカード効果とかもつけられるなということで、ちょっとずつテストプレイをしながら進化をしていきました。
すると、RPGの世界観から少しずつ離れていきました。なぜそのカードを引くのか、なぜその効果を使えるのかを掘っていくと、キャラクター性と使う意義のある世界観が必要になったのです。
和風のものも作ってみたいという気持ちから、妖怪や鬼、悪魔を検討し、最終的に和風の鬼になりました。洋風のRPG・魔法の世界観だったものが、和風の鬼に変わっていったわけです。
初代の「バーストオブマナ」に至っては、思いっきりゲームシステムからの制作でした。最初のプロトタイプはコピー用紙に渦や丸を書いた程度のものだったといいます。
ひっくり返すと強くなってバーストする、相手を飲み込める、といった仕組みを作る中で、暴走するエネルギーみたいだと娘と話し、マナの世界観にしようと決まりました。調べながらその世界観に辿り着いたそうで、最初からマナの世界観でやりたかったわけではないのです。
RPG・魔法の世界観。ダイスロールでダメージ計算をする
和風の鬼の世界観。カードのドローと効果で読み合う心理戦になる
鳥がテーマの新作。システムから世界観が生まれる瞬間
現在進めているものもゲームシステムからでした。ドラフト的なものとセットコレクションを混ぜたものを作りたいと考え、ドラフトでやる意義やセットコレクションで集める理由を掘っていったといいます。
新作は「バードブレインコーラス」という名前です。ドラフトで使ったカードが、次のターゲットのカードとして場に残るというゲームシステムになっています。
欲しいカードがあるから強いカードを出したのに、その出した強いカードが次に取られるカードになる。この矛盾をどう説明するか考えた結果、アホな鳥がいいだろうという発想に至りました。
「歌を歌いたいなあ」という世界観なんですけれども、そのスカウトをしに行きます。「でも一緒に歌おうよ」って誘うんだけれども、「何しに来たんだっけ」って忘れちゃって、その場にとどまってしまう。
そして次に来たスカウトについていってしまう。そんな世界観がゲームシステムにフィットしました。これもトランプにマジックでマークや数字を書いてテストプレイし、そこから世界観を乗せていったそうです。
テストプレイをしてくれた人は、インストの時に聞いた世界観と、完成品が全然違うことに驚くといいます。ギリギリまでテーマを考えているため、決まればデザイン発注から完成まで早いものの、そこに至るまでが大変だとManaさんは話します。
テーマ先を目指しながら、毎回システム先になる理由
テーマが先かシステムが先かで考えると、Manaさんはテーマ先を目指しているものの、結局毎回システム先で作ってしまうと総括します。
作ってみたいテーマはいっぱいあるものの、それをどうゲームにしていくかで途中で挫折してしまうのだそうです。テーマから逸脱してしまったり、テーマに寄りすぎてゲームとして面白くなくなってしまったりするといいます。
Manaさんは、テーマ先で作れる人がいたらその作り方や考え方を教えてほしいと呼びかけています。ゲームの作り方やデザイナーズノート的な裏話も、今後配信していきたいと話しています。
まとめ
理想はテーマ先でも、過去作を振り返るとほとんどがシステム先だった、というManaさん自身の制作の実際が語られた回でした。テーマは最初のきっかけになるものの、システムを固めてから最もフィットする世界観を乗せるのが、この作り手のスタイルだといえそうです。
- ボドゲ制作にはテーマ先とシステム先があり、どちらが良いかは人によって違う
- 依頼やIPを受けて作る商業デザイナーには、世界観から逸脱せずに組み上げるテーマ先のスキルが求められる
- Mana氏の新作「THE SCENT OF JEALOUSY」は宝探し・遺跡発掘を経て香水テーマに落ち着いた
- 鬼遊灯はダイスをカードに変える中でRPGから和風の鬼へと世界観が変化した
- システムの矛盾を説明しようとした結果、新作は「アホな鳥」という世界観にたどり着いた




