増版と再販、そもそも何が違うのか
この回のテーマは、ボードゲームの増版と再販です。まず言葉の整理から入ります。
増版は、初期に作った数よりもさらに増やして作る場合を指します。再販は、一度完売した後にもう一度作って売るかどうか、という話です。
Manaさんは、これがインディーズで製造販売をしている人ほど悩みやすいテーマだと話します。
増版というものは初期に作ったボードゲームの数よりもさらに増やすっていう場合、それと再販というものは一旦売り切っちゃった、完売した後にもう一回作って売るかというところのお話をしたいと思っております。
そもそも最初に何個作るのかという判断自体が悩ましい、という前提もここで共有されます。
最初の製造数はどう決めているのか
最初の製造数は、いくつかの要素をもとに決めていると説明されます。
過去の売れ行き、新作への自信、そしてどれくらいの期間で売り切る計画かといった点です。
ただ、思ったより早く売れることもあれば、想定通りのこともあり、いずれにせよいつかは完売してしまいます。ゲームマーケットの初出展初日で完売する人もいる、と話されています。
そして、ボードゲームは作るのにお金がかかります。何十万から何百万というお金が一発で動くため、完売後にもう一度作るかどうかは大きな決断になります。
もうたくさん作れば作るほど、一回完売した後にもう一回作ろうという時って、結構リスクというか、ドキドキしちゃうわけですよ。
新作は初速で売れやすい一方、その後は流通に載せてもじわじわとした売れ方になり、発売直後ほどは売れなくなる傾向がある、とも語られます。
完売させて終わりにする「選択と集中」の考え方
増版や再販を何個作るかの前に、そもそも終売するのか、つまり完売でその作品を終えてしまうのかを考える必要があると整理されます。
Manaさんによれば、ボードゲーム業界には完売させて再販しない人が多いといいます。だからこそ「あるうちに買っておけ」という空気や、古い名作にプレミア価格がつく状況が生まれているという見方です。
なぜ売れているのに終売するのか。理由の一つは、作ること自体が重いからです。
小ロットで作ると原価率が悪くなり、たくさん作るほど1個あたりの単価は下がります。つまり、どうせ作るならたくさん作った方が儲かる。ただし売れたら、という前提つきです。
大量に作れば在庫リスクや、販売を続けるための販管費もかかります。こうした事情から、個人だけでなく大手メーカーも終売を選ぶことが多いのではないか、と話されています。
一方で、完売させて終わることにはメリットもあると指摘されます。「買えるうちに買わなきゃ」という印象を作れる点です。
旧作を売り切ってしまえば、プロモーションを新作に集中できます。買う側も早めに新作を手に入れようと動くため、新作を出すたびに初速の勢いがつきやすくなるという狙いです。
売り続けて「面で攻める」ロングセラー戦略
ここからは反対の立場、つまり終売をできるだけ避けて長く売り続ける戦略のメリットが語られます。
サークルを長く続けると作品数は溜まっていきます。新作しか買えない状態だと、常に作品ごとの勝負になってしまう、とManaさんは言います。
いわゆる点で攻めていくって感じなんですね。その作品ごと、これでどうだ、これでどうだってやり続けるっていう形です。
常に複数の作品が店頭に並んでいれば、サークルとしてプロモーションしやすくなります。宣伝のネタも1作品に限られず、作者の認知や知名度を面として広げられる、という考え方です。
たとえば過去にアブストラクトゲームを、今回は別ジャンルを出していると、それぞれのファン層が新しく入ってくる。いろんなジャンルが間口となって、新たな層を引き込めるというわけです。
売り続けるメリットは、過去作も一緒に買ってもらえる点にも表れます。
新作をゲームマーケットで出すと予約は新作に一番多く入りますが、旧作も同時に買われることが多いといいます。予約段階から新作と旧作をまとめて買う人もいれば、旧作だけを買う人もいるそうです。
新作のついでに旧作を買う、面白かったから次の作品も遊んでみる。こうして作品同士が協力関係を持ちながら、面として売っていける、と説明されます。
私は一個一個完売させていくというのではなくて、できる限り面として攻められるような、サークルとして攻められるような手段を取っていきたいと常々考えております。
バーストオブマナで実感した「増版が遅れた」後悔
とはいえ増版や再販はきつい、とManaさんは正直に語ります。作るタイミングを外すと、また完売してしまうこともあるからです。
実例として挙げられたのが、自身の作品バーストオブマナです。ゲームマーケットくらいまでは在庫が持つと見ていたものの、怪しいと感じてふるさと納税や通販を止めていたそうです。
ところが、残りわずかとして募集した予約の段階ですでに売り切れてしまい、当日店頭に並べられない状態になったといいます。
これ、もっと早く増版しておけばよかったなって、すごい後悔をいたしました。
さらにその後、海外からまとめて購入したいという嬉しい連絡が来たものの、在庫がなく断ることになったと話されています。
海外のまとめ買いは仲間内で遊ぶだけでなく、何かの動きにつながっている可能性がある。そのチャンスを逃したことを、Manaさんは特に惜しんでいます。
この経験からバーストオブマナの増版に動き始めたものの、見積もりを取ると物価高や円安の影響で当時より原価が上がっており、判断に悩んだといいます。この回の話につながったのも、その悩みがきっかけでした。
旧作の増版は「儲け」ではなくリスク管理で考える
増版や再販には在庫リスクがあり、旧作を大量に作れば大きなお金が動きます。そのお金があれば新作をもっと出せる、というトレードオフが常につきまといます。
Manaさんの立場は明確で、過去作は利益をそこまで出さなくてもいいというものです。
間口を広げる、常に店頭に並べて面をつくる、他の作品のサポートになる、いつか日の目を見るように、海外や新たなつながりを持つため。そう考えると、旧作でボロ儲けを狙う必要はない、という理屈です。
そこで大切になるのが、キャッシュフローの安定です。一撃で大量のお金を投じるより、こまめに増版する方がリスクも資金繰りも安定すると話されます。
やっぱりなんだかんだ結構自転車操業なんですね。新作でパコンと売れた売上を次の新作に回したい、旧作の製造に充てたい、それを順繰り順繰りやっていくような感じになります。
旧作に大量の資金をつぎ込むと身動きが取れなくなるため、できる限り低ロットで、利益を考えず赤が出ないくらいで回すのがよい、とまとめられます。
増版は何個作るべきか、損益分岐点から逆算する
では、具体的に何個作るべきか。ここが最大のポイントになります。前提として、どれくらいのペースで売れるかという販売予測をもとに最適な数は変わってきます。
まだ新作扱いの時期であれば、予約の入りや勢いを見て積極的に多めに刷ってもよいといいます。悩ましいのは、別の新作が出て「旧作」になってからの増版です。
Manaさんの一つの答えは、旧作として年間どれくらい売れているかという数字を基準にすることです。ゲームマーケットや通販で、落ち着いた後にじわじわ売れる年間の数がキーになります。
その上で登場するのが損益分岐点という考え方です。
これをまあ何百個、何千個って作った時に、果たしてその金額、例えば百万円かかったとして、その百万円を回収するために一体何個売らなきゃいけないのかというところです。
Manaさんが理想とするのは、損益分岐点を1年、長くても2、3年で回収できる数の増版です。回収期間が短いほどキャッシュは安定します。
具体例も示されます。損益分岐点が300個で、年間100個売れているとします。原価率が50%なら、600個くらいまでは作ってよいという計算になります。
注意点として、初期製造分ほどを一気に増版してしまうと、回収に5年、下手をすれば7年かかる計算になりかねない、と指摘されます。
回収を早くすれば初期コストは抑えられますが、小ロットゆえに利益率は薄くなり、必要な完売個数は上がります。そのバランスの落としどころが、おおよそ2、3年だといいます。
ただし、この数字は作品ごとの原価率や売れ続け方によって大きく変わるため、あくまで参考として受け取ってほしいと補足されています。
まとめ
完売で終わらせて新作に集中するのも、売り続けて面で攻めるのも、どちらも有効な戦略です。大切なのは、増版や再販を「儲け」ではなくリスク管理として捉え、損益分岐点と直近の販売数から冷静に数を決めることだと語られました。
- 増版は初期数より増やすこと、再販は完売後に作り直すこと。まず終売するかを先に判断する
- 完売させて終える戦略は新作への集中と初速の勢いづくりに、売り続ける戦略は間口の拡大と旧作の同時購入につながる
- 旧作の増版は利益を狙わず、赤が出ない程度の低ロットでこまめに回す方がキャッシュフローが安定する
- 増版数は年間販売数と損益分岐点から逆算し、回収期間は長くても2、3年、できれば1年を目安にする
- バーストオブマナは増版が遅れて完売し、海外のまとめ買いの機会も逃した。早めの判断が重要になる



