「クロメガネ」とは何者?ダンスの何でも屋の自己紹介
番組の前回は、高村さんが自身のエンタメを使った取り組みを紹介する回でした。黒田さんは前回について、課題への「対策」ではなく攻めの発想で企画を考える点に強く共感したと振り返ります。
今回は黒田さんが話し手になる番です。黒田さんの名乗る「クロメガネ」は、ダンサーとしてのニックネームで、黒縁のメガネではなく「黒田のメガネ」という意味だといいます。
銀のメガネとかかけてたんですけど、銀メガネやって突っ込まれるんで。黒田のメガネやねんって言って、それを1万回ぐらい言ってきたんで、黒に寄せていきました。
黒田さんはダンスサークルでダンスを始め、その後ダンスに没頭しました。現在は株式会社クロスハンドと日本ダンスウェルネス協会を運営し、ダンスを活用した教育・福祉と、それを通じた街づくりに取り組んでいます。
黒田さんの事業の中で最も比重が大きいのはイベントです。初心者向けのイベントやK-POPのイベントを開き、日常のコミュニティの場として兵庫県の阪神尼崎駅近くでダンススタジオも運営しています。
平たく言うとダンスに関する何でも屋って言っても正しいんじゃないかと思ってます。
尼崎にスタジオを構えたのは偶然だったそうです。居抜きの空き物件に運命を感じた黒田さんは、オーナーに直接「スタジオください」と頼んで譲ってもらったといいます。
なぜダンス屋がわざわざ社会課題へ?鍵は「おかげで」
高村さんは、社会課題の領域は儲かりにくく、配慮も多く、成功も難しいと感じていると前置きします。そのうえで、ダンスの指導者である黒田さんがなぜわざわざ社会課題に手を出すのか、そしてダンスと社会課題がどうつながるのかを尋ねました。
黒田さんの答えの出発点は、自分自身の立ち位置の変化です。かつてダンスバトルに出まくっていた頃は「矢印が自分に向いていた」と振り返ります。
ところが、約16年続けてきたダンスインストラクターの仕事は、矢印が自分ではなく受講者に向く仕事でした。来てくれた人を楽しませ、モチベーションを上げ、上達への道筋を示すことが求められます。
(来てくれた人に)喜んでもらうっていうことが僕的には嬉しかったんですよね。
黒田さんはそこから、ダンスの価値はただ踊ることだけではないと気づいたといいます。踊ることをきっかけに、さまざまな「おかげで」が生まれると考えるようになりました。
矢印が自分
ダンスバトルで自分の上達や勝敗に向き合う
矢印が相手
インストラクターとして受講者を喜ばせる
「おかげで」の発見
つながり・健康・新しい興味がダンスから生まれる
社会課題へ
「おかげで」の一つとして社会課題解決に目を向ける
ダンスのおかげで人と繋がれた。ダンスのおかげで健康になった。ダンスのおかげで興味なかったものに興味を持てるようになったとか。
黒田さんにとって社会課題解決は特別な転身ではなく、ダンスの「おかげで」を山ほど作る取り組みの一つとして位置づけられています。
高村さんも、フェスに赤十字の献血ブースや行政の啓発ブースが入ると気軽に立ち寄れると話します。高村さんは、ダンスの高揚感や一体感にも同じ力があると共感しました。
ダンスレッスンは「アトラクション」という発想
黒田さんが活動のキーワードに挙げるのは「非日常」です。フェスやダンスイベントだけでなく、普段のダンスレッスンも小さな非日常だと黒田さんは考えています。
60分や90分のレッスンの中で、振り付けができない経験や、できた経験が次々に起こります。その感情の揺れこそがエンタメだというのが黒田さんの見方です。
DJとして活動する高村さん自身は、ダンスを習った経験がありません。高村さんは、レッスンに行けば気持ち悪い動きをしてしまうのでは、ついていけず恥ずかしい思いをするのでは、と不安を口にしました。
黒田さんによれば、ダンスの魅力はまさに「できない」を楽しめる点にあります。スポーツやゲームで負ければ悔しさや叱責につながりやすい一方、ダンスでは間違いそのものが笑いに変わるといいます。
僕もう一発芸大会って言ってるんですよ。みんな想定外のことが起こって、気持ち悪い動きになったりとかすることになるんですけど、それが楽しめる環境空間作りをすることができたら、それがエンタメになるんですよね。
30代のダンス未経験者でも大丈夫かと高村さんが尋ねると、黒田さんは「むしろ大歓迎」と即答しました。リズム感がない、運動神経がない、今さらと言う人ほど「格好の的」だと笑います。
ゴールドジムのシニアとエアロビが教えてくれたこと
黒田さんはこれまでダンスレッスンを8000本以上担当してきました。多い時期は1週間に17本以上教えていたといいます。
黒田さんの転機の一つは、ゴールドジムでの毎週のレッスンでした。65歳以上の受講者15名ほどに教える中で、受講者から「この曜日が楽しみ」と言われたことが印象に残ったそうです。
毎週楽しみってできへんくてテンパってるのに言ってるんですよ。ってことは、この先の未来に楽しい点を打てるなと思ったんですよ。
振り付けができずに慌てていても、シニアの受講者は毎週を楽しみにしていました。黒田さんは、この「未来に楽しい点を打つ」ことをダンスでやりたいと考えたのがスタートだったと語ります。
高村さんが「エアロビに近いのか」と聞くと、黒田さんは共通点と違いを説明しました。エアロビは音楽に合わせて反復の動きを続ける形で、ダンスレッスンは音楽を止めて説明も挟む形だといいます。
黒田さんが面白いと感じたのは、自分のレッスンの前に楽しそうにエアロビをしていた知り合いの反応でした。ダンスレッスンに誘うと「ダンスなんて」と断られたのです。
え、それ(エアロビ)もダンスですよって話なんですよ。こっちからしたら。
黒田さんは、「ダンス」という言葉へのアレルギーのせいで踊らなくなる人が多いと指摘します。呼び方を変えるだけで、参加のハードルは下がるといいます。
「ダンス」と呼ぶと、言葉へのアレルギーで敬遠される
「リズム体操」「リズム遊び」と呼ぶと始めやすくなる
黒田さんは、こうしたきっかけ作りこそが「ダンス×○○」を手がける会社の役割だと考えています。
「リズム感がない」の正体は同時にこなすこと
ダンスレッスンでは振り付けを覚える以外に何をするのか、と高村さんは尋ねました。黒田さんが挙げたのは、手拍子などを使うリズムトレーニングです。
黒田さんのリズムトレーニングは、誰でもできる手拍子をあえて「できなくさせる」ところから始まります。歩きながら手拍子をすると、人は手の音を足の音に合わせようとします。
そこで足だけをその場で2倍の速さで走らせると、手拍子もつられて速くなってしまいます。手のリズムは変えなくていいのに、足と手で別々のことをするとリズムが崩れるのです。
歩く足と手拍子を合わせるだけなら、ほとんどの人がずれずにできる
足を2倍速にすると手もつられ、リズムが狂ってしまう
黒田さんはこれをドラムにたとえます。足と左右の手で叩くタイミングが違うため、一つが狂うと全体が崩れるという仕組みです。
リズム感ないって人は複数のことを同時にするからリズム感がない風になってるだけなんですよね。
コンサートの手拍子やラジオ体操でずれる人はあまりいない、と黒田さんは指摘します。リズム感の問題をデュアルタスク ── 2つの課題を同時に行うこと。運動しながら計算するなど、注意を分散させる練習はリハビリや認知機能の分野でも使われますの問題と捉え直したことで、黒田さんは「全員ダンスできる」と確信したといいます。
黒田さんは現在、93歳の人にもダンスを教えています。日常で体を動かす機会が少ない高齢者にとって、歌が好きな代わりに体で表現できる場を作りたいと話します。
一石何鳥にもなるのがダンスの良さかなと思ってます。
罰ゲームを罰ゲームでなくすイベント「敷居低く」
話が台本から大きく外れていることに気づいた黒田さんは、「宇宙の旅に出ている」と笑いながら、イベントの話に戻しました。
黒田さんがイベントに力を入れるのは、ダンスは始めることさえ敷居が高く、ましてや人前の本番で踊るのは「罰ゲーム」に近いからです。その罰ゲームをどれだけ罰ゲームでなくせるかに挑戦しているといいます。
黒田さんが主催するイベント名は「敷居低く」です。黒田さん自身も「ダサい名前」と認めつつ、関西を中心に、初心者や大人が出やすいイベントとして浸透してきたと話します。
敷居の低いイベントだと打ち出すことで、参加者の心理的ハードルが下がります。80歳や大人が踊っている姿を見れば、自分にもできるかもしれないと思えるからです。
「敷居低く」のダンスバトルでは、血のつながらない祖父と孫のような二人が向き合うこともあります。最近は73歳と小学3年生が「一緒に出よう」とチームを組んだそうです。
年齢とか国籍もそうですし、障がいの有無もそうなんですけど、それを超えてつながれるものが、ノンバーバルのダンスには可能性があるなと思って。
高村さんは、街中で話しかければ不審者扱いされかねない今の時代に、体一つで信頼関係が生まれるダンスは新しいと受け止めました。
表に出にくい高齢者へ、ダンスはどう届くのか
高村さんは、イベントに出てこられる人とは別に、より高齢の人たちへのアプローチもしているのかと尋ねました。
黒田さんによれば、70代、80代、90代になると、健康のための選択肢や好きなことをできる機会が減っていきます。高齢者向けのレクリエーションには、脳トレのような頭の体操、心の健康のためのゲーム、体の健康のための運動があります。
黒田さんはこれらをダンスで実現するプログラムを、理学療法士などの専門家と作っています。座ったままでもでき、指さしや手を叩くといった日常の動きを使う設計です。
黒田さんは、ダンスが身体的に常に健康的とは言い切れず、負担がかかる場合もあると認めます。そのため理学療法士の監修で負担の少ない動きを確かめ、精神面の効果についても知見を得ているといいます。
このプログラムが、ロックダンス ── 腕を回す、指をさす、手を叩くといった動きと、動きを止める「ロック」が特徴のストリートダンス。1970年代のアメリカで生まれ、ファンクやディスコ音楽と結びついて広まりましたをもとにした「ロックフィット」です。ディスコ世代の曲に合わせて、みんなで楽しく踊ります。
ロックフィットを提供するために2026年6月9日に設立したのが、日本ダンスウェルネス協会だと黒田さんは説明しています。
活動の場は自治体や病院に広がっています。高石市と社会福祉協議会の連携では、シニアが集まるコミュニティで月1回教えています。病院の生協と連携した取り組みでは、半年後の本番に向けて月1回練習しています。
東大阪市とは、約27名の同じメンバーと月1回、半年間取り組むパックを実施しています。東大阪市が市政だよりで65歳以上の参加者を募ったところ、111人の応募があったそうです。
どっかで健康のために何かしなあかん。でもどうせやったら楽しくやりたい、健康と向き合いたい。
黒田さんは、音楽に合わせて踊りたいという欲求は人間の根本にあると考えています。その欲求を解放するきっかけを作れば、誰もが踊りたくなるはずだといいます。
今後は、子どもや大人がおじいちゃん・おばあちゃんの晴れ舞台を見に行く「逆参観日」のようなディスコイベントや大人の文化祭を展開する予定です。そのための準備としても、今シニアにダンスを届けていると黒田さんは語ります。
ダンス必修化で一番困ったのは体育の先生だった
高村さんは次に、若者向けの取り組みについて尋ねました。黒田さんによれば、小中学校の義務教育でダンスが扱われるようになったのは2012年からです。
ダンスの授業には、HIPHOPダンスやロックダンスといった現代的なダンスも含まれました。そこで一番困ったのは、ダンス経験のない体育の先生だったといいます。
もうダンスやったことない方がいきなり踊れと。もう罰ゲーム中の罰ゲームじゃないですか。
2010年代には、ダンススタジオに習いに来る体育の先生もいました。しかしダンスは子どもの習い事ランキングでも上位で、K-POPの流行もあり、結局は子どものほうが上手いという状況が生まれました。
大人と子どもでは上達のスピードも違うため、先生たちは教えることに抵抗を感じています。黒田さんは教員を支えるため、教育委員会と連携して「ダンスがうまくなくても教える方法」を伝えています。
特に高村さんが注目したのは評価の方法です。ダンスのうまさだけで見ると、誰が上手いかは素人には分かりにくいものです。
(評価は)全然人前に踊れなかった手足も伸びなかった子供が伸びるようになったとかもそうじゃないですか。
黒田さんは、能力値と振り幅の両方が必要だとしたうえで、変化の振り幅を見ればダンス未経験でも評価できると先生たちに伝えています。高村さんはこの視点を「ダンス素人には全くなかった」と驚きました。
盛り上がる高校ダンス部に潜む「辞めてしまう」問題
黒田さんによると、高校ダンス部はバブリーダンスで話題になった富岡高校などをきっかけに、テレビ番組も生まれて大きく盛り上がっています。一方で、教えられる外部講師が足りず、顧問もダンス経験やつながりがないという悩みがあるといいます。
黒田さんは、高校ダンス部が大会中心になり、いい意味でも悪い意味でもスポーツ化していると指摘します。ダンスにはエンタメやアートの要素もありますが、その楽しさを知らないまま大学で辞めてしまう生徒も多いそうです。
黒田さんは高校ダンス部の課題への解決策として、基礎の楽しさを教える活動もしています。
一生なんかダンスをできる環境をどれだけ作れるかっていうのをあの目指してるんで、そういう意味では高校で辞めるってめっちゃもったいないと思ってんですよ。
フェイントもクイックも「リズム」。スポーツへの応用
高村さんは、母校の野球部がトレーニングにジャンプや体をひねるリズムトレーニングを取り入れていると話し、時代の変化を感じたといいます。
黒田さん自身も、スポーツ選手にダンスを教える活動をしています。軸にあるのはアイソレーション ── 体の一部分だけを独立させて動かすダンスの基礎技術。首だけを横に動かす、胸だけを前後させるといった動きで、体の分離と連動を鍛えますを活用した「リズムアイソレトレーニング」です。
黒田さんは、ダンスの視点を各競技の動きに置き換えて説明します。
| 競技 | 動き | ダンスの観点 |
|---|---|---|
| 野球 | 肩・骨盤・膝のどこまでひねるか | 体の分離と連動性 |
| サッカー・バスケ | フェイント | リズムを変える |
| バレーボール | クイック | リズムを速める |
バレーボールもクイックってリズムを速めることじゃないですか。
リズムの変化と体の分離・連動という観点からスポーツのパフォーマンス向上につなげるため、黒田さんはプロと一緒にプログラムを作っているといいます。高村さんは、身体コントロールの重要性が世界的に認知されている今、この話は「ピタッとくっつく」と応じました。
高村さんは、ダンス未経験の立場から聞いて、高齢者や未経験者が踊れることで何が生まれるのかが明確に見えたと振り返ります。先生たちの悩みのように、ダンスの世界の内側の課題も社会課題になっていると感じたそうで、続きは後半で深掘りすることになりました。
まとめ
黒田さんの活動の根っこにあるのは、ダンスのおかげで人とつながり、健康になり、新しい自分に出会えるという「おかげで」の発想です。言葉の言い換えやリズム感の捉え直し、敷居の低いイベントを通じて、黒田さんはシニア、学校、スポーツへとダンスの入口を広げています。
- ダンスの価値は踊ることだけでなく、つながり・健康・興味といった「おかげで」を生む点にある
- 「リズム感がない」は複数の動作を同時にこなす難しさで、アプローチを変えれば93歳でも踊れる
- イベント「敷居低く」は3〜83歳が参加し、多世代交流を生んでいる
- ダンス未経験の先生でも、変化の振り幅で見れば生徒を評価できる
- フェイントやクイックはリズムの変化であり、ダンスの視点はスポーツにも生かせる




