「どうやったら面白いことを思いつくの?」に答える回
この回のテーマは、黒田さんが持ち込んだ「プロデューサーの頭の中」です。前回までの2回は、仕掛け学とナッジを知識や事例とともに紹介する内容でした。
黒田さんは、自分も高村さんも、ワークとライフを分ける感覚がほとんどないといいます。そのため2人とも「どうやったらそんな面白いことが思い浮かぶんですか」「普段、脳内で何を考えているんですか」と、よく聞かれるそうです。
どうやったらそんな面白いことが思い浮かぶんですかとか、脳内どういうことを考えてるんですか、普段。っていう質問がめちゃくちゃ多いんですよね。
黒田さんは、ダンスイベントやフェスの企画を料理にたとえます。伝えたいことというメインは王道のままでいい。そのうえでトッピングをどう変えるかによって、オリジナルの企画が生まれるという考え方です。
黒田さんによると、トッピングを変えるには日頃の「思考の筋トレ」が必要です。2人ともそれを無意識にやっているので、今回は無意識の習慣を言葉にする回になりそうだと話しています。高村さんは「じゃあもうほぼ台本は意味ない回ですね」と応じ、肩の力を抜いて話し始めます。
DJは最初の1人を誰に決める?
高村さんのDJ歴は15年ほどです。DJをするときは、フロアにいる人をずっと見ながら曲を選んでいるといいます。
高村さんによると、DJの出番には2種類あります。1つは1時間から3〜4時間ほどBGMとして流すセット。もう1つは、30分から1時間ほど、高村さんを楽しみに来たお客さんの前でやるライブセットです。ライブセットでは大サビで一体感をつくり、最後に落ち着かせる流れを組み立てます。ただ、その前にまず、最初に踊らせる1人を選ぶそうです。
大サビに行くまでに、まず一発目に誰を踊らすかを一人選びますね。
高村さんは、出番の前にフロアを見渡したり、1〜2曲かけて反応を見たりしながら、最初の1人を探します。最初から大盛り上がりするのは、タレントでない限り無理だという考えからです。
フロアにダンサーがいれば、まずダンサー向けの曲をかけます。ダンサーが踊ると周りがわっと沸くので、そのあとでテイラー・スウィフトやジャスティン・ビーバーのような有名な洋楽につなげます。ほかにも、陽気に酔って踊っているギャルや、面白そうな3人組のマッチョ軍団を見つけたら、そこを狙いにいくといいます。
みんなにブルーノマーズかけてたら沸くだろうみたいな感じでは絶対沸かなくて。
高村さんは、この考え方の裏づけとして、TEDの「ムーブメントの起こし方」という動画を紹介します。動画では、原っぱで1人のおじさんがよくわからないダンスを踊っていて、そこに知らない2人目のおじさんが加わります。
2人目が加わった時点で、周りから見たその場面は「変なおじさんが踊っている」から「踊っている人たちがいる」に変わります。3人、4人と増えると、周りは「乗っからないとまずい」「乗っかりたい」と感じるようになり、最後はダンスホールのようになるそうです。
1人目
1人が踊り始める。最初は変な人に見える
2人目
別の人が加わり、周りの見え方が「踊っている人たち」に変わる
3人目・4人目
「乗っかりたい」という空気が広がる
フロア全体
ダンスホールのように全体が盛り上がる
高村さんは、この動画を見る前から、DJの仕事はまさにここだと感じていたそうです。まず1人目を動かし、次にその周りをどうくっつけていくか。最初の1人と、その周りをつなぐことができれば、あとは人数が増えていくだけだと話しています。
ダンスレッスンも「いじる相手」選びから
高村さんのDJの話を聞いて、黒田さんは、自分のダンスレッスンでの教え方とよく似ていると話します。DJは音楽でしか働きかけられませんが、講師はレッスン中に話しかけることができます。
黒田さんは、初めて来た生徒に「どこから来たの?」「ダンスはどれくらいやってるんですか?」と質問します。その受け答えから、生徒がどんなキャラクターなのかがわかるといいます。
いじってほしい人なのか、構ってほしい人なのか、ちょっとなんかこう、そっとして黙々とやりたい人なのか。
黒田さんが見ているのは、うつむき加減になるのか、うれしそうにするのか、ボケたがるのか、といった反応です。ダンスを間違えたときのリアクションにも注目していて、そこで注目されたがる人は、いじられたい人だそうです。
黒田さんは、いじられキャラやムードメーカーをまず生き生きさせることで、それが周りに伝わって、いい空気が広がるといいます。場を観察してキャラを見極める点は、DJとまったく同じだったと話しています。
ボケやすい空気を作るっていうのはめっちゃ大事ですね。
高村さんは、DJでもダンスでも、後ろで飲んでいる人たちに「前に来てよ」と呼びかけてもウケないと補足します。それよりも、自然と前に来たくなる構成をつくり、少しずつ巻き込んでいけるかがポイントだと話しています。黒田さんは、前回紹介した仕掛け学を、DJとダンスの現場でやっている話だとまとめています。
知らない業界の話がぷよぷよの連鎖になる理由
黒田さんは、高村さんについて「勉強量が半端ない」という印象を持っています。たくさんの知識を入れたうえで、それを形を変えられるくらい抽象化し、得意なエンタメとくっつけているのではないか、と黒田さんは問いかけます。
高村さんの答えは、何もないところから生み出す「0→1」は、普通の人と同じように苦手だというものでした。だからこそ、いろんな情報やコミュニティに自分から触れにいくといいます。最近は、デザイナーばかりが集まる会に1人で参加したそうです。
イベントの現場でも、高村さんは音響、照明、舞台の担当者やプロのアーティストに話しかけます。本番が始まると手が空く時間があるので、「この機械の何がいいんですか?」「それで何が変わるんですか?」と聞いて回るそうです。
でも何が変わるんすか?みたいな話を深掘りしていくと、あ、そういうニーズがあるんやとか、そういう機能が実装されるくらいレベル高いんやとか、現在地点がわかる。
専門家の話を深掘りしていくと、照明の技術がほかの分野とつながっていたり、AIや半導体不足といった時代の動きと結びついたりします。高村さんはその感覚を、パズルゲームのぷよぷよにたとえています。
いろんなぷよを並べてたら連鎖して気持ちいいってなるタイプなんで。
黒田さんに「人に興味があるからなのか」と聞かれると、高村さんはそうだと思うと答えます。テレビ、ギター、懐石料理のような身近なものにも、それを形にしてきた人がいて、今も残っているのはニーズや使われる場面があるからです。高村さんは、そこに「みんなが生きてきた証」が見えると話しています。
さらに高村さんは、ものの見え方は概念しだいなので、その概念が変わったらどうなるかを考えると話します。自身が取り組む「選挙がお祭りになったらどうなるか」という発想も、ここにつながっているそうです。
お寺の保育園で身についた「これは本当に机?」という問い
高村さんは、自分の考え方の原点として幼少期の話をします。通っていた保育園はお寺が運営していて、毎日座禅を組んでいたそうです。
高村さんは、天国と地獄の絵本や『蜘蛛の糸』をもとにした、かわいらしい仏教の教えを自然に受け入れていたといいます。本人いわく、諸行無常 ── この世のものはすべて移り変わり、同じ状態のままではいられないという仏教の基本的な考え方ですがすでにインストールされた状態だったそうです。
机って捉えれば机だけど、言ったら木の集合体が机なだけであってみたいな。それを机と認識しない場合は何になるんだろうみたいな。
黒田さんは、高村さんには常に問いがある状態で、形を変えて考えることがもう思考の癖になっているのだろうと受け止めます。高村さんは、レベルが高い低いの話ではなく、その考え方が根っこにあるだけだと話しています。
黒田さんも、ほかの業界の人と話して新しい発見をするのが楽しいといいます。共通点を見つけると、どの分野もニーズや欲求、課題といった人間の根っこにつながっているそうです。黒田さんは、いろんな分野をある程度知るジェネラリスト ── 特定の分野に限らず、幅広い領域の知識や経験を持つ人のことです。1つの分野を深く極める「スペシャリスト」と対比して使われますでありながら、ダンスやリズムのスペシャリストを目指しています。
黒田さんの方法は、「ダンス」というピースをいったん分解し、「ダンスを通して何をするのか」と考え直すことです。分解したピースを外のピースと組み合わせ、ぷよぷよのように消していく感覚だといいます。
高村さんは、自分との違いを「ピースの形にとらわれていないこと」だと説明します。黒田さんの言葉を借りると、高村さんにとってピースは最初から形が決まったものではなく、たまたまそう見えているだけで、形を自由に変えられるものです。
自分の「ダンス」というピースを分解し、外のピースとの組み合わせを試していく
ピースの形そのものを決まったものと見ず、自由に変えられるものとして捉える
飲食店に入ったら、まず音楽を聴く
黒田さんは、満員の飲食店やガラガラの店に入ったとき何を考えているのかを、高村さんに聞きます。高村さんが職業柄まず気になるのは、店で流れている音楽だそうです。居酒屋なのに洋楽がたくさん流れていたら「なんでそれなの?」と考えるといいます。
高村さんによると、そうした選曲には狙いがないことが多いそうです。一方、繁盛している店は、音楽で店のブランドをつくり、それに合う人を集めていて、狙いがぶれていないといいます。
高村さんが見ているのは、音量、どのくらい音が届くか、音楽のジャンル、そして曲の速さを表すBPM ── Beats Per Minuteの略で、1分間の拍の数のことです。数字が大きいほどテンポが速い曲になりますです。BPMで会話のテンポも変わるので、クラブはBPMが速くなり、ジャズバーはゆったりとした曲になります。
ミスマッチはめちゃくちゃバイト君が好きだからとかいう理由でやらない方がいいよと。
黒田さんは、アパレルショップにも購買意欲を高める曲と、買う気がなくなる曲があると話します。音楽は欲求をかき立てる仕掛けになるはずなのに、選び方を間違えると逆効果になるという指摘です。
高村さんは、BGMひとつで従業員のモチベーションだけでなく、お客さんの気分まで左右していることを、店側はもっと意識したほうがいいと考えています。高村さんにとっては、POPよりも空間としての音のほうが大事に見えるそうです。
マクロで見る高村さん、1人と4時間話す黒田さん
黒田さんは、高村さんが物事をミクロよりマクロで、上から見下ろすように見ていると指摘します。高村さんは、フェスをつくる立場なので、個人に集中しすぎないようにしているといいます。自分がフェスに行ったとき周りはどうしているか、自分はどんな行動を起こしやすいかといった、基本的な行動を考えるそうです。
一方の黒田さんは、自分は逆だと話します。黒田さんは1人ひとりとたくさん話し、相手が自覚していない本音を引き出していきます。それが頭の中にたまって、あとでつながるのだそうです。黒田さんは、これを1人の顧客を深く掘り下げるN1マーケティング ── 特定の1人の顧客を深く理解し、その人の本音や価値観から商品やサービスを考えるマーケティングの手法ですになぞらえています。
その対話の数と質を多分高めて、一人の人と四時間、五時間喋ってからですよ。
高村さんは「すご。絶対無理」と驚きます。黒田さんは例として、40歳の誕生日の夜の出来事を話します。「嵐と共演したい」という、まったく知らない20代の男性と夜中に話し、1時間半もアドバイスをしたそうです。嵐は当時、活動を休止していました。
黒田さんは、話す価値がなさそうに見える相手でも、深く話した経験は心に残るといいます。黒田さんのやり方は、1人ひとりの課題をどう解決するかを考えたうえで、全体に広げていく「ミクロからのマクロ」です。
N1は自分自身の感覚。あとは全体を上空から見るように設計する
1人ひとりと長時間対話して、本音を集める。ミクロからマクロへ広げる
N1は自分自身。選挙とフェスの行列から考える
高村さんは、ミクロについては自分が経験して強く感じたことしか信じていないといいます。例として挙げたのが選挙の投票です。社会にいいことをしているのに、同年代は来ていないし、高齢の人ばかりで、終わったあとの達成感もない。もっと面白くなれば自分は幸せになる、と感じたそうです。
黒田さんは「N1の1が自分なんですね」と受け止めます。高村さんはそのうえで、世の中全体と自分の感覚が合っているかを確かめるそうです。同年代でも、地域の高齢者でも、親に連れられてきた子どもでも、投票所はきっと楽しい場所ではない。そこを楽しくすれば、自分と同じ体験をみんなができるのではないか、と考えます。
フェスの待ち時間も同じだといいます。チケット購入、入場、フードやドリンクのブースに行列ができたとき、どんな待たせ方がいいか、どうすると横入りしたくなるか。高村さんは、自分の感覚を信じながら、大勢をどうさばくかを上空から見るように設計しているそうです。
自分の実感
投票がつまらない、達成感がないと感じる
全体との照合
同年代も高齢者も子どもも、楽しい場所とは思っていないはず
企画化
投票を楽しくすれば、みんなが同じ体験を得られると考える
高村さんは、他人へのヒアリングも時間をかければ正解に近づくと認めつつ、自分は対話を続けると疲れてしまうタイプだといいます。ヒアリングでは浅い答えしか返ってこないことが多く、人は本当は気になっていても「大丈夫」と言ってしまうものだ、とも話しています。一方で、自分とは一生対話しているので信じられるそうです。
ただし、主婦の方、初孫を迎えたおじいちゃん、海外の人、キリスト教の家庭に生まれた子どもなど、自分が知らない立場の話は、まっさらな状態で受け止められるといいます。黒田さんは、当事者になれるテーマはN1を自分にして、専門外の世界は深く聞く、という使い分けだとまとめています。
アイデアが浮かばない人へ。好きの基準を下げてみる
黒田さんは、アイデアが浮かばない人、企画の0→1が苦手な人、自分には取りえがないと思っている人に、どうアドバイスするのかを聞きます。高村さんの答えは、そういう人は理想が高く、完成形をきれいに思い描きすぎている、というものでした。
高村さんの団体には、常に20〜30人ほどの学生がいます。学生たちは「やりたいことがわからない」と悩み、「好きなものから始めてみよう」と言われると、今度は「好きって何かわからない」と言うそうです。そこで高村さんは、好きの基準を大きく下げることを勧めています。
読書やカフェ巡りが好きかと聞くと、学生は「好きだけど一番ではない」と答えがちです。高村さんは、好きかどうかは0か1しかないので、1でも好きなら夏休み中ずっとやってみればいいと提案します。毎日1冊本を読む、毎日違うカフェに行く。30日続ければ、本当に好きかどうかがわかるはずだと話しています。
(好きかどうかは)ゼロか一しかないから。
高村さんによると、続けるうちに、カフェで流れるジャズが好きだった、豆の焙煎が好きだった、カフェにいる意識の高い会社員がかっこよく見えた、といった新しい発見が出てくるかもしれません。好きなことをきっかけにした行動なら、ストレスも少ないといいます。
高村さん自身も、興味のない街の風景の写生を30日続けるのは苦痛だといいます。一方で、毎日違う蔦屋書店に行く、普通電車だけで出かける、毎日違う駅で降りる、といったことなら続けられそうだと話しています。黒田さんは、意識を向けたものほど目に入りやすくなるカラーバス効果 ── ある色や物事を意識すると、それに関する情報が自然と目に入りやすくなる心理現象のことです。たとえば赤を意識すると街の赤いものに気づきやすくなりますを挙げ、アンテナを張って動くことだと受け止めます。
好きは広げて深める。掛け合わせから名前のない仕事が生まれる
高村さんは、学生には、好きなものの中で一番を決めなければいけないというプレッシャーがあるように見えるといいます。好きなものは全部「好き」のフォルダに入れておき、その日の気分で1つ選べば、自分にとってプラスの行動にしかなりません。
高村さんによると、積み重ねるうちに「映像が好き」「見るより撮りたい」「洋画より邦画が好き」と、好きなものはだんだん絞られていきます。高村さん自身も、音楽の中ではレゲエ、ジャパニーズレゲエ、大阪レゲエが好きで、なかでもピアノが入った曲が好きだと気づいたそうです。
高村さんは、周りの目を気にして自分の「好き」を信じられない人がいるとも話します。「カフェが好き」と言って「スタバしか行ってないんかい」と言われるのを気にしてしまう、という例です。
あんまりそこに周りの評価とか詳しいとか、フォロワー数がいるとか、そういったものは連動させない方がいいよとは言ってます。
黒田さんは、子どもに将来の夢を聞くと、警察官や消防士のように職業で答えることが多いと話します。けれど好きなことが混ざっていくと、答えはにごり、まだ名前のない仕事が生まれるかもしれません。黒田さんは、1つの職業に絞るとピースが1つしかないのでくっつき方がわからないけれど、いろいろやっておけば組み合わせが見つかる、と話します。そのいくつもの掛け合わせが、アイデアの出し方なのではないかとまとめています。
話は「そもそも好きとは何か」でずっと話せそうなほど盛り上がりました。次回は、黒田さんが開いているイベント「敷居引く」をもとに、「初心者大歓迎なのに初心者が来ない」のような、敷居の高さをどう下げるかを掘り下げる予定だそうです。
まとめ
高村さんと黒田さんは、面白いアイデアのもとを、人をよく観察すること、知らない世界への好奇心、そして小さな「好き」から行動することにあると語りました。2人のやり方は違いますが、どちらもピースを組み合わせて新しいものをつくる感覚を大事にしています。
- DJもダンスレッスンも、まず最初の1人を動かし、その周りをつなげることで場の盛り上がりが広がっていきます
- 知らない業界の専門家に質問を重ねると、知識がぷよぷよのように連鎖してアイデアにつながります
- 高村さんはN1を自分の実感に置いて全体を設計し、黒田さんは1人ひとりとの長い対話から全体へ広げています
- アイデアが浮かばないときは「好き」の基準を下げて、30日間行動してみることから始めてみてください
- 1つに絞らず、いろんな好きを掛け合わせることで、まだ名前のない仕事や企画が生まれるかもしれません


