なぜ小売・製造・介護は難易度が高いのか
今回のテーマは、HR SaaSの顧客タイプ別アプローチです。城田さんは切り口として、規模・業種・成熟度といった顧客属性を挙げ、どのセグメントが難しく、どこがスムーズに進むのかを4人で言語化していきたいと切り出します。
まず前提として、城田さんはセグメントの切りすぎに注意を促します。細かく切りたくなるけれど、切りすぎると複雑になる。どの塩梅が最適なのかを探るのがこの回の狙いです。
最初に瀧田さんが、自社のHR系SaaSで難易度が上がりがちなセグメントを挙げます。エンタープライズに加えて、小売・製造・介護や社会福祉といった業種です。
理由としてはやっぱり従業員の(システムへの)慣れの具合ですね。販売業だったら、基本的にはお客さんを接客することがメインの仕事になってくるので、システムに不慣れなんです。
瀧田さんは、介護や看護、製造のブルーワーカー系も同じく、普段の業務がシステム操作から離れているぶん、浸透の難しさが増すと説明します。
さらにエンタープライズ特有の壁として、瀧田さんはルール設計の複雑さを挙げます。会社全体の規則があっても、事業所ごとに独自ルールがある。それを1つのSaaSにどう乗せ、どちらに合わせるかの設計が難しいといいます。
業種で組織を切らず、慣れの壁を埋めにいく理由
城田さんは、そうした難しさに対してCSをインダストリー(業種)カットで組織化しているのかを尋ねます。瀧田さんの答えは「していない」でした。
最終的にプロダクトをどう価値として届けるかを重要に考えたときに、そもそもプロダクトの思想的に、バーティカル的な機能拡張をしているわけではないので。
瀧田さんによれば、業種ごとの「あるある」はまとめているものの、組織自体を業種で分けてはいないとのこと。業種に閉じた専門性を出すより、ITに不慣れな業態へどう浸透させるかをパターン分けして支援するイメージです。
その支援の仕方について、瀧田さんは現場の声を開発に戻す役割にも触れます。使えるけれど使うまでのハードルが高い部分を、CSが埋めていくという発想です。
理想としてはそこ(CSの介入)に入らなくてもちゃんと使ってもらえるプロダクトであるべきなので、どんどん介入度合いを低くしていくために情報を与え続ける、みたいな役割も担ってる感じですかね。
規模で変わる難しさ|兼務のスタートアップと巻き込みの中堅
城田さんは綾部さんに、タレントマネジメント系では業種による難易度の違いが出るかを尋ねます。綾部さんは「出てくる」と答えつつ、簡単な領域はないという実感を語ります。
それぞれの規模、業種によって独特の難しさがあると感じていて。(どの領域も)簡単な領域って個人的にないんじゃないかなと思ってまして。
綾部さんは、小さい規模の企業でありがちな壁として兼務の多さを挙げます。専任担当がいないと、目標設定や評価の業務が形骸化しやすい。期初に設定して期末にやるだけの「儀式」になってしまうといいます。
だからこそ、綾部さんは小規模企業では体制の構築が重要になると話します。具体的には、組織のエンゲージメントにKPIを持つ推進者を専任で置いてもらうことを、個人のアプローチとして勧めてきたそうです。
一方で、綾部さんは中堅以上で人数が増えた場合の難しさも整理します。ここでは巻き込む人が増えるため、中心レイヤー、つまりタレントマネジメントでいうマネジメント層をいかに巻き込めるかが鍵になります。
城田さんは、瀧田さんの話が業種軸、綾部さんの話が規模軸だったと整理します。規模でいえば、小さいと兼務でリソースが足りず、大きいと関係者が多すぎてまとまらない、という対比が見えてきました。
兼務が多く専任担当がいない。評価業務が形骸化しやすく、推進者を置く体制構築が重要になる
巻き込む関係者が増える。マネジメント層など中心レイヤーの理解と活用をどう促すかが鍵になる
ホリゾンタル企業はどこまで業種に尖らせるか
城田さんは、ホリゾンタルなプロダクトを扱う大脇さんに、あえて業種で切っているのかを尋ねます。大脇さんは、ビジネスサイドでは規模で切ったり、最近は業種でも切る動きがあると答えます。
大脇さんによれば、事業フェーズによって規模で切って伸ばし、また業種で切って伸ばすというチャレンジがあるとのこと。プロダクトはホリゾンタルに作りつつ、注力したい規模に合わせた機能開発のフィードバックをその時々でやっていくといいます。
何でもできますよって渡しても、なかなか届かないみたいな(ことがある)。
城田さんは、ホリゾンタル企業がどこまで業種に尖らせるのかに関心を示します。マーケティング的に業種特化で訴求するだけなのか、それとも業種の課題を解く機能開発までするのか、という論点です。
これに瀧田さんは、そもそも市場をどう捉えるかから答えます。バーティカルにやると市場領域が狭まる。だから劣等者になりやすくても市場の広いほうを狙うのがいい、というのが瀧田さんの考えであり、自社の方針でもあると話します。
そのうえで瀧田さんは、機能の作り方の考え方を示します。業種特化ではなく、ある程度広い範囲でニーズがある機能をつける。ホリゾンタルベースで作りつつ、使い方によってバーティカルに刺さる形を目指すという発想です。
城田さんは、法令などで合わせられない部分は仕方ないが、運用は一般化して合わせてもらう前提がある、と受けます。瀧田さんは、できない部分は別サービスで補える点も自社の強みだと補足しました。
チームは規模で切り、サクセスの武器は業種で磨く
綾部さんも、機能開発の方針は瀧田さんと同じくマーケ寄りだと話します。ただしCSの目線では、領域別に攻略方法、つまりベストプラクティスが違うという実感を語ります。
業種別のシナリオの違いって、具体的にどういう違いが出てくるんですか?
大脇 一起 さんからの質問
綾部さんは、ブルーカラーと呼ばれる製造や介護のお客さんを例に挙げます。システム操作や、評価面談・目標設定そのものに慣れていない人が多いため、一から教える必要がある。研修や説明会、管理職向けの勉強会をメニューとして組み、お客さんの状況に合わせて微調整しながら進めるといいます。
この話を受けて大脇さんは、システムを導入するというより評価制度自体を導入するくらいだと言い換えます。綾部さんも、評価制度をうまく回すニュアンスのほうが強かったと同意しました。
瀧田さんは、評価シートにも業種ごとの「あるある」があると付け加えます。それを集めれば「他社ではこうしている」と言いやすくなる。営業系の会社では数字だけやればいい文化もあり、そこに評価を入れるとハレーションが起きうる、といった悩みも集まると話します。
綾部さんは、導入やオンボーディングだけではアウトカムが出ず、数字を書くだけの「箱」になってしまうと指摘します。離職を下げたり組織のパフォーマンスを上げたりするには、ノウハウの支援が必要になるという考えです。
ブルーカラーの動機づけ|評価制度を「回す」支援
綾部さんは、ホワイトカラーではすでに評価制度が組まれているケースが多い一方、ブルーカラーでは1on1やキャリア面談を組もうとしても難しさが出ると話します。工場勤務などで軽作業が多いと、仕事の動機づけが難しいという独特の問題があるといいます。
(工場勤務などで)単純作業、軽作業が多いってなった時に、やっぱり仕事の動機付けが難しいっていう独特の問題が出てくるんですよね。
城田さんも、飲食やサービス産業でのタレントマネジメントの経験を語ります。ミッション・ビジョン・バリューから等級制度、行動指針、四半期の評価へと落とし込み、さらに日々の行動にどうつなげるかまで考える必要がある、という難しさです。
評価だけだと回らないんで、じゃあ日報を書かせるのかでいくと、めんどくさいよねとか。(点を線につなげるのが重要ですよね)
綾部さんは、ブルーカラー系では新入社員が育っても辞めてしまうケースが多く、深掘ると仕事そのものへの動機形成や、仕事の変え方まで考えないとアウトカムが出ないと話します。だからこそ業種特化しないと難しい領域だといいます。
突き詰めると難しいので、やっぱ業種特化しないと難しい(領域なんです)。
そうした支援では管理職がメインターゲットになる、と綾部さんは続けます。管理職向けにメンタルヘルスや目標設定の研修が必要になるものの、CS側でやるのは難しいため、そこはプロと契約して対応しているそうです。
自社のセグメントの切り方|規模で分け、武器は業種で
城田さんは最後に、各社が実際にどうセグメントを切って支援しているかを尋ねます。瀧田さんの答えは「今はもう規模」でした。
瀧田さんは、自社ではエンタープライズかSMBかという規模で分けていると説明します。理由は、入り口となる求められる能力が違うからです。
規模が小さい領域は、どれだけ数を回せるかっていうケイパが必要で、エンタに関しては数は少ないけれど、より深く入れるかっていうところに分かれるんです。
城田さんも、エンタープライズはハイタッチで営業・プロマネ・コンサルができる人、SMBは1対Nでマーケ視点で設計できる人、と求めるケイパビリティが変わると受けます。規模で切るのも1つの正解だと整理しました。
綾部さんは、これに近い考えを別の言い方で示します。チームは規模で切り、サクセスの方法は業種で切るという切り分けです。
チームは規模でやっぱ切ってますね。ただサクセスの方法は業種で切ってますね。
綾部さんによれば、SMBのチームの中で「このお客さんはこういうサクセス方法でいこう」というシナリオ、つまり業種別の武器を持っているイメージです。城田さんは、規模別でタッチポイントを分け、業種別に勝ちパターンを見極める形だと整理しました。
まとめ
今回は、HR SaaSのCSを規模と業種でどう切り分けるかを4人で言語化しました。正解は1つではないけれど、軸の優先順位はつけられる、というのが見えてきた回です。
- 難易度は規模と業種の両方で変わり、小売・製造・介護などシステムに不慣れな業態や、ルールが複雑なエンタープライズは特に難しい
- 小規模は兼務で体制が弱く推進者を置くのが重要、中堅以上はマネジメント層の巻き込みが鍵になる
- ホリゾンタル企業はマーケ寄りで業種訴求しつつ、機能は広くニーズのある形で作り、使い方でバーティカルに刺さるよう設計する
- 多くのケースでチームは規模で切り、サクセスの武器(勝ちパターン)は業種で磨くという切り分けが合理的
- 導入だけではアウトカムが出ないため、特にブルーカラー系では動機づけや評価制度を回す支援が必要になる




