夫婦の家探しは、なぜうまく進まないのか
「ぷちゆかのちいさい暮らしラジオ」は、都内で住まい購入をサポートする石井優香さんが、14坪のコンパクトな部屋から家探しや暮らしのヒントを届ける番組です。6月25日の放送は、娘さんの発熱でバタバタした週の朝に収録されました。
石井さんの家では、この日は病児保育 ── 病気の子どもを、保護者が仕事などで看病できないときに一時的に預かる保育サービス。事前予約が必要な施設が多いですの予約が取れたため、娘さんを預けて乗り切る予定だといいます。
この回のテーマは、前日に本公開したYouTube動画です。動画では、石井さんがサポートし、半年ほどかけて家を決めたお客様との対談を紹介しています。
このお客様は、去年の夏前に石井さんの勉強会に参加しました。勉強会の後すぐに物件見学へ進んだわけではなく、期間を空けながら検討を続けて購入に至ったそうです。
石井さんによると、一人で家を買うなら、自分が住みたい場所や物件を選べばよいのでシンプルです。けれど夫婦で決める場合や子育て中の場合は、考えるべき前提条件が増えます。
その結果、夫婦の家探しでは意見のすれ違いや、話が前に進まない状態が起きやすくなるといいます。
私はあの物件良かったのになとか、もう早く決めようよみたいな話とか、なんかそここだわらなくてよくない?とかね。
石井さんは、意見が食い違っていることにすら気づかないまま、なんとなくうまくいかない夫婦も多いと話します。サポートの現場でも、夫婦の意見がぴったり合っているケースは少ないそうです。熱量も含めて、どちらかが家探しをリードしている夫婦がほとんどだといいます。
すれ違いの正体は「条件」ではなく「前提」
夫婦の意見がすれ違うと、多くの人は条件のすれ違いが原因だと考えます。広さの希望が違う、エリアの優先度が違う、広さとエリアと築年数の優先順位が違う、といったケースです。
ただ石井さんは、条件の違いよりも、その手前にある前提が違っている夫婦のほうが多いと見ています。
動画で紹介したお客様も、家探しを始めた時点で、夫婦それぞれが思い描く予算のイメージを言葉にしてすり合わせていませんでした。
夫婦って結構日常会話の中で家で話をしてるから、なんとなくこう家を探すってなっても、条件のすり合わせができてる気持ちになりやすいんですよ。
実際に物件を見に行くと、夫婦のずれが見えてくるといいます。「夫が意外とここを気にしていてびっくりした」という声も、石井さんのもとには届くそうです。
夫婦の前提が合っていないと、条件をすり合わせようとしても話はまとまりません。石井さんは、これが夫婦の意見が割れるときの一番の理由ではないかと考えています。
広さの希望、エリアの優先度、築年数などの優先順位が違う
予算のイメージや、なぜ買うのかを言葉にしてすり合わせていない
気に入った物件が「予算の線引き」を生んだ
動画のご夫婦が前に進むきっかけは、気に入った物件でした。内見の3件目くらいで、奥様が「すごくいい」と思う物件に出会います。
このご夫婦は、その物件を前にして初めて、予算をシビアに話し合いました。この物件を買うならいくらまで出せるのか、本当の限界はどこか、両親に援助を頼むならいくらぐらいかを、はっきり決めたのです。
それまでのご夫婦は、予算を「なんとなくこれくらいかな」という感覚で考えていたといいます。石井さんは、本当は最初に決めておくのが理想だとしたうえで、なんとなく進めてしまうこともあるだろうと話しています。
予算の線引きができると、話し合いの中身が「どこを許容できるか」に変わります。それまで並列に並んでいた広さ、エリア、予算の希望のうち、予算という軸が1本決まるからです。
予算っていう軸が一個決まると、その予算の中で広さを取るのかエリア取るのかっていう話になってきて、優先順位がね、よりリアルに決まっていく
結局、奥様が気に入った物件は、ご主人が安心して払っていけるラインを超えていました。そのためご夫婦は、その物件は難しいという結論を出します。
そのうえでご夫婦は、予算のラインを守るならエリアか広さのどちらかを許容する必要がある、と考えるようになりました。石井さんは、ここで家探しがぐっと前に進んだと振り返ります。
もともとの一番の希望は、都心に近いエリアでした。そこでご夫婦は広さを許容することにし、当初60平米を希望していたところを、もう少しコンパクトな部屋に決めたそうです。
気に入った物件に出会う
内見3件目くらいで、奥様が「いい」と思う物件が出てくる
予算の線引きをする
出せる上限、本当の限界、親の援助の額をはっきり決める
許容する点を決める
予算内なら、エリアと広さのどちらを取るかを話し合う
購入を決める
都心寄りのエリアを優先し、60平米よりコンパクトな部屋を選ぶ
石井さんは、このご夫婦が希望の数字を守ることを目的にせず、自分たちが心地よく暮らせるかどうかに立ち返って考えていた点が印象的だったと話しています。
「住み替え前提」か「長く住む」か、ずれたまま買うと
石井さんが動画の対談でも大事だと話しているのが、家を買うこと自体を目的にしないという考え方です。
とてもシンプルな考え方ですが、石井さんはここがずれている夫婦が意外と多いと感じています。
例として石井さんが挙げたのは、DMで受けた相談です。この相談者の奥様は、住み替えを前提に、資産形成の第一歩として家を買ったつもりでした。
ところが引っ越した後でご主人に聞くと、ご主人は子どもが独立するまでその家に住むつもりでした。奥様は子どもが小学校に入るころに住み替えたいと考えていて、話し合いがかみ合わないという相談だったそうです。
石井さんは、この相談者の夫婦は完全に前提がずれていると指摘します。子ども部屋がもう1部屋必要になったとき、奥様は買い替えを考えますが、ご主人は「引っ越すの?ここでいいでしょ」という反応になってしまいます。
住み替え前提で、資産形成の第一歩として購入。子どもの小学校入学ごろに住み替えたい
子どもが独立するまでは、購入した家に住み続けるつもり
だからこそ石井さんは、家を選ぶ条件より先に、なぜ買うのか、いつまで住むのか、この先どう動いていくつもりなのかを夫婦で話しておくことが大事だと考えています。
これはね、ほんと正直こう、不動産の話というよりも、家族の未来の話なので
石井さん自身は、サポートの最初のヒアリングで、なぜ買うのかや、どんなライフプランを考えているのかを前提として確認するそうです。前提に合わせて買わないと、目的に合った家は買えないと考えているからです。
一方で、SUUMO ── リクルートが運営する不動産・住宅情報サイト。物件を検索して、掲載している不動産会社に問い合わせることができますなどで問い合わせた不動産会社は、購入の目的やいつまで住む予定かを聞いてこないと石井さんは話します。
そこのすり合わせがされないまま、条件だけすり合わせて、夫婦で家探しが進んでいって、購入して住んでみたら、意外と全然違うことを考えてたっていうのは起きうるんだな
物件を見る前に話したい、家族の5年後・10年後
石井さんがこの回で伝えたい結論は、夫婦の意見がすれ違うのは条件が違うからではなく、前提が違うからだということです。
そのため、物件を見に行く前に、なぜ買うのか、どんな未来のために買うのかを夫婦や家族でしっかり話し合うことを勧めています。予算やエリア、優先順位はその後に決まるものだという順番を、石井さんは大事にしています。
ただ、こうした話は夫婦でも普段はなかなかしないものです。石井さんは、結婚するときには将来子どもが何人欲しいか、東京から地元に帰ることはあり得るかといった話をするだろうと話します。
一方で、日常生活の中ではそうした話をしない夫婦も多いといいます。家の購入は、結婚直後よりも子どもができたタイミングなどに多いため、改めて人生を話し合う機会になるというのが石井さんの考えです。
これから先5年後、10年後どうしていくんだっけ?っていう話をね、できる機会にしてもらう。
だからね、結構家探しって別に家を買わなくても、めちゃくちゃ人生にとってはいいタイミングというか、いい機会だと思ってるんですよね。
石井さんは、夫婦で深刻に話し合ってけんかするのではなく、楽しい未来を思い浮かべながら「これからどうしていきたいんだっけ?」と話す機会にしてほしいと締めくくっています。
雑談:小規模園で感染症が少なかった本当の理由
本題の後、石井さんは雑談として、娘さんの発熱をきっかけに気づいたことを話しました。子どもが3歳と5歳になり、あまり風邪をひかなくなったため、緊急時に対応する力が落ちていると感じているそうです。
石井さんの子どもたちは小規模園 ── 0〜2歳児を中心に、定員19人以下で運営される小規模保育事業の保育施設を指す呼び方。少人数で家庭的な保育を行うのが特徴ですに通っています。下の娘さんは0歳で入園し、入園からちょうど3年がたちました。
この3年間、石井さんの子どもたちはインフルエンザやコロナ、RSウイルス、手足口病といった感染症に一度もかかったことがなく、園内で流行したという話も聞かなかったそうです。石井さんは、人数が少ないので持ち込まれにくく、広がりにくいからだと考えていました。
ところが実際は、病気にとてもシビアなベテランの先生のリスク管理に助けられていたのだと、石井さんは気づきます。
なんか「もうこの状態だったら早めに病院行ってください」って言って、最初結構カルチャーショックを受けるぐらい、めちゃめちゃなんか風邪にシビアな先生がいるなと思ってた
息子さんが以前通っていた大規模園では、多少鼻水が出ていても登園するのが普通だったといいます。そのため石井さんは、ちょっとした鼻水でも早めの受診を勧めるこの先生に驚いたそうです。
経験20年ほどのその先生が退職して4月からいなくなると、2か月半で、クラスの半分以上が休むという事態がこの3年で初めて起きました。
3年間、感染症にかかったことがなく、園内で流行した話も聞かなかった
先生の退職から2か月半で、クラスの半分以上が休む事態が初めて起きた
入園当初は「厳しい先生がいる」と思っていた石井さんですが、今では戻ってきてほしいと感じているそうです。子どもたちは今も写真を見て「あの先生いなくなっちゃったね」と寂しがっていて、石井さん自身も寂しい気持ちになったと話して番組を終えました。
まとめ
夫婦の家探しが進まないとき、表に見える広さやエリア、予算の食い違いの奥には、なぜ買うのか、いつまで住むのかという前提のずれがあることが多い、というのが石井さんの見立てです。物件を見る前にその前提を話し合うことで、条件の優先順位も現実的に決まっていきます。
- 夫婦の意見のすれ違いは、条件よりも前提のずれから起きることが多い
- 実例のご夫婦は、予算の線引きをきっかけに許容する点を決め、都心寄りのエリアを優先してコンパクトな部屋を選んだ
- 住み替え前提か長く住むかがずれたまま買うと、購入後にもめる原因になる
- 物件を見る前に、なぜ買うのか、どんな未来のために買うのかを夫婦で話しておく
- 家探しは、夫婦で5年後・10年後の人生を楽しく話し合ういい機会になる





