そもそもブランディングとは「覚えられる仕組み」
この回は、番組の保呂田さんと片山さんが西口一希氏の書籍『ブランディングの誤解』 ── 西口一希氏の著書。P&Gでの失敗経験をもとに、ブランディングの本質を論じている。番組内で紹介されている。を紹介するシリーズの後編です。前編では「ブランディングをやったら売れるわけではない」という話をしていました。
前編では、どんなに見た目を整えても中身が良くないとブランディングは効きません、という話をしましたね。
後編では、では何が売上に効くブランディングなのかを、P&Gの罠、コーセーの雪肌精、味の素の冷凍餃子といった事例を追いながら整理していきます。
最初に片山さんが確認したのは、ブランディングの語源です。保呂田さんによれば、もともとは牛に焼き印を押して個体を示す「ブランド」が始まりだといいます。
もともと牛にギュッと個体を示すための焼き印をブランドって言ってたんですよ。これがブランディングっていう言葉の始まりって言われてます。
つまり、区別すること・識別することがブランドの原点だという整理です。片山さんはここでマーケティングの定義でも知られるフィリップ・コトラー ── 「近代マーケティングの父」とも呼ばれる経営学者。マーケティングの理論を体系化したことで知られる。の定義を引きます。
コトラーの定義では、ブランドとは、ある売り手の財やサービスを識別し、競合他社のものと区別するための名称、言葉、記号、シンボル、デザイン、あるいはこれらの組み合わせだとされています。片山さんは、これはつまり覚えられるための仕組みだと言います。
片山さんは、この2つを混同している人がとても多いと指摘します。「ブランド戦略イコール広告キャンペーン」だと思っている人はまだ多い、というのが2人の実感です。
マーケティングが出会いで、ブランディングは記憶。出会わせて終わりじゃなくて、思い出させ続ける活動がブランディングですよね。
P&G「リジョイ」がハマったリブランディングの罠
続いて話題は、この回の核心であるリブランディングの罠へ移ります。片山さんは、巨大なグローバル企業であるP&Gでさえ失敗していると切り出します。
西口氏は、業績が下がったときのテコ入れとしてリブランディングが使われるものの、その失敗例は枚挙にいとまがないと指摘しているといいます。
本の中で挙げられているのが、P&Gのシャンプー「リジョイ」の事例です。売上が下がってきていた状況でパッケージを一新した結果、既存ユーザーが店頭で商品を見つけられなくなり、さらに売上が落ちたといいます。
リブランディングということでパッケージを一新したことで、既存ユーザーが店頭で商品を見つけられなくなって、さらに売り上げが落ちたっていう。
今回の「リジョイ」はロゴも形も色も全部刷新した大がかりな変更でした。その結果、慣れ親しんだユーザーが商品自体を見つけられなくなったのです。片山さんは、これは前編で挙げた「記憶されていた記号を自ら壊してしまう」罠にあたると整理します。
保呂田さんは、ユーザーは商品に思い入れがあり、それが突然変わることには大きなリスクがあると応じます。加えて、シャンプーのようにパッケージが変わると中身まで違うように感じてしまう点も指摘しました。
(シャンプーの)パッケージが変わると、なんか中身も違ったような気しない?
片山さんは、リブランディングの目的は変えることではないと言います。リブランディングの目的は変えることじゃなくて、記憶を更新することだという整理です。変えすぎると別のブランド、別の商品になってしまうからです。
そのうえで片山さんは、西口氏の考えとして、今のデザインを誰が評価していないのか、誰が評価していないから買わないのかという問いから立ち止まって考え直すべきだ、と紹介します。片山さんは、リフォームで済むはずが建て替えになってしまうケースが多いと表現しました。
売上が下がる
テコ入れとしてリブランディングを決断
パッケージを全面刷新
ロゴ・形・色をすべて変更
記号が失われる
既存ユーザーが店頭で商品を見つけられない
売上がさらに低下
記憶されていた記号を自ら壊してしまった結果
雪肌精に学ぶ「変えない覚悟」という成功例
では逆に、リブランディングの成功例はないのか。保呂田さんの問いに、片山さんはコーセーの雪肌精 ── コーセーの化粧品ブランド。青いボトルと「透明感」の世界観で長年知られている。を挙げます。
雪肌精は、大胆すぎない変更で成功している例だといいます。長年「透明感」という領域を一貫して守り、ボトルの青やロゴの書体は変わっていないように見えて、実は微妙にアップデートされているという整理です。
彼らは大胆すぎない変更で成功していってるんですよ。長年この透明感っていう領域を一貫して守ってて。
西口氏の本によれば、雪肌精はブランドロゴの文字を小さくしたり、全体的にスタイリッシュな印象に進化させたりしているといいます。保呂田さんも画像検索しながら、あの青がずっと残っている一方でパッケージは今っぽい、と確認しています。
片山さんは、これを「変えないことで覚えられる戦略」と表現します。新規客の獲得を狙いながらも、既存ファンが持つ記憶は絶対に壊さなかった点がポイントだといいます。
保呂田さんは、勇気を持って全部壊すのではなく、その時代時代にしっかりフィットさせながら、覚えてもらっている部分を大事にしているのが雪肌精だと整理します。片山さんは、日産のロゴ変更も、オリジナルの形を残しつつ近未来的に更新した近い例だと補足しました。
ロゴ・形・色を全面刷新し、記憶されていた記号を壊してしまった
青いボトルや世界観は守り、書体や細部だけを微調整して記憶を更新した
味の素の冷凍餃子は「永遠のベータ版」
保呂田さんが一番聞きたかったというのが、味の素の話です。片山さんは、西口氏が味の素の姿勢を「冷凍餃子は永遠のベータ版」と表現していると紹介します。
どういうことかというと、発売から5年ほど経つ間に、レシピを50回以上改良しているというのです。見た目のパッケージはほぼ変えず、中身をずっと磨き続けているという整理です。
発売から5年ぐらい経ってて、50回以上レシピを改良してるっていう。
保呂田さんは、改良に続く改良を重ねているから「永遠のベータ版」なのだと理解し、少しずつ美味しくなっているのだと確認します。片山さんは、これを「完成しないブランド」という哲学だと表現しました。
片山さんは、味を変えたならパッケージも変えるのが一般的な発想だと指摘します。実際、コカ・コーラが味を変えた「ニューコーク」は失敗例として知られています。それでもパッケージを変えずに味だけを磨き続けた味の素はすごい、というのが2人の見方です。
中小企業は「1%の熱狂」で勝つ
ここまでの話は大手企業の事例です。保呂田さんは、うちはP&Gやコーセーのような大手ではないと感じる経営者が多いのではないかと問いかけます。
これに対して片山さんは、西口氏がこの点も明確に述べていると紹介します。すべてのブランドがマスブランドを目指す必要はなく、中小企業は1%の熱狂的なファンを作ることに集中すべきだ、という主張です。
全てのブランドがマスブランドを目指す必要はない。中小企業は1%の熱狂的なファンを作ることに集中するべき。
保呂田さんは、1%と聞くと小さく感じるが、人口を考えればミリオンヒットと変わらないと指摘します。1%に忘れられないようにする方が、100%に知られるより強いというのが2人の結論です。
具体例として片山さんが挙げたのが、ヤッホーブルーイングのクラフトビールよなよなエール ── ヤッホーブルーイングが手がけるクラフトビール。熱狂的なファンやコミュニティづくりで知られる。です。熱狂的に愛してくれる1%があればいいと割り切った瞬間、ビール好きが語りたくなるブランドに進化したといいます。
保呂田さんも、よなよなエールは以前話した機能的価値と情緒的価値を併せ持ち、さらにコミュニティも作っている事例だと応じます。中小企業にとっては、誰に覚えてもらうかを絞ることが最大のブランディング戦略になる、という整理です。
1回だけ100%の人がパッと買うよりも、1%の人たちが忘れないようにした方が、ロングスパンで愛される可能性がある。
片山さんは、SNSでバズることが正義なのではなく、スーパーでお母さんが思い出してくれることこそ大事だと言います。保呂田さんも、何万いいねより「またローカルのあそこに行こう」という記憶がリピートにつながると応じました。
覚え直す作業とクリエイターへの発注
保呂田さんは、大手企業が長い歴史の中で積み上げてきた文脈は素晴らしいものだと前置きしたうえで、注意点を挙げます。商品やサービスを海外や新しい市場に展開するときには、覚えてもらう作業をもう一度やり直す必要がある、という指摘です。
新しい環境に出るんだったら、このブランディングの、ちゃんと覚えてもらう作業っていうのは、もう1回やり直しなんだよ。
片山さんは、そこまで理解したうえでクリエイターに発注すべきだと補足します。丸投げで発注するのではなく、戦略を自分たちで考えたうえで頼まないと、ずれたものが出てくるという注意です。
クリエイターにポーンって丸投げして発注するんじゃダメで、しっかり自分らで戦略を考えた上で発注しないと、ずれたもの出てきますよ。
保呂田さんも、以前話したアートとデザインの違いを踏まえないと、意図とずれた成果物が出てくることがあると応じます。2人は、クリエイターへの発注はお互い気をつけていこうと締めくくりました。
まとめ
リブランディングは「変えれば良くなる」ものではなく、覚えられている記号を壊せば売上を落としかねません。変える勇気より変えない覚悟、そして表面の刷新より中身の進化を積み重ねることが、売上に効くブランディングの本質だと2人は整理しました。
- ブランディングは「売る」ためではなく「覚えられる」ための仕組み。マーケティングは出会い、ブランディングは記憶。
- P&G「リジョイ」はパッケージ全面刷新で既存ユーザーが商品を見つけられなくなり、売上をさらに落とした。
- コーセー「雪肌精」は青いボトルと世界観を守りながら書体や細部だけを更新し、新旧両方の顧客に覚えられ続けている。
- 味の素の冷凍餃子はパッケージをほぼ変えず、レシピを50回以上改良して「進化を記憶させる」戦略を取っている。
- 中小企業は100%に知られるより、1%の熱狂的ファンに忘れられないことを狙うほうが強い。





