話題のカテゴリー戦略、その反響と読者層
今回は、suswork株式会社代表の田岡凌さんを迎えたゲスト回の第2回です。田岡さんのキャリアや自己紹介は第1回で扱われています。
テーマは、田岡さんが最近出した書籍と、sususworkがこれから打ち出していくカテゴリー戦略です。この紺色の本は5月末に発売され、収録時点でおよそ2か月が経っていました。
反響は想定以上だったといいます。発売当初はAmazonの8部門ほどで1位を取り、第3版まで進んで5000部ほどが売れているとのことです。
想定以上の反響をいただいてまして。発売当初もAmazon8部門ぐらいで1位いただいて、今第3版まで行って5000部ぐらいですね。
読者層についても、田岡さんは意外だったと話します。マーケターと経営層がそれぞれ2〜3割ほど、事業開発や新規事業コンサルが続くと見ています。
残りの4割ほどは、ビジネスとあまり関係のない層だといいます。普段は主婦や医師をしている人からもフィードバックが届いたそうで、田岡さんはこれを嬉しい想定外だと語りました。
カテゴリーという概念はどこから来たのか
浜田さんは、カテゴリー戦略という言葉は聞いた瞬間に腑に落ちる一方で、マーケティングのフレームワークには見当たらないと疑問を投げかけます。4Pの中にカテゴリーはない、というわけです。
田岡さんによれば、カテゴリーという概念はそもそも経営やマーケティングに閉じたものではありません。最初は分類学に遡り、植物をどう分けるかというリンネ ── 18世紀の博物学者カール・フォン・リンネ。生物を体系的に分類する方法を確立し、近代分類学の父と呼ばれますの仕事がまさにカテゴリーだったと説明します。
人はいろいろなものを同時に認識できない。だからこそカテゴリーを区切ることが学問として重要になり、そこから心理学や言語学の領域にも入っていったといいます。
例として田岡さんは、エスキモーが氷を非常に多くの種類で認識でき、それぞれに言語があるという話を挙げます。人の認識は、その国や時代背景によって変わるということです。
海外では、ブランド論の専門家であるデイビッド・アーカー ── ブランド論で知られるアメリカの経営学者。ブランド・エクイティなどの概念で影響力を持ちますが『カテゴリー・イノベーション』を出し、カテゴリーキングという議論もありました。ブランドを成長させるにはカテゴリーの成長こそが重要だという考えは、数年前から語られてきたといいます。
一方で、カテゴリー戦略という言葉自体は日本にはあまりありませんでした。田岡さんは、取材記事の中で自然と出てきたこの言葉を、少しずつ浸透させてきたと振り返ります。
ネスレとフレキシブルオフィス、田岡さんとカテゴリーの出会い
浜田さんは、田岡さんがカテゴリーを意識し始めたのはいつかと尋ねます。田岡さんは、これまでのマーケティング人生がカテゴリーと密接に関わってきたと答えました。
ネスレでは、ネスカフェがコーヒーカテゴリー、当初はインスタントコーヒーカテゴリーを担っていました。しかし日本人が減ってカテゴリーが縮むなかで、どう伸ばすかを考え、コーヒーマシンという新しいカテゴリーを打ち出したといいます。
その中でもドルチェグストやネスプレッソのようなカプセル式コーヒーマシンは、ネスレがグローバルでもリードするカテゴリーだと田岡さんは説明します。カフェインレスコーヒーやオフィス向けのアンバサダーも、カテゴリーを新しく作って事業を成長させる取り組みでした。
ただ、スタートアップに入って感じたのは、カテゴリーの重要性が意外と認識されていないことでした。成熟したFMCGでは当たり前でも、そもそも何かわからないところで戦うスタートアップでは、カテゴリーが科学されていなかったといいます。
田岡さん自身も当初は体系的に取り組めなかったものの、試行錯誤と顧客支援を通じて一定の体系化が進み、それがカテゴリー戦略の本につながったと語ります。
カテゴリーを強く意識し始めたのは、この2年ほどだといいます。とくに直近1年はカテゴリーを中心に理論を再構築するプロジェクトを進め、海外と日本の事例を研究し尽くしたことが、執筆のきっかけになりました。
inゼリーに学ぶ、新しいカテゴリーの作り方
浜田さんは、具体的な成功事例を挙げてほしいと求めます。田岡さんは、あえて本に書いていない例として、朝食代わりに飲むゼリー飲料を挙げました。
当時のWeider、現在のinゼリーです。田岡さんは、忙しい自分が朝食を取れないときにゼリー飲料をよく飲んでいると気づいたといいます。
田岡さんはこれを、忙しいビジネスパーソンが「10秒チャージ」という短い時間で栄養を取れる、新しいカテゴリーを作った例だと見ています。コンビニのレジ前の棚には、朝バナナなど多くのゼリー飲料が並んでいます。
まさにこの飲料とゼリーの掛け合わせ、それによって忙しくてもすぐ朝ごはん、栄養が取れるみたいなところを打ち出しているっていう、まさに新しいカテゴリーの事例だなと思ってます。
田岡さんの会社にはカテゴリー戦略研究会があり、毎週1つ新しいカテゴリーを取り上げて研究しているといいます。そこで見えてきた共通点は、必ずビジュアルで訴求されていることでした。
櫻井翔さんや木村拓哉さんが、片手で走りながらinゼリーを飲む。時間がなくても片手ですぐ飲めることが5秒で伝わる。田岡さんは、これが世の中のパーセプション ── 消費者がその商品やカテゴリーに対して抱く認識やイメージ。マーケティングでは、これをどう形成し浸透させるかが重視されますを浸透させるうえで重要だったと感銘を受けたと話します。
自社ブランドとカテゴリー、どちらを伸ばすべきか
浜田さんは、inゼリーを例に難しい問いを投げます。ブランドを作るべきか、それともゼリー飲料というカテゴリーに投資すべきか、という問いです。ポストイットのように商品名とカテゴリーが一体化する場合もあれば、別々の場合もあります。
田岡さんは、どちらのケースもありカテゴリーによると前置きしつつ、とくにBtoCでは競合がスピーディに参入すると指摘します。そのため、ブランドをカテゴリーのリーダーとして浸透させ、カテゴリー自体を伸ばすことが多いといいます。
よくある勘違いは、カテゴリーを作りたければカテゴリー名を言い続けるべきだという発想です。田岡さんは、ブランドもカテゴリーもどちらも重要だと整理します。
inゼリーも初めは1種類だったかもしれませんが、鉄分ならこれ、プロテインならこれ、といった形でエントリーポイント ── 顧客がそのカテゴリーの商品を思い浮かべ、手に取るきっかけとなる場面やニーズ。これを増やすことでカテゴリー全体の需要が広がりますを広げ、カテゴリーを伸ばしてきたといいます。
つまり、ブランドを訴求することで初期はカテゴリーが成長するものの、継続的に成長させるにはエントリーポイントを開発してカテゴリー自体を広げる必要がある、という整理です。そうしないとリーダーのブランドも縮んでいくと田岡さんは話します。
2番手が現れたとき、カテゴリーリーダーはどう振る舞うか
浜田さんは、カテゴリーリーダーの会社は2番目の会社が現れたとき、歓迎すべきか、それとも圧倒的なシェアを取りに行くべきかと尋ねます。
田岡さんは、これはカテゴリーのルールを認識することが重要だと答えます。たとえばフリマアプリは3個も4個もいらず、一人のスマホでヘビーに使うのは1つになるといいます。
1社だけが勝ち残るカテゴリーだと捉えれば、初期にグッと投資して圧倒的なシェアを取る必要があります。田岡さんはスキマバイトも同じ原理だとし、参入時には同じようなプレイヤーが山のようにいたものの、投資によってタイミーが浸透したとMarkezine ── マーケティング分野のWebメディアMarkeZine。ここでは田岡さんが対談した媒体として言及されていますでの対談を挙げます。
一方で、開業医や歯医者は1つでよいわけではないといいます。アクセスも重要ですし、矯正に強い、ファミリー向けなど、地域ごとに複数のカテゴリーが同時に生まれます。
不動産や注文住宅も、この地域で強い注文住宅といえばここ、という形でカテゴリーが細分化したまま統合されないケースだと田岡さんは説明します。歓迎できるかどうかは、そのカテゴリーのルールによるということです。
ただし、カテゴリーを自ら進化させなければ、競合も同じものを提供するため、むしろ負けてしまうといいます。ロボット掃除機業界では、iRobotに対して中国製の安く便利なRoborockが台頭し、カテゴリーリーダーであり続けることが難しくなる例が挙がりました。
ディスラプトを防ぐ、カテゴリー進化の3つの考え方
浜田さんは、カテゴリーリーダーがディスラプトされるシナリオを防ぐには何をすればよかったのかと尋ねます。田岡さんは、3つあると答えました。
1つ目は、カテゴリーの定義自体を進化させることです。提供価値は一度作って終わりではなく、顧客の潜在ニーズを考えて2歩進んだ価値を出せば、後から競合が来ても常に2歩リードされた状態になるといいます。
ただし競合を意識して進めすぎると、顧客の認識がうまく浸透しません。田岡さんは、常に顧客起点でありながら進化させることが重要だと強調します。
2つ目は周辺カテゴリーです。コーヒー、コーヒーマシン、オフィス用コーヒーのように、周辺のカテゴリーを取ればそこでもリーダーでいられます。次のカテゴリーの一歩目を自ら踏み出すことが重要だといいます。
3つ目は、カテゴリーには終わりがあるという認識です。AIのような大きなイノベーションで、これまで進化させたものがディスラプトされることがある。時にはカテゴリーを捨て、まったく違う次のカテゴリーを作り続ける姿勢が求められると田岡さんは話します。
大きなその時代の変化みたいなものに対して、カテゴリーは永遠でないからこそ、全然違う次のカテゴリーを作り続けるっていう姿勢も求められる。
田岡さんは、GAFAMをはじめとする大企業は、M&Aや開発によってカテゴリーをコンパウンド ── 複数の事業やカテゴリーを掛け合わせて積み重ね、企業全体の成長を複利的に高めていく戦略。近年スタートアップ経営でも注目される考え方ですしていると指摘し、ここは重要だと捉えています。
定義を進化させる
顧客起点で提供価値を2歩先へ進め、常にリードを保つ
周辺カテゴリーを取る
隣接する領域へ広げ、次のカテゴリーの一歩目を自ら踏み出す
次のカテゴリーを作る
カテゴリーの終わりを見据え、時には捨てて新しく作り直す
なぜ今なのか、WhyNowという時代の読み
浜田さんは、カテゴリー戦略ではWhyNowやティッピングポイント、つまり今から変化が起こる瞬間を捉えることが重視されていると確認します。そこを外すとカテゴリーは立たない、という点です。
田岡さんは、起業家がよく感じるのは、なぜ3年前はうまくいかず今うまくいくのか、時代が早すぎたプロダクトがなぜ多いのか、という問いだといいます。これがまさにWhyNowの話です。
顧客の潜在課題とソリューションが合流する地点を捉えたとき、今このカテゴリーができるというロジックを作れる。そうすると顧客に提供できる価値の解像度も上がると田岡さんは説明します。
浜田さんは、スタートアップでは投資家に事業自体のWhyNowを必ず聞かれると共感します。田岡さんも、スタートアップでは当たり前でも、マーケティング業界ではWhyNowがほとんど語られてこなかったと指摘しました。
変化が激しい近年では、時代の変化は顧客理解の最も重要な要素の1つになるといいます。なぜ1年前ではなく今このカテゴリーが生まれるのか、変化と変化の組み合わせで説明できると強い、という整理です。
作り方はトライアンドエラー、そして確信したら突っ走る
浜田さんは、カテゴリーの作り方はトライアンドエラーなのか、一度決めたら半年やりきる世界なのかと尋ねます。田岡さんの答えは、ある意味トライアンドエラー、ただし確信が持てたら突っ走る、というものでした。
田岡さんは、カテゴリーを魔法のように捉える人が多いが実はそうではないといいます。訴求し始めた時点では誰も言っていないので、顕在化したマーケットはなさそうに見える。しかし潜在的に課題があるからマーケットを作れる、という考え方です。
検証は非常に重要で、田岡さんがよく言うのは「お客さんが発話しますか」という問いです。初めて聞いた言葉なのに口にできるということは、記憶しやすさや価値の認識のしやすさを経ているからだといいます。
お客さんが初めて聞いた言葉なのに口にできる言葉っていうのは、その分記憶ができるってことなんです。
田岡さんは、BtoCで言われるSNSの界隈にも近いと指摘します。ハッシュタグで生まれる界隈のように、お客さんが自然に口に出したものは、カテゴリーの単位になっているといいます。
そして最後は、経営者が確信と覚悟を持てるかが重要だといいます。これでいこうと決まればその後は早い。一方で、一度決めたから変えてはいけないという固執も機会損失になるため、確信を支えるロジックや原体験が重要だと話しました。
カテゴリー戦略を始めるべきタイミングはいつか
浜田さんは、カテゴリー作りは投資だとしたうえで、始めるベストなタイミングを尋ねます。PMFの前か、乗ってきた後か、それとも安定してからか、という問いです。
田岡さんは、意見が分かれるところとしつつ、個人的にはプロダクトマーケットフィットと同時にカテゴリーマーケットフィットをさせるべきだと答えます。顧客にとってプロダクトだけが存在することはほぼないからだといいます。
田岡さんは、人はプロダクトをいきなり選ぶのではなく、カテゴリーからプロダクトへと選んでいくと説明します。いきなりプレミアムモルツではなく、疲れた、喉が渇いた、ビールを飲みたい、そしてプレミアムモルツ、という順番です。
プロダクトが先に立つことも、やりたいカテゴリーのためにプロダクトを作ることもあるため、多少前後してもよい。ただ基本的には同時に広がっていくものだと田岡さんは整理します。
BtoCとBtoBで、カテゴリー戦略の重さは違うのか
浜田さんは、カテゴリー戦略の重要性はBtoCとBtoBで等しいのか、商材によって変わるのかと尋ねます。田岡さんの答えは、重要性は同じ、というものでした。
ただし違いがあるとすれば、カテゴリー戦略が重視される時代とそうでない時代がある、と田岡さんは言い換えます。時代の変化が緩やかなときは、同じカテゴリーの中でどう独自性を出すかという戦いが重要になります。
一方で時代の変化が激しいときは、ある業界の変化が他の業界に紐づき、あるイノベーションが他の業界にも波及します。大クラウド時代にカテゴリーが重要だったように、次は大AI時代だと田岡さんは見ています。
変化が激しい時こそカテゴリー戦略が求められるっていうのは、私の認識ではありますね。
浜田さんは、AIで変化が激しい今こそカテゴリー戦略が大事になると確認します。田岡さんは、バックオフィスやマーケティングの業務がどう変わるかがある程度予測できる時代になってきたと補足します。
1年後に浸透するカテゴリーの候補は仮説が持てる。それをどのプレイヤーが取るかという話にも見えるといいます。時代の変化を正しく読み、次のスタンダードを捉えてビジネスを張ることが、事業成長のセオリーになると田岡さんは話しました。
市場を創造する、AI時代のマーケティングと起業家精神
浜田さんは、カテゴリー戦略は起業と常にセットになるものだと感じたと述べます。田岡さんも、近年マーケティングにおいて起業家精神の重要性が語られるようになったと応じます。
変化するからこそ、起業家的に新しいものを打ち立て、市場を作る重要性が高まっている。田岡さんは、いろいろな理論が合流してきていると捉えています。
浜田さんは、スティーブ・ジョブズやマーク・ベニオフのように、天才起業家かつ天才マーケターという存在を挙げ、大きな事業を作る人は両方に秀でていると感想を述べました。
田岡さんは、市場を創造することが究極のマーケティングだと語ります。それが今起こり始め重視されていることを、誰にでも等しくチャンスがある時代だと捉えています。
市場を創造するっていうところが究極のマーケティングかなと。まさにそれが今起こり始めていると重要視されている。
最後に田岡さんは、日本市場が縮み先行きが見えにくい時代だからこそ、顧客の潜在課題からカテゴリーを作り、グローバルに発信する意味があると語ります。ビジネスの最前線で戦う人にとっての市場創造の呼びかけとして、一緒にカテゴリーを作っていきたいと締めくくりました。
書籍には特典としてワークシートが付いており、田岡さんはイベントにも出ているため、直接質問できる機会もあるとのことです。
まとめ
カテゴリー戦略は魔法ではなく、顧客の潜在課題と時代の変化を読み、ブランドとカテゴリーを同時に育てていく実務だと田岡さんは語ります。変化が激しいAI時代だからこそ、市場を自ら創造する視点が事業成長の鍵になります。
- カテゴリーは分類学から心理学、経営学へと広がった概念で、ブランドの成長にはカテゴリーの成長が欠かせない
- ブランドを売る発想ではなく、カテゴリーを広げてブランドを成長させる発想が重要
- カテゴリーリーダーは、定義の進化、周辺カテゴリーの獲得、次のカテゴリー創造でディスラプトに備える
- なぜ今なのかというWhyNow、時代の理解が顧客理解と並ぶ重要な要素になる
- プロダクトとカテゴリーはセットで、変化が激しい時代こそカテゴリー戦略が求められる







