1杯300円のドトールが過去最高益、主役は店ではなかった?
ドトール・日レスホールディングスが、2026年3月から8月までの中間決算を発表しました。CEOセオさんによると、売上高は857億円で前年比7.5%増、営業利益は73.8億円で38.1%増と、大きく伸びています。
ドトールの営業利益は、社内計画の57.4億円を28.6%も上回りました。CEOセオさんは、この結果を「非常に絶好調」と表現しています。
ドトールについて、多くの人は「安くていろいろな場所にあり、コーヒーの味はそこそこ」という印象を持っているかもしれません。CEOセオさんは、スターバックスの登場でカフェのブランドイメージは変わったと前置きしつつ、ドトールの好業績を支えたのは店舗ではないと指摘します。
ただ、お店よりも実は裏側の仕組みの方が儲けているんだよというニュースですね。
ドトールの好業績の主役は、スーパーやコンビニに並ぶ商品、いわゆる一般卸売です。一般卸売の売上は162億円から199億円前後へ伸び、増加率は22%に達しました。
一般卸売による増収額の約37億円は、ドトール全体の増収のおよそ6割にあたるといいます。店舗で築いた信頼やコスパの評価が、企業のプライベートブランド ── 小売業者などが自社の名前で販売する商品。製造は別のメーカーに委託することが多く、略してPBと呼ばれますへの採用や家庭用商品の販売につながり、功を奏しているという見立てです。
今回の中間決算は、2014年以降の上期として最高益です。ドトールは通期の目標として110億円を掲げており、CEOセオさんは、これを達成すれば通期でも過去最高の利益になると説明しています。
店舗を増やさず売り場を広げる「黒子ビジネス」
ドトールの事業別の伸びを見ると、店舗の売上は3.8%増、フランチャイズ(FC)向けの卸売は3%増でした。それに対して一般卸売は22%増と、伸び方が際立っています。
一般卸売が伸びた理由について、会社は新規取引先の増加を挙げています。インスタントコーヒー、詰め替え、ドリップ、チルド飲料、PBなど、ドトールのコーヒーは店舗を増やさなくても、取引先の棚という形で売り場を広げられるわけです。
店舗は3.8%増、FC向け卸売は3%増と、伸びは緩やか
新規取引先の増加で22%増。スーパーやコンビニの棚で売り場が広がる
CEOセオさんは、ユーザーに使われていることを信頼に変え、裏側の黒子ビジネスで稼ぐ流れは最近多いと話します。例に挙げたのは、以前の回で取り上げたウェザーニュースです。
ウェザーニュースは、多くのユーザーに使われることで気象予報の信頼を得ています。その信頼をもとに、企業向けや政府向けの事業でしっかり収益を取り、「座布団」のような安定収益にしているといいます。
BtoCのビジネスというのは、やっぱどうしてもそのボラティリティがあるというかね、まあいろんな状況によって変わってくる。
CEOセオさんによれば、一般消費者向けの事業は状況次第で上下しやすい一方、多くの企業やメーカーに卸す事業は安定しやすいといいます。
CEOセオさんは、AI事業にも同じ構図を見ています。Anthropic ── AIアシスタント「Claude」を開発するアメリカのAI企業。2021年に設立されましたはコード生成に強く、多くのエンジニアに選ばれたことで「コードを書くならClaude」というブランドと信頼を得ました。
Anthropicの売上の90%は企業向けだと言われています。CEOセオさんの見立てでは、エンジニアの利用はブランディングの役割を果たし、実際の儲けは企業向けという黒子の部分にあるということです。
一方で、ユニクロのように完全に一般消費者向けで勝負し、裏側のビジネスを基本的に持たない企業もあります。それでもCEOセオさんは、ファッションのデザイナーズブランドが衣装制作で稼ぐ例や、Facebookがユーザー数を背景に広告というBtoBで稼ぐ例を挙げ、BtoBこそがビジネスの基本だと語ります。
CEOセオさんは、黒子の形は時代とともに変わるとも指摘します。レコード会社はかつてアーティストの黒子としてCDを作るメーカー的なビジネスでしたが、ストリーミングの時代には、SNS運用やプロモーションが新しい黒子の役割になるかもしれないといいます。
ドトールは焙煎会社、スタバはブランド。何が違う?
ドトールが卸売で伸びている背景には、創業の経緯があります。ドトールは1962年に、コーヒー豆の焙煎の卸売業として創業しました。
店舗が豆を作るようになったというよりは、豆を作る会社が店舗を始めたというのがドトールなんですよね。
ドトールの1号店ができたのは、会社の誕生から18年後です。原宿にできた9坪の店で、ブレンド1杯は150円でした。約46年前に150円だったことを考えると、当時としてはかなり高く、今の300円前後はその倍くらいだとCEOセオさんは話します。
ドトールは自前の工場を土台に、豆の調達から焙煎までを自社で一貫して手がけています。CEOセオさんは、ビジネスの土台は信頼であり、その信頼を数字で作るか品質で作るかは企業によって異なると話します。ドトールの場合は焙煎の品質で信頼を築いて店舗を始めたので、今の卸売の伸びは「もともとのビジネスへの回帰」と言えるかもしれないといいます。
対照的なのが、マーケティングファーストで生まれた印象のあるスターバックスです。スターバックスも小売り向けの事業を手がけており、規模は約3000億円と大きいものの、全社の売上の5%にすぎません。
ただし、スターバックスの小売事業のセグメント利益率は47%です。全体の営業利益率が7.9%とされるなかで、小売事業のほうがはるかに収益性が高く、利益はそちらで稼いでいるとも言えるといいます。
CEOセオさんは、以前に取り上げたスターバックスの缶コーヒーの自動販売機の話にも触れ、こうした小売も収益性はおそらく高いと見ています。それでもスターバックスが黒子に徹しきれないのは、ブランドの存在が大きいからだといいます。
ドトールは品質ある、すごく、まあ安心もできるけど、やっぱスターバックスってなるとね、品質もさることながら、ちょっとブランドの方が上いっちゃってるじゃないですか。
焙煎会社が原点の品質ビジネス。店舗で得た信頼を武器に、他社の棚で黒子として稼ぐ
ブランドビジネス。店舗が圧倒的に強く、小売事業は売上の5%だが利益率は47%
コーヒーの72%は家で飲まれている
ドトールが家庭向けに力を入れる理由は、コーヒーが飲まれる場所のデータからも見えてきます。CEOセオさんによると、1週間のコーヒーの飲用杯数は10.05杯で、そのうち約7.27杯、全体の約72%が家庭で飲まれています。
職場や学校で飲まれるコーヒーは1.5杯です。喫茶店やコーヒーショップはわずか0.2杯で、全体の2%にすぎません。
やっぱいくら頑張っても、その、ね、2パーセントを取りに行くのか、それとも家庭の72パーセントを取りに行くのか。
CEOセオさんは、ビジネスとして考えれば家庭を取りに行くほうが当然よいと話します。家庭向けでは価格の優位性、買いやすさ、コスパが求められますが、コーヒーの主戦場である自宅を押さえにいくところにドトールのうまさがあるといいます。
国内のコーヒー消費量は前年比99.3%と、わずかに減っています。縮む市場のなかで、ドトールは他社の棚の黒子としてPBを手がける企業に価値を提供し、自社のナショナルブランド商品も価格優位性を持って展開することで、売上と利益を伸ばしています。
コメダ珈琲は売上3分の1でも時価総額はほぼ同じ
店で稼ぐのか、店の後ろで稼ぐのか。この問いを考えるうえで、CEOセオさんはコメダ珈琲も例に挙げます。コメダ珈琲は売上の7割がFC向けの卸売で、1164店舗のうち1063店舗がFCです。
コメダ珈琲はFCの多さを生かして卸売を伸ばしており、利益率は17%と高い水準です。全体で見たドトールの利益率は8.6%前後なので、コメダ珈琲の利益率の高さが際立ちます。
| 企業 | 主な稼ぎ方 | 収益性のポイント |
|---|---|---|
| ドトール | 一般卸売が増収の約6割 | 全体の利益率は8.6%前後 |
| スターバックス | 店舗中心のブランドビジネス | 小売事業の利益率47%、全体は7.9% |
| コメダ珈琲 | 売上の7割がFC向け卸売 | 利益率17% |
CEOセオさんは、ひとくちにコーヒーといってもビジネスモデルはさまざまだと話します。コーヒー以外の事業でも、自社がブランディングと品質のどちらに強いのか、量と質のどちらで勝負しているのかを考えると面白いといいます。
さらに、第三者からの評価も見逃せません。コメダ珈琲の売上はドトールの3分の1ほどですが、時価総額はほぼ同じです。上場企業であれば、市場から何が評価されるのかを考える必要があり、自社のバリュエーション ── 企業の価値を金額で評価すること。売上や利益だけでなく、成長性や収益の安定性なども加味して算出されますを考えるうえでも欠かせない視点だといいます。
CEOセオさんは、市場が見るポイントとして、収益の硬さ、成長性、レバレッジがどちらに効いているかを挙げます。また、エチオピアなどでのコーヒー豆の生産をめぐる搾取の問題にも触れ、コーヒービジネスの拡大は複雑な流れのなかにあると話しています。
スターバックスのようなブランディング型は、マーケティングコストがかかる一方で上代を上げられます。CEOセオさんは、1つの事業にもさまざまな展開があるので参考にしてほしいと締めくくりました。
まとめ
ドトールの過去最高益を支えたのは、店舗の客数ではなく、スーパーやコンビニの棚に並ぶ家庭向けの一般卸売でした。焙煎会社という原点を持つドトールは、店舗で築いた信頼を武器に黒子として稼いでおり、ブランドで稼ぐスターバックスやFC卸売で稼ぐコメダ珈琲とは異なる勝ち筋を選んでいます。
- ドトールの一般卸売は22%伸び、増収全体の約6割を占めた
- 表舞台で得た信頼を、裏側の安定収益につなげる黒子ビジネスは、ウェザーニュースやAnthropicにも共通する構図
- コーヒーの約72%は家庭で飲まれており、喫茶店の2%より家庭を取りに行く戦略が合理的
- 自社がブランドビジネスか品質ビジネスかによって、選ぶべきビジネスモデルは変わる
- コメダ珈琲は売上がドトールの3分の1でも時価総額はほぼ同じで、市場からの評価軸も考える必要がある





