NBAの激戦から入る「1兆ドルコーチ」再読
今回の名著再読は、シリコンバレーの伝説的コーチを描いた「1兆ドルコーチ」がテーマです。話は、清沢さんと浜田さんが好きなNBAのプレーオフ争いから始まります。
西カンファレンスがサンダーを中心に混戦になっている一方、スパーズやレイカーズが状態を上げ、河村勇輝がレイカーズで出場機会を得ている点にも触れられます。二人はスポーツの熱さを語りながら、その熱がこの日のテーマにつながっていくと切り出します。
取り上げるのは日本版が2019年に出版された「1兆ドルコーチ」です。元アメフトのコーチだったビル・キャンベル ── スティーブ・ジョブズやGoogleのエリック・シュミット、ラリー・ページらシリコンバレーの経営者をコーチングした人物。元はコロンビア大学などでアメフトのコーチを務めていましたが、GAFAの大経営者たちをコーチングしてきた教えをまとめた一冊です。
名著再読ってところで、「1兆ドルコーチ」っていう本を取り上げていければと思いまして。日本版だと2019年なんで、意外と前ですね。
経営者としてコーチングを受けるということ
浜田さんは、経営者として実際にコーチングを受けています。取引先でもあるメットの代表・木村さんと出会い、勧められて始めたといい、続けて1年半ほどになるそうです。
私コーチング受けてますね。もう2年くらいやってんじゃないかな。一回相談した時に「浜田さんやったらいいと思いますよ」っていう感じで、全然1年半くらいずっと続けてますね。
最初は月2回のペースで、ミッションの書き直しを一緒に行い、そこでかなり話し込んだといいます。現在は月1回、1時間のペースに落ち着いています。
一方の清沢さんも、VCの合宿やICC福岡などで多くの経営者と話す中で、自社で活躍し輝いている人の共通点を感じるようになったと話します。それはスキルよりもマインドセットだといいます。
結局どういう人が活躍して輝いているかっていうと、コーチャブルであるとか、アンラーンできる感じとか、グロースマインドセットを持ってるか。スキルというよりはマインドセットだよねっていうのが共通点になることが多いのかなと。
上に行くほど大事になる「コーチアビリティ」
浜田さんは、外資系企業の日本法人の社長になった知人の話を挙げます。面接で最も見られたのが、スキルや経験ではなくコーチアビリティだったといいます。
自分が訴えたいのはコーチアビリティ、自分はしっかりアンラーンして学べる人ですみたいな。そこがちゃんと伝わったと思って言ってたんですけど。
浜田さんは、上の立場になるほど自分のスキルや経験をアピールしたくなると指摘します。それでも、最終的にはコーチアビリティのほうが大事にされるというのが面白いポイントだと話します。
コーチャブルという言葉は、コーチ(coach)とエイブル(able)を組み合わせた英語で、コーチングを受けられる状態にある人を指します。先天的な能力やスキルではなく、目標達成への情熱やオープンさ、主体性といったマインドに近い概念です。
ビル・キャンベルが重視した3つの資質
清沢さんによれば、ビル・キャンベルはコーチアビリティを非常に重視し、コーチャブルでない人間には時間を割かないと断言しているといいます。では、彼が求めた資質とは何か。本の137ページに沿って3つが挙げられます。
浜田さんは、キャンベル自身がアメフトのコーチであり、スポーツとビジネスの両方を経験した中でこの結論に行き着いた点に注目します。どんな選手が伸び、どんなCEOが伸びるのかを見てきた末の答えだといいます。
起業家の人の話を聞いてると、なんで事業をやってるかっていうと、それが一番成長するからだみたいな。成長のために成長の邪魔になるものを捨てられる力、そこにすごく本質があるなと思ってますね。
コービー・ブライアントに見る究極のコーチアビリティ
清沢さんは、コーチアビリティの体現者としてコービー・ブライアントを挙げます。圧倒的な成長意欲と勝利への執念を持ち、そのスタンスはマンバメンタリティー ── コービー・ブライアントの哲学を表す言葉。あくなき向上心と勝利への執念を指し、彼の死後もNIKEなどを通じて語り継がれていますという言葉で今も引き継がれています。
コービーはほんと成長のためなら誰に対しても謙虚に貪欲に教えを乞うと。究極のコーチアビリティ、かつ何が何でも成長してやるみたいなところは熱いなと思ってまして。
浜田さんは、NBAのスターの中でもジョーダンとコービーは異常な負けず嫌いで、それを表に出していくタイプだと語ります。レブロンやカリーとは少しタイプが違うといいます。
シーズンイン前にも異常な本数の走り込みをしてて、ジャンプの後のダッシュで心拍数がここまでしか上がらないところまで持っていかないといけないみたいな感じとか。
清沢さんは、コービーの著書「マンバメンタリティー HowIPlay」の中でも、質問に関する一節が好きだと紹介します。試合中も練習中も休憩中も、すべてを学びの機会と捉えて質問を浴びせかける姿勢です。
さらに清沢さんは、現役時代のコービーが引退したレジェンド選手にまで教えを乞うていた具体例を挙げます。夜中にマジック・ジョンソンへ電話し、ステップの仕組みやシュートの場面での思考を質問攻めにしていたといいます。
すでに高いレベルにある選手が、さらに上に行くために一巡して教えを乞いに行く。清沢さんは、自分にそこまでの切迫感や狂気的な執着ができているかと問い、震えると語ります。
コービーは恥をかくことも気にしなかったといいます。後でタイトルを取り逃して悔しい思いをするなら、今のうちに恥をかいておいたほうがいいという考え方です。プライドを捨てて学びに行く姿勢が印象的だと清沢さんは話します。
グロースマインドセットとコーチアビリティの関係
清沢さんは、コーチアビリティと関連する概念としてグロースマインドセットを取り上げます。この言葉は、2014年にマイクロソフトのCEOに就任したサティア・ナデラが、変革の際に掲げた経営哲学として広く知られるようになりました。
もともとはキャロル・ドゥエック ── スタンフォード大学の心理学教授。能力は後天的な努力で伸ばせるとする「グロースマインドセット」と、才能は固定されているとする「フィックスドマインドセット」の対比を提唱しました教授が提唱した概念です。能力は後天的な努力で学習し伸ばせるという考え方で、対立概念がフィックスドマインドセットです。
能力は努力で伸ばせると考える。好奇心を持って学び続け、疑問があればすぐ質問し協力し合う
知能や才能は生まれつき固定されていると思い込み、自分は変えられないと考える
浜田さんは、Sansanの経営理念にもグロースマインドセットが入っていることに触れます。清沢さんは、2024年のSansanの新年メッセージのテーマがグロースマインドセットであり、ナデラの2014年の経営テーマと重なる点に着想を感じたと話します。
そこで自分の能力とか周りの人間の能力がもう決まってるって思ってしまってはならんみたいなことですよね。それを個としても組織としても身につけていくと。
フィードバックを「人格への攻撃」と切り離す
清沢さんは、コーチャブルな人の構造について解説します。コーチャブルな人は、受けるフィードバックを自分という人格への攻撃ではなく、パフォーマンスを向上させるための材料として捉えられるといいます。
自分へのフィードバックなんだけども、それって自分という「こと」へのフィードバックであると分けられる力なのかなと思ってて。
浜田さんは、ある時点でコーチャブルなモードにある人とない人ははっきり分かれると、コーチから聞いた話を紹介します。誰でもすぐコーチャブルになれるわけではなく、そこには性格や状態も影響するといいます。
清沢さんは、元々コーチアビリティのある人でも、成果が出ず自信がない時にはグロースマインドを持ちづらくなりうると補足します。ここで重要になるのが、自分を切り分ける考え方です。
家庭は家庭でちゃんと回っているっていう前提に置けば、もう一個の仕事の方が一回否定されても、こっちを伸ばしていけばみたいな感じになるじゃないですか。
清沢さんは、逆に仕事の自分しかない状態で否定されると相当しんどいと指摘します。人としての自分と仕事の自分を分け、仕事の自分を「こと」として切り離すことが大事だと話します。
否定を「伸びしろ」に置き換える経営者のメンタルモデル
清沢さんは、浜田さんがフィードバックを受けてもあまり食らわず、すぐ改善するように見えると尋ねます。意識しているのか、元々の性格なのかという問いです。
全部食らってるとキリがないっていうか、マジで立ち直れないんで、開き直るしかないですよね。否定されるイコール伸びしろが見つかる、伸ばせるっていうことと全て置き換えるしか、自分の正気を保つ方法がないみたいな。
清沢さんは、これをメンタルモデルの話だと受け止めます。本田圭佑が困難や課題を「伸びしろ」と言い換え、ではどうやったら伸ばせるかに向かうのと同じ発想だと重ねます。
一方で清沢さんは、自分が常にコーチャブルでいられているかは怪しいと正直に語ります。言われた意見への反応がよくなかったり、受け入れているように見せて実は腹落ちしていない時があるといいます。
AIとかに壁打ちして、根底にここの完璧主義さが出てるなとか見えてきて。自分と戦い感、自分を捨てられるかみたいな話なのかなと。
コーチングの本質は「話させること」
浜田さんは、実際にコーチングを受ける中で聞いた、コーチングの基本を語ります。コーチが答えを言うのではなく、問いを立てて受ける側にできるだけ話させるのが狙いだといいます。
頭の中でぐるぐる回っても実は整理がついてなくて、でも話すと、あ、そういうことだよねっていう風に整理がつくみたいな。話すっていうところは勧められましたね。
サウナで水風呂入って気持ちいいのと同じくらいに、喋ると頭の中が整理するっていうのは生理的な反応です。
清沢さんも、Sansan時代から新卒の頃までコーチングを受けてきたコーチとの経験を挙げます。深く傾聴してもらえるため、始まった時はモヤモヤしていても、話し終わる頃にはやるべきことが決まっているといいます。
すごい始まった瞬間モヤモヤしたけど、話し終わった後はなんとなくもうやるべきことが決まってて、次に進めるみたいな状態がすごいいいなと。
浜田さんは、コーチによってスタイルの違いが大きいことにも触れます。ギリギリまで何も言わない傾聴型もいれば、自分の経験を話してくれる人もおり、相性は人によると語ります。清沢さんは、そもそも自己開示したいと思えるかが大事だと付け加えます。
Netflixに学ぶ、フィードバックの4原則
清沢さんは、コーチャブルという姿勢を科学的に整理した例として、Netflixのフィードバック原則を紹介します。フィードバックを与える側と受ける側それぞれに、2つずつのルールがあるといいます。
| 立場 | 原則 | 内容 |
|---|---|---|
| 与える側 | Aim to assist | 批判や感情の発散ではなく、相手や組織の成長を願う善意を前提にする |
| 与える側 | Actionable | 「ダメだ」で終わらせず、次にどう行動すべきかを示す |
| 受ける側 | Appreciate | 反射的に反論せず、時間を割いて考えてくれたことに真摯に感謝する |
| 受ける側 | Accept or discard | 傾聴し吟味したうえで、取り入れるか捨てるかは自分で主体的に判断する |
清沢さんは、受ける側のappreciateについて、感謝だけでなく「価値あるものとして受け取る」意味も含まれると補足します。フィードバックをバリュアブルなものとしてまず受け取る姿勢が大事だといいます。
最後のaccept or discardについては、全てを聞いて受け入れるのではなく、取り入れるか捨てるかは自分の判断でよい点が健全なコーチャブルだと強調します。この前提が合意されていれば、与える側も批判に走らず、受ける側もルールに沿って向き合えると話します。
採用や組織づくりにも通じるコーチアビリティ
清沢さんは、コーチアビリティはメンバーでも経営者でも普遍的に大事な資質であり、全員がこれを備えた組織は強いと語ります。変化でき、チャレンジできる組織になっていきたいと話します。
浜田さんは、経験を積むほど自分のやり方が出て、それを認められたくもなるため、あえて捨てる力が必要だと指摘します。組織としては、フィードバックが行き交い、みんながコーチャブルな状態にあるようにすることが大事だといいます。
過去を振り返った時、自責で振り返れてる人は、それを自分の成長材料にできてる、ある種のコーチアビリティが高い状態。他責で整理されてしまう人はそうなってないみたいなところがあって。
浜田さんは、スタートアップの採用でよく言われる自責と他責の話が、最後はコーチアビリティにつながると整理します。清沢さんも、課題を構造的に俯瞰し、自分と他の境界を理解できているかが重要だと応じます。
まとめ
「1兆ドルコーチ」を起点に、コーチャブルであることの意味を掘り下げた回でした。スキルや経験以上に、フィードバックを人格への攻撃と切り離し、成長の材料として受け取れるマインドが、経営者にもビジネスパーソンにも普遍的に求められると語られました。
- コーチャブルとは、目標達成への情熱・オープンさ・主体性といったマインドに近く、上の立場になるほど重要になる資質
- ビル・キャンベルは誠実さと謙虚さ、学習への意欲、努力の3つを重視し、コービー・ブライアントはそれを体現する存在
- 能力は努力で伸ばせるとするグロースマインドセットは、コーチアビリティと深く結びつく
- コーチングの本質は答えを与えることではなく、問いを立てて話させ、本人の中で考えを整理させること
- Netflixのフィードバック4原則のように、与える側と受ける側の作法を共有すると健全なコーチャブルが成立する


