なぜ今「AIインサイドセールス」を整理したのか
この回では、浜田さんが2025年4月に出したnote記事「AIが電話をブロックする時代」を、書いた本人が解説していきます。記事はXでインサイドセールス界隈の人にも引用され、切り取られるポイントは人それぞれだったといいます。
浜田さんがこのテーマを考え始めたきっかけは、資金調達を含めて将来のビジョンを考える中で、本当に時代の変わり目だと感じたことでした。なぜ変わっているのか、どう変わっていくのかを、自分の中で整理したかったといいます。
浜田さんは、重なり合う2つの事象があると話します。1つは日本で通電率が下がって現場が大変だという声、もう1つは米国でAIによってインサイドセールスが数分の1になったという話です。
この2つのトレンドってなんか重ならないわけないよなみたいな感じがして。じゃあこれ日本にいつ来てどうなるんだろうっていうところをちゃんと考えようと思って整理してみた。
浜田さんは、今回の変化がこれまでの日本の文脈と違うと感じています。AIが人を置き換えるということが、本当に起こり得そうだという感覚があるからです。
immedioはこれまで「電話しなくてもアポが取れる」と伝えてきましたが、実際に刺さるのは「アポが増える」という話でした。人を減らす前提の話は、社員が頑張っている以上あまり響かなかったといいます。
一方で今は、営業が最も採用しにくい職種で、どこも足りていません。だからこそ、より少ない人数で営業が回るという提案が本当に喜ばれるフェーズになってきたと浜田さんは話します。
本当にAIを使って必要な人を減らしていくっていうことが現実的だし、お客様に受け入れられるフェーズになってる。
背景には米国のレイオフもあります。企業が生産性を上げて利益率を伸ばすと、日本も追いつかないと利益率の差が開いてしまいます。すでに非正規化が進んでいる領域では、AIによる効率化は進まざるを得ないというのが、ここ半年ほどの浜田さんの感覚です。
iOS電話スクリーニングとは何か、なぜ通電率が下がるのか
変化の入り口として、2人はまずiOS電話スクリーニング ── iPhoneでかかってきた電話を、AIがいったん留守番電話として受け、要件を画面に文字で表示する機能。2024年9月末に登場したを取り上げます。Androidには元々あり、iOSでは一部のGoogle Pixelなどに限られていましたが、iOSにも入ったといいます。
この機能を最初に知ったきっかけは、Cerebrixの今井さんとの会話でした。「やばい変化だ」と言われて確かにそうだと感じたものの、定量調査がなかったため、immedioが自分たちで調査したといいます。
従来の留守番電話は、設定すると全ての電話が留守電に回ってしまうため、重要な電話を待つ人はあまり使いませんでした。電話スクリーニングは、AIが一次受けして要件を画面に表示するため、留守電と普通の電話のいいとこ取りができます。
その結果として、営業の電話は取られる率が下がっていきます。浜田さんも清沢さんもこの機能を有効化しており、使っている人はかなり多いといいます。
immedioの調査では、この機能を使えるなら使いたいという人が7割を超えていました。ユーザー目線でもオンにしたくなる機能であり、通電率の低下は時間の問題だと2人は見ています。
通電率が下がると、営業現場に何が起きるのか
通電率の低下は、AI受電の流れとも重なります。フォンデスクやIVRyの導入で代表番号や部署番号の受電がAI化する動きに加え、iOS側でも個人の電話がつながりにくくなっているためです。
ナレッジワークの荒川さんの「電話に電話、Inside Sales is dead」というポストは大きく反響し、いいね約400、28万インプレッションに達したといいます。インサイドセールスの人が課題に共感していることの表れだと清沢さんは話します。
実際、2024年10月ごろから通電率が下がっているという声は多く、清沢さんもカスタマーサクセスの現場で相談されるといいます。
浜田さんは、接続率の低下がコスト増につながる仕組みを説明します。インサイドセールスの平均的な架電接続率は20〜25%で、これが下がると必要な架電数が増えていきます。
接続率が下がる
同じ商談数を取るのに必要な架電数が増える
架電数が1.5倍
1日の架電上限は変わらないため回りきらない
人を1.5倍に
採用難で増やせず、商談数が純減するリスク
インサイドセールスの1日の架電数は、架電に全振りしても50件ほどが上限です。そのため行動量が増えると人を増やすしかなくなりますが、営業の採用難のため増やせず、商談数がそのまま減るリスクがあると浜田さんは指摘します。
さらに接続率が下がると、未接続で終わるリードが増えるため、必要なリードの総数も増えかねません。清沢さんは、循環的にどんどん苦しくなる世界が見えてきていると話します。
米国SaaStrが実装したAIインサイドセールスの全体像
そこで2人は、米国で先行するAIインサイドセールスの事例に移ります。米国ではAI SDR ── 営業の初期接触や見込み客の育成をAIが担う仕組み。SDRはSales Development Representative(見込み客開拓担当)の略という言葉で流行しているといいます。
AI SDRは登場初期に話題になった一方、リーダー的存在だったEleven Xが会計上の虚偽で失速し、いったん熱が冷めた時期もありました。
状況を再び動かしたのが、SaaStrのジェイソン・レムキンです。もともと起業家で、SaaStrをメディアにしているため、自分から徹底的にAIを使い、用途ごとに20体ほどのエージェントを動かしているといいます。
多分一番成果出てるのがAI SDRで、もうなんか毎週のようにAI SDRの成果とか始め方みたいな記事を出してる。
SaaStrは主にカンファレンス事業とメディアを運営しており、主な売上はカンファレンスのスポンサーシップです。そのスポンサー営業をAIでやったらどうなるかを実践しているといいます。
SaaStrは2024年夏ごろからAI SDRの実装を始め、3種類のAI SDRを常時動かして、受注や商談の大半をAIが獲得しています。もともと営業とインサイドセールスで10人いた体制が、営業1人とエージェントを管理する0.2人分で回っているといいます。
人間のSDRが月300通ほどが限界だったアウトバウンドメールは、AIでは月3000通に届きます。しかもレスポンス率が悪くなく、むしろ良いこともあると浜田さんは話します。
質でも量でも人間が、まあ言ってしまったら負けちゃうっていうところが発生してる。
SaaStrは、アウトバウンド、インバウンド、ナーチャリングでそれぞれ別のエージェントを使っています。3つすべてをこなせるツールがないという事情もあり、実質的に3人分のエージェントを常時回している状態です。
3つの用途を担うツール、Artisanとアウトバウンド
ここからは、SaaStrが用途ごとに使うツールを見ていきます。アウトバウンドを担うのはArtisan ── 営業リストの作成からパーソナライズしたメール送信までを自動化するAI SDRツール。米国のスタートアップが提供するです。
Artisanは、狙いたい企業や人物のフィルターを作ると、リスト作成からパーソナライズした文面の送信までを複数回行ってくれます。SaaStrでは6か月で2万通を送り、好意的な返信が4%、800件ほどあったといいます。
浜田さんは、日本ではメールアドレスの購入が難しく、アウトバウンドはフォーム営業になりがちで、返信率は1%に届かないと補足します。それと比べると4%は高い数字です。
Artisanはマーケティングも尖っています。サンフランシスコの街中に「Stop Hiring Humans(人間を採用するのをやめよう)」と掲げ、話題になりました。清沢さんはSalesforceのノーソフトウェアキャンペーンを引き合いに、いかにも米国らしいと話します。
来訪者を逃さないインバウンドAI、Qualified
次はインバウンドを担うQualified ── ウェブサイトに常駐し、来訪者の質問にAIが答え、その場で商談化まで導くツール。Salesforceに買収されたです。
Qualifiedはウェブサイトに常駐するAIチャットボットのようなもので、シナリオを作らなくても来訪者の質問に答えます。SaaStrでは3か月で1000件の会話が発生し、うち100件がアポになったといいます。
件数はArtisanのアウトバウンドより少ないものの、印象的な数字があります。8月に実装し、10月の売上の7割がQualified経由の商談だったというのです。
ウェブサイトに来てるのってその温度感高い人たちなので、取りこぼさない、むしろ最短で商談にするっていうところができている。
Qualifiedのランディングページには、実在の人物のように見えるアバターが表示され、そのままZoomのように話す機能もあります。来訪者はスケジューラでデモの日程を決め、予約までできます。
清沢さんは、自分がツールを探すときの体験を例に挙げます。料金まで見て「良さそう」と思ったときに、電話やメールを待つのではなく、その場で翌朝の面談まで組めるなら、コンバージョン前のウェブ接客として絶対に良いと話します。デモ文化の強い米国で伸びるのも納得だといいます。
眠ったリードを掘り起こすナーチャリングAI、Agentforce
3つ目はナーチャリングを担うAgentforce ── Salesforceが提供するAIエージェント。顧客ごとの情報を見て、パーソナライズした掘り起こしメールなどを実行するです。
Agentforceは、Salesforce内のリードや取引先責任者の情報と過去の履歴を参照し、掘り起こしメールを送ります。月3000件を送って開封率72%、返信率10%と、ほぼ人が書いたメールのレベルだといいます。
浜田さんは、メルマガなら開封率3割で良いメールとされる点と比べて数字の高さを説明します。従来のMAが一律のメールを送るのに対し、Agentforceは顧客ごとに完全にパーソナライズしたメールを送る点が異なるといいます。
運用で重要なのは、いきなり全部を任せない点です。特に最初の1か月は、SaaStrのAmeliaさんという担当者がメールを全部チェックしていたといいます。これが「0.2人」の中身です。
これら3つのプラットフォームには、チャットやメールに対して「これは違う」とフィードバックすると次回から修正される機能があります。最初の1か月きちんとチューニングすれば、あとは順調に乗るとジェイソンは書いているといいます。
ジェイソン・レムキンは、DocuSignのような電子署名サービスEchoSignをAdobeに売却し100億円以上を得たのち、SaaStrを立ち上げたシリアルアントレプレナーです。ブログ、LinkedIn、X、ウェビナー、ポッドキャストと積極的に発信しており、SaaSエコシステムの中心人物だと2人は話します。
日本ではどこから始まるのか、インバウンドとナーチャリング
骨太な米国事例を踏まえ、話題は日本に移ります。浜田さんの結論は、アウトバウンドは法規制が違うので同じようには始まらないが、インバウンドとナーチャリングは同じ課題を抱えているので十分あり得る、というものです。
アウトバウンドは、メールアドレスの売買が前提の米国と違い、日本ではフォーム営業や手紙になりがちです。価値はあるものの、スケールは米国より小さく始まると浜田さんは見ています。
一方インバウンドは、ウェブサイトにトラフィックが来ているのに99%がコンバージョンせず離れているという事象が日米共通です。ナーチャリングも、過去に商談・受注しなかったリードが溜まっている状況は変わりません。
むしろ掘り起こしは、日本の方がMAやCRMにたくさんリードが溜まっている可能性があると浜田さんは話します。メールアドレスを買えないからこそ、展示会などで接点情報を必死に取りに行くためです。
展示会に1回出れば数百から1000のリードが溜まり、それが積み上がっていきます。そのため、AIでの掘り起こしには本質的に大きな需要があるというのが浜田さんの見立てです。
清沢さんは、ザ・モデルの福田さんの著書に触れ、受注件数は一定でも失注客や未商談のリードは積み上がっていくため、いかに再商談するかが鍵になると指摘します。
この未受注リードって宝の山だよねっていうところが、もうザモデルでも言われてる。
もっとも、掘り起こしを型どおりのメルマガでやっても反応しません。AIで文章を作って送り、相手が資料をどう見たかから次の一手を打つ形が、明らかに価値があると浜田さんは話します。
ただし従来のメルマガとは仕組みが違います。AIが7〜8回のシーケンスを組んで送る場合、途中で反応があれば止めるなど、別の仕組みが必要です。パーソナライズしたメールシーケンスをうまくこなすソフトが今あるかというと、そうでもないと浜田さんは補足します。
AIに勧められて来る、質の高い来訪者を逃さない
浜田さんは、ウェブサイトの数字の厳しさを具体的に示します。フォーム通過率は20〜25%とされ、100人が来ても95人はスルー、5人がフォームに手をつけて、入力を完了するのは1人ほどだといいます。残りの離脱にはあらゆるポイントがあります。
その一方で、浜田さんの観測では、ChatGPTなどにトラフィックを取られてウェブサイトの訪問数は減っているのに、リード数は減っていない企業が多いといいます。AIに勧められて来た、本当に興味のある人が来ているためです。
やっぱそこを逃すのがめちゃくちゃもったいないっていうのは本質的にある。
清沢さんも、GeminiやClaudeで調べて引用されたツールにアクセスしている来訪者は、よく考えた上で来ているため、リードの質はむしろ上がっているのではないかと話します。そこを取りこぼして競合に行かれるのはもったいなく、AIでの最適化は日本にも馴染むという見立てです。
インサイドセールスは「軍師」と「かかりつけ医」に分かれる
最後のテーマは、AIが浸透したときにインサイドセールスの役割がどう変わるかです。浜田さんは、若手営業が経験を積む場という古典的な位置づけは成立しなくなると考えています。
電話がつながる率が半分になれば、1日に積める経験も半分になります。OJTの場として弱くなり、AIロープレやAIコーチングも増えている以上、営業志望の人はそのまま営業に行くようになります。そうなるとインサイドセールスは、より特化した専門的な役割になっていく必要があるといいます。
浜田さんは、これからのISの方向性を2つ挙げます。1つ目が「軍師」です。これはSaaStrで0.2人で3体のエージェントを回すAmeliaさんのイメージだといいます。
従来のインサイドセールスは、担当する営業とマーケターと連携しつつ、自分のリードと営業という限られた範囲で動いていました。浜田さんは、これをバスケットボールのポイントガードが味方4人と相手5人を見る程度の世界観だと例えます。
AIが入ると、1人でエージェントを10体でも回せるようになり、ウェブサイト接点やアウトバウンド接点をどうするかといった顧客体験の設計までできるようになります。浜田さんは、これはインサイドセールスというよりGTMエンジニア ── Go To Market(市場投入)の仕組みを設計・実装する役割。米国で近年よく使われる。ツールやデータを組み合わせて営業・マーケの仕組みを作るに近いと話します。
もう1つのシナリオは、逆に泥臭く人間らしいことをする方向です。会いに行き、挨拶し、良い情報を提供し、信頼され、最後に一番良いタイミングでそっと背中を押す。このパターンを浜田さんは「かかりつけ医」と呼びました。
この表現は、実は浜田さんがAIに相談して得たものだといいます。信頼を蓄積する器としてのインサイドセールスを他の職業で例えると何かと聞いたところ、Gemini、ChatGPT、Claudeがそろって「かかりつけ医」と答えたそうです。
なんかこう、日常的な相談に応じながら、その場に応じた適切なアドバイスやサポートを行っていく。
清沢さんは、高度な治療が必要なときに専門医へつなぐように、SaaSやフィールドセールスにパスする役割だと解釈します。そのためには信頼だけでなく、役立つ情報を仕入れ続ける努力もいると話します。
浜田さんは、かかりつけ医が内科も外科も一通り分かった上で適切な科へ回すように、ISもマルチプロダクトや複数のバーティカルを語れて、特化したフィールドセールスに任せる必要があると説明します。知識の幅広さも、この表現に含まれているといいます。
1人で複数のエージェントを回し、ウェブやアウトバウンドの接点設計まで担うハイレベル側
会いに行き信頼を蓄積し、必要なときに専門のフィールドセールスへつなぐ人間らしい側
清沢さんは、自社プロダクトだけでなくユースケースや成功事例、直近のマーケティングAIトレンド、さらには競合プロダクトまで知っていることが求められると付け加えます。浜田さんは、そこまで信頼が蓄積されていれば、勧めたプロダクトを断られない状態が理想だと話します。
究極は向こうから来る世界ですよね。指名で来るみたいな。
清沢さんは、この姿をチャレンジャーセールス ── 先進的な業界知見を武器に、顧客に新しい視点を提示して導くタイプの営業スタイルの概念にも近いと整理します。相談したい、話を聞きたいと思ってもらえる存在になることが鍵だといいます。
2026年はAIインサイドセールス元年になる
浜田さんは、2026年をAIインサイドセールス元年と位置づけ、この領域が大きく変わっていくと見ています。immedioとしてもその流れを下支えする役割を目指したいといいます。
immedioは従来の領域を超えて、ナーチャリングの自動化に加え、Qualifiedのようなインバウンド領域を手掛けるプロダクトも進めているといいます。
すでにコンバージョン前にimmedioのカレンダーを出す「ウェブ接客」機能では、商談が大きく増えた顧客の事例も出ているといいます。2人は、そうした事例を発信し、示唆のある情報を届けていきたいと話して回を締めくくりました。
まとめ
iOS電話スクリーニングによる通電率低下と、米国SaaStrのAIインサイドセールス事例という2つの流れが重なり、浜田さんは2026年をAIインサイドセールス元年と位置づけます。日本ではインバウンドとナーチャリングから始まり、ISの役割は「軍師」と「かかりつけ医」へ分かれていくという見立てが示されました。
- iOS電話スクリーニングで営業電話の通電率が下がり、同じ商談数に必要な人員が増えるリスクが高まっている
- 米国SaaStrはArtisan(アウトバウンド)、Qualified(インバウンド)、Agentforce(ナーチャリング)を用途別に使い、10人体制を営業1人+0.2人で回している
- AI運用は最初の1か月を人がチェックしてチューニングし、いきなり全自動化しないことが成果の鍵
- 日本ではアウトバウンドは法規制で小さく始まるが、インバウンドと、リードが溜まりやすいナーチャリングには大きな需要がある
- AIが浸透すると、ISは複数エージェントを操る「軍師」と、信頼を蓄積して専門営業へつなぐ「かかりつけ医」に役割が分かれていく




