名著再読シリーズが取り上げる「チャレンジャーセールス」とは
Growth Radioの名著再読シリーズ、今回のテーマは「チャレンジャーセールス」です。清沢さんによると、この本は日本では2015年、アメリカでは2011年に出版されており、15年ほど前からある古典的な一冊です。
前回取り上げたSPINが基本的なヒアリングの技術だったのに対し、チャレンジャーセールスはより応用的で、複雑な案件をクロージングするためのモデルだと清沢さんは位置づけます。
二人が在籍していたSansanでは、営業やインサイドセールスに関わるメンバーがこぞって読んでいたといいます。清沢さんは内定者の頃にはすでに周囲がみな読んでいたと振り返ります。
結構エンプラ営業の方が軒並み教科書的に見ていたなっていう印象です。
成果を出す営業に一番多かったのは「チャレンジャー」タイプ
この本のもとになったのは、成果を出している営業を分析してタイプ分けをしてみるという試みです。浜田さんによると、営業スタイルは大きく5つのパターンに分かれることがわかったといいます。
5つのタイプは、ハードワーカー、チャレンジャー、リレーションシップビルダー、ローンウルフ、そしてリアクティブ問題ソルバーです。全体ではおおむね2割ずつ、問題ソルバーだけがやや少なく15%ほどの分布だったと紹介されています。
全体ではほぼ均等に分かれるものの、成果を出しているハイパフォーマーに絞って見ると、チャレンジャーが54%を占めていたという点がこの本の出発点です。
チャレンジャーが正解ではないんだけども、成果出る人の出現率が他のよりまあ倍高い。それが何なんだっけっていうのを掘り下げましたっていうのがこの本ですね。
ただし前提として、これは複雑なBtoB営業、それも高単価のソリューション営業において最も成果が出しやすい、という限定がついています。
チャレンジャーを支える3つの要素「ティーチ・テイラー・テイクコントロール」
チャレンジャーの要素は3つに整理されます。浜田さんによると、英語の頭文字Tで揃えられており、ティーチ、テイラー、テイクコントロールの3つです。
ティーチは相手に教えること、テイラーは相手に合わせてカスタマイズすることを指します。そして最後のテイクコントロールが、価格や意思決定、次のアクションといった商談の主導権を営業側が握って動かしていくことだと説明されます。
価格、意思決定、次へのアクションをもう営業が動かしていっちゃう。ここまでできるのがチャレンジャーですよということを言ってますね。
清沢さんは、本の中に「支配する」という表現も出てくると指摘します。チャレンジャーの特徴として「常に違った見方をする」「顧客のビジネスを理解する」「理論好きである」「顧客に強引に働きかける」といった項目が挙げられています。
つまりチャレンジャーは、どんどんリードして示唆を与え、商談そのものを支配してクロージングしていくスタイルです。潜在的なニーズを傾聴して引き出すSPINとは対照的で、そこから一歩進んでリードしていく点が、当時の概念としては新しかったのではないかと清沢さんは話します。
顧客に新しい視点や示唆を教える
相手に合わせて内容をカスタマイズする
価格・意思決定・次のアクションの主導権を握る
なぜ2010年代に「顧客を動かす営業」が求められたのか
SPINが1986年から1988年に登場したのに対し、チャレンジャーセールスは2010年代です。浜田さんは、約20年を経てこの本が出てきた背景に、インターネットによる情報格差の消失があると指摘します。
顧客がネットで自ら調べられるようになると、「これができるんですね、この企業も使ってるんですね、大体わかります。必要かどうかは自分で判断します」という態度になりがちです。すでに顧客の中で結論が決まっている状態です。
お客さんの前提というか、その問題認識とか問題設定自体を動かしに行かなきゃいけない。ただただ聞いていく営業よりも、お客さんを動かしに行く営業が必要なんじゃないか。
清沢さんは、これはAIの時代にはさらに当てはまると話します。あらゆる情報が氾濫し誰でも得られる中では、単なる情報提供ではなく、示唆を与えて優先順位をつけることが求められます。
さらに清沢さんは、課題設定すらも「実はここが問題なのでは」と定義して進めていくのがチャレンジャーとしてのスタンスだと整理します。
情報格差がある時代。顧客に情報を提供し、ヒアリングでニーズを引き出す
情報が溢れる時代。顧客の問題設定そのものを動かし、示唆を与える
情報過多の今も有効だが、営業と話したい人は減っている
では現代でも通用するのか。浜田さんは、情報が溢れる時代だからこそ人を動かすスタイルが必要である点は変わらないとしつつ、注意点も挙げます。
その注意点とは、そもそも営業と話したい人が減っていることです。昔は「営業がわざわざ来てくれてありがとう」という世界があったものの、今はほぼないと浜田さんは見ています。
営業が結構ズカズカ出ていって、お客さんに「なんかあなたの視座低くないですか」みたいなこと言っても、結構跳ねる。
清沢さんは、その人から話を聞く価値があるかを定義できるかが鍵だと話します。「Why me?」に答えられるかということです。
そのために現代版チャレンジャーに必要なものとして、清沢さんは業界への深い理解と洞察、大量のデータの理解、顧客の業務フローやオペレーションの把握、そして導入後の変化を描ける構想力を挙げます。かなり高度な条件です。
Sansan時代にエンプラで売れていたセールスは、どこよりも最新の業界動向や洞察を持ち、日々のキャッチアップを怠らなかったと清沢さんは振り返ります。まさにチャレンジャーセールスが多くいた、という印象だそうです。
お客様の方が自分の業界には詳しいので、そのお客さんでも「そういう見方あるのね」と含めて示唆を提供できないと、チャレンジャーっていう立場に立てない。
日本版チャレンジャーは「支配」ではなく「示唆」
清沢さんは、これがアメリカの本である点に注意を促します。向こうでは議論好きな文化を前提に書かれていますが、日本で露骨に「支配」という発想でやると反発を招くと考えられます。
そこで清沢さんは、日本版チャレンジャーのやり方を整理します。顧客を否定するのではなく認識を再整理してあげる、押し込むのではなくインサイトを与える、断言するのではなく仮説として可能性を提示する、というものです。
浜田さんも、顧客の言うことに「そうですよね、もっと言うと」とうまくナビゲートしていくスタイルが日本ではフィットしそうだと同意します。
チャレンジャーが最も効くのはエンプラ営業
どんな状況で効果を発揮するか。清沢さんは、最も相性がいいのはエンタープライズ営業だとまとめます。複数の部署が絡み、現状維持のバイアスがあり、課題が複層的で曖昧な場面です。
このくらい難しいところじゃないと、準備するコストがなかなか見合わない。
一方で、immedio自身の営業は実際にはSPINに近いと浜田さんは話します。通電率や商談化率が下がり続けたら会社がどうなるか、という問いを投げかけることを重視しているためです。
ただしティーチ、つまり情報提供はかなり意識していると浜田さんは言います。日本でのデータやアメリカのトレンド、同業他社の事例を伝えることで、その後のSPINにも入りやすくなるといいます。
一方、テイクコントロールを1回の商談でやりきるのは難しいと浜田さんは認めます。エンタープライズでは何十回もミーティングを重ねるため、短期的にそこまで合意を得るのは難しいと清沢さんも同意します。
クロージングの主導権を握る具体的な打ち手
クロージングの主導権について、浜田さんは他社の営業を受けたときの学びを挙げます。初回商談後に営業資料ではなく、Wordの縦書きの提案書のようなものを送ってくる会社があるといいます。
そうした提案書は「考えてくれたんだな」という印象を与え、稟議書へコピペしやすくもなります。その中でスケジュールの打診ができる点が優れていると浜田さんは話し、自社ではまだ十分にできていないと振り返ります。
清沢さんは、Salesforceの営業が語るコンペリングイベント ── 顧客側で起こる期日のある出来事のこと。展示会や決算などから逆算して、今動くべき理由を作り出すために営業が活用しますの考え方を紹介します。顧客側で起こりうるイベントから逆算し、今やるべき理由を作る手法です。
たとえば「4月中に申し込む必要がありますよね」という形で、ミューチュアルアクションプラン ── 売り手と買い手が合意のうえで作る共同の行動・スケジュール計画。案件を前に進めるために使われますを一緒に組むことも、顧客をリードしながら進める点でチャレンジャーに通じると清沢さんは指摘します。
清沢さんはSansan時代の実例として、顧客のイベントスケジュールを事前に調べておいたことでクロージングが短くなった経験を挙げます。10月の展示会があるなら名刺スキャンをいつまでに、と逆算して提案していたそうです。
十月にあるんで、であれば名刺スキャンいつまでにしないといけないっすよねみたいな。お客さん側も確かにそうなるねみたいな。
浜田さんは、上場企業が相手なら決算資料や中期経営計画を見ると話します。広告宣伝費を2倍、3倍まで攻める計画が書いてあれば、リードも増えるはずだと問いかけていくといいます。
逆算していくとそろそろ手打った方が良くないっすかって、ストーリーをどう作るかみたいなのはめちゃくちゃ問われますよね。
エンプラ攻略に欠かせない「チャンピオン」の見極め
エンタープライズの難しさとして、清沢さんは対峙する個人・課・部・本部でミッションが異なる点を挙げます。その人と合意しても、上に上げると全く違うテーマだった、ということが起こります。
だからこそ、別のラインに会いに行ってテーマで切りに行くなど、案件を立体的に捉える力がいると清沢さんは話します。
浜田さんは、前回の回でも触れたように、エンタープライズ営業は最後にチャンピオンが見つからないとどうにもならないと指摘します。
エンプラセールスって最後はチャンピオンが見つからないとどうにもならない。
決裁権がなかったり、その人のミッションと自社プロダクトがかみ合わなかったりすれば、いくらチャレンジしても意味がないと浜田さんは言います。本当にエンタープライズを開拓するなら、1社あたり10人20人と会うしかない世界だと話します。
清沢さんは前職の上司の言葉を紹介します。「俺にはスカウターがある」、つまり相手を見れば戦闘能力がわかる、というものです。役職や風格から、この人がチャンピオンだと見極める力を指していたそうです。
絶対に買ってくれない人に時間使うんじゃなくて、すぐに仕切ってくださる人を見極めるかっていうのもスキルだみたいで。
浜田さんは、この本は再現性をいかに持たせるかがテーマなので、こうした見極めの話はあまり出てこないとしつつ、実際にはそのスカウターの精度が営業成果をかなり決めていそうだと話します。
誤解されがちな「チャレンジャー」の本当の意味
最後に誤解されがちなポイントが整理されます。浜田さんは、チャレンジャーとは相手に反論して疑問を投げかけ「今時そんな考え方でいいんですか」と言うことなのか、という誤解を挙げます。響きはそう見えても、そうではないといいます。
本質は、相手から見た見え方を変えることです。「その見方はよくわかりますが、少し角度を変えるとこう見えませんか」と示唆を提供することだと浜田さんは説明します。
日本ではチャレンジを挑戦やボクシングのように戦いのイメージで捉えがちですが、アメリカでのチャレンジ ── 英語のchallengeには「異議を唱える」「別の視点から問い直す」という意味合いがあり、必ずしも攻撃的な挑戦を意味しませんは別の視点を提供するニュアンスが強いと浜田さんは話します。プロスポーツのビデオ判定を求める「チャレンジ」も、判定が違うかもしれないと提起する行為です。
チャレンジャーセールスっていうと、めっちゃアグレッシブな営業を想像するけど、多分そういうことじゃない。
もう1つの誤解は、リレーションが不要というものです。清沢さんは、関係構築が不要なのではなく、関係構築だけでは不十分だ、という意味だと整理します。特に日本では訪問して対峙する情緒的な価値もあると話します。
ラポール構築していい感じに「こんなサービスもありますよ」って言って「今日は情報提供ありがとう」って言われて帰ってきても、多分何も起きない。
浜田さんは、ラポール ── 営業や対人関係で使われる用語で、相手との間に築く親近感や信頼関係のことをきちんと築いたうえで「この人は結構知っているな」と思わせ、さらに独自の観点を提示して「なるほど」と思わせる、そこまで必要だと話します。
AIに代替されにくい営業の力とは
こうして見ていくと、チャレンジャーセールスにはAIにはまだ代替できない人間らしい力が求められていると清沢さんは感じたといいます。要素が多く、複雑だという印象です。
浜田さんは、AIが置き換える職業で営業が最後と言われる所以はこの辺りにあると話します。人が自分の考えを変えるのは、信頼できる、この人の話を聞こうと思える相手から言われたときだからです。
営業としてAIに置き換えられないでいようと思うと、お客様に信頼されて、自分の言葉でお客様を動かせる、そういったスキルが求められる。
浜田さんは、改めて読み返してもいい本だと今日話しながら思ったと締めくくります。清沢さんも、今読んでも示唆深く新しい学びが得られる一冊だとして、興味があればぜひ読んでほしいと勧めました。
まとめ
チャレンジャーセールスは、成果を出す営業に最も多いスタイルとして、顧客を教え導き主導権を握ることを説く古典です。情報過多の現代でも有効ですが、日本では「支配」ではなく「示唆」として、関係構築の上に独自の視点を重ねる形が現実的だと二人は整理しました。
- 成果を出す営業の54%がチャレンジャータイプで、複雑な高単価BtoB営業で最も効くとされる
- 要素はティーチ・テイラー・テイクコントロールの3つで、主導権を握る点が特徴
- 情報が溢れる今こそ顧客の問題設定を動かす営業が必要だが、営業と話したい人は減っている
- 日本では否定や押し込みではなく、認識の再整理と仮説提示という形が反発を招きにくい
- チャンピオンの見極めや信頼構築はAIに代替されにくく、営業に残る人間的な力である




