上場企業のサクセッションから見えた「初期インターネット世代」のパワー
冒頭では、最近のトピックとしてサイバーエージェントの藤田さんの交代など、メガベンチャーの世代交代が話題に上がりました。浜田さんはこうした起業家と接する機会があるといいます。
浜田さんは前日、カルタホールディングスの宇佐美さんが退任するのに伴って開かれた集まりに参加したそうです。ドコモグループからの買収で株も売却したにもかかわらず、宇佐美さんはすでに次の構想を語っていたと振り返ります。
こんな20何年経営して企業を売却したら普通世界一周くらい行くでしょ、と思ったんですけど、めちゃくちゃ次のこと考えてて。もう来週から渋谷のオフィス入っていろいろやりますみたいな。
浜田さんは、いわゆる72、74世代 ── 1972年前後・1974年前後に生まれた起業家世代を指す言い方。2000年前後の初期インターネット企業が集まった渋谷「ビットバレー」の中心にいた世代とされますと呼ばれる、初期インターネットの真ん中の世代の貪欲さとパワーに驚いたと話します。
話題はさらに上の世代、U-NEXTの宇野さんにも広がります。大成功したあとも新しい事業を仕掛け続ける姿勢に、二人は感嘆します。
なんか息をするように事業するんですよね。
清沢さんは、こうした経営者に惹かれ、背筋が伸びると話します。藤田さんの著書についても、退任という文脈でありながら、まだ野望や熱量を感じる本だったと感想を述べました。
新規上場企業のIRは情報が少ない。そこで「目論見書」を読む
今回の本題は、上場したばかりのユーソナーを題材に、新規上場企業のIRの読み方を解説することです。これまでの回ではSansanなどの上場SaaS企業を分析してきましたが、今回は決算情報がまだ少ない企業をどう見るかがテーマになります。
清沢さんは、このテーマが評判がよいと話します。IRは見たことがあっても、どこがポイントかが掴みづらいという声があるためです。
新規上場企業は、上場から初回決算までは情報がほとんどありません。そこで浜田さんが挙げるのが目論見書 ── 新規上場時に、株を買う人に向けて会社の内容を説明する資料。証券会社や取引所で入手できますです。有価証券報告書と同等かそれ以上に情報が豊富だといいます。
最近上場した企業に提案するときには、目論見書、ちょっと頑張って読んでみるのはおすすめっていうところはありますね。
浜田さんは、目論見書には株主構成やストックオプションが書かれている点が面白いと話します。社長がどれだけ株を持っているか、誰にストックオプションが厚く配られているかまで見えてくるといいます。
ユーソナーの目論見書は最新の修正済みで138ページほど。二人は、この長い資料のどこをポイントに読むかを順に見ていきます。
売上高と沿革から会社の「今のフェーズ」を読む
最初のポイントは売上高です。ユーソナーの目論見書では21ページに過去5期分が載っています。
浜田さんは、2020年から2021年あたりは伸びが緩やかだったものの、その後ぐんぐん伸び、現在は売上60億円で約20%成長の角度に入っていると指摘します。IR資料では直近との比較が中心になりがちですが、5年分のカーブを見ると今の状況がわかるといいます。
(2020から2021が)割と立て直し期で、今そこから再浮上しているみたいなタイミングなんだな、とか、そういうのは見えてきますよね。
次のポイントは沿革で、39ページにあります。ユーソナーは1990年創業と歴史があり、資本金1000万円、大阪市北区で始まった会社です。
もともとの事業は、個人向け印刷物の送付を代行するダイレクトマーケティングサービス、つまりDMでした。名寄せやデータクレンジングのサービスを提供したのは1999年です。
名寄せってね、Sansanが2007年創業ですから。
清沢さんは、Sansanが名寄せやデータハブのソリューションを手がけたのはさらに後であることから、ユーソナーはこの市場を作ってきたパイオニアだと評価します。
沿革では、三井物産の企業投資ファンドが入っていた点も話題になりました。浜田さんは、これが上場前に一定金額を入れて上場の土台を一緒に作るグロースエクイティ ── 成長段階の企業に、経営権(マジョリティ)は取らずに出資し、上場などの成長を後押しする投資手法の事例であり、無事に売却できたよい例だと説明します。
浜田さんは、沿革は創業からの歴史だけでなく、増資や提携のタイミングも見え、会社の歴史を俯瞰できるといいます。こうした情報は意外に会社のホームページには載っていないことが多いそうです。
従業員情報でわかる「どんな人を集めている会社か」
続いてのポイントは社員情報で、44ページにあります。従業員数、平均年齢、勤続年数、平均給与が開示されています。
清沢さんは、Sansanがマザーズへ上場した際に目論見書で平均給与を見て、当時新卒2年目で相場観がなかった自分には面白かったと振り返ります。
(給与が)会社の色、どういう人を集めてるのかっていうのは結構これ見るとわかりますよね。
浜田さんは、会社によって平均給与に差があり、そこから採用している人材像が見えると話します。管理職の女性比率や賃金差異など、ジェンダーに関する項目も開示義務があるため触れられています。
成長戦略を読むには、実はBS(貸借対照表)が重要
次の論点は、売上を示すPLだけでなく、BSも重要だという点です。ユーソナーの目論見書では80ページ前後で財務諸表が確認できます。
IRでは売上と利益に注目が集まりがちですが、浜田さんはBSを見ると、その会社が今後どういうことを考え、市場から何を期待されるかが読めるといいます。特に大きいのは現金と借入だと指摘します。
ユーソナーはもう現金32億、資産50億の6割現金と。めっちゃキャッシュリッチで。全然借入してないですね。
浜田さんは、こうしたキャッシュリッチで借入が少ない状態だと、アクティビスト ── 保有株をもとに企業へ経営改善を要求する投資家。「物言う株主」とも呼ばれますが「もっとよいバランスシートの使い方ができるのでは」と迫ることが起きがちだと説明します。
すごい利益出てるから10億くらい借り入れできるんじゃないですか、その10億株主に配当したらどうですか、とか、ちょっと言われそうなBSだなみたいな。
そこで問われるのが、企業側が現金の使い道を説明できるかです。浜田さんは、新規事業かM&Aといった攻めの一手を株主に説明できるかどうかで、様子見になるか配当を求められるかが変わると話します。
ユーソナーについては、まだオーナーの持ち分が多く、オーナー企業らしく安定経営のために現金を厚く持っている可能性もあるとしつつ、攻めに出そうなバランスシートにも見えると浜田さんは評価しました。
粗利率が低い理由は「データ仕入れ」にあった
続いてPLも見ていきます。ユーソナーの損益は84ページに掲載されています。
浜田さんが特徴的だと指摘したのは粗利率です。売上60億円に対して売上総利益は約37億円で、粗利率は62〜63%ほど。SaaSは粗利8〜9割が多い中で、やや低いといいます。
(粗利が低い理由は)ちゃんと次のページに開示がされてまして、データ仕入れっていうのがめちゃくちゃ多いみたいですね。
清沢さんは、ユーソナーが単なるSaaSではなく、データのクレンジングまで手がけるベンダーであるため、外部からのデータ購入費や運用費がかかっていると補足します。全国にリサーチャーを置くTDBほどではないとしつつ、そうしたコストが乗っているとまとめました。
浜田さんは、契約社員を含むリサーチャーやデータアナリストを多く抱えている一方で、6〜8億円規模の「データ仕入れ」は本当に外部からデータを買っている費用ではないかと読み解きます。
ここから浜田さんは、PLは数字を見るだけでなく、SaaSの相場である粗利率と比べてギャップがあれば、その理由を詳細ページで確認することが大事だと整理しました。
取引先リストから見える顧客と仕入れ先
後半の125ページには取引先が載っています。売掛金からは、ユーソナーからデータを仕入れている顧客が見えてきます。
浜田さんによると、売掛金のトップはセールスマーカーで2000万円弱。何らかの形でユーソナーからデータを仕入れていることがわかるといいます。
買掛金では、セールスフォース・ジャパンが最大で4500万円ほど。ユーソナーがセールスフォースのサービスを購入しているか、あるいは代理店として販売している可能性が読み取れます。
前受収益も注目ポイントです。浜田さんは、SaaSでは1年分などを前もって受け取るため前受収益が立つと説明し、トップがサントリービバレッジソリューションズで3900万円だと紹介します。
MRIで数百万の契約していて、2位がトヨタ自動車。日立ソリューションズ、マイナビ。めっちゃいいロゴ。
清沢さんも、日立ソリューションズやマイナビ、デジタルガレージといった大企業の名前が並ぶことに触れ、月額数百万円規模の超エンタープライズ契約を取れている点を評価しました。
「事業計画及び成長性に関わる事項」の読み方
目論見書に続いて見るのが、別途開示される「事業計画及び成長性に関わる事項」です。清沢さんは、これは中期経営計画 ── 今後数年間の売上・利益・戦略の見通しをまとめた計画。「中計」と略されますに近い性格の資料だと説明します。
浜田さんは、中計まではいかなくても、2〜3年先を見せないと株価がつきにくい事情があると話します。従来の四半期決算とは別に、成長性についてまとめて開示することが増えているといいます。
IRで初回決算前でも、結構この成長性に関する事項は見れることが多いですね。
この資料の14ページには主要KPIがあります。清沢さんは、ルールオブフォーティ ── SaaSの健全性を測る目安。売上成長率と利益率の合計が40%を超えると優良とされる考え方で見ると、成長率20%・利益率15%で合計35%となり、少し届かないと指摘します。
ただ浜田さんは、主要SaaSであるソナーサービスは23%伸びており、ルールオブフォーティにかなり近いラインで悪くないと評価しました。
衝撃的に低いチャーンレートは何を意味するか
KPIの中でも二人が驚いたのがチャーンレートの低さです。ARPAは月額43.5万円、年間で約500万円と高く、その上でチャーンレートは0.36%でした。
チャーンレート、衝撃的に低い。0.36パー。
浜田さんは、セールステック系はマーケ予算の影響を受けたり、企業データを1年で使い切って解約されたりしやすいと説明します。その中で0.36%は、バックオフィスSaaS並みに低い水準だといいます。
比較として、Sansanのチャーンレートは0.52%。清沢さんは、名刺を何万枚も蓄積して抜けにくいSansanでさえ0.52%なのに対し、データを提供する側で0.36%を実現している点を驚きとして挙げます。
清沢さんは、その強さの源泉として、独自の事業所コードを持つ法人データベースLBCを挙げます。浜田さんも、拠点ごとのコードを持つことでデータの質が他と違い、各社にとってインフラになっているのではないかと分析しました。
本当に営業所単位でリスト化していこうと思うと、多分これしかなくて、その分やっぱ各社にとってインフラになってるんだろうな、っていう感じが、このチャーンレートから見受けられる感じですね。
さらに、SaaS部分のみで一人当たり従業員売上(ARR対FT)が2000万円を超えている点も強みだと二人は指摘します。スタートアップでは1000万円を超えられるかという水準であり、それを大きく上回っているといいます。
チャーンを支えるオペレーション力とCS部門の効果
チャーンの低さを支える源泉として、清沢さんは28ページの情報収集力を挙げます。LBCの価値を支えるために、人をかなり張っているといいます。
750名の業務委託スタッフです。
浜田さんは、Sansanも名刺を機械と人間の突き合わせで処理して優位性にしていると触れ、こうした泥臭さこそ最後は誰にも真似できない強みになると話します。デジタルとアナログの両面で、データサイエンティストと専任調査員を抱えるオペレーション力が生産性を支えていると清沢さんはまとめました。
続く43ページでは、チャーンが劇的に下がった理由として、CS部門の確立が挙げられています。2022年年央あたりを境に、チャーンが滝のように下がっているといいます。
そんなに美しいチャーンの下がった、なんかこう滝みたいに下がってますよね。0.6パーから一気に0.3パーに、なんか四半期か1ヶ月かな、これ半分になるみたいな。
清沢さんは、もともと0.63%ほどだったチャーンがCS部門の立ち上げで大きく低下した点を挙げ、CSの重要性を指摘します。一方で、CS部門確立前から1%を切る水準だったことも十分すごいと評価しました。
時価総額と市場評価が示す「利益で見られる」時代
最後に全体を総括します。ユーソナーの時価総額は約210億円、売上マルチプルは3倍です。清沢さんが利益ベースの倍率を尋ねると、浜田さんは経常利益に対して17倍、純利益に対して26倍だと答えます。
浜田さんは、純利益に対する倍率であるPERが26倍というのは、いい感じの上場企業だと説明します。一方で売上マルチプル3倍は、以前紹介したラクスなどと比べると低いといいます。
新市場を切り開く成長SaaS企業っていうよりは、もうしっかり収益基盤が確立した、安定事業みたいな感じに見られてるな、っていう印象ですね。
清沢さんは、歴史と築いてきたオペレーションの強さゆえに、安定的で堅実な成長企業として評価されているのではないかとまとめます。
浜田さんは、20%成長でルールオブフォーティにも近く、チャーンも低ければ、SaaS界隈の感覚ではもっと高いマルチプルがついてほしいと感じるとしつつ、評価はもう利益なんだなと話します。これはSaaSバブル以前と以後でルールが変わった感覚だといいます。
ここから時価総額を上げるには、成長率をグッと高めるか、あるいは少ない借入や潤沢な現金を使って配当や自社株買いで市場に還元する選択肢があると浜田さんは整理しました。
起業家がIRから得られる学びと「残酷なほどリアルな」市場評価
最後に、新規上場企業のIRを読むことで、起業家が得られる学びが語られました。浜田さんは、チャーンがなぜこれほど低いのかを考えること自体が頭の体操になるといいます。
浜田さんは、0.36%のチャーンにたどり着くには大企業を落としていくことなのか、あるいはLBCのようなモート ── 競合が簡単には真似できない、その企業ならではの強み・参入障壁。「堀」を意味する言葉ですをどう作るのかを考えるきっかけになると話します。
もう一つの学びは、マルチプルなどから見えるリアルな市場評価です。清沢さんが「リアルな市況がわかる」と述べると、浜田さんは率直に応じます。
リアル、残酷なほどリアルです。
浜田さんは、シリーズAのようなフェーズだと上場は5年後の話に感じられるものの、投資家は今の市場を見ており、保有する会社は今上場すると指摘します。だからこそ、起業家も今の市場と投資家の感覚を理解しておく必要があると話します。
5年後って絶対もっと市場いいじゃないですか、今SaaSバブル弾けた後ですよねって思っても、やっぱ投資家はその目の前の重たい市場を見ているので、どうしても保守的になると。
清沢さんは、投資家視点でリアルに向き合い、それを織り込んだ上でどう戦略を描くかが求められるとまとめ、この回を締めくくりました。
まとめ
新規上場企業のIRは、決算情報が少なくても目論見書を読むことで、売上の推移から沿革、従業員構成、BS、取引先まで多くの情報が得られます。ユーソナーは、独自の法人データベースLBCと泥臭いオペレーションを土台に、極めて低いチャーンと高い生産性を実現した堅実な成長企業として市場に評価されていることが読み取れました。
- 新規上場企業は決算情報が少ないため、株主構成やストックオプションまで載る目論見書が有力な情報源になる
- 売上は5年分のカーブで、沿革は増資・提携も含めて見ると、会社の今のフェーズと歴史が俯瞰できる
- 成長戦略はPLだけでなくBSが重要で、現金と借入の状態から新規事業・M&A・株主還元の可能性が読める
- ユーソナーはチャーン0.36%とARR対FT2000万円超が強みで、LBCと750名規模のオペレーションがそれを支えている
- SaaSバブル後の市場は利益で評価される傾向が強く、起業家も残酷なほどリアルな市場評価を織り込んで戦略を描く必要がある





