なぜシルバーウィークが「丁合祭り」なのか
丁合とは、カードや駒などボードゲームの内容物を組み合わせて、1つの商品に仕上げる作業のことです。Manaさんは今回、この丁合 ── 印刷されたカードや駒などの部材を、抜けや過不足なく1セットずつまとめて商品として組み上げる作業。ボードゲーム制作では終盤の山場になりますをテーマに取り上げています。
話の背景にあるのが、秋の大型連休シルバーウィークです。ゲームマーケット前の最後の大型連休にあたるため、ボードゲーム作家にとっては勝負どころだといいます。
普段は日中に仕事をしている人ほど、ボードゲームにまとまった時間を割くのは難しいものです。Manaさんは、この連休が丁合に集中できる最後のチャンスかもしれないと話します。
製造サイクルを見ると、この時期はすでに部材が自宅などに届き、「よし組み上げるぞ」という段階に入っている人が多いそうです。
毎回ゲムマ前に起こることなんですけれども、丁合祭りですね。もうみんな疲弊しますね。
夜中まで作業したり、「やっと何個まで終わりました」といった作業風景をXに上げたりする人も多いといいます。ボードゲームを作らない人からすると、自宅でそんな作業をしていること自体が衝撃的かもしれません。
なぜ多くの作家は自分で丁合をするのか
海外や国内の印刷、大量ロットであれば工場で丁合まで頼む選択肢もあります。それでもManaさんは、多くのボードゲーム作家が自分たちで丁合していると見ています。
理由の1つは、製品の作り方にあります。いろいろな場所で印刷やコンポーネントを仕入れて1つに組み上げるパターンがあり、1つの会社ですべてがそろうとは限らないためです。
もう1つの理由が人的コストです。部材が全部届いた後の軽作業を請け負う業者もいますが、頼めば実費のコストが発生します。
その実費は原価に含めなければならず、なかなか出せない金額になりがちです。だからこそ、自分が頑張ればコストが発生しないという発想で、自分たちでやってしまう人が多いのではないかとManaさんは話します。
自分が忙しいだけ、自分が頑張ればそこに支払いコストが発生しない、そうなると自分たちでやってしまおうという人たちも結構いるんじゃないかなと思いますね。
家族総出で作る現場と「原価に入らない稼働」
Manaさん自身も家族でボードゲーム活動をしており、丁合は毎回家族総出で何百個という数をこなしていると語ります。
娘さんはボードゲームの企画やテストプレイにはノリノリな一方、丁合作業は嫌いらしいとのことです。地味で単調な作業を何時間も続けるため、途中で飽きたり集中力が切れたりすることもあるといいます。
本当にやばいときは、友達やいとこにも声をかけ、公民館などの場所を借りて広いテーブルで一気に進めることもあるそうです。公民館は1日数百円ほどで借りられることもあると紹介しています。(※私の地元ですと、営利目的の利用でも3倍程の料金で借りれたりします)
手伝ってくれる友人や身内には、お昼を一緒に食べたり夕飯をおごったりしてごまかしているといいます。ただ、その稼働を時給換算すると相当な額になり、原価計算に入れると販売価格が高くなってしまうのが悩ましいところだと話します。
さすがにそろそろ外注しようかとも考えているものの、コスト面で足踏みしているのが実情だと明かします。
Manaさんはここから話を広げ、製造コスト以外にかかっている人的コストが実はたくさんあると指摘します。企画やテストプレイ、Xやnoteでのプロモーション、そして丁合作業まで、本来なら時給で換算すべき時間がかかっているという見方です。
さらに、ゲームマーケットの出展費用、移動の交通費、2日間出る場合の宿泊費なども、商品の原価には含めていない人がほとんどではないかと話します。
発売に向けて動くためには、ほんと多くの時間と労力というものがかかっているわけなんですよ。
メーカーはどうやって採算を合わせているのか
個人の活動でこれだけ大変なら、社員を抱えて給料を払いながら続けるメーカーはすごいと、Manaさんは率直に語ります。
採算がどのくらいで合うのかは想像しにくいところです。数千個では難しく、数万個でも怪しいのではないかと推測しています。あくまでManaさんの見立てで、内部事情はわからないと断っています。
社員を抱えると1回ごとの作業というより毎月の給料がかかります。裏を返せば、それだけ仕事が発生し、アクティブに活動できているということでもあると評価しています。
採算を合わせる方法として、繁忙期は業務委託やスポットで頼む可能性や、そもそもいろいろなものを原価に含めた価格設定で大量生産し、1個あたりの製造原価を下げているのではないかという見方を挙げます。
これらの数字は、Manaさんが「そういう感じで割合配分しているのではないか」と挙げた推測の例です。コスト面の詳しい話は、また別の配信で扱いたいとしています。
1商品ずつ作らない 丁合の段取り
ここからが本題の丁合のコツです。Manaさんはまず、多くの人がやっていそうな「1商品ずつ作っていく」方法を、自分はしていないと切り出します。
代わりにやっているのが、コンポーネントのセットごとに作る進め方です。カードのセットを作る、駒を必要な数だけ小さな袋に入れる、といった部材ごとのパッケージをまず作っていきます。
しかもバラバラに進めるのではなく、「今回は駒を袋に詰める作業」「こちらはカードをまとめる作業」というように、作業の粒度を細かく割っていくイメージだといいます。
そうしてすべての部材がそれぞれ必要個数分できあがってから、はじめて最終的な箱詰めや組み上げ作業に入ります。
部材ごとに分ける
作業を「駒を袋詰め」「カードをまとめる」など粒度で分割する
必要個数分そろえる
それぞれの部材を必要な数だけ作りきる
最後に組み上げる
すべてそろってから箱詰め・組み上げに入る
この進め方の利点の1つが、1つの作業に集中できることです。1商品ずつ仕上げると、カードを組んで駒を数えて袋に入れて…と作業が複雑になっていくと指摘します。
そこまで複雑ではないとしても、長時間同じことをやり続けると、少しの手間でも複雑に感じてくるのだそうです。
思考停止の状態でロボットのようにやっていくみたいなものに近いのかもしれません。
たとえば駒を袋に入れる作業なら、ボウルなどに駒をザーッと入れておき、そこから数えて袋に入れる、を延々と繰り返します。その時間はずっとそれだけをやる形にしているそうです。
この進め方には、作業に集中できて効率が高いこと、分担がしやすいことという利点があります。家族で「自分は駒を袋に入れる担当」「自分はカードをデッキにまとめる担当」と分けて進められます。
さらに作業計画も立てやすくなります。「今日は袋詰めを終わらせる」「明日はカードの分類」「明後日はカードのデッキ化」というように分けられ、進捗を管理しやすいといいます。
箱詰めの前に検品する 最終防衛ラインの引き方
部材ごとに分担して進めたあと、最後に組み上げ作業を行います。ここにもう1つ大きな利点があるとManaさんは強調します。
最後にまとめて箱詰めするため、それぞれの作業が終わったものをもう一度目で見ることになります。つまり、箱に詰める段階が最終検品を兼ねるという形です。
実際、そこでミスが見つかることもあるといいます。複数人で長時間作業していれば、ミスは出るものだからです。どこに防衛ラインを引くかが、この最後の工程だという考えです。
一方、1商品ずつすべてパッケージングまでやってしまうと、最終防衛ラインがなくなります。自分が一番信用できず、しっかりやったつもりでもミスは見つかる、作業した本人以外が確認しないと本当のチェックにはならない、とManaさんは話します。
もう箱にも入れているし、袋詰めもしてるってなるともう気づけないわけなんですよ。
だからこそ工程を段階的に分解し、「駒が確かに入っていますね、入れますよ」「カードが何枚ありますね、入れますよ」と確認しながら詰めていきます。こうすることで、ミスの少ない商品作りができるのではないかとまとめています。
型抜きは裏から押す 印刷面を守るコツ
もう1つのコツが、型抜きです。厚いボードやタイルを印刷している人なら経験があるとして、Manaさんは注意点を挙げます。
印刷会社から、複数の駒が1枚の厚紙ボードに印刷され、切れ目が入ったシート ── 型抜き用の切れ目だけを入れた状態の厚紙ボード。1枚に複数のタイルや駒が並んでおり、使う側が1つずつ抜き取りますの状態で届く場合があります。型抜き済みで送ってくれるところもありますが、シートから1つずつ抜く必要があるケースです。
このとき失敗すると、印刷面がめくれることがあります。とくにPP加工 ── 印刷面に薄いフィルムを貼る加工。表面に光沢やマット感を出し、傷や汚れから守りますなど印刷面にフィルムを貼っている場合、そのフィルムが剥がれて不良品になってしまう可能性があるといいます。
予備を多く作っていないことも多いため、不良品は実質的な損害になります。だからこそ、型抜きにはコツがあるとManaさんは言います。
シートには表面と裏面があり、裏面は真っ平ら、表面には切れ目による凹みがたくさんある状態です。刃物を片側からグッと押し付けて切れ目をつけているためです。
感覚的には凹んでいる表面から押して抜きたくなりますが、それは逆だといいます。上から押し付けている分、そちら側から押すと、刃が最後まで入っていない部分が引っかかってめくれてしまうためです。
正しくはその裏面から、いわゆる凹みが入っているものとは逆面から押すというのがいいわけです。
裏面から押すと、表面側で刃に押さえつけられていた力が逆方向に働き、切れ目に沿ってきれいに切り離せると説明します。順張りではなく逆張りのようなイメージだといいます。
Manaさん自身もこの話を知って驚いたそうです。毎回失敗してしまうという人は、裏から試してみてほしいと呼びかけています。
毎回なかなか失敗するなというようなことがある人は、ちょっと試しに裏からやってみてください。
最後にManaさんは、これから丁合活動を頑張るリスナーに向けて、手も目も丁合で埋まる中、唯一空いている耳でこの番組を聞きながら作業してほしいと語りかけています。
まとめ
ゲームマーケット前の丁合は、個人のボードゲーム作家にとって毎回の山場です。Manaさんは、原価に含まれにくい人的コストの重さを指摘しつつ、家族総出の経験から編み出した「部材ごとに分けて作り、最後に検品を兼ねて組み上げる」段取りと、型抜きのコツを紹介しました。
- 丁合は内容物を1商品に組み上げる作業で、多くの作家がコスト面から自分でこなしている
- 企画・テストプレイ・プロモーション・出展費用など、原価に含めていない稼働が実は多い
- 1商品ずつではなく部材のセットごとに作ると、集中でき、分担や進捗管理もしやすい
- 箱詰めの段階を最終検品にすると、ミスを防ぐ防衛ラインになる
- 型抜きは凹みのある表面ではなく裏面から押すと、印刷面がめくれにくい

