シードで見るのは「売る営業」ではなくCS
後編のテーマは、VCがスタートアップの各成長段階でRevenue Teamと組織のどこを見ているか、という点です。前編で触れた組織や採用の話を、シード・シリーズA・シリーズBに沿ってより具体的に掘り下げていきます。
浜田さんはまず、シードでファウンダー以外に組織面で見ているものがあるかを尋ねます。中野さんは、あると答えたうえで、この段階はまだプロダクトを作り切れるかというリスクを取っている時期だと整理します。
そのため、ぐいぐい売上を立てる営業よりも、プロダクトや事業開発のための営業のあり方を体現できるかどうかが大事だといいます。目線や目指す状態の定義を、必要ならすり合わせながら進めることも含まれます。
どちらかというと営業何人もいますというより、CS側が何人もいますというようなシードのチームの方が、安心して見ていられるという感じはしますかね。
浜田さんは、売って終わりの営業ではなく、顧客の課題を理解して使い続けてもらい、プロダクトに反映できるCSがいるほうが安心して投資できるということかと確認します。中野さんはその通りだと応じ、前回話したARRの高さより中身を気にする姿勢につながると補足します。
一方で、優秀なCS人材の採用は難易度が高いところでもあります。それでも中野さんは、シード期に重視すべきことにアラインした組織作りが大事だと話します。
シリーズAで各ポジション一人目に求める「強さ」
シードの後半からは、営業やリードジェネレーションを担うマーケIS ── マーケティングとインサイドセールス。見込み客を集め、商談化する前段階の活動を担う職種人材を少しずつ増やしてよい、と中野さんは言います。理由はシリーズB以降の資金調達にあります。
シリーズBの資金調達をするときには、なんで「ARR何億積みましたか、どんな成長率ですか」という問いから逃れることは難しいと思うんですよ。
だからこそシリーズA以降は、起業家も一定の数字を追わざるを得なくなります。シード後半で検証した再現性あるレベニューオペレーションを実行できる営業・IS・マーケ・CSを、バランスよく採用していく必要があるといいます。
浜田さんは、この段階では社員が10人から20人弱の会社が多く、マネジメント層も厚くないなかで、各ポジションの一人目にどんな人が向くのかを尋ねます。
中野さんの答えは、理想的には一定の強さのある人が望ましい、というものです。その人が模範となり、売り方を再現できる水準の人が一人目にいると、その後のスケールが滑らかになるといいます。
ただし、これはあくまで理想論だと中野さんは付け加えます。自身もスタートアップ側にいた経験から、現実には取れた人でなんとかするものだ、と率直に語ります。
高い給与か、後払いか。VCが見る「勝ちに来ているか」
浜田さんは、より上のフェーズを経験した人を採るとき、給与を払って迎えるべきか、給与を下げてストックオプションでリスクを取ってもらうべきか、VCとしてどちらが安心かを尋ねます。
いやもう、めちゃくちゃ深い論点がスタートアップに関してはあるんですけども。勝負しに来てるかどうかっていうのが一つ大きなというふうには思いますかね。
中野さんは、立派な会社ほど「給与を10%上げて立場も上げるので来てください」というオファーが多いと指摘します。この場合、金額と立場が勝ち取れた時点で、目的の半分が達成されてしまう人もいるといいます。
中野さんはこれを前払い方式と呼びます。対してスタートアップは、会社が勝つかどうかわからないため、勝たせに来てもらう必要があります。ストックオプションのように後から報酬が実現する形は、いわば究極の後払い方式だと表現します。
さらに中野さんは、自分の給与を下げても、その分を販管費に回すことで企業価値が上がるなら、見返りという観点では実はそのほうがよいのではないか、と考えられる人を挙げます。そう発想できる人ほど、スタートアップのマネジメントに近いといいます。
マネージャーは何人からいる?スパンオブコントロールで考える
シリーズBになると組織は数十人規模になり、NRR(既存顧客からの収益維持・拡大)や単価向上も問われるため、組織としての力が必要になります。浜田さんは、スタートアップでマネジメント専任を置くタイミングの難しさを挙げます。
浜田さんは、プレイングを続けさせると周りが育ちにくい一方で、専任にするタイミングの見極めが肝だと自身の実感を語り、DNXとしての目安やアドバイスを尋ねます。
中野さんは、フェーズ以上に人数規模が判断軸になると答えます。数十人規模になると起業家一人では見きれず、ミドルマネジメントの強化が必要だという声を、日々いろいろな会社から聞くといいます。
目安として、スパンオブコントロール ── 一人のマネージャーが直接管理する部下の人数。管理の範囲や統制の幅を指す組織論の用語は諸説あるものの、7〜8人ほどに一人のマネージャーがいないと回りにくいと話します。CEOからメンバーまでをアラインさせるうえで、ミドルの役割は大きいといいます。
落下傘マネージャーを機能させる「期待値を下げてから入れる」
浜田さんは、外から採用したマネジメント経験者が、一回り大きい会社出身だとスタートアップにハマるのか、現場経験なしで務まるのかといった難しさを挙げ、外部採用と内部登用のどちらがよいかを尋ねます。
中野さんは、落下傘的に来たマネージャーが機能しないのはあるある、と認めたうえで、有効だと感じる方法を紹介します。それが、期待値を少し下げてからジョインさせるやり方です。
明日からでもセールスマネージャーになってほしいという人がいた場合、その気持ちをぐっとこらえて、あくまで一営業として入ってもらう。
兄貴分・お姉さん分のような立場で、商談をしっかり受注できる腕があると示す期間を最初に設ける。そうすることで、結果的に長くリスペクトされて活躍できる従業員体験につながるといいます。中野さんは、いま見ている投資先でこの方法を勧めていると話します。
チーフオブスタッフはいつ必要か。Opsは掛け算で効く
浜田さんは、部門間に落ちたボールを拾い、横のつながりを俯瞰して作りにいくような遊軍的な役割の重要性を挙げつつ、企画やOps、チーフオブスタッフといった機能はいつ必要になるのかを尋ねます。
中野さんは、チーフオブスタッフのアサイン時期は本当にバラバラで、一概にいつとは言いにくいと答えます。起業家自身の器用さや、社長・Cクラスがどれだけユーティリティプレイヤー的に動けるかにもよるといいます。
一方で、Opsの強さは掛け算で効いてくると中野さんは強調します。Ops的な人や機能があるかどうかで、CSや営業の生産性が人数分効いてくるためです。
コーポレートは誰から採る?「広く浅く」から専門性へ
浜田さんは、コーポレートスタッフは会社の10〜15%は必要とされるなかで、人事・経理・管理部長など誰から採るかは起業家にとって難しいと述べ、後ろを固める順番を尋ねます。
中野さんの答えは、シードアーリー期は薄く広く任せられる人がいると頼りになり、加えて外部支援者でなんとかするパターンが多い、というものです。だんだんミドルレイター期になると、狭くてもクオリティの高い専門性が重要になります。
法務なら法務、会計なら会計、情シスなら情シスというように、専門性を尖らせた採用へスイッチするタイミングが来ます。中野さんは、その目安を人数でいうと二桁後半から100人くらいだと話します。
中野さんはSalesforce時代に、バックオフィスの人員比率は何%であるべきかを議論しており、おおむね十数%だったと振り返ります。そこから毎年どれだけ生産性を改善できるかも話し合っていたといいます。
何が何でも10%に抑えるっていう、一人我慢大会をしててですね。60人のときは6人。100人になったら10人っていう。まあそれ以上は取っちゃダメみたいな。
その10人のうち一人ほどは弁護士資格を持った法務、といった形で専門職を揃えていく。広く浅くから徐々にトランジションしていくのが現実解ではないか、と中野さんはまとめます。
FP&Aとは何か。過去を締めるのではなく未来を作る仕事
ここからは中野さん自身の経歴でもあるFP&Aの話に移ります。中野さんはSalesforceでFP&A、その後のスタートアップ2社では管理部全体を見ていたといいます。
浜田さんは、FP&A ── Financial Planning and Analysisの略。予算策定や業績の分析を担う。日本の職種でいえば経営企画に近い役割が海外ではよく聞くポジションだが、日本のスタートアップにもあるのかを尋ねます。中野さんは、まだ多くはないが、職種として認知されてきたのはここ数年で、これから増える流れだと答えます。
中野さんがSalesforceに入ったのは2012年です。FP&Aのアナリスト職として面接を受けたものの、入社時には職種名がFinance&Strategyに変わっていたといいます。
名前を変えたのは、当時この部門のグローバルトップだったサラ・フライヤー氏です。中野さんによれば、彼女はその後Squareを経てSlackのCFOを歴任した人物です。
FP&Aじゃないと。私たちは。FP&AっていうとFinancial Planning and Analysisという略称なんですけども、予算の策定と分析をしていますというような読み取りもできなくはない。
中野さんの説明では、実際のFP&Aはもっとビジネス側に食い込み、データドリブンで戦略的なインサイトを持って、ビジネス部門のやりたいことを実現する仕事です。それによってFinancial Planningを実現化する、より強い影響力が求められます。
その思いから、Salesforceでは2012年頃にFP&AがFinance&Strategyへ改称されました。その後、Salesforce出身者が各SaaS企業に散らばるにつれ、Finance&Strategyという職種名も増えたといいます。
浜田さんが、日本語でいえば経理側というより経営企画に近い仕事かと問うと、中野さんは、日本の職種定義では経営企画が持つ仕事だろうと応じます。自身の整理では、管理会計の一つのアングルとしてFP&Aがある、といいます。
浜田さんは、経理が月末に請求や記帳、支払いをしているのは分かるが、FP&Aは普段何をしているのかと率直に尋ねます。中野さんは、Salesforce時代の例で答えます。
中野さんによれば、Salesforceで最も重要な仕事は、四半期ごとのEPS(一株当たり利益)を、ウォールストリートのコンセンサスに落とすことでした。市場が示す数字に、何が起きても、為替がどう振れても合わせにいくのがFP&Aの役割だといいます。
そのために、日本リージョンとヨーロッパ、APAC、北米などの担当者が数十人で連携します。あちらが増えたらこちらを落とす、余った予算を使うといった調整をしながらEPSを着地させていく、と中野さんは説明します。
浜田さんは、日本企業の決算で上方・下方修正をぴたりと決めてくる会社は少ないと指摘します。中野さんも、外的要因にさらされる事業構造の違いはあるとしつつ、Salesforceのコミットメントの迫力はすごかったと振り返ります。
中野さんは、EPSを当てやすくするために株式分割をした例も挙げます。4分割すると、予算に対して金額がずれても、そのずれの影響を4分の1にできるといいます。
そのうえで中野さんは、浜田さんの問いに立ち返ります。FP&Aは未来を作る仕事であり、アカウンティングは過去を正しく締める仕事だと整理します。
未来を作る仕事。データをもとに戦略的な示唆を出し、事業のやりたいことを実現する
過去を正しく締める仕事。会計として実績を確定させる
両方とも尊い仕事であり、未来と過去のどちらを見たいかで進む方向が変わってくる、と中野さんは話します。
DNXへのコンタクト方法と後編のまとめ
浜田さんは、シードからシリーズBにかけて、どのタイミングでどんな人材が求められ、給与を含めてどうリスクを取ってもらうか、そしてマネージャーがいつ必要かまで具体的に話せたと振り返ります。企画やバックオフィスへの向き合い方にも触れられました。
番組を起業家も含めて多くの人が聴いていることから、浜田さんはDNXへのコンタクト方法を尋ねます。
我々あの表玄関もしっかり見ておりますので、DNXのホームページにコンタクト先のメールアドレスがあるんですが、そこからご連絡いただいたピッチもちゃんと見てまして、そこからシード投資に至ったという例も実際にあります。
浜田さんの紹介でも、DNXのホームページからの直接連絡でも構わないとのことです。浜田さんは、2回にわたってVCがスタートアップとGo To Marketチームをどう見ているか、チーム組成のベストプラクティスまで具体的に聞けたと締めくくりました。
まとめ
DNX Venturesの中野智裕さんが、シードからシリーズBまでの各段階でRevenue Teamと組織のどこが見られるかを具体的に語った後編でした。採用の順番、リスクの取らせ方、マネージャーの置き方、そして未来を作る仕事としてのFP&Aまで、成長段階ごとの実践的な視点が示されました。
- シードは売上を追う営業より、プロダクトに顧客の声を反映できるCSがいるチームのほうが安心して見られる。
- シリーズA以降はARRと成長率を問われるため、再現性あるレベニューオペレーションを回せる各職種の一人目を採る。理想は模範となる強さのある人。
- 報酬は前払い(給与・立場先行)より後払い(ストックオプション等)にするほど、参画者のマインドが起業家に近づく。
- マネージャーはフェーズより人数で判断し、7〜8人に一人が目安。落下傘採用は期待値を下げ、一営業として実力を示す期間を設けると機能しやすい。
- FP&Aは過去を締めるアカウンティングと違い、データをもとに未来を作る仕事。日本では経営企画に近く、認知が広がりつつある。







