ICCで感じたスタートアップイベントの進化
本編の前に、浜田さんが今週参加していた京都のICCの話題から始まります。これまでピッチイベントのCatapultに2回登壇してきましたが、今回は株主であるDNX Venturesがスポンサードセッションを持っており、「AI×SaaSでプロダクト開発がどう変わっていくか」というテーマで登壇したといいます。
久しぶりのICCに行ってきまして。登壇者パスをいただけるので、月曜からほんと木曜の朝一のワークショップまで満喫させていただきました。
浜田さんは、ICCが年々進化していると感じたと話します。かつては参加者が限られる夜のディスカッション企画が中心でしたが、今回からオフィシャルなネットワークイベントも始まり、盛り上がっていたそうです。
会場の京都という場所についても2人は盛り上がります。前夜祭が開かれたエースホテル京都について、浜田さんは驚きを口にしました。
モールじゃないけど商業施設があって、2階に行ったらめちゃくちゃおしゃれなホテルで。これはやばいなと。
京都の大学出身の清沢さんは、その場所(新風館)が以前は何もなかったのがリブランディングでおしゃれになったと振り返り、久々にICCへ行きたくなったと話しました。
IRから読み解くグロース戦略、第2回はマネーフォワード
ここから本題に入ります。このシリーズは、上場しているSaaS企業のIR資料を中心に、その企業の成長戦略を読み解く企画です。第1回のSansanに続き、第2回はマネーフォワードを取り上げます。
マネーフォワードは2017年9月に東証マザーズへ上場しました。清沢さんは、当時まだグロース市場もなかった時期で、SaaS銘柄としてもかなり初期だったと補足します。
Sansanが2019年6月とかで、その後にFreeeさんが行ってるんで、(マネーフォワードは)一番早かった方じゃないですかね。
前回浜田さんが示した読み解きのポイントは、決算説明資料より先に、まず株価を見ることでした。今回もその順番に沿って進みます。
株価4倍、時価総額3500億円という力強さ
マネーフォワードの株価は、収録日である9月4日の終値で6259円でした。上場時の初値は1500円だったため、約4倍まで伸びていることになります。
日本の上場企業で、上場してから基本的には上がってない、下がり続ける会社が半分くらいだったようで。4倍はすごい。株主もハッピー。
浜田さんによれば、SaaSバブル ── 2020〜2021年頃、コロナ禍でのDX需要などを背景にSaaS企業の株価が世界的に急騰した時期を指す言葉ですのピーク時には9000円近くまで上がっていました。それでも1年前の株価が4800円ほどで、そこから3割上がっているため力強い動きだと評価します。
時価総額は9月4日終値で3590億円に達します。清沢さんは、上場SaaS企業の中でもトップティアの水準だと位置づけました。
ARRの9倍というバリュエーションをどう見るか
マネーフォワードは事業が多岐にわたるため、バリュエーションの見方に注意が必要だと浜田さんは指摘します。直近のARRは344億円ですが、売上高で見ると規模が大きく異なります。
今期の売上高予想が500億円で、ARR予想が400億円。売上高に対して7倍、ARRに対して9倍みたいな感じですと。今の市況でARRの9倍がついてるのはすごい。
マネーフォワードは、BtoBのSaaS事業とBtoCの家計簿事業を持ち、加えてM&Aによる子会社の売上も含まれます。そのため今期はARR予想400億円に対し、売上高は500億円を超える見込みです。
浜田さんは、M&Aを積み重ねている点をこの会社の強さとして挙げます。今期は社宅の借り上げによる節税サービスを買収した例に触れ、ICCで話を聞いて良いサービスだと感じたと話しました。
清沢さんも、マネーフォワードは上場直後からM&Aに積極的だった印象だと振り返ります。ボクシルなどを例に、買収後もグロースさせてグループのエコシステムに取り込む成長戦略を美しいと評しました。
EBITDAマージンとは何か、なぜ市場は注目するのか
次の指標は、成長率と利益率を足し合わせて評価するRule of 40 ── SaaS企業の健全性をはかる指標。売上成長率と利益率の合計が40%を超えていれば優良とされる考え方ですです。マネーフォワードのARR成長率は上期で28%、通期のガイダンスでは30%超が見込まれています。
利益指標として、浜田さんはEBITDAマージンを解説します。まず、利益にはさまざまな種類があり、法人税を払い終えた後の純利益は、不動産の含み益や買収した会社の減損などが混ざるため、あまり参考にならない場合があると説明します。
そこで多くの場合は、営業活動から出る営業利益 ── 本業から得られる利益。売上から売上原価と販管費を差し引いたもので、英語ではEBITと表現されますを見ます。浜田さんによれば、これは英語でEBIT(Earnings Before Interest and Tax)、つまり利息と税金を加味する前の利益です。
EBITDAは、そのEBITにさらに「DA」が付いた指標です。DAは減価償却前を意味します。工場設備のように先に大きな支払いをして数年かけて費用計上するものを調整し、実際のお金の流れに近づけた利益です。
なんでみんなこのEBITDAを見たがるかっていうと、これがいわゆるキャッシュフロー、利益の実際の創出力に一番近いからなんですね。
マネーフォワードはこのEBITDAマージンが7%まで来ている点をIRで強調しています。浜田さんは、利益率という言葉だけではどの利益か分からないため、どの利益を指すのかが非常に大事だと注意を促します。
法人税を払い終えた後の最終利益。含み益や減損などが混ざり、参考にしづらい場合がある
本業の営業活動から出る利益。利息と税金を加味する前の利益
EBITに減価償却前の調整を加えた利益。キャッシュフロー創出力に最も近いとされる
売上に対するEBITDAの割合。マネーフォワードは7%まで到達
Rule of 40について、清沢さんは41%と超えていると紹介しますが、浜田さんは見方の難しさを付け加えます。通常は営業利益で計算するためもう少し低くなる可能性があり、成長率をARRで見るか全体売上で見るかでも数字が変わると説明しました。
なぜEBITDAマージンを日本企業が強調するのか
清沢さんは、EBITDAマージンが米国の上場企業では一般的な基準なのか、日本ではあまり聞かないのはなぜかと質問します。
(EBITDAは)普通に使うんですけど、まあ英語っていうところもあって、あんまり浸透はしてなくて。
浜田さんによれば、EBITDAはキャッシュフローに近いため、企業価値をEBITDAの何倍と見る形で、日本でもM&Aの文脈では普通に使われます。マネーフォワードがIRで強調しているのは、海外投資家が多いからだといいます。
(株主の)4、5割は海外投資家なはずですね。
浜田さんは、日本企業でありながらグローバル基準に合わせた見せ方をしていると解釈します。海外投資家に対して認知やポジショニングを取るための工夫だと考えられます。
3年後に売上高1000億円、Sansanと重なる目線
マネーフォワードは、2028年11月期までにEBITDAマージン30%、営業利益率20%を目指しています。清沢さんは、この方向性が前回取り上げたSansanと重なると指摘します。
このシリーズはあくまでグロース戦略を読み解く企画であり、企業がどう成長したいのかを起点に、セールスやマーケティングの会社としてどう提案を考えるかが目的です。浜田さんは、足元の数字だけでなく、2、3年先を睨んだ中期計画が大事だと強調します。
マネーフォワードが開示している中期計画 ── 中計とも呼ばれ、企業が数年先に向けて掲げる売上や利益の目標を示した経営計画のことですでは、2028年11月期にトータル売上高1000億円を目指しています。そのうちSaaS領域であるマネーフォワードクラウドだけで650〜700億円を見込んでいるといいます。
この目標から逆算すると、毎年25%ほど成長させたいことが読み取れると浜田さんは説明します。25%成長を維持しながら利益率を2〜3割まで持っていく方向性は、前回のSansanとほぼ同じです。
Rule of 40を40から50に乗せていきますよっていうのは、前回のSansanとほぼ同じことを言っている。日本の上場SaaSが目指している目線ってそこなんだろうな。
従業員2868名、急拡大を支えるARR/FTE
次の指標は、従業員1人あたりの売上を示すARR/FTEです。マネーフォワードの従業員数は全体で2868名に達し、3000名近くまで増えています。
現状のARR/FTEは1206万円です。清沢さんは、この指標の基準をおおむね1000万円ほどと見ていたと補足します。
浜田さんは、スタートアップでは700万〜1000万円と低く、上場が進むと高くなる傾向があると説明します。マネーフォワードはトータル売上にARRへ含まれないものがあるため、この指標が本当に適切かは判断が難しいとしつつ、上場SaaSとしては若干低めの水準だと述べました。
ただし、昨年の従業員が2400名だったことから、従業員は2割ほど増えている一方で売上は3割増える見込みです。そのため、1人あたりの売上は今後上がる方向にあると浜田さんは見ています。
一切辞めないとしても、毎月40人雇わなきゃいけない。辞める人もいるんで、多分(マネーフォワードは)毎月50、60人入ってくるみたいな世界なんだろうな。
清沢さんは、株価・時価総額・Rule of 40・ARR/FTEと主要指標を一通り見ることで、決算書を漠然と眺めるより解像度が上がると振り返ります。浜田さんは、成長率を維持しながらリーンにしていく難しい戦いのフェーズにあると分析しました。
セグメント別に見る、SaaSが牽引する成長
ここからはセグメント別に事業ポートフォリオを見ていきます。売上の7割強はSaaS事業で、残りはボクシルの比較サイト、家計簿アプリのHome、銀行向けのXなどです。成長のほとんどはSaaSから来ています。
浜田さんによれば、非SaaSの領域は安定成長という位置づけです。銀行向けのXも、地銀などが顧客向けアプリを出す際にマネーフォワードのプラットフォームを使えるサービスで、ARRに含まれています。
売上の伸びは、会計・勤怠・請求書といったバックオフィスSaaSから来ています。さらにSaaS売上の8割は法人顧客で、個人売上や初期費用・決済手数料などのトランザクションは10%前後です。
法人ARRは、エンタープライズよりも中堅とSMB領域がメインです。浜田さんは、何千人・何万人規模を狙うERP ── 企業の会計や人事などの基幹業務を統合管理するシステム。大企業向けの大規模なものが多い領域ですの世界とは戦う場所が違うと説明します。
かつては小規模なSMBが多かったものの、今は「中堅」と呼ぶ領域がSMBを超えてきており、その成長率は40〜50%に達すると浜田さんは話しました。
バックオフィスの網羅性が生む「無限の広がり」
清沢さんは、決算資料に示されたプロダクトポートフォリオの網羅性の高さに注目します。人事労務、支出管理、会計、債権、経営管理、クラウド連結会計など、バックオフィス業務を幅広くカバーしています。
清沢さんは、M&Aも活用しながら穴をなくし、あらゆるバックオフィスをマネーフォワードのプラットフォームでできる状態にしている点が伸びを支えていると評します。
そこの広がりが無限にあるし、そこをしっかり自社プロダクトや買収でカバーできている。マネーフォワードってどんどん大きくなるんだろうなと思わせますよね。
清沢さんは、SaaSデバイス管理のアドミナにも触れ、プレイヤーが増えて競争が激しくなっている領域だとしつつ、マネーフォワードは今後もエコシステムを広げながら成長すると見ています。
赤字を掘った時期から一転、急激な黒字化のストーリー
利益率については、2024年11月期から黒字転換している点が一つのハイライトです。浜田さんは、直近IRの14ページにあるEBITDAの推移を挙げます。
浜田さんによれば、2022年11月期などはかなりの赤字を掘っていました。そこから急激に締め直して黒字を出しており、その内訳もIRの15ページでしっかり開示されています。
人件費が減ってるっていうより、人はどんどん増えてるんで、外注や広告宣伝を絞っている。一方で売上の成長は落ちてないみたいなところを、ストーリーとしてしっかり見せてるんですよね。
広告宣伝費にはCMや展示会などが含まれると浜田さんは説明します。清沢さんは、広告宣伝費を締めながら成長を維持し、人も採用して黒字化を描くのは経営力の高さだと評価しました。
浜田さんは、その背景にクロスセルの強さがあると指摘します。新しいプロダクトを次々に出すことで、既存の顧客ベースが強く効いているという見立てです。
清沢さんは、基盤となる法人顧客のアカウントがあるからこそ、買収したプロダクトを提案してARPAを高められると整理します。前回のSansanのWorks Human Intelligenceの展開にも通じるマルチプロダクトのグロースストーリーだとまとめました。
マネーフォワードのマルチプルが高い理由
一通り指標を見た清沢さんは、EBITDAやRule of 40の見方を通じて、上場SaaSのグロースがある程度近しい水準に収斂していく点が面白いと振り返ります。
浜田さんは、逆に考えるべき論点を提示します。マネーフォワードとSansanが同じく「成長率25%・利益率20%」を掲げているのに、なぜマネーフォワードのマルチプルは高いのか、という点です。
浜田さんは、市場が評価している要素を3つ挙げます。1つ目はバックオフィス領域がいくらでもあり、M&Aも得意で市場を広げていけるという期待です。
2つ目は、フィンテック領域の伸びしろです。基幹業務のSaaSは最終的に決済や資金の貸し借りで稼ぐ余地があり、マネーフォワードはすでにその領域に入っているものの、まだやる余地があると市場は期待していると見ます。
3つ目は、この2、3年で急激に黒字転換できたことによる「やろうと思えば利益を出せますよ」感です。浜田さんは、これが市場からの信頼につながっていると話しました。
確かにこのままいけばさらに利益率が改善しそうだなというところで、すごく市場からの期待を感じる株価だなという感じはしますね。
知りたいことが全部書いてある、IRの巧みさ
清沢さんは、浜田さんの目線でIRコミュニケーションに抜け目のなさを感じるかと尋ねます。
開示はめちゃくちゃ細かくて、複雑な様々な商売がある中でちゃんと書き切っている。知りたいこと全部書いてあるなっていう印象はありますね。
浜田さんは、特に投資家が気にするバックオフィスSaaSについて細かく開示している点を挙げ、どちらかというとプロ投資家を意識した資料だと解釈します。清沢さんは、細部にこだわるIRコミュニケーションも市場評価のポイントだと学べたとまとめました。
最後に2人は、このシリーズを続けていく方針を確認します。Sansanとマネーフォワードとバックオフィス系が続いたため、次は毛色を変えた別カテゴリーや、Salesforceなど米国SaaSのIRも取り上げたいと話しました。
浜田さんによれば、米国企業は毎四半期の説明資料より文書ベースの報告が多く、投資家向けプレゼンは逆にハイレベルで細かいことは書いていないといいます。米国のIRを見ることで、日本の決算説明資料の見方も変わってくるかもしれません。
まとめ
IRから読み解くグロース戦略の第2回では、マネーフォワードが株価4倍・時価総額3590億円という力強い評価を受けている背景を、主要指標から読み解きました。M&Aと多角化による無限の広がり、フィンテックの伸びしろ、そして急激な黒字化で示した利益創出力への期待が、高いマルチプルを支えていると考えられます。
- マネーフォワードの株価は上場時の約4倍、時価総額は3590億円で、上場SaaSのトップティアに位置する
- IRではEBITDAマージン7%を強調。海外投資家が多いため、グローバル基準に合わせた見せ方をしている
- 2028年11月期に売上高1000億円、成長率25%・利益率2〜3割を目指す方向性はSansanと重なる
- バックオフィスの網羅性とM&Aによる「無限の広がり」、フィンテックの伸びしろが高いマルチプルの理由
- 外注や広告宣伝費を絞りながら成長を維持した急激な黒字化が、利益創出力への信頼につながっている






