事業会社に向いているのは「やべえじゃん」で心が躍る人
『toksato』さんは今、人材会社にいらっしゃいます。
以前いた会社では、工場派遣で明日食うのも困るような人たちが相手で、応募は来るけれど面接には来ない、連絡もつかなくなる。そういう世界だったそうです。
月間で数千から1万の応募があっても、最終的に採用できるのは10%くらい。だからどう来てもらうかが勝負なんだと話されていました。
そこで、スマホでオンライン面接ができるツールを上司と一緒に見つけた。今では当たり前ですけど、当時はそんなツールがなかったそうです。
「この転換率が変われば、10%しか残らないのが3倍4倍になるかもしれない」。そう気づいた瞬間のことを、『toksato』さんは「もうこれ心躍っちゃって」と話していました。
そして、「やべえじゃん。やばいよこれ。3倍になったらどうする?」にワクワクできる人は事業会社に向いていると言うんです。
逆に「俺ウェブ制作のディレクターなのに、なんでこんなことやんなきゃいけないんだよ」と思う人は、絶対に来ない方がいいとも話されていました。
作る過程そのものが目的じゃない。ウェブもシステムも全部、成果を出すための手段に過ぎない。これが企画なんだ、と。この整理は、僕もなるほどと聞いていました。
社内だからこそ「断る」判断が求められる
もうひとつ印象に残ったのが、事業会社では「断る」ことが企画になる、という話です。
ウェブ出身の人は専門職で数が少ないから、いろんな相談が来る。それを全部馬鹿正直に引き受けていると、自分がパンクするし、しかも評価されない。『toksato』さんはそう話していました。
たとえば月間数千万セッションある中で、クレームが月10件なら「これもうしょうがないんじゃないの?」という判断ができないとダメだ、と。
これは僕も、受託でずっと感じてきたことと重なりました。
昔、見えないコストという話をよくしていたんです。5人が集まる1時間のミーティングも、1時間の議事録を書くのに2〜3時間かかることも、「あった方がいい」で言ったら全部あった方がいいんですよ。
でも、その分の工数をちゃんともらえているか。やった方がいい論でやっちゃうと、気づいたら全然儲かってない、なんてことになる。
『toksato』さんいわく、事業会社には人件費というものが存在しないようなもので、リソース管理もしていない。だからこそ自分一人が、自分の労働力の経営者だと思ってやらないといけない、と。
何でもかんでも引き受けて頑張って、ダメになっちゃう。まさにそこですよね。
「死なない程度の不時着」という言葉
ただ、断ればいいという単純な話でもないんです。
『toksato』さんは「受託なら最後は『それはできません』と言えばいいけど、事業会社でそれをやると角が立つ」と話していました。筋が通って断っても、相手を怒らせると上司も「正しいんだけどな」となる。
正論は正解ではない、という話ですよね。
そこで出てきたのが、「死なない程度の不時着を目指せ」という言葉でした。
本当は目的地までしっかり着陸するのが飛行機の役目だけど、もう無理だなというプロジェクトもある。無理にダメダメと言うと墜落するし、そのままやっても墜落する。
だからおだてながら、乗客が死なないように海に不時着させる。そういう落とし込み方も必要なんだ、と。いい言葉だなと思って聞いていました。
制作会社で鍛えた「型」は、事業会社で武器になる
じゃあ受託の経験は無駄なのかというと、逆なんですよね。
『toksato』さんは「企画書やプロジェクトマネジメントのフォーマットは間違いなく使える。それがなくてガリでやってる人が事業会社には多い」と話していました。
目的を決めずにいきなり手段の話をしてしまう。そういうときに、目的をどう決めるか、要件をどう整理するかという術は、制作会社で鍛えられる、と。
ここで『toksato』さんが使っていたたとえが面白くて。事業会社や発注者は、のび太くんとドラえもんでいえばのび太くんなんだ、と。
だから四次元ポケットを持ったドラえもんが事業会社に行ったつもりで、困っているところに自分からスモールに道具を出す。合わなければポイッと捨てて、どこでもドアを出す。それができないとダメだ、と話されていました。
これは僕もすごくわかるんです。僕がお伝えしているワークフローも、最終的にどれを使うかは自分で選んでほしいと言っていて。
バナー1個に要件定義やガントチャート、テスト仕様書まで律儀にやる必要はない。この案件はいらない、この案件はいる、ここは分厚くする。その取捨選択ができると、すごく楽になるんですよね。
僕がいちばん助かった発注は、ホワイトボードに手書きしたワイヤーフレームを写真で撮って送ったことです。伝わればいいわけだから、体裁がPowerPointでもExcelでもコピー用紙でも何でもいい。
『toksato』さんも「発注側としてはそれはすごく助かる。杓子定規にやられると本当に多いんですよ」と言っていました。手の抜きどころを選べる人ほど、事業会社では強いんだと思います。
キラキラした成功談より、ドロドロした本音
後半のおハガキで、発注する一円がどこから来ているのか、という話になりました。
DXのセミナーで、マーケティングのフレームワークに沿ってきれいに語られるものについて、『toksato』さんは「あれは超簡単だったか、嘘かのどちらか」とまで話していました。
成功体験は外に出るけど、失敗は表に出ない。「中はドロドロです」「失敗ばっかりですよ」と。
僕も鳥取で、炎上したプロジェクトのプロセスを、当時のディレクターと外部パートナーのエンジニアがそれぞれ何を考えていたか、というトークセッションをしたことがあります。うまくいった話は全部きれいになってしまうから、あえて失敗の話にしたんです。
そして『toksato』さんが、いちばん強く語っていたのがお金の話でした。
5万円のものが2万5000円で同じ価値で頼めるなら、そっちに発注する。それをしないのはもはや職務怠慢だ、と。
なぜなら、会社のお金は全国の店舗スタッフが汗を流して売った利益から出ているから。利益率10%なら、1万円売っても残るのは1000円。5万円の発注をするのに一体いくつ売ればいいんだ、という話です。
同僚が一生懸命売ってくれた利益を使って成果を出す。その恐怖を背負って発注している。これは発注側にならないとわからなかった、と話されていました。
だから予算を提示して、その満額で提案してくる相手には発注できない。本当に価値があってこの金額なんです、であればいい。でも相手の予算を貪るようなやり方には、怖くて発注できないんだ、と。
これは組織にいると本当に鈍くなる感覚なんですよね。会社が稼いでるんでしょ、だから僕はこの給料をもらって当たり前でしょ、と。
でも、その一円はお客さんから来ている。下手すると自分じゃない人が稼いだお金だったりする。ウェブの人はここの感覚が鈍い人が多いような気が、僕は昔からしているんです。
まとめ
今回のいちばんの学びは、発注する一円が誰の汗から来ているのか、という感覚でした。組織にいると忘れがちだけど、もらえるから給料をもらっているわけじゃなくて、どうやって自分が価値を提供できているか。そこはどこまで行っても大事だなと、あらためて思っています。
- 事業会社に向くのは「やべえじゃん」で心が躍り、成果を手段の先に見られる人
- 何でも引き受けず断る判断と、角を立てない不時着のさせ方が求められる
- 制作会社で鍛えた企画やドキュメントの「型」は、選んで使えば事業会社で武器になる
- 発注する一円は同僚が汗をかいて稼いだ利益。その恐怖を背負って発注する感覚を持ちたい






