育成って、そもそもクリエイティブの仕事なんですか
僕もtoksatoさんも、元はといえば物を作るのが楽しくてこの仕事を始めた人間です。
僕なんかは、はっきり言って作るのが好きで始めて、気づいたら仕事になっちゃってたクチなんですよね。
だから、育成とか言われても最初はピンとこなかったんです。「作りたいからこの仕事やってるのに、なんで育成が仕事なの?」って。
そもそもWebってまだ30年足らずしかない業界です。年功序列の会社みたいに「上司になったから部下を育てる」という文化が、当たり前にあった訳じゃないんですよね。
toksatoさんは、自分のキャリアを考えたときに育成が必要だと思えたから今やれている、と話されていました。「もともと人の面倒を見るのが好きだった」とも。
育成が自分のキャリアに必要だと思えるかどうか。そこが結構、分かれ目なのかもしれません。
toksatoさんの「失敗体験のデザイン」
育成でtoksatoさんが一番意識しているのは、失敗体験のデザインだそうです。
人が成長するのは、プレッシャーのかかる場で自分の技術を総動員したときだ、と。成功しても失敗しても結果が出るから、身につくんだと話されていました。
だから教育では、その人に合った失敗体験の「角度、形、サイズ」をすごく意識している、と。心の強さも人それぞれだから、と付け加えていました。
ただ、それとセットで大事なのは、本人が「チャレンジは大事なんだ」と思えることだそうです。
「これは君のキャリアと個性からするとすごいチャンスだと思うよ」と、いろんな角度から伝えるようにしている。toksatoさんはそう話していました。
20人以上のチームだと自分から言うと距離が遠いので、間のメンバーを伝って言わせることもあるそうです。組織で人を動かすって、そういうことなんだなと思いました。
自分の金を払って体験してこい、という教え
もう一つ印象に残ったのが、toksatoさんが昔の上司から叩き込まれたという話です。
「いいユーザー体験を知らないやつが、いいユーザー体験を作れるわけがない」と怒られたんだそうです。
絶えず観察して、体験して、分析しろ。思考を止めるな。それが癖になった、と話されていました。
この最後のところは、僕もすごく同意なんですよね。
僕は元が役者だったので、昔から言われるんです。「殺人以外は全部やれ」と。盗みもダメですけど、法に触れないことは全部やった方がいい、と。
すごいレストランに行くお金がないなら、ランチでもいいじゃないかと。フォークとナイフの使い方はわかるか、テーブルマナーはわかるか、って話なんですよね。
舞台を見に行ったり、美術館に行ったり。Webをwebだけで考えていたら、たぶんダメだなという気がしています。
灰皿の話と、席次より大事なこと
toksatoさんが聞いたという先輩ディレクターのエピソードが、これまた強烈でした。
社長と2人でタクシーに乗ってクライアント先に着いた瞬間、社長に胸ぐらを掴まれて「お前なめてんのか」と怒られたそうです。
理由は灰皿でした。ヘビースモーカーの社長を奥の席に座らせたら、灰皿が手前の若手側にあって、社長が吸えなかったんです。
社長が言ったのは「お前がやることは、俺を安全にストレスなくクライアントのところに届けることだろ」と。「俺がユーザーだよな」って。
席次のマナーなんかどうでもいい。目の前のユーザーは誰なのか、そこに配慮できないからディレクションがダメなんだ、という話でした。
先手を打って、この人は誰で、いま何を考えているかを見る。Webのページで「この辺にいい感じのリンクを置く」のと本質的に同じだ、と。
なるほどなあ、と思いました。表に見えているものが正しいのか、疑ってかからないとダメなんですよね。
で、失敗って座学では伝わらないんです
そして本題です。こういう危機感って、座学では身につかないんですよね。
本人が「うわぁやっちゃった、二度とやりたくねえ」と体験して初めて、次に同じ雰囲気を感じたときに「これはやばいぞ」と自分で気づけるんです。
僕がいくら「こうなったらお客さん怒るよ」と言っても、「わかってます、やりませんよ」で終わっちゃう。で、結局やるんですよね。
そのときに「言ったじゃん、な?」って言うんですけど、あれって本当に伝わらないんです。
toksatoさんも「伝わらない」「だから答えを言わない」「我慢する」と言っていました。これはすごく大事だなと思います。
答えを渡すのは簡単なんです。でも渡した瞬間に、それは本人の失敗体験じゃなくなってしまう。
だからこそ、toksatoさんの言う「失敗体験のデザイン」なんですよね。答えを言わずに、失敗できる場をどう用意するか。ここに尽きるのかもしれません。
まとめ
育成って、答えを教えることだと思われがちですけど、実際は逆なのかもしれません。答えを我慢して、本人が失敗できる場をどう作るか。いまの僕は、そのあたりが一番むずかしくて、一番大事だなと感じています。
- 育成が自分のキャリアに必要だと思えるかどうかが、分かれ目になる
- 失敗体験は、その人に合った角度・形・サイズをデザインする必要がある
- いい体験を知らない人に、いい体験は作れない。Webをwebだけで考えない
- 失敗は座学では伝わらない。だから答えを言わずに我慢する







